STEAMライブラリー

失敗さえも面白い!探究を楽しむ「ものづくりニッポン」の研究者が知ってほしいこと ~シャープ株式会社×株式会社エイスクール~

長年にわたり日本のものづくりをリードしてきたシャープ株式会社と、探究学習のスペシャリストである株式会社エイスクール(以下、a.school)は、経済産業省「未来の教室」が運営する「STEAMライブラリー」に「ものづくりの歴史」「自然から学ぶものづくり」「ディスプレイ技術の発展」という3つのコンテンツを共同で提供しています。

特徴を異にするこの2つの会社がタッグを組んだ今回のコンテンツには、どのような背景や想いがあるのか、弊社社長の田中悠樹がインタビューで伺いました。

プロフィール

藤原 百合子  様

シャープ株式会社 研究開発事業本部 ソリューション事業推進センター ソリューション事業推進室参事。企業博物館「シャープミュージアム」の展示企画から国賓・来賓対応、人材育成に至るまでの運営全般に従事。来場者の3割が教育関連であることから、歴史、科学、デザインと、ミュージアムに存在する学びの価値を全国に届けたいと考え、STEAMライブラリーコンテンツ制作事業に参画した。

岩田 拓馬  様

株式会社エイスクール(a.school)代表兼クリエイティブディレクター。東京大学大学院工学系研究科修了(工学修士)。Boston Consulting Groupにて経営コンサルタントとして勤務後、2013年に創業。探究学習塾の運営や探究学習コンテンツの開発・普及などを行う。著書に『「勉強しなさい」より「一緒にゲームしない?」』。

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シャープとa.school、二つの会社が出会って起きたケミストリー

(田中)
今回STEAMライブラリーへシャープ様とa.school様が共同でコンテンツを提供くださった経緯についてお伺いしても良いでしょうか?

ものづくりのプロ、シャープと組んだことで充実したコンテンツ

(岩田氏)
もともとa.schoolは探究学習の普及をミッションに掲げて活動している会社で、経済産業省の「未来の教室」事業にも2018年から採択いただいて活動しております。昨年度STEAMライブラリー制作の公募があった際に、単独でコンテンツを作るよりも自分たちとは違う強みを持った企業と組んだほうがコンテンツの幅が広がって良いものが作れるのではないか、という話になりました。その後シャープ様と縁があり、ものづくりをテーマにしたSTEAMコンテンツの共同開発がスタートしました。

(田中)
実際に共同で取り組んでみていかがでしたでしょうか?コンテンツを拝見すると狙いどおりの仕上がりになっていると思いますが、事業者側からの感想を伺えると幸いです。

(岩田氏)
コンテンツの深さにつながったのは間違いありません。我々は探究的な学びのプロセスをデザインすることは得意ですが、ものづくりに関する専門的な知識・ノウハウがあるわけではありません。今回シャープ様と組んだことで、ものづくりについてより詳細に技術や製品を紹介できるだけでなく、動画や写真もふんだんにご提供いただけて中身の濃いコンテンツになりました。事業会社さんと教育企業のそれぞれの強みをいかせたのではないかなと思っています。

それと個人的な感想になりますが、一緒に作るプロセスを楽しめましたので今回のご縁をありがたく感じています。

「ワクワク」を求めて、飛び込んでみた探究学習の世界

(藤原氏)
シャープはミュージアムを一般公開しており、小学校から大学生まで、また海外からもご来場いただけております。一度来てくださった方や学校がリピーターになって再度来て下さることも多く、それ自体はとても嬉しいのですが、同時により多くの新しい方にも来ていただけるよう当ミュージアムの魅力を伝えていく、という課題もありました。

奈良県天理市にあるシャープミュージアム (出典:シャープ株式会社)

