2018年に高等学校指導要領が改訂されたことで、「地理探究」が新たに設けられました。
地理探究は、これまでの地理Bをベースとした選択科目となっているのが特徴です。
探究学習自体は2022年からの導入が予定されていて、地理探究についてもこれまでとは異なる指導方法が求められています。
学習方法の見直しが行われる現代。
探究学習を担当することになる先生は、本格的に開始される前に理解を深めていきたいと考えているのではないでしょうか。
この記事は、これから地理探究の理解を深めたい先生に向けた記事です。できる限りわかりやすく解説するので、ぜひこれからの指導に役立ててください。
目次
地理探究とは
地理探究の目的
地理探究で得られる資質と能力
地理探究の内容
地理探究の指導ポイント
地理探究事例2選
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地理探究とは
地理探究は、地理歴史科の中に設けられた標準単位数3単位の選択科目です。
従来の地理Aは「地理総合」に、地理Bはこの「地理探究」に移行されます。
地理探究は「現代世界の系統地理的考察」「現代世界の地誌的考察」「現代世界におけるこれからの日本の国土像」の3つの大項目で分類されるのが特徴です。
必履修である「地理総合」で身に着けた地理の基礎知識に基づき、より深い理解と課題の探究を目指すものとして地理探究が設置されました。
地理探究の目的
地理探究が行われる目的は、大きく分けて3つあります。
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
世界の生活文化を理解する
まず地理探究では、世界の生活文化の理解という目的があります。大項目でいえば「現代世界の系統地理的考察」に含まれます。
土壌や気候といった自然環境、資源の量などは国によって様々で、海外では日本に住んでいると想像もつかないような生活文化があります。
地理探究を通じて、生徒は生活文化の多様性を知ることができるでしょう。
情報収集の技能を身につける
地理探究は情報収集の技能を身につけるというのが目的の一つです。課題に対してどのような解決を進めていくのか過程を決め、情報を集めていきます。
インターネットは様々な情報がすぐに手に入るメリットがありますが、情報が多すぎて取捨選択が難しいのがデメリットです。
そのため生徒はどのような情報が必要なのかを事前に検討し、必要な情報だけを効果的に収集するといった作業が求められます。
参考記事
>メディアリテラシー教育参考サイト5選!この能力の必要性や探究学習との関わりも解説
社会参画意識を芽生えさせる
地理探究には、生徒へ社会参画意識を芽生えさせるという目的があります。
教育における社会参画意識とは、「社会の一員としてよりよい社会を形成しよう」と行動する思いを指した言葉です。
地域調査などで訪れたことのない場所を調べたり、景観の観察などを行っていくと生徒に社会参画意識が芽生え始めます。
地理探究では生徒たちの学習成果が、そのまま地域の問題解決につながることもあるのです。
地理探究で得られる資質と能力
地理探究では、大きく分けて3つの資質・能力が育成できるとそれぞれ目標を定めています。いずれの項目に関しても、探究学習の時間だけでなく社会に出てからも必要とされるものばかりです。
それぞれの資質や能力について順に詳しく見ていきましょう。
知識及び技能
地理探究により知識と技能が身につきます。具体的に得られる知識には、生活文化、民族・宗教に関することなどがあります。
地理を学ぶと、その地域に住む人々がどのような生活に関わっているのかを知ることができるようになります。
また生徒たちはそこに暮らす人々の多様な習慣や価値観に気づくこともできるでしょう。
日本との共通点や相違点が見えてくることで、多様な価値を尊重しようという考え方も芽生えます。
思考力・判断力・表現力
次に身につくのが思考力・判断力・表現力です。地理を学ぶことで、その地域の特徴や場所同士の結びつきに着目できるようになり、主題を設定できるようになります。
例を挙げるなら「東南アジアは熱帯農業が活発なのに国民の暮らしが不安定なのか」「なぜ都市の分布には地域差があるのか」といった主題です。
学びに向かう力、人間性
地理探究では生徒自らが地理的な諸課題を見つけ出す学習であるため、学びに向かう力が備わります。自分で決めた課題に向けて解決を進めていく中で「学ぼう」という姿勢が芽生えるのです。
また多面的かつ多角的な考察を深めていくことで、国土に愛着が湧き他国の価値観を尊重でき人間性も豊かになります。
地理探究の内容
地理探究には冒頭で説明したとおり、3つの大項目で内容が定義されています。
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
現代世界の系統地理的考察
現代世界の系統地理的考察とは、地理総合で得た学習成果をもとに現代世界のあらゆる地理的事象を学習対象とする内容です。
学ぶ項目は大きく分けて下記の5つがあります。
従来の地理Bの内容と重複する部分もありますが、地理探究に代わり観光、交通・通信等が追加されています。
それぞれの項目について地理的考察を重ねながら、生徒は環境問題や食糧問題といった課題を見つけていかなければいけません。
現代世界の地誌的考察
現代世界の地誌的考察とは、先述の現代世界の系統地理的考察で得た学習成果に基づき、現代世界を構成する諸地域を学習対象とする内容です。
学ぶ項目は大きく分けて下記の2つがあります。
・現代世界の地域区分
・現代世界の諸地域
現代世界の地域区分は、諸地域に関する資料を参考に地域区分の概念や意義を理解する学習内容です。ここでは他国を地域分断し、特色を探し出す学習が求められます。
具体的な例を挙げるなら「ギリシャ問題」「ヨーロッパの拡大と分断」といったテーマがあります。
現代日本に求められる国土像
現代日本に求められる国土像は、現代世界の系統地理的考察と現代世界の地誌的考察で学んだ知識や考察の応用編的な存在です。
