*この記事は経済産業省「STEAMライブラリー未来の教室」のコンテンツ事業者様に、教材の詳しい内容や使い方のアドバイス、STEAM教育に対する思いなどを取材する連載企画です。
GIGAスクール構想によって学校へのICT端末の普及が進んでいます。学習の個別最適化や、忙しすぎる学校現場の業務効率化への貢献が期待される一方、それを上手く活用できていないところも。合同会社LINK ALL(リンクオール。以下、LINK ALL)は、そんな学校や自治体に向けてICT活用のコンサルティング事業を行っています。
木川俊哉(きがわしゅんや)さんはLINK ALLのメンバーであると同時に、AI型教材「Qubena(キュビナ)」を提供する株式会社COMPASSのメンバーでもあり、多角的に教育に携わられています。
今回は、LINK ALLが宮崎市と合同で探究プログラムを開発するプロジェクトの中で、より多くの人に使って頂けるものを、とSTEAMライブラリーへそのコンテンツを提供をしてくださいました。
コンテンツは、宮崎が誇る「農業」をテーマにした「サステイナブルな”農”の探究」。木川さんにコンテンツの魅力や、子供たちへどう問いかければいいか?使用するときのポイント、木川さんご自身の探究テーマなどを伺いました。コンテンツの活用をご検討の方、サステイナブルな農業にご興味のある方は、ぜひお読みください。
木川俊哉様プロフィール
2018年から3年連続で経済産業省「未来の教室」実証事業を受託し、麹町中学校や新渡戸文化中学校をモデル校としてAI型教材Qubena(キュビナ)を活用した実証に運営責任者として従事。ICT教材を活用した授業モデルや評価制度の構築を様々な学校に提供する傍ら、自身でも教科横断型の探究的なワークショップを学校や教育事業者を通して100回3000人以上の子どもたちに行っている。
合同会社LINK ALL
中央教育審議会臨時委員や産業構造審議会委員を務める代表の神野元基がGIGAスクール構想を審議していく中で、教育機関に直接支援する組織が必要との想いから創業。GIGAスクール構想・一人一台端末の実現とより良い教育の実現のため、研修・情報提供・授業や評価の支援や、探究学習・コミュニティ設計・キャリア教育などのサポートを行っている。
コンテンツ紹介
タイトル | サステイナブルな”農”の探究 |
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学年 | 小4〜6、中学 |
キーワード | 農業、食、食料自給、植物工場、品種改良 など |
URL | https://www.steam-library.go.jp/content/100 |
コンテンツの目的
サステイナブルな農業を行うために社会では様々な手法や技術が活用されていることを学び、様々なジレンマにぶつかりながらも利害を調整して次の均衡点へ向かう営みがサステイナビリティの本質であることに気づくことを目指す。
【高校の探究担当の先生へ】
当メディアを運営する私たちStudy Valleyは「社会とつながる探究学習」を合言葉に、全国の高等学校様へ、探究スペシャリストによる探究支援と、社会とつながるICTツール「高校向け探究学習サービス『TimeTact』」を提供しています。
現在、探究に関する無料相談会を開催中です。探究へのICT活用や外部連携にご興味ある方、お気軽にご連絡下さい。ご予約はこちら(2024年3月現在、問い合わせが急増しております。ご希望の方はお早めにご連絡ください)。
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農業をテーマにした背景は?
(田中)早速ですが、今回STEAMライブラリーに提供されたコンテンツのテーマとして農業にされたのはどうしてですか?
(木川)宮崎県は食料自給率が100%を超えていて、農業がとても盛んです。農業は子供たちに親しみがあり、一方で課題もたくさんある。そういう探究のしがいがあるテーマだからです。
また農業は、地域を問わず扱いやすいテーマでもあります。野菜や米などを育てる農業体験を行う学校はたくさんあり、農業からつながる「食」も、毎日の営みであることはもちろん、地域それぞれに特産品があります。
最初に投げかけるべきキークエスチョンにこだわった
(田中)先生が生徒の前で紹介するときに最初に投げかけるべき最初のキークエスチョンや、答えのない問いの例はありますか?
(木川)各項目で、キークエスチョンとなる問いを用意しています。
例えば、品種改良の授業では、野菜を四つ用意するんですね。チンゲン菜と小松菜とカブと白菜の写真を見せて「この中に元を辿ると先祖が同じものがあります。どれでしょう?」と問いかけます。
答えは、実は「全部」なんですよ。元をたどると一つの植物になるんですね。味も見た目も違うのにどうして?という疑問に対して、人間が年月をかけて品種改良を行なってきたことを伝えるところから授業は始まります。学習は導入がすごく重要じゃないですか。子供たちの学びの姿勢が、それで全て決まるといっても過言ではないので、そこはかなりこだわりました。
探究の仕方を学べるので、早いタイミングで学ぶのがおすすめ
(田中)年間の授業計画の中で、御社の授業コンテンツをどう取り入れ、その後の展開としてどう持っていけると理想ですか?
