キャリア・パスポートはなくなる?審議まとめで決まった「例示資料の廃止」「引継ぎは求めない」を高校向けに解説

キャリア・パスポートそのものがなくなるわけではありません。審議まとめでは、例示資料を廃止し、デジタル活用を進め、学校による引継ぎを求めないことが明確化されました。
この記事は、文部科学省 初等中等教育局教育課程課の資料「『次期学習指導要領等に向けた審議まとめ』について」(資料1-1、令和8年10月20日)をもとに、キャリア・パスポートという制度そのものについて「何が示され、何がまだ決まっていないか」を高校の先生向けに整理したものです。ホームルームや総合的な探究の時間で見通し・振り返りを年間でどう回すかは、探究×HR×進路指導の3年間モデルの記事で解説しています。
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1. 結論:なくなるのは「例示資料」、引継ぎは「求めない」
資料1-1では、各教科等の精選の方向性をまとめた一覧の「特別活動」の欄(スライド22、右上の表記「P60」)に、次のように書かれています。
「キャリア・パスポート」について、例示資料を廃止。デジタル活用を推進し、実態に合った「見通し、振り返る」多様な取組へと進化させるほか、学校による引継ぎを求めないことを明確化。
(文部科学省「『次期学習指導要領等に向けた審議まとめ』について」資料1-1 スライド22/右上表記 P60)
同じ文言は、「第2部第2章 特別活動の項目(概要)」(スライド59、右上の表記「P1057」)の「キャリア教育の改善」の欄にもあります。同じ欄には、その前に「「基礎的・汎用的能力」の再整理を求めるとともに、各教科等と特別活動の役割分担を明確化し、社会との連携等の条件整備を推進。」とも書かれています。
ここから読み取れる「示されたこと」は次の3点です。
- 廃止されるのは例示資料(国が示してきた様式例)であること
- デジタル活用を推進し、「見通し、振り返る」多様な取組へ進化させること
- 学校による引継ぎを求めないことを明確化したこと
資料には「キャリア・パスポートを廃止する」とは書かれていません。また、これは次期学習指導要領に向けた審議まとめの段階であり、学習指導要領の告示はまだです。本記事で「決まった」と書くのは、審議まとめに明記された範囲に限ります。
2. そもそもキャリア・パスポートとは(現行の制度)
現行の学習指導要領では、特別活動の学級活動・ホームルーム活動で見通しを立て、振り返る活動を行う際に、教材を活用することになっています。文部科学省の「キャリア・パスポート」Q&A(令和4年3月改訂)は、学習指導要領が学級活動(3)の指導の際に「児童生徒が活動を記録し蓄積する教材等を活用すること」として「キャリア・パスポート」の活用を求めている、と説明しています。
導入の経緯は次のとおりです(いずれも文部科学省のキャリア・パスポートのページから開ける資料で確認)。
- 平成31年3月29日の事務連絡「「キャリア・パスポート」例示資料等について」で、例示資料と指導上の留意事項が送付されました。同事務連絡は、例示資料を「学校等における「キャリア・パスポート」作成の負担軽減の一助となるもの」と位置づけています。
- Q&Aでは、同事務連絡が「令和2年4月より、すべての小学校、中学校、高等学校において実施することとする」と示していたことが紹介されています。
定義について、5月の特別活動WG資料(スライド8)は、平成31年の事務連絡での整理として「児童生徒が、小学校から高等学校までのキャリア教育に関わる諸活動について、特別活動の学級活動及びホームルーム活動を中心として、各教科等と往還し、自らの学習状況やキャリア形成を見通したり振り返ったりしながら、自身の変容や成長を自己評価できるよう工夫されたポートフォリオ」と紹介しています。
キャリア教育全体の考え方は、「キャリア教育とは?定義や目的、育成すべき能力、学校段階ごとのポイントまで徹底解説」もあわせてご覧ください。
3. 何が変わるのか:現行→5月のWG案→10月の審議まとめ
| 項目 | 現行(文部科学省の事務連絡・Q&A) | 5月のWG案(2026-05-25) | 10月の審議まとめ(資料1-1) |
|---|---|---|---|
| 例示資料 | 平成31年3月29日の事務連絡で様式例(例示資料)を提示 | 現行の事務連絡に基づく「例示資料」を廃止し、多様な取組へ進化させる案 | 「例示資料を廃止」 |