日本が抱える地理的な諸課題を探究活動により解決する内容が盛り込まれています。従来の地理Bの科目にあった「現代世界と日本」を拡充したのが、この現代日本に求められる国土像です。
生徒は地域の結びつきや持続可能な社会づくりに着目して主題を設定し、日本がこれからあるべき国土像について理解を深めていきます。
地理探究の指導ポイント
地理探究で育つ能力や資質、具体的な内容について紹介してきましたが、実際に「地理探究を始めましょう!」といっても、どのようなことに気をつければ良いのかわからない先生も多いと思います。
こちらでは地理探究における指導のポイントを4つ見ていきましょう。
地図を活用する
地理探究では、できる限り地図を活用するように生徒へ指導しましょう。地図を活用すれば、調査や資料から地理に関する様々な情報を効果的に調べてまとめられるようになるからです。
地域間の交流が盛んな時代を調べるときは、位置や空間的な広がりの理解が求められます。
地図で距離がわかると、地域が抱える課題や将来像がイメージしやすくなるでしょう。
また地図はデジタル技術の活用もおすすめです。Google MapなどのGIS(地理情報システム)を活用すれば、あらゆるパターンの地域区分を地図化できるようになり、現代世界の地域区分の学習で役立ちます。
他の科目と関連付けて学習してもらう
地理だけにこだわらず、他の科目と関連付けて学習をしてもらうようにしましょう。
地理探究は地理歴史科に属しており日本史や世界史、公民等とも深い繋がりがあるからです。ほかにも人文地理であれば政治や経済、自然地理であれば地学や生物の科目が関わってきます。
関連付けて学習することで、より地理探究の理解が深められるでしょう。特に民族や宗教、文化などは歴史科目でも知識を補うことができます。
生徒が地理探究に行き詰ったときは、日本史や世界史の項目で参考になるものを先生が提案してあげると良いでしょう。
地域や社会と連携する
地理探究では地域や社会との連携を行えば生徒の課題解決に役立つことがあります。例えば専門家から話を聞くといった対話的な学びは、生徒の社会参画意識の芽生えにもつながります。
先生は、協力してもらえる関係諸機関があれば積極的に依頼するようにしましょう。もし現場に向かうのが難しい場合は、ICTを活用したオンライン取材など、遠隔で話を聞くこともできます。
日本を軸に探究を進めてもらう
地理探究は世界の様々な諸事象について学ぶことができますが、日本を軸に探究を進めるよう指導しましょう。
学習内容の大項目の中にある「現代世界」の中には日本に関する内容が含まれている上、「現代日本に求められる国土像」が含まれているからです。
そのため地理探究では、世界的な諸事象を取り上げる中でも、日本をその一地域として扱い、常に他国と比較し関連付けて考察できるように指導しましょう。
地理探究事例2選
フィールドワークで諏訪地域の地域課題解決を
テーマ | グローバル地理・地域課題の解決 |
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学習期間 | 約1ヶ月半 |
実施校 | お茶の水女子大学附属高等学校 |
対象学年 | 1年生 |
一ヶ月半にわたる諏訪地域の地理探究です。2泊3日で現地調査や住民の方への取材も行われます。長野県諏訪地域の課題は何か、またその課題にはどのような解決方法があるかを事前学習や現地調査、事後学習を通じて考えます。
フィールドワークを伴う地域探究は本事例のように、生徒にとって社会とのつながりを実感し、多角的に思考する力を養う良い機会になります。一方で、地域との良好な関係も必要不可欠で、お茶の水女子大学附属高等学校の事例はその点でも参考になる内容です。
Googleマップを使って地域犯罪防止に挑む
テーマ | 防犯、都市 |
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学習期間 | 全3コマ |
実施校 | 広島県立呉宮原高等学校 |
対象学年 | 2年生の理系2クラス計83名 |
実際に犯罪が発生した場所の景観を、犯罪発生マップとGoogleマップのストリートビューで把握し、その場所の具体的な防犯対策を提案する。
身近な環境における犯罪という生徒にとって現実感のあるテーマを扱い、実際の犯罪データをもとに防犯まちづくり考察する課題となっています。
対象範囲を変えることで、さらに複雑、または単純化した課題にも応用可能です。またこの事例ではGoogleストリートビューを用いて対策の検討を行っていますが、フィールドワークとも相性のよい探究課題です。
上記事例の詳細と、より多くの事例をこちらの記事で紹介しています。合わせてお読みください。
>【解説あり】地理探究の学習事例5つを紹介
まとめ
地理探究は従来の地理Bの学習内容に加え、現代日本の国土像について深く考える機会が設けられている科目です。
そのため生徒に対しては、海外の諸事象について考察や分析をする際は、日本との関係性も合わせて考えてもらえるように指導内容を工夫しましょう。
今後地理探究に携わっていく先生は、今回ご紹介したポイントをぜひ参考にしてみてください。
参考リンク
2018(平成30)年3月に告示された高等学校学習指導要領の分析報告|文部科学省
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【この記事の監修者】
田中 悠樹|株式会社Study Valley代表
東京大学大学院卒業後、ゴールドマンサックス証券→リクルートホールディングスに入社。同社にて様々な企業への投資を経験する中で、日本の未来を変えるためには子どもたちへの教育の拡充が重要であると考え、2020年に株式会社Study Valleyを創業。
2020年、経済産業省主催の教育プラットフォームSTEAM ライブラリーの技術開発を担当。
2024年、経済産業省が主催する「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」に委員として参加している。