(藤原氏)
ご来場いただいた方だけでなく、より多くの方へ展示をお伝えしたい、このミュージアムの価値とは何か、といった議論は社内にありました。一方、当ミュージアムに寄せられる感想で多いのが、「勉強になった」「学びになった」であったことから、ミュージアムに来られない人にも当ミュージアムが持つ「学びの面白さ」を提供できないかと考えました。そこから今回のa.school様との共同制作に繋がっています。

a.schoolの岩田さんと話してみて思ったのは、これまで自分たちが提供してきていた展示はインプット重視のものだったということです。学ぶ人をワクワクさせる、好奇心を呼び起こさせる視点では考えられていなかったなと。自身の子供時代を振り返ってみてもインプット重視の学びは必ずしも面白いことばかりではありませんでした。今回一緒に組むことで、a.schoolが得意とされている探究につなげることができ、インプットだけの学びを超えて、ワクワクや好奇心を生み出すものに昇華できるのではないか、これは当方にとって大きな進歩になるのではないかと思い、未知の世界の「探究」に飛び込みました。

(田中)
初対面であったのに計3コンテンツを作り切るとは相性が良かったんですね。

(岩田氏)
3コンテンツを作ったのでたくさん打ち合わせをして時間もかかったように映るかもしれませんが、意外とミーティングも少なく、わりと初期の頃からトントン進みました。藤原さんたちとの相性がそもそもよかったんだと思います。

2社の協力が生んだ3つのコンテンツの魅力は?

(田中)
各コンテンツについて概要や制作の背景について教えていただけますか?

ものづくりニッポンの歴史を俯瞰し、技術についても学べるコンテンツ構成

(岩田氏)
3つのコンテンツは、大きく分けると「ものづくりの歴史」と残りの2つに分けられます。「ものづくりの歴史」は日本のものづくりの歴史を俯瞰して捉えたものです。これはシャープに限らず、日本の電化製品をはじめとする製造業がどのように形成、発展していったのか、社会発展の歴史の流れをつかめるコンテンツになっています。

「自然から学ぶものづくり」と「ディスプレイ技術の発展」の2つはシャープの研究、技術や事業領域をベースに科学的な視点で深掘りしていくものになります。STEAMの名の通り、いろいろな教科の要素を含みつつ科学を軸に構成しています。

  • 日本の電化製品製造の歴史・・・「ものづくりの歴史」
  • シャープの研究、技術、事業を科学の視点で深堀り・・・「自然から学ぶものづくり」「ディスプレイ技術の発展」

コンテンツを通じてシャープの根底に流れる価値観に触れてほしい

(田中)
シャープの歴史や想いがどのように各コンテンツの内容に反映されているか教えていただけますか?

(藤原氏)
実はシャープミュージアムは、お客様に学んでいただく場だけではなくて、弊社の社員にとっても特別な場所なんです。

想定どおりに仕事が進まないときはここに来て、数々の苦難や失敗を乗り越えてきた創業者の想いに勇気づけられたり、歴史を振り返って、受け継がれてきた価値観を回顧したりすることがあります。そうすることで伝統を次世代につなぐ責任を思い出し、新たなインスピレーションを得られるのです。

そのような社員の支えともなっている価値観をコンテンツ化できればと思っていました。
岩田さんにはシャープの技術革新だけではなく、そのような魅力も、うまく引き出していただいたように感じています。

 

現在では広く普及しているシャープペンシルはシャープ創業者早川徳次が生み出したもの
(出典:STEAMライブラリー「ものづくりの歴史」コンテンツ)

(田中)
シャープが創業以来培ってきた理念や社員の皆さんの情熱がコンテンツに反映されているわけですね?

(藤原氏)
はい、そうです!

