SDGsを調べてたら「ESD」って出てきたんだけど、何?
SDGs探究はESDですか?
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先生方とお話する中で、冒頭のようなご相談をよくいただきます。
「誰一人取り残さない」「持続可能(サステナブル)な」社会の実現を目指して掲げられた17の目標と169のターゲットの総称であるSDGsについてメディアや日常でよく耳にすることが増えました。
でもその立役者であるESDの存在についてよく知らない人も多いのではないでしょうか?
「またアルファベット3文字の略語か…」と頭を抱えてしまうあなたへ、この記事ではSDGsに不可欠なESDの定義とその重要性について説明します。
SDGsは持続可能な開発目標、つまり、これを達成すればサステナブルな社会になりますよ、という「達成目標リスト」です。ESDは、サステナブルな社会を目指して行動できる人を育てるための「教育」です。つまり「SDGs探究はESDの一つ」ということができます。
ESDは学校だけではなく、政府や自治体、企業などの組織がSDGsに取り組む際のキーワードになっており、探究学習で外部連携を行う際には、重要な共通言語となる言葉ですので、ぜひその意味を覚えておいてください。
それでは詳しく見ていきます。
この記事の内容
1.「ESDってなに?」一問一答
・ESDってなに?「未来の社会の担い手を育てるための学習や教育活動です
・ESDは誰を対象にしているの?「立場や年齢を超えたすべての人です」
・ESDっていつ誰がいい出したの?「2002年に日本が提唱しました」
・ESDってSDGsとどう違うの?
2.ESDはどんな人を育てようとしているの?なにができるようになるの?
・ESDによって社会は確実に変わりつつある
3.実は先生も知らない人が多い、学習指導要領にも盛り込まれているESD
4.前例を知って、次の手を考えよう
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1.「ESDってなに?」一問一答
ESDについてのよくある質問を、一問一答形式で解説していきます。
ESDってなに?「持続可能な社会を目指して行動できる人を育てるための教育です」
ESDとはEducation for Sustainable Developmentの略で、和訳では「持続可能な開発のための教育」といいます。つまり「持続可能な社会を目指して行動できる人を育てるための教育」です。もちろん、SDGs探究もESDといえます。
ESDは誰を対象にしているの?「立場や年齢を超えたすべての人です」
ESDは「学習や教育の活動」ですが、決して教育現場や生徒だけを対象にしたものではありません。ESDは、立場や年齢を超えた一人ひとりがいつでも学び合えるものです。
つまり学校はもちろんのこと、メディアや社会活動を通じて誰もが「未来の社会の担い手を育てる」活動に参画しています。このあとにも触れますが、政府自治体、市民、企業、メディアなど様々なプレーヤーが連携して学びを実現しています。
ESDっていつ誰がいい出したの?「2002年に日本が提唱しました」
実はESDは、日本が提唱した概念です。
国際社会におけるESDに関する発言や政策の経緯を年表にまとめます。
1967年 「私たち共通の未来」報告書(環境と開発に関する世界委員会):ここで初めて「持続可能な開発」というキーワードが国際社会で取り上げられました。
2001年 ミレニアム開発目標(MDGs)が国連で決議される
2002年 持続可能な開発に関する世界サミット(ヨハネスブルグ・サミット):日本が「国連持続可能な開発のための教育の10年(略称:国連ESDの10年、またはDESD)」を提案。ここで初めてESDが言及される。
2005~2014年 ESDの10年(DESD)
2015~2019年 グローバルアクションプログラム(GAP):DESDの後継となる計画
2015年 持続可能な開発目標(SDGs)が国連で決議される:MDGsの後継にあたる目標
2020~2030年 ESD for 2030:GAPの後継となる計画
ESDは、日本が2002年12月の国連総会において提案した「国連持続可能な開発のための教育の10年(略称:国連ESDの10年、またはDESD)」で初めて登場しました。
ただし当初は「持続可能な開発」の概念はあったものの、まだ今のように具体的な定義が共有されていませんでした。
2015年SDGsが決議されて初めて「持続可能な開発」のための目標とターゲットが明確になりました。さらに2019年には「ESD for 2030」のなかでESDの役割が改めて明記されました。
日本が最初に提唱した「これからの社会の担い手を育てるための教育」は、いまやユネスコ(国際連合教育科学文化機関)が主導する国際的な教育・学習活動に成長しています。
ESDってSDGsとどう違うの?
日本ユニセフ協会のサイトによると、SDGsとは「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」の略で、「人類がこの地球で暮らし続けていくために、2030年までに達成すべき目標」のことです。
つまり、国際社会と地球環境が直面しているあらゆる課題の解決とサステナブルなあり方を目指して作られた世界共通の目標です。
ESDとは、このような課題を自分ごととして捉え、問題解決につながる価値観や行動の変革を起こすための教育・学習活動です。
また同時に、ESDはSDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」のターゲット4.7にも記載されています。
ターゲット4.7
2030年までに、持続可能な開発と持続可能なライフスタイル、人権、ジェンダー平等、平和と非暴力の文化、グローバル市民、および文化的多様性と文化が持続可能な開発にもたらす貢献の理解などの教育を通じて、すべての学習者が持続可能な開発を推進するための知識とスキルを獲得するようにする。
つまりESDは、SDGsを達成するための手段であると同時に、SDGsを通して達成したい目標のひとつでもあるのです。
ESDはどんな人を育てようとしているの?なにができるようになるの?
ESDは「未来の社会の担い手を育てるための学習や教育活動」です。つまり、学習者に「未来の社会の担い手」になるために必要な知識や能力、そして価値観を育みます。
2012年に日本の国立教育政策研究所が発表した「学校における持続可能な発展のための教育(ESD)に関する研究[最終報告書]」では、「ESDの視点に立った学習指導で重視する能力・態度(例)」がこのように示されています。
ESDでは、社会や環境の課題に関する知識の習得だけでなく、その知識を活かして実践に移すための能力や態度を育成することを意識しています。
2.ESDによって社会は確実に変わりつつある
ESDはつい最近生まれた概念ではありませんし、ただの流行りでもありません。そしてその効果はすでに若い世代を中心に見え始めています。
株式会社博報堂が2021年1月に16-69歳の男女4,125名を対象に行った「生活者のサステナブル購買行動調査2021」によると、SDGsについて「内容までよく知っている」または「内容をある程度は知っている」と回答した人は、10代(16~19歳)で47.5%、20代で37.4%で、全体平均の29.8%を上回っていました。似た傾向は他社の調査結果でも見られていて、若年層ほどSDGsの認知・理解が進んでいることが示されています。
ただSDGsの認知が広まっているだけでなく、実際の行動にも変化の兆しがあります。同じ博報堂社の調査では、社会問題について自ら情報発信したり、社会をより良くするための活動に参加したりする人も若年層ほど多いと現れています。
15~69歳の男女1,024人を対象にした別の調査では、サステナブルな取り組みに付加価値を感じて消費行動を選択・購入しているのは全体で1割に留まりました。しかし年代別にみると10代女性が最も多く、56.4%にのぼっています。
また、SDGsに取り組む企業の商品を選択・購入している人についても、男女ともに10代が一番多いという結果が出ています。
つまり、現在の10代やそれ以下の世代にとって、SDGsは受け売りではなく自ら意識するものになっていると言えます。
その影響は消費活動にとどまりません。博報堂社の調査では「社会問題に積極的に取り組む企業に就職・転職する(したい)」人は、男性10-20代・女性10代で約4割と、全体より15ポイント以上高くなっていました。
株式会社電通の調査では、企業がSDGsに積極的に取り組む姿勢を見せることで「社会からの信頼」を得られたり、「社員の会社への愛着」が湧いたり、「優秀な人材の確保」につながるという意見もでています。
このように、「未来の社会の担い手を育てるための学習や教育活動」であるESDを受けた世代は今後の経済活動を大きく変えていくことが予想されます。すでにその波は起きています。
ESDは学校教育だけのものではなく、名実ともに社会全体の関心事なのです。
3.実は先生も知らない人が多い、学習指導要領にも盛り込まれているESD
ESDの重要性をここで初めて知ったとしても、焦る必要はありません。環境省が2021年に実施した全国の教職員1,000人を対象にした調査で、こんな質問がありました。
「あなたは新学習指導要領にESDが位置づけられていることをご存知ですか」
これに対し「位置づけられているのは知っているが、きちんと読んだことはない」と答えた教職員が最多の39.2%、次点では「知らなかった」が26.3%でした。
つまり、すでに学校現場でESDが行われていたにも関わらず、半数以上の教員がそのことを把握していなかった、という結果が出ています。
日本では、2008年と2009年に公示された幼稚園教育要領と小中高校の学習指導要領に「持続可能な社会の構築」の観点が盛り込まれ、さらに直近の2017年と2018年に公示された各要領にはより踏み込んだ形で「持続可能な社会の創り手」の育成が掲げられました。
