情報Ⅰ×総合的な探究の時間の授業案|公開データで問いを磨く2コマ連携と評価規準

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この授業案の前提
本記事は、高校の「情報Ⅰ」と「総合的な探究の時間」を1コマずつ連携させ、公開データを使って探究の問いを磨く授業案です。実施報告ではなく、先生方が自校向けに組み替えることを前提にした設計例です。架空の学校や実施結果は扱いません。
授業の枠組みは、現行の高等学校学習指導要領(平成30年告示)とその解説に基づきます。あわせて、中央教育審議会のワーキンググループが示した「取りまとめ(案)②総合的な学習・探究の時間」(会議後修正、2026年8月4日付掲載)の方向性にも触れますが、これは審議中の案であり、確定した制度ではありません。本文中の「案」はこの資料を指します。
なぜ情報Ⅰと総合的な探究の時間を組み合わせるのか
現行の根拠:情報Ⅰは全ての生徒が学ぶ共通必履修科目で、標準単位数は2単位です(解説 情報編 p.8)。内容の一つ「(4)情報通信ネットワークとデータの活用」では、データを収集・整理・分析する方法を理解し技能を身に付けること、データの収集・整理・分析及び結果の表現の方法を適切に選択し、実行し、評価し改善することが示されています(同 p.35)。また解説には「自分たちの携帯情報端末の利用方法などを,国や自治体等が公開しているデータと比較する活動を通して問題を発見し,解決策を提案する」といった学習活動の例もあります(同 p.24)。
一方、総合的な探究の時間の解説は、各教科・科目等で身に付けた資質・能力を活用する例として「数学科や情報科の統計の手法でデータを整理して効果的な図表などに示すこと」を挙げています(解説 総合的な探究の時間編 p.107)。探究のプロセスのうち「整理・分析」「まとめ・表現」の取組が十分でないという課題も指摘されています(同 p.6)。
案の方向性:取りまとめ(案)は、高校では情報科を情報活用能力を育む「要」となる教科と位置付け、総合とのとりわけ緊密な連携が求められることを明確化する必要があるとしています(p.29)。
つまり、データの扱い方は情報Ⅰで、そのデータが自分にとってどんな意味を持つかという問いは総合で、という役割分担は、現行の枠組みの中で実施でき、案の方向性とも重なります。
設計の判断1:テーマをどう選ぶか
2コマで完結させるには、テーマ選びが授業の成否を左右します。次の4つの基準で候補を絞ることをおすすめします。
| 基準 | 確認する問い | 避けたい例 |
|---|---|---|
| データの入手性 | 国・自治体等が出典・定義・調査時期を明示して公開しているデータがあるか | 出典の分からないまとめサイトの数値しかないテーマ |
| 個人情報 | 生徒の個人情報を新たに集めなくても始められるか | クラスメートの家庭状況を尋ねるアンケートが前提のテーマ |
| 自分との関わり | 生徒が「自分の生活とどう関係するか」を語れるか | 数字は豊富だが生徒の生活実感と接点がないテーマ |
| 問いの広がり | グラフを見た後に「なぜ」「本当にそうか」と次の問いが生まれるか | 1つの数値を確認すれば終わってしまうテーマ |
たとえば、解説 情報編の例にある「携帯情報端末の利用」は、生徒の生活に近く公開データも探しやすいテーマです。ほかに「通学手段と地域の交通」「睡眠時間と生活リズム」「地域の人口構成」なども候補になります。公開統計を探す入口としては政府統計の総合窓口(e-Stat)があります。どのデータを使うかは、生徒の実態と学校のICT環境を踏まえて先生が選んでください。
設計の判断2:2つの授業の役割分担
連携授業で起こりやすいのは、「総合の時間に情報Ⅰの続きをやっているだけ」「情報Ⅰの時間が探究の調べ物の時間になっている」という状態です。それぞれの目標を先に書き分けておくと、評価も混乱しません。
| コマA:情報Ⅰ(50分) | コマB:総合的な探究の時間(50分) | |
|---|---|---|
| 主なねらい | 公開データの出典・定義を確認し、目的に合った集計・グラフで表現する | データから見えたことを自分の生活や関心と結び付け、探究の問いを立て直す |
| 中心となる活動 | データの読み取り、表計算での整理、グラフの選択と作成 | 「言えること・言えないこと」の共有、問いの書き直し、次の調査計画 |
| 主な成果物 | グラフと、その選択理由のメモ | 書き直した問いと、次に集める情報のリスト |
| 担当の目安 | 情報科の教員 | 総合の担任・担当教員 |
| 授業時数の扱い | 情報Ⅰの時数 | 総合的な探究の時間の時数 |
