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この記事で扱う2つの資料

「中教審で総合的な探究の時間の見直しが議論されているらしいが、2027年度の計画はどうすればよいのか」。先生が計画時に抱きやすい疑問を、Q&A形式で整理しました。最初に、本記事で比べる2つの資料の位置付けを確認します。

区分資料位置付け
現行高等学校学習指導要領(平成30年告示)と、その解説 総合的な探究の時間編現在の教育課程の基準。授業計画・評価はこれに基づいて行います
案中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程部会 生活、総合的な学習・探究の時間ワーキンググループ「取りまとめ(案)②総合的な学習・探究の時間」(会議後修正、2026年8月4日付掲載)次期学習指導要領に向けた審議会の検討中の案。確定した制度ではありません

以下、「現行」は前者、「案」は後者を指します。ページ番号は各資料の該当ページです。本記事は2026年9月24日に両資料を確認して執筆しました。

Q1. 取りまとめ(案)に書かれていることは、もう守らなければならないルールですか?

A. いいえ。取りまとめ(案)は表紙に「会議後修正」と記された審議中の資料で、多くの箇所が「〜することが適当である」「〜を検討すべきである」という書き方になっています。解説や参考資料で示す具体的な内容も「今後検討」とされている部分が多くあります。

2027年度の全体計画・年間指導計画・評価は、引き続き現行の学習指導要領と解説に沿って作成します。案は「今後の方向性を知り、無理のない範囲で準備するための材料」として読むのが適切です。実施時期を含む最終的な内容は、今後の審議と正式な告示を確認してください。

Q2. 高校の授業名や単位数は変わりますか?

現行:高校の名称はすでに「総合的な探究の時間」です。単位数は「3〜6単位を標準」とし、特に必要がある場合は2単位とすることができます(解説 総合的な探究の時間編 p.65)。

案:名称については、小中学校の「総合的な学習の時間」を「総合的な探究の時間」に変更し、小学校から高校まで一貫して同じ名称にすることが適当とされています(取りまとめ(案)p.68)。つまり案でも高校の名称は変わりません。

計画上の判断:単位数は現行の規定どおりに計画します。中学校から入学してくる生徒の経験を把握する際に、将来は小中でも「探究の時間」と呼ばれる可能性があることを頭に置いておく程度で十分です。

Q3. 評価のやり方は変わりますか? 今のうちに変えるべきですか?

現行:総合的な探究の時間は教科のように数値的に評価せず、指導要録では評定を行わずに所見等を記述します(解説 p.133)。取りまとめ(案)も現行の仕組みとして、各学校が定めた評価の観点を記入したうえで「どのような力が身に付いたかを文章で端的に記述する」と整理しています(p.58)。

案:この「文章で端的に記述する」基本は維持しつつ、次の方向で検討することが適当とされています(p.58)。

  • 総括的な評価のための細かな評価場面の設定や、過度な評価材料の収集は求めない。探究のプロセスを通じて一貫した視点で継続的に見取る
  • 3観点を10の要素(視点)に分けた評価規準の作成例は負担につながるため、よりシンプルに示す
  • 教師による形成的評価(見取りを踏まえた適時のフィードバックや指導・支援)と、生徒による自己評価(振り返り)・相互評価を一層重視する(p.58、p.72)

計画上の判断:評価の観点を各学校で定め、文章で記述するという現行の枠組みは変わりません。そのうえで、「評価のためだけのワークシート提出を増やしていないか」「振り返りを返却・フィードバックまで回せているか」を点検することは、現行の範囲内で取り組める改善です。評価規準の要素数をいくつにするかは、校内の評価計画として学校が判断する事項です。詳しくは形成的評価と自己評価重視の議論を解説した記事もご覧ください。

Q4. 全体計画や年間指導計画は簡素にしてよいのですか?

現行:各学校が定める目標と内容は「全体計画」で具体化し、年間指導計画・単元計画で授業に落とし込みます。

案:全体計画で資質・能力を細かく分けて学年・単元ごとに記載することが全体像をとらえにくくしている、評価計画が過度な評価材料集めを誘発しかねない、といった指摘が紹介されています(p.59)。改善の方向性として、全体計画には育成を目指す資質・能力を端的に記載し、「学習活動・指導方法・指導体制・評価」は単元計画レベルで記載して全体計画への記載を必須としないこと、単元計画の評価の視点を5要素程度で示すことなどが検討されています(p.60)。ただし「具体の改善は解説や参考資料等で検討」とされています。

計画上の判断:現時点で全体計画の記載項目を独自に削るのは避け、現行の解説どおりに作成します。一方、「全体計画と単元計画に同じ内容を二重に書いていないか」「全体計画を読んだ先生が3年間の見通しをつかめるか」という観点で整理しておくと、将来の見直しにも対応しやすくなります。背景は全体計画・指導計画の「作りすぎ」を扱った記事で解説しています。

Q5. 「課題の設定→情報の収集→整理・分析→まとめ・表現」の4つのプロセスはなくなるのですか?