| 記録の持ち方・デジタル | 引き継ぐ際の「作成・管理・送付等における媒体については限定していない」(Q&A 問6) | 「クラウド上などでの個人管理で行うことを基本とし」とする案 | 「デジタル活用を推進」(資料1-1の該当欄に「個人管理」の文言はなし) |
| 学校間の引継ぎ | 学年間は原則、教師間で、校種間は原則、児童生徒を通じて行う(令和3年2月19日の事務連絡) | 「学校間の引継ぎは求めない」とする案 | 「学校による引継ぎを求めないことを明確化」 |
| 位置づけ | 学級活動(3)で「児童生徒が活動を記録し蓄積する教材等を活用すること」(Q&A 問2) | 「形式にとらわれた「キャリア・パスポート」の活動から脱却」し、見通し・振り返りに立ち返る案 | 実態に合った「見通し、振り返る」多様な取組へ進化。各教科等と特別活動の役割分担を明確化 |
5月のWG資料(スライド9)は案の段階のもので、審議まとめでは表現が短くまとめられています。たとえば、WG案にあった「クラウド上などでの個人管理」や、「一定の簡素化された多様な取り組み例などは、指導資料などにより示していくことを検討」といった記述が、審議まとめ本体でどう扱われているかは、資料1-1の抜粋だけでは確認できません。
4. 引継ぎはどうなる?
「学校による引継ぎを求めない」の意味
現行では、令和3年2月19日の事務連絡で次のように示されています。
「キャリア・パスポート」の学年間の引き継ぎは、原則、教師間で行うこととしており、また、校種間の引き継ぎは、原則、児童生徒を通じて行うこととしているので留意すること。
同じ事務連絡には、「中・高等学校においては、令和3年度入学者に対して「キャリア・パスポート」を提出させるとともに、自校のキャリア教育への活用を図ること。」「高等学校においては、卒業生が「キャリア・パスポート」を以降のキャリア形成に活用できるように、確実に本人に返却すること。」ともあります。
審議まとめは、こうした学校による引継ぎを「求めない」ことを明確化しました。資料の文言は「求めない」であり、引継ぎを禁止するとは書かれていません。5月のWG案(スライド5)では、その背景として「学校の事務負担などにも鑑み」と書かれています。
まだ決まっていないこと
次の点は、資料1-1にもWG資料にも具体的には書かれていません。
- いつから適用されるか:キャリア・パスポートの見直しの適用時期は、資料には書かれていません。高校の新課程の実施時期の見通しは、審議まとめFAQで整理しています。
- 中学校からの受け取り:現行の事務連絡にある「令和3年度入学者に対して…提出させる」扱いが今後どうなるかは示されていません。
- 大学・就職先への提出:現行のQ&A(問8)は、入試や就職試験等で「そのまま活用すること」は「適切ではなく」としたうえで、「児童生徒自らが入学者選抜や就職試験で面接を受けたり自己申告書に記入したりする際の情報の一つとして「キャリア・パスポート」を参考とすることは考えられます。」としています。審議まとめはこの点に触れていません。
- 既存の事務連絡・Q&Aの扱い:例示資料の廃止にあわせて、引継ぎの事務連絡やQ&Aがどう改められるかは示されていません。
5. 背景:なぜ見直されたか
5月の特別活動WG資料(スライド3)は、例示資料や手法が示されたことで「中長期的な振り返りや、見通しを持つ活動の好事例が生まれた一方で」として、次の課題を挙げています。
- 「例示資料に基づくワークシートの作成や、決められた方式での教材の蓄積のみに主眼が置かれている面がある」
- 「ワークシートを何のために作成しているのかについて理解が広がっておらず、形骸化している」
- 「紙での活用が基本であり、社会状況の変化に対応ができていない」
- 「とりわけ学校間の引継ぎが負担感につながっている」
さらにスライド8では、デジタル学習基盤の整備で記録をさまざまな形式で保存・活用できるようになる中、「「キャリア・パスポート」という特定の手段に依拠する必然性が薄まってきている」とも述べています。同じスライドの言葉でいえば、「手段が目的化し、形骸化につながっている」との指摘です。
特別活動の評価も同じ方向で見直されます。審議まとめのスライド59には、「これまでの目標準拠評価を改め個人内評価とし」、「過度な評価材料収集を抑制・簡素化し」、「子供自身による自己評価や相互評価を一層重視」とあります。記録を集めること自体より生徒自身の見通し・振り返りを重く見る点で、キャリア・パスポートの見直しと方向が重なります。