(木川)探究の方法や、表現の仕方の基本を学べるコンテンツなので、中学校だったら1年生、小学校5年生だったら1学期など、なるべく早い段階で使うのがおすすめです。当コンテンツを使って探究の仕方を学んでおくことで、2,3学期でも「あの手法を使ってみようよ」と応用できるかと思います。
具体的な例を挙げると、3コマ目では「立場を決める」ことを学びます。野生栽培からゲノム編集まで、品種改良の手法にはそれぞれメリットとデメリットがあり、「あなたはそれを選びますか、選びませんか」ということを問われます。
何かを議論するときに立場を決めるってすごく大事です。探究する上で自分はどう考えていてどういう立場を取ったのか、それによって対立する立場の人とどう合意していくのか、というところが重要です。
「学び方を学ぶ」というスタンスで、先生方がこの教材を使っていただければ嬉しいなと思いますね。
また、今回「食」をテーマにした理由の一つに、多くの学校ですでに農業体験を行っているため関連付けしやすい点があります。なので、このコンテンツを早い段階で使っておけば、他の授業内容や課外学習でも、さらに踏み込んでいくことができます。
関連するSTEAMライブラリーコンテンツ
LINK ALLさんのテーマと関連するSTEAMライブラリーコンテンツを一部ご紹介します。参考にしてみてください。
・ベジミート 【日本語版】 / 植物肉の進化とSociety5.0の目標推進(ブリタニカ・ジャパン株式会社)
・Veggie Meat ベジミート【英語版】 / 植物肉の進化とSociety5.0の目標推進(ブリタニカ・ジャパン株式会社)
・食育×FoodTech(株式会社Z会)
・農業と生物多様性の保全を両立するには?(海城中学校高等学校×WWFジャパン)
・「身の回りのものができるまで」 ~何からできている?どんなふうにできている?~(株式会社NHKエンタープライズ)
コンテンツ作成で工夫したポイントは?
(田中)コンテンツを作成する上で意識したポイントはなんですか?
(木川)大きく分けて、以下の二つがあります。
1. 生徒の興味を引き出しつつ、授業に方向性を作れる
2. 新任教師でも実践できる
生徒の興味を引き出しつつ、授業に方向性を作る工夫
生徒から自発的な問いを引き出しつつも、拡散しすぎず、授業に方向性を作っていくために、問いの言葉選びは、何度も議論を重ねて作りました。
例えば、食の安定的な生産について授業を進めるとき「食料問題に対してあなただったらどうしますか?」とオープンクエスチョンで訊くといろんな答えが出てきます。
「食品ロスを減らす」「ご飯を残さない」などさまざまな答えが予測されます。これらの意見も大事なものであり、否定はできませんが、全ての話題を拾ってしまうと授業の本題からずれてしまうことに。
なので「食料を安定的に作るためにはどうしたらいいでしょう」とクローズドクエスチョンにすることで方向性を定めつつ、答えが発散できるよう言葉を調整しました。
新任教師でも実践できるための工夫
(木川)また、新任の先生でも使える教材にするために、台本と評価基準を用意し、誰でも再現できるように工夫しました。
3コマ目「品種改良、どこまでOK?」指導ガイドより
パワーポイントの発表者ノートに台本を用意しているので、新人の先生でも安心して使っていただけます。生徒からの反応の予測も書いてあるので、授業の進行の仕方のイメージを掴みやすいかと思います。子供たちに伝わりやすいよう硬い言葉は避けているので、台本をそのまま読み上げていただけます。
3コマ目「品種改良、どこまでOK?」指導ガイドより
また探究学習では答えのない問いを扱うため、評価が難しいと思います。そこでルーブリック表を作り、評価基準をあらかじめ設けています。
このコンテンツは、実際に学校で木川さんが子供たちと向き合い、先生たちと試行錯誤しながら作られました。台本や質問は、その中で練り上げられたもの。台本にはセリフだけでなく、
・机間指導をしつつ、進捗を見ながら「へぇ、◯◯を調べているんだぁ〜」と大きめの声でつぶやくと、場が活性化する
・グループが間違っていそうでも特に指摘しなくてもよく、色んなアイデアがあることを皆で確認することを優先する。
など、進行上のポイントが書かれており、現場の知恵がちりばめられています。新任の先生や探究に慣れていない先生もぜひ挑戦して欲しいと思います。
総合的な学習の時間だけでなく、各教科でも取り入れることができる
(田中)総合的な学習の時間は、探究的な学びであると同時に、教科との関連も重要だと思います。農業は他の教科とも関係が深そうですが、各科目の中で使われることも想定されていますか?
(木川)理科と社会で関連する内容を習ったタイミングで、「ちょっと脱線するけど」という感じで参照していただきたいですね。
例えば、小学校5年生で光合成を習うので、「光合成を人工的にコントロールしていったのが植物工場なんだよ」と紹介するのも面白いと思います。さらにエネルギーの問題や、実は福祉にも使えるんだよね、など、どんどん話題を広げていけると思います。
木川さんが探究されているテーマとは
(田中)子供だけじゃなくて大人も探究が大事ですよね、ということで皆さんにお聞きしているんですが、木川さんが個人として今、探究されているテーマはなんですか。
(木川)「一人一人が自分自身の価値と可能性を信じることができて、それが他者からも尊重される世界」を作ることが僕にとっての探究テーマですね。
自分の価値と可能性を信じるには、自分自身が輝ける場所を見つけることが重要だと思います。このコンテンツもそのお手伝いができると思ってます。
人によって興味関心は異なるので、「食の探究」という一つの軸を通しつつさまざまなテーマを取り扱っています。自分が興味を持てる分野に出会えると、自分の価値や可能性を信じることができると思います。
このプログラムを通じて「植物工場で植物を育てるのって、面白そうだな」と気づける子がいたら、将来そこがその子にとっての輝ける場所になる可能性もあるし、「品種改良って実はすごく高度なことやっているけど、もっと何かいいことできないかな」と考える子もいるかもしