探究学習

デザイン思考を探究学習に活かして本格的な成果を出す方法【事例紹介あり】

「デザイン思考」を探究に生かしている学校があるって聞いたけど・・・
そもそもデザイン思考って何?どうやって探究に使うの?

私たちStudyValleyは「社会とつながる探究学習」を合言葉に、高校の先生や塾の先生方へ、探究学習を効果的に行えるICTツールの提供や、コンサルティングサービスを行っています。

先生方とお話する中で、冒頭のようなご相談をよくいただきます。

そこで、この記事では、さまざまな企業で話題となっているデザイン学習を活用した探究学習について、詳しく解説しました。

デザイン思考とは企業が製品開発を行うときに利用するフレームワークで、経済界では、シリコンバレー企業が多数導入して成果を上げていることで知られています。

探究学習の中でも、プロジェクト型で、なにか商品やサービスを開発するようなタイプの探究に応用できます。

目次
・そもそもデザイン思考とは?
・どんな思考法なのか
・デザイン思考はすでにさまざまな企業で活用されている
・デザイン思考の5つのプロセス
・3つのメリット
・2つのデメリット
・デザイン思考を探究に生かした事例

実際に企業でも使われているフレームワークなので、より本格的な探究になります。一方で斬新なアイデアを出すにはポイントもあります。まずデザイン思考について知っていただき、探究学習に生かすヒントにしていただければ幸いです。

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そもそもデザイン思考とは?

どんな思考法なのか

デザイン思考とは、デザイナーやクリエイターが使う思考プロセスを活用し、前例のない課題や未知の問題に対して最適な解決を図るための思考法です。

この思考法はマーケティング業界で発足したものです。従来のマーケティングでは、企業側の考えによる製品の開発が先に行われ、その後にユーザーの意見を求めるのが一般的でした(プロダクトアウト)。しかし、近年の技術革新などにより顧客の需要変化 が激しくなった影響で、そのようなスタンスでは通用しなくなってきています。

この背景を踏まえ生まれたのが、この「デザイン思考」です。ユーザーがどのようなものを求めているかなど商品の未確定な部分を含め、事前に調査し、その得た情報から革新的な商品やサービスの開発を行います(マーケットイン)。

このような未確定の部分も踏まえ検討して目標達成につなげるという手法は、トップデザイナーやクリエイターがデザインを行う過程で用いる特有の思考法と同じです。そのため、このプロセスは「デザイン思考」と呼ばれています。

プロダクトアウト・・・提供者側の発想でプロダクトの開発・製造・販売していくこと

マーケットイン・・・市場(マーケット)や購買者の立場に立って買い手が必要とするものを提供していこうとすること

デザイン思考はすでにさまざまな企業で活用されている

この思考法はすでにAppleやGoogleといった外資系企業などですでに活用されており、実際に革新的な商品も発明されています。

例えば、世界的な大ヒット商品となったAppleの「iPod」もデザイン思考によって生み出されたものです。特徴的であるコンパクトな本体、音楽データのスムーズな移行、優れたインターフェイスはこの思考法によって、アイデアを得たそうです。

このような実績を顧みて、日本企業でも徐々に導入が始まっています。

デザイン思考の5つのプロセス

次にデザイン思考の5つのプロセスについて説明します。
これら5つのプロセスは必ず順番に行う必要はありません。同時並行でも、前後しても構いません。これらを包括的に捉えることが重要です。

1.共感(Empathize)
2.定義(Define)
3.創造(Ideate)
4.試作(Prototype)
5.テスト(Test)

1.共感(Empathize)

これは、まずユーザーの共感を得ることから始まります。フィールドワークを行ったり、観察したりすることにより、ユーザーが何に共感しているのか、潜在的に求めているものは何かを見つけ出していきます。

2.定義(Define)