しっかり用意された導入部から先生方の個性が生きる後半部まで、計算されたコンテンツ

(田中)
先生方に向けたアドバイスはありますか?学校の先生によっては工業や技術にそこまで馴染みがないこともあります。事前に準備をしておくことや、こういう風に活用するといいよ、というアイデアはありますか。

(岩田氏)
3つのコンテンツとも最初の2つのコマでは、映像やクイズ、ミニワーク等をしっかり用意していますので、ちょっとした準備で50分の授業を行えるように設計されています。入り口は広く用意しており、先生方は気軽に授業に取り入れられると思います。もちろんここだけやっていただいても構いません。

3コマ目以降の後半部分に関しては専門的に深めていく部分なのですが、こちらはあえてシンプルな指導案に留めていて、先生の工夫を反映できるよう、決まったルートを示してはいないです。大枠のテーマや流れ、活用できるツールなどは用意してあるのですが、それらをどのように活用していくか、については各先生が進め方を探究できるように設計しています。

コンテンツの構成

  • 1,2コマ目・・・資料、映像やクイズ、ミニワーク等を用意。少ない準備で50分授業ができる

  • 3コマ目以降・・・専門的に深める内容。シンプルな指導案とツールを用意。進め方は先生方の工夫次第

(田中)
先生も探究するのですね。

(岩田氏)
ルートが決まり切ってしまうと同じような内容の授業になってしまい、各学校、各先生の特色が活かせません。それではつまらないので、入り口は同じで後半部分は探究の多様性があるのが良いのかなと思っています。


教員用指導案では、それぞれのコンテンツに対し複数の探究指導案が提示され、生徒の特性や興味、授業目標などによって自在に活用できるようになっている(出典:STEAMライブラリー)

(田中)
シャープ様からは進め方についてアドバイスございますか?

(藤原氏)
まずはコンテンツを眺めてもらって、先生が面白いと感じた部分、ポイントを生徒に伝えてもらえればと思います。下準備がなくても取り組めるコンテンツではあるのですが、生徒の習熟度によっては探究していくための問いのヒントを用意いただけると良いかなと思います。

問い自体がタイトル。生徒の興味をひく問いかけは?

(田中)
シャープ様とa.school様のコンテンツはタイトルが問いになっているのが特長ですよね。これだと問いを立てたり、先生が生徒に問いかけたりしやすいですね。

とはいえ必ずしも生徒が最初から興味を示してくれるとは限らないのが教育現場です。そこでお伺いしたいのが、先生が教室で生徒の関心を引く問いかけについてです。コンテンツ作成者から何かアドバイスがあるでしょうか?

(岩田氏)
抽象的な質問よりも、身近に感じられるような質問、例えば「今はみんなスマホを使うけど、10年後はどうなっているかな?」のような想像しやすいものが良いように思います。先生の面白いと生徒の面白いには感覚の違いがある前提で、生徒視線で捉えることも大事です。

(藤原氏)
自分のあたりまえに「なぜ」や「どうして」を問いかけてみることはどうでしょうか?例えば、自然について探究するとしたら、事前に「一番好きな生物、一番嫌いな生物」を考えてきてもらって、グループワークでその生物について「どうして好きなのか、嫌いなのか」問いかけをしていくと、普段とは違った学びになると思います。

遊びの感覚や面白いと感じる心が、学習やキャリアのスタートになる

(田中)
探究学習が日本の教育に取り入れられつつありますが、それが生徒の未来にどのような良い影響を与えるのか、学校の先生も必ずしも理解できているわけではない状況です。

その前提で社会人の先輩として、もしも自身の学生時代に探究学習をする機会があったら、ご自身の人生についてこんな風に役立っただろう、もっと早くこうしていただろう、と思うような点はありますか?

試行錯誤を楽しむ力が起業につながった

(岩田氏)
もともと私は子供の頃から自身の興味関心に正直なタイプだったように思います。ちょうどパソコンが普及し始めたのが中学生のころで、部品を買ってきて自分でパソコンを組み立てたりしていました。学習というより遊びの感覚でやっていましたね。そこで身に付けた、「これやってみよう」とか「こんなふうにできるかも」みたいな視点は社会人になってからのプロジェクトの立ち上げや、起業に役立っていると言えるかもしれません。

そういった意味でいうと、もし学校の授業で探究学習がカリキュラムに組み込まれていたら、起業のタイミングがもっと早かったかもしれないですね。


岩田氏が代表を務めるa.schoolの授業風景(出典:a.school公式ホームページ)

(田中)
なるほど!
探究学習のような好奇心を育む取り組みがある一方で、学校や先生の指標が探究よりも合格実績であるのも現状です。探究学習が教科学習にも良い影響を与えることはありますか?

遊びを通して知った教科の面白さが学力向上に活きる

(岩田氏)
私の個人的な経験になりますが、中学受験に取り組む以前は、テレビゲームではなく、頭を使うアナログなパズルを親とたくさんやっていました。パズルを仕上げていくのは算数の解き方を考えるのに役立っていたように感じます。また、先ほどお話ししたパソコンをいじっていた経験があったので物理や化学を勉強する際に、これらの科目が面白いものだとわかったうえで前向きに取り組めたことは大きかったように思います。

もちろん、受験のために公式を覚えたりすることもあるのですが、好奇心があるのとないのでは違うだろうと思います。その意味で探究学習は短期的に成果につながるよりも、中長期的に活きてくるものではないでしょうか。

(田中)
中長期の観点で考えると、探究学習は小学校から導入しても良いですね!

(岩田氏)
そうですね、小学生からどんどんやると良いと思います。学習というよりも、遊びの延長ですね。

失敗することも面白い!探究を楽しむ研究者の姿を通して知ってほしいこと

(藤原氏)
私は、事情があって進学の道が難しいとわかった時に一度、学習するモチベーションを失ってしまいました。それでも、社会人になって、研究開発職の方々と仕事で関わってきた経験から言えることがあります。それは研究や実験は失敗することの方が成功するよりも多い、でも「失敗すること」が面白い。失敗の原因や理由を考察するのを面白く感じる方がたくさんいるということです。

研究者たちが研究や開発でワクワクしたり、面白いと感じたりしているポイント、また彼らが実際に楽しみながら取り組んでいる姿を、インターネットを通じてもっと多くの方に知ってもらいたいと思います。探究することの楽しさを彼らの姿を通して知ってもらうことが、勉強へのモチベーションが上がらなかったり、将来にどう役立つのかわからなかったりする生徒さんにとって一助になるのではないかと期待しています。

今回のSTEAMライブラリーのコンテンツを面白いと思った方には、ぜひ一度、奈良県天理市にある「シャープミュージアム」にも足を運んでいただけたら嬉しいですね。また別の面白さをお伝えできると思います。

(田中)
我々もぜひ伺いたいです!本日はありがとうございました。

 

田中悠樹 (インタビュワー)

「STEAMライブラリー」システム構築事業者である株式会社 StudyValleyの代表取締役

2011年にゴールドマンサックス証券テクノロジー部に新卒入社。株式会社リクルートホールディングスでは海外のVCを担当。
2020年に株式会社StudyValleyを設立。オンライン学習サービス「アンカー」や業務・学習支援ソフト「TimeTact」の開発や運営を行う。創業1年目でSTEAMライブラリーのシステム構築事業を受託。

 
 
 
 

STEAMライブラリーとは

経済産業省「未来の教室」が運営する、STEAM教育を通じてSDGsに掲げられる社会課題の解決手法を学べるオンライン図書館

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【この記事の監修者】

田中 悠樹|株式会社Study Valley代表

田中 悠樹|株式会社Study Valley代表

東京大学大学院卒業後、ゴールドマンサックス証券→リクルートホールディングスに入社。同社にて様々な企業への投資を経験する中で、日本の未来を変えるためには子どもたちへの教育の拡充が重要であると考え、2020年に株式会社Study Valleyを創業。
2020年、経済産業省主催の教育プラットフォームSTEAM ライブラリーの技術開発を担当。
2024年、経済産業省が主催する「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」に委員として参加している。