現行:解説では「①課題の設定→②情報の収集→③整理・分析→④まとめ・表現」の探究のプロセスを示し、学習活動を発展的に繰り返すことを重視しています(解説 p.6)。

案:プロセスを示すことの意義は認めたうえで、「4つのプロセスを順を追って回すこと自体が探究と認識され、目的化しているケースがある」との指摘を踏まえ、プロセスは典型的な学習の姿であり、たどること自体を目的化しないことを明確にする方向です。また「振り返り」はコマごとなど様々な単位で行うため「探究のプロセス」には位置付けないとされています(p.8)。さらに、課題に着目した「研究系」「行動系」「創作系」という形態と、形態ごとに異なるプロセスを参考資料等で示すことが適当とされています(p.8)。

計画上の判断:4つのプロセスは現行の基準として引き続き使えます。変えられるのは運用です。たとえば「全員が同じ週に情報収集を終える」形にこだわらず、作品づくりの生徒には試作と改善の時間を多めに取るなど、生徒の課題に合わせて時間配分に幅を持たせることは現行でも可能です。3つの形態を6コマで扱う授業設計は、別記事で具体的に紹介する予定です。

Q6. 「テーマ探究」「マイ探究」とは何ですか? どちらかを選ぶ必要がありますか?

案:課題設定の起点に着目した整理で、「テーマ探究」は教師を起点に学年・学級等で共通のテーマや課題を設定するもの、「マイ探究」は個人を起点にテーマや課題を設定するものです(p.7)。資料自身が「実際には『テーマ探究』と『マイ探究』は截然と分けられるものではない」と注記しており、発達の段階や生徒の実態を踏まえて組み合わせることが求められています。あわせて、論述・レポート・プレゼン・作品制作等の「外化」の機会を適切に設けることを学習指導要領上明確化することが適当とされています(p.7)。

計画上の判断:どちらか一方を選ぶ必要はありません。現在の年間計画を見て、「共通テーマで興味を広げる期間」と「個人の問いを深める期間」がそれぞれどこにあるか、各期間の終わりに生徒が成果を言葉や作品で表す機会があるかを確認するところから始められます。詳しくはテーマ探究とマイ探究の違いを解説した記事をご覧ください。

Q7. 「考えるための技法」は何が変わりますか?

現行:解説では、順序付ける、比較する、分類する、関連付ける、多面的に見る・多角的に見る、理由付ける、見通す、具体化する、抽象化する、構造化するといった技法が例示されています(解説 p.97)。

案:10個の例が単純に並んでいて、考えを発散させる思考が含まれていないとの指摘を踏まえ、「当面発散の観点を追加するとともに、発散と収束の観点から分類して示す」ことが適当とされています(p.63)。例として、発散に「自由に発想する」「組み合わせる」「多面的・多角的に見る」、収束に「比較する」「分類する」「吟味する」「焦点化する」などを置いた整理が示されていますが、「あくまでも大まかな整理の例」とされています(p.83)。

計画上の判断:現行の技法の指導はそのまま続けられます。課題設定の段階でアイデアを広げる活動(ブレインストーミング等)を入れている場合は、それを「発散」、候補を絞り込む活動を「収束」として生徒に言語化して示すと、案の方向性とも整合しやすくなります。

Q8. 探究で生成AIを使わせてよいのですか?

案:取りまとめ(案)は、AIの効果的な活用可能性とともに、一見高度に見えても資質・能力の育成につながっていない「偽の熟達(false mastery)」のおそれを指摘しています。そのうえで、AIを活用する場合には、AIを通じて得た情報の基となった一次情報(発信者、発信時期、妥当性)の検証に加え、試行錯誤の履歴としてのプロセス、口頭での表現(その場で説明し、質疑に耐える)、AIに代替しづらい現場体験や協働、自己の成長への自覚を重視する対応が考えられるとしています。詳細は今後の検討に委ね、ガイドライン等で示す必要があるとされています(p.31)。

計画上の判断:AIを使うかどうか、どの場面で使うかは、学校のルールと単元のねらいに照らして教師が判断します。使う場合は「出典の確認」「途中経過の記録」「口頭での説明」の3点を単元計画に組み込んでおくと、案が示す留意点と整合します。レポートでの記載方法はAI利用申告・引用・参考文献の記載例で紹介しています。

Q9. 情報科との連携はどう考えればよいですか?