ユーザーの「共感」をヒントに、ユーザーのニーズを定義します。本当は何を実現したいのか、潜在的な課題は何なのかを深掘り、抽出していきます。潜在的な課題や背景がわかるようになれば、目指すべき方向性やコンセプトはかなり策定しやすくなるでしょう。

3.創造(Ideate)

ブレーンストーミングなどの手法を用いて、それを解決するアイデアやアプローチ手法を話し合い、創造して形にしていきます。
ここで大切なのは、質ではなく量を意識することです。制限を設けずできるだけたくさんアウトプットします。

4.試作(Prototype)

アイデアが固まったところで、次はチームの支持を得たものの試作品を作ります。時間やコストをできるだけ掛けずに、取りあえず一度形にします。

5.テスト(Test)

最後に試作品に対するユーザーテストを繰り返し、フィードバックされた意見を参考にブラッシュアップを図っていきます。定義したユーザーのニーズや試作などが正しかったのかを確認し、より精度の高い製品やサービスを創り上げます。

3つのメリット

デザイン思考の3つのメリットについて解説します。

1.固定観念から離れたアイデア
2.多様な意見の受容
3.コミュニケーション力の強化

1. 固定観念から離れたアイデアが出る

デザイン思考ではプロセスの3. 創造でも触れているように、大量のアウトプットが奨励されています。”とりあえず” やってみる、提案してみるというスタンスで挑むことで、斬新なアイデアが生まれる可能性があります。また、質より数にこだわったアイデア出しにより、複数のアイデアを複合させて新しいアイデアが生まれる可能性もあるでしょう。

2. 多様な意見の受容

「デザイン思考」では、多様な意見を受容することが要求されます。大量にアイデアを出す際にもそれは重要ですし、試作作成においてそれぞれの意見に向き合い、合意形成を図る必要があるからです。そのなかで、画期的な視点や発見が得られます。多様性が重視される現代において、こうしたスタンスがチームに広がっていくのは好ましいと言えるでしょう。

3. コミュニケーション力の強化

この思考法では、チームのメンバー同士でのコミュニケーションに重きを置きます。思考を進めるための5つのプロセスにはメンバー全員が参加し、役職や上下関係に関わりなく自由かつ公平な発言が求められます。自ずと、チームに対する貢献意識も高まるのでチーム力の強化につながるのです。

2つのデメリット

次にデザイン思考の2つのデメリットに関して解説します。

1.ゼロベースからから生み出すのには不向き
2.斬新なアイデアが出るとは限らない

1. ゼロベースから生み出すのには不向き

この思考法は、ユーザーの声から新しいアイデアを導き出し、イノベーションを起こしていく思考法であるため、ゼロベースから生み出すことには不向きです。 全く新しいものを生み出すというよりも、既存のものを活用して今まで見つけられなかったものを見つけることに活用できます。
つまり、ユーザーの中から新しいアイデアやサービスを探す思考法なので、ユーザーが思いもつかないようなものを生み出すのには向いていないのです。

2. 斬新なアイデアが出るとは限らない

広い視点から斬新な発想ができるメンバーがいないと、アウトプットがありきたりになってしまいます。より良い結果を得るためには専門性と多様性のあるメンバーを集める必要があり、チームの雰囲気やそのメンバーによっても結果には差が出てしまいます。
探究においては、グループの雰囲気をアウトプットを豊富に出せるように、かつ出されたアイデアをより発展させられるように対話できる雰囲気にすることが重要でしょう。

探究学習にデザイン思考を活用する

どうして導入するのか

デザイン思考のプロセスを取り入れることで より応用的な探究学習が見込めます。また、企業連携での活用でもこのプロセスを活用することで、実践的な探究が期待できます。

2つの利点

デザイン思考を導入することによる利点について解説します。

1.より深い探究に
2.企業連携でも活用できる

1. より深い探究に

情報収集だけでなく、アイデアだしのステップを追加することでより広く深い探究が望めます。特にモノづくり・サービスづくりが課題の場合は、それに特化したフレームワークであるため、独創性のあるアイディアが生まれ、深い探究になることが期待できます。
また、アイデア出しの対話の場面を取り入れることでコミュニケーション力の向上やより広い視野による課題や解決法が望めるでしょう。

2. 企業連携でも活用できる

企業との連携における探究で活用しやすいでしょう。商品から探究課題を解決しようとする際にはこのプロセスが活用できます。企業でも実際に使用されているものであるため、スムーズに連携を可能にしてくれるもと思われます。こちらは後に記載している二つ目の事例を見ていただくとわかりやすいかもしれません。

2つの注意点

導入時の注意点について解説します。

1.難易度が上がる
2.対話的学習ができないとうまくいかない

1. 難易度が高い

新しいプロセスが加わり、複雑で難易度が高いものになります。そのため、生徒が探究になれていない段階で取り入れ ないようにしなくてはいけません。生徒の学習レベルを見極めて使いましょう。

2. 対話的学習の環境を整える必要がある

対話が重要になりますが、うまくそれができないとデザイン思考を活用できないため、結果的に失敗に終わってしまう可能性があります。 対話スキルや対話しやすい環境を整えてから行うと良いでしょう。

事例:探究学習とデザイン思考

探究学習とデザイン思考を取り入れた事例を二つ紹介します。

一つ目は探究学習の課題発見にデザイン思考を取り入れた事例で、二つ目はデザイン思考を活用し、企業と連携し、実際の課題を解決するという実践的な探究を行った事例になっています。

1. デザイン思考で探究課題の「問い」をつくるワークショップ

テーマデザイン思考
学習期間100分(2時限分)
実施校SSH委員会主導
対象学年2年生

学習のねらい

1.多くの人の多様な視点を活かし視野を広げる方法を体験的に学ぶことで課題発見力を高める。

2.グループワークを通し、主体性と協働力を高めるとともに、批判的思考を実践する。

3.付箋(意見)をまとめ、整理することで、表現力を高める。

課題・実施の流れなど

①事前学習
休校期間中にワークシートを活用して日常に発見される「疑問文」を列挙した

②探究課題の問いを作るワークショップ
第一回目(1限分50分):デザイン思考に基づくグループワーク
1.ブレインストーミング:調査してきた「疑問文」を理由を含めて数多く挙げる
2.アイデアを「研究課題になりそうか?」という観点でまとめ
3.気づき、新たな視点の意見の意見交換を行う
4.前回の授業の結果を発表し、情報共有。

第二回目(1限分50分):テーマ設定に向けたディスカッション
1.前回の授業で創造された「問い」のうち、興味を持てた「問い」に集合し、研究の独創性や社会的意義・科学的意義などの観点で議論し、研究テーマを模索した。
2.テーマが決定したグループは「研究テーマ申請書」を作成し、教師と議論し考えを深めた。

結果

無記名による事後アンケートでは、自分なりの疑問が浮かび、課題研究のテーマ設定の参考になった」が79%と高評価であり、この授業の効果がうかがえた。

また、自由記述式の感想においては、他の生徒の自分と違う物事の考えを通じて新たな発見ができたり良い『問い』を見つけることができたりといった意見が多く見られ、デザイン思考を取り入れたプログラムが課題発見に有効であることが示唆された。

ポイント

こちらはデザイン思考の「定義」「創造」のプロセスを活用して、探究の課題発見にデザイン思考を取り入れた事例です。

「定義」では、その「疑問文」を深掘り、より根本的な視点からその疑問を定義することで、ジャンル分けを行っていたところに活用されたと思われます。また、「創造」はさらに研究テーマを設定する部分で活用されたでしょう。その「問い」の研究の独創性や社会的・科学的意義を「定義」のプロセスで発掘し、研究テーマを設定した後、研究テーマについて話し合っていました。そこで、どのような研究にするのかというアウトプットにおいて活用されたと思われます。