事前に両担当で15分ほど打ち合わせ、使うデータ、コマAの成果物の形式、コマBまでの間隔(同じ週が理想)を決めておくとスムーズです。
授業案 コマA:情報Ⅰ「公開データの出典を確かめ、目的に合うグラフを選ぶ」(50分)
| 時間 | 学習活動 | 指導上の留意点 |
|---|---|---|
| 0〜5分 | 今日の目的を確認する(「このデータから何が言えるか」を後の総合の時間で使う) | 総合との連携であることを最初に伝え、学ぶ意味を明確にする |
| 5〜15分 | 配布した公開データの出典・調査時期・対象・項目の定義をワークシートに書き出す | 「誰が、いつ、誰を対象に、何を数えたか」の4点を必ず確認させる |
| 15〜35分 | 表計算ソフトで必要な列を整理し、目的に合うグラフを2種類作って比べる | 棒グラフ・折れ線グラフ等の選択理由を言葉で書かせる。見栄えより「何を比べたいか」を優先させる |
| 35〜45分 | ペアでグラフを見せ合い、「このグラフから言えること」「このグラフだけでは言えないこと」を1つずつ書く | 相関と因果の混同、調査対象の違いによる比較の無理などを取り上げる |
| 45〜50分 | 振り返り(今日選んだグラフと、その理由) | 成果物をコマBで使える形で保存・提出させる |
授業案 コマB:総合的な探究の時間「データから自分の問いを立て直す」(50分)
| 時間 | 学習活動 | 指導上の留意点 |
|---|---|---|
| 0〜10分 | コマAのグラフと「言えること・言えないこと」をグループで共有する | 情報Ⅰの成果物をそのまま持ち込む。データの正誤を裁く場にしない |
| 10〜25分 | 「このデータは自分の生活とどう関係するか」「なぜこうなっているのか」を付箋やデジタルボードで出し合う(発散) | 量を優先し、否定しないルールで進める |
| 25〜40分 | 出てきた問いを分類し、自分が一番確かめたい問いを1つ選んで書き直す(収束) | 「〜について調べる」ではなく「なぜ〜なのか」「〜するにはどうすればよいか」の形にする |
| 40〜50分 | 書き直した問いを確かめるために次に集める情報と方法を決め、振り返りを書く | 公開データだけで足りない場合、誰に聞けば分かるかも考えさせる |
コマBの「発散」と「収束」は、案が「考えるための技法」に発散の観点を加え、発散と収束で分類して示す方向を示していること(p.63)を踏まえた構成です。現行の解説が例示する「分類する」「関連付ける」などの技法(解説 総合的な探究の時間編 p.97)の範囲で実施できます。
生徒に配るワークシート例
2コマを通して1枚で使えるワークシートの項目例です。そのまま表計算ソフトや文書に写して使えます。
| 欄 | 記入する内容 | 使う授業 |
|---|---|---|
| 1. データの出典 | 発行元、資料名、URL、確認した日 | コマA |
| 2. 調査の条件 | 調査時期、対象、項目の定義 | コマA |
| 3. 作ったグラフと選んだ理由 | グラフの種類、何を比べるためか | コマA |
| 4. 言えること | データから根拠をもって言えること | コマA |
| 5. 言えないこと | このデータだけでは確かめられないこと | コマA・B |
| 6. 自分との関わり | このテーマが自分や身近な人にとってどんな意味を持つか | コマB |
| 7. 書き直した問い | 最初の問い → 書き直した問い | コマB |
| 8. 次に集める情報 | 何を、どの方法で、誰から集めるか | コマB |
欄1のように出典を記録させることは、解説 総合的な探究の時間編が求める「出典を明記すること」や情報科で学ぶ情報モラルとのつながり(同 p.54)にもなります。
設計の判断3:評価規準の作り方
同じワークシートを使っても、情報Ⅰと総合的な探究の時間では評価の仕組みが異なります。ここを混同しないことが連携授業の要点です。
情報Ⅰ側:学習指導要領の内容に沿って評価する
各教科の評価は、観点別学習状況の評価と評定を「目標に準拠した評価」として行うと整理されています(取りまとめ(案)p.58の現行制度の説明)。コマAでは、情報Ⅰ(4)の内容に対応させて、たとえば次のような評価規準を置くことが考えられます。
- データの出典・調査条件を確認し、目的に応じて整理し、グラフで表す技能を身に付けている((4)ア(ウ)に対応)
- 比べたい内容に応じてグラフの種類を選び、その結果から言えること・言えないことを判断している((4)イ(ウ)に対応)
具体的な規準の文言や評価の時期は、各学校の情報Ⅰの年間指導計画・評価計画に合わせて決めてください。