案:小学校の総合に「情報の領域」を加える議論の中で、中学校・高校も含めて、総合と情報活用能力を育む「要」となる教科等とのとりわけ緊密な連携が求められることを明確化する必要があるとされています。高校で「要」とされているのは情報科です(p.29)。

計画上の判断:現行でも、解説は総合的な探究の時間で各教科・科目等の資質・能力を活用する例として「数学科や情報科の統計の手法でデータを整理して効果的な図表などに示すこと」を挙げています(解説 p.107)。情報Ⅰでデータの扱いを学ぶ時期と、総合でデータを使う時期を合わせるだけでも連携は始められます。具体的な授業案は別記事で紹介する予定です。背景は「情報の領域」新設とAI活用の論点を解説した記事をご覧ください。

Q10. 地域や企業との連携はどこまで求められますか?

案:社会との連携の一層の推進が「極めて重要」とされる一方、連携そのものが大きな負担感を伴う場合があることも明記されています(p.63)。連携の深まり方の目安として、「出会い」(講話、インタビュー、体験、ワークショップ等)、「伴走」(中間レビュー、助言、成果発表の受け手等)、「協働」(学習者が責任の一部を担う等して協働)の3層が示されています(p.64)。

計画上の判断:すべての単元で「協働」まで進める必要はありません。年間計画の中で、どの時期にどの深さの連携を置くか、学校と相手先の期待値をどう事前にすり合わせるかを決めておくことが、案の指摘する負担感への対策にもなります。詳しくは3層モデルと費用負担の論点を解説した記事をご覧ください。

2027年度計画のためのチェックリスト

現行の要件を守ったうえで、案の方向性に備えて点検できる項目をまとめました。右端の列は任意の準備であり、案の内容を先取りして義務付けるものではありません。

項目現行で押さえること案が示す方向性今できる準備(任意)
単位数3〜6単位を標準(解説 p.65)—現行どおり計画
評価評定は行わず、各学校が定めた観点で文章記述(解説 p.133)基本を維持し、評価場面・材料集めを簡素化、形成的評価・自己評価を重視(p.58)評価のための提出物が多すぎないか点検し、振り返りへの返却の流れを確認
全体計画解説に沿って作成資質・能力を端的に記載、学習活動等は単元計画レベルへ(p.60)全体計画と単元計画の重複を確認
探究のプロセス4つのプロセスを発展的に繰り返す(解説 p.6)目的化しない、研究系・行動系・創作系の参考資料化(p.8)課題に応じて時間配分に幅を持たせる
成果の表現まとめ・表現の場面を設定論述・レポート・プレゼン・作品制作等の外化の機会を明確化(p.7)各期間の終わりに外化の機会があるか確認
考えるための技法解説の例示を活用(解説 p.97)発散の観点を追加し、発散と収束で分類(p.63)アイデアを広げる活動と絞る活動を言語化
AIの扱い学校のルールに従う一次情報の検証、プロセス、口頭での表現等を重視(p.31)出典確認・途中記録・口頭説明を単元に組み込む
名称高校は「総合的な探究の時間」小中も同名称に統一(p.68)—

まとめ

取りまとめ(案)は、評価の簡素化や計画の精選など、現場の負担に関わる論点を多く含んでいますが、まだ審議中の案です。2027年度の計画は現行の学習指導要領と解説に基づいて作成し、案の方向性は「現行の範囲内で取り組める運用の見直し」に生かすのが現実的です。どこまで取り入れるかは、各学校の目標と生徒の実態に照らして先生方が判断する事項です。

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評価の考え方を体系的に確認する場合は探究レポート・評価ガイドを、探究学習の全体像は探究学習とは?テーマ設定・進め方・評価・生成AI活用の完全ガイドをご覧ください。

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【この記事の監修者】

田中 悠樹|株式会社Study Valley代表

田中 悠樹|株式会社Study Valley代表

東京大学大学院卒業後、ゴールドマンサックス証券→リクルートホールディングスに入社。同社にて様々な企業への投資を経験する中で、日本の未来を変えるためには子どもたちへの教育の拡充が重要であると考え、2020年に株式会社Study Valleyを創業。
2020年、経済産業省主催の教育プラットフォームSTEAM ライブラリーの技術開発を担当。
2024年、経済産業省が主催する「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」に委員として参加している。