実施手順には書かれていませんが、「共感」のプロセスも自然と活用されているかもしれません。個人の「疑問文」に共感し、何に疑問を感じたのか等をさらに細かく推測、さらに課題設定の文脈に適した文に変換することで、日常的な視点から探究的な視点へ変えることができるのではないでしょうか

詳細:デザイン思考で探究課題の「問い」を作るワークショップ実施報告書

2.企業と連携し、デザイン思考を取り入れた探究を行う

テーマデザイン思考と探究
学習期間1年間:毎週2-3時間
実施校青翔開智中学校・高等学校
対象学年中学2年生

学習のねらい

デザイン思考を活用して課題を解決できる力を養う

課題・実施の流れなど

「鳥取の経営者に改善案をプレゼンする」

漬物販売業者「泊綜合食品」(同市)を訪問し、そこで気づいた課題について解決策を経営者に提案する。

あるグループは、らっきょう商品を購入するのは年配客が多いことに気づき、「若い世代にも手に取ってもらうにはどうしたらいいか」について4人で議論した。そして、「インスタグラムに映えるよう、カラフルならっきょうで関心を引く」という案を提案し、理科室で実験に使う酢酸カーミン溶液やメチレンブルー、食紅などで色つきらっきょうを試作した。そして、泊綜合食品の担当者らに結果を披露した。

結果

この生徒が提案した「カラフルらっきょう」は実際に商品化された。また、この学校は中学高校を通じて毎年探究授業を行っており、その成果は令和元年度スーパーサイエンスハイスクール意識調査報告書」(科学技術振興機構)のアンケート結果にも表れた。

スーパーサイエンスハイスクールの取り組みにより最も向上したと思う興味・姿勢・能力を3つ選ぶ質問において、「問題発見力・気づく力」「問題解決力」「独創性」を選んだ生徒の割合が全国平均と比べ高い結果になったという。

ポイント

包括的にデザイン思考を取り入れている事例です。企業と連携し、実際の課題を解決するという実践的な探究を行えており、さらには実際に商品化という成果を出しています。

外部企業との連携が必須である点が、少し難しい部分ではありますが、そのような探究は結果が生徒にもわかりやすくモチベーションにもつながることでしょう

詳細:青翔開智「デザイン思考」の導入成果が凄かった 課題系活型学習にAIやプログラミングも活用

まとめ

デザイン思考について解説してきました。

・そもそもデザイン思考とは?
・どんな思考法なのか
・デザイン思考はすでにさまざまな企業で活用されている
・デザイン思考の5つのプロセス
・3つのメリット
・2つのデメリット
・デザイン思考を探究に生かした事例

このように、デザイン思考を取り入れることでより実践的で応用的な探究学習が行えます。しかし、デザイン思考はツールであり、これを使えば必ず探究学習が成功するわけではありません。活用する際は全てのプロセスを導入できなくても良いので、主体的・対話的で深い学びを行えるようにすることが重要です。

ABOUT ME
この記事を書いた人:Study Valley 編集部
探究No.1メディア”Far East Tokyo”編集部です!執筆陣は、教育コンサルタント、元教員、教育学部大学院生など、先生方と同じく、教育に熱い思いを持つStudy Valleyのスタッフ陣です。子どもたちがわくわく探究する姿を思い浮かべながら制作しています!先生方のお役に立ちますように。Twitterフォローで記事更新情報が届きます。
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【この記事の監修者】

田中 悠樹|株式会社Study Valley代表

田中 悠樹|株式会社Study Valley代表

東京大学大学院卒業後、ゴールドマンサックス証券→リクルートホールディングスに入社。同社にて様々な企業への投資を経験する中で、日本の未来を変えるためには子どもたちへの教育の拡充が重要であると考え、2020年に株式会社Study Valleyを創業。
2020年、経済産業省主催の教育プラットフォームSTEAM ライブラリーの技術開発を担当。
2024年、経済産業省が主催する「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」に委員として参加している。