新しい学習指導要領に対応したESDを模索するのは今からでも遅くありません。
4.前例を知って、次の手を考えよう
新学習指導要領によって学校は「未来の社会の担い手を育てるための学習や教育活動」をする場であることがであることが明確になりましたが、ESDは学校だけが担うものではありません。
「ESDを用いて社会変革を起こす人材を育てる」ことに取り組んでいる特定非営利活動法人持続可能な開発のための教育推進会議(ESD-J)によると「ESDを効果的に推進するためには、ESDの実施を学校経営方針に位置付け、校内組織を整備して学校全体として組織的に取り組むこと、ESDを適切に指導計画に位置付けること、地域や大学・企業との連携の視点を取り入れること、児童・生徒による発信と学習成果の振り返りを適切に行うことなどが重要」とあります。
ESDには、このような特徴があります。
このような学習プロセスを実現するためには、カリキュラム、学校運営や、学校外連携が欠かせません。
代表例として、広島県福山市立福山中・高等学校の事例を紹介します。
この学校では「ホールスクールアプローチ」「学校づくり」「ローカル・グローカル・キャリアプロジェクト」の3つのキーワードを掲げ、地域の市役所や商工会議所、企業や大学などと連携しながら、積極的にESDを推進しています。
生徒は、中高6年間を通して「地元企業ガイドブック作成」や「職場体験」などに取り組み、「地球・地域の持続可能性の向上」と「個人としての資質・能力の向上」を目指しています。
このように、学校の明確な目標意識とカリキュラムをもとに地域と連携することは、ESDを推進するだけでなく、地域とのつながりを生み、人的物的資源の有効活用になります。また、連携先の企業等にとっては、CSRやSDGsへの貢献にもつながります。
前述の環境省の調査では、地域・NPO・企業等と協力・連携することで「学びの質が高くなった(69.7%)」という声もあるなかで、デメリットとして「調整に時間・手間がかかった(47.5%)」という回答もあり、方法論の確立と普及にはまだ課題が残っています。
学校が地域や企業のハブとなり、人的物的資源を共有・活用して、一人でも多くの「未来の社会の担い手」を育てていくことが今後も求められています。
他の事例はこちらの記事も参考にしてみてください。
>【解説付き】企業と高校が連携してSDGsに取り組んだ探究学習事例5つを紹介
参考文献・サイト:
>文部科学省. “持続可能な開発のための教育(ESD:Education for Sustainable Development)”. 文部科学省. , (参照 2022-02-09).
>特定非営利活動法人持続可能な開発のための教育推進会議(ESD-J). “ESDとは?”. ESD-J. (参照 2022-02-09).
>菊地かおり. “「ESD(持続可能な開発のための教育)」とは?【知っておきたい教育用語】”. みんなの教育技術. 2020-04-20. (参照 2022-02-09).
>角屋重樹. 学校における持続可能な発展のための教育(ESD)に関する研究[最終報告書]. 国立教育政策研究所 教育課程研究センター, 2012.
>博報堂広報室. 博報堂「生活者のサステナブル購買行動調査2021」. 2021.
>日本インフォメーション株式会社. “SDGsって何? エシカルな消費活動の実態調査”. PR TIMES. 2021-05-10. (参照 2022-02-09).
>株式会社電通. “電通、第4回「SDGsに関する生活者調査」を実施”. 株式会社電通. 2021-04-26. (参照 2022-02-09).
>環境省. “令和2年度環境教育等促進法基本方針の実施状況調査(アンケート調査)”. 環境省. (参照 2022-02-09).
>西井麻美ほか編. ESDがグローバル社会の未来を拓く: 西井麻美SDGsの実現をめざして. ミネルヴァ書房, 2020, 296p.
>特定非営利活動法人日本持続発展教育推進フォーラム. 第10回ESD大賞受賞校実践集. 2020, 45p.
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【この記事の監修者】
田中 悠樹|株式会社Study Valley代表
東京大学大学院卒業後、ゴールドマンサックス証券→リクルートホールディングスに入社。同社にて様々な企業への投資を経験する中で、日本の未来を変えるためには子どもたちへの教育の拡充が重要であると考え、2020年に株式会社Study Valleyを創業。
2020年、経済産業省主催の教育プラットフォームSTEAM ライブラリーの技術開発を担当。
2024年、経済産業省が主催する「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」に委員として参加している。