6. 高校が今からできること
告示前の段階なので、ここで挙げるのはあくまで例です。自治体や学校設置者からの通知がある場合は、そちらを優先してください。
例1:今の様式を「見通し・振り返り」の目的に照らして棚卸しする
学年ごとのシートを並べ、生徒が見通しを立て、振り返ることに実際に使われている項目と、「書いて綴じる」だけになっている項目を分けてみます。Q&A(問2)にも「「キャリア・パスポート」を書くだけの時間にはならないように御留意いただき」とあり、この視点は現行制度のもとでも使えます。
例2:記録を紙・スプレッドシート・クラウドのどれで生徒が持つかを検討する
審議まとめは「デジタル活用を推進」としていますが、資料1-1の該当欄では特定の方式は示されていません。校内の端末環境や個人情報の取扱いのルールを確認し、生徒が後から見返せる持ち方を学年団で話し合っておくとよいでしょう。
例3:総合的な探究の時間の記録との重複を整理する
審議まとめは各教科等と特別活動の役割分担の明確化を求めています。探究の振り返りとホームルームでの振り返りで同じ内容を二重に書かせていないかを確認するとよいでしょう。年間での整理の仕方は、探究×HR×進路指導の3年間モデルの記事で詳しく扱っています。
7. 探究の記録とどうつなぐか(TimeTactで扱えること)
高校向けの探究学習支援ツール「TimeTact」は、総合的な探究の時間の記録を残すためのものです。キャリア・パスポートの代わりになるものではありませんが、探究の側の記録を整理する場面では次の機能を使えます(製品ページの表記に基づく)。
- 生徒やグループの進捗と成果物を一覧で表示し、ルーブリック評価を一元化できる
- 「ノート&トーク」機能で探究の調査内容を保存し、グループメンバーや教職員がコメントできる
- 過去にどのような仮説整理をしたかの履歴をデジタルで管理できる
- オリジナルプログラムとして「進路探究プログラム」「ふりかえりの仕方を学ぼう」がある
8. よくある質問
Q1. キャリア・パスポートはなくなるの?
A. なくなるとは示されていません。審議まとめ(2026年10月)で廃止とされたのは例示資料です。
Q2. 引継ぎはどうなるの?
A. 審議まとめで「学校による引継ぎを求めないことを明確化」とされました。中学校からの受け取りや適用時期は、資料には書かれていません。
Q3. 今の様式は使い続けてよい?
A. 審議まとめは例示資料を廃止し、実態に合った多様な取組へ進化させる方向を示しています。新しい学習指導要領の告示・実施時期を確認しつつ、今の様式は目的に照らして見直していけます。
Q4. デジタル化は必須?
A. 審議まとめは「デジタル活用を推進」としていますが、必須とは書かれていません。
Q5. 探究の記録と一緒にしてよい?
A. 審議まとめは各教科等と特別活動の役割分担の明確化を求めています。整理の仕方は探究×HR×進路指導の3年間モデルの記事で解説しています。
まとめ
- 審議まとめで示されたのは、キャリア・パスポートの例示資料の廃止、デジタル活用の推進、「見通し、振り返る」多様な取組への進化、学校による引継ぎを求めないことの明確化です。
- 「キャリア・パスポートの廃止」とは書かれていません。
- 適用時期、中学校からの受け取り、大学・就職先への提出、既存の事務連絡・Q&Aの扱いは、まだ示されていません。告示とその後の通知を確認してください。
- 今できるのは、今の様式を目的に照らして棚卸しし、記録の持ち方と探究の記録との重複を整理しておくことです。
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【この記事の監修者】

田中 悠樹|株式会社Study Valley代表
東京大学大学院卒業後、ゴールドマンサックス証券→リクルートホールディングスに入社。同社にて様々な企業への投資を経験する中で、日本の未来を変えるためには子どもたちへの教育の拡充が重要であると考え、2020年に株式会社Study Valleyを創業。
2020年、経済産業省主催の教育プラットフォームSTEAM ライブラリーの技術開発を担当。
2024年、経済産業省が主催する「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」に委員として参加している。