総合的な探究の時間側:各学校が定めた観点で成長を見取る
総合的な探究の時間では評定を行わず、各学校が定めた評価の観点に照らして、どのような力が身に付いたかを文章で記述します(解説 総合的な探究の時間編 p.133、取りまとめ(案)p.58)。コマBで見取る場面の例は次のとおりです。
- データから得た事実と、自分の生活や関心との関係を言葉にしているか
- 最初の問いを、根拠を踏まえてより確かめられる形に書き直しているか
- グループの意見を取り入れて次の調査計画を考えているか
取りまとめ(案)は、単元計画の評価の視点の例として「自己や他者にとっての意味」「知識や方略の活用」「学びの主体的な調整」「他者との対話・協働」「新たな意味や理解の構築」の5要素を示しています(p.76)。ただし「具体的な要素は各学校の目標を踏まえて定める」とされた大まかな方向性であり、現行の評価規準を置き換えるものではありません。上の見取りの例は、この5要素のうち「自己や他者にとっての意味」「知識や方略の活用」「他者との対話・協働」と対応付けて確認することもできます。
生成AIを使う場合の線引き
グラフの作り方を調べたり、問いの候補を広げたりする場面で生成AIを使う学校もあるでしょう。取りまとめ(案)は、AIを活用する場合にAIを通じて得た情報の基となった一次情報(発信者、発信時期、妥当性)を検証すること、試行錯誤の履歴や口頭での説明を重視することなどを検討事項として挙げ、見かけだけ高度な「偽の熟達」のおそれも指摘しています(p.31)。
この授業案で使う場合は、次の線引きを事前に決めておくことをおすすめします。
- 数値は必ず公開データの原資料から取る(AIが示した数値をそのまま使わない)
- AIに出してもらった問いの候補は、ワークシートに「AIの提案」と区別して記録する
- 書き直した問いを選んだ理由は、自分の言葉で口頭説明できるようにする
AIを使うかどうか自体は、学校のルールと単元のねらいに照らして先生が判断してください。
よくあるつまずきと対処
| つまずき | 対処の例 |
|---|---|
| グラフ作りに時間がかかり、「言えること」まで届かない | コマAの前半で使う列を先生が絞ったデータを配る。表計算操作の習熟は情報Ⅰの別の時間で扱う |
| 「言えること」が数値の読み上げで終わる | 「だから何が言えるか」「それは誰にとって問題か」と一段深める問いかけを用意する |
| コマBで問いが大きすぎる(「社会を良くするには」など) | 「いつ・どこで・誰が」を1つずつ限定させる。書き直し前後を並べて見せる |
| 2つの授業の間隔が空き、内容を忘れる | 同じ週に配置する。難しい場合はコマBの冒頭5分で成果物を読み直す時間を取る |
アンケートで自分たちのデータを集める段階に進む場合は、生成AIで探究アンケート集計・自由記述分析を行う手順が参考になります。先行研究を探す段階ではCiNii・J-STAGEで原典を確かめる方法も使えます。
まとめ
情報Ⅰで「データを正しく扱う力」を、総合的な探究の時間で「データを自分の問いにつなげる力」を育てる2コマ連携は、現行の学習指導要領の枠組みの中で実施できます。取りまとめ(案)が示す情報科との緊密な連携や、発散・収束の技法の方向性とも整合しますが、案は審議中であり、評価はそれぞれの科目・時間の現行の仕組みで行います。テーマ、データ、時間配分、評価規準の具体は、各学校の年間計画に合わせて調整してください。
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現行制度と取りまとめ(案)の違いは教員向けFAQ:現行の総合的な探究の時間と中教審取りまとめ(案)の違いで、「情報の領域」の議論は「情報の領域」新設で探究とAI活用はどう変わる?で整理しています。情報リテラシーの指導は探究学習で育てる情報リテラシーもご覧ください。
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【この記事の監修者】

田中 悠樹|株式会社Study Valley代表
東京大学大学院卒業後、ゴールドマンサックス証券→リクルートホールディングスに入社。同社にて様々な企業への投資を経験する中で、日本の未来を変えるためには子どもたちへの教育の拡充が重要であると考え、2020年に株式会社Study Valleyを創業。
2020年、経済産業省主催の教育プラットフォームSTEAM ライブラリーの技術開発を担当。
2024年、経済産業省が主催する「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」に委員として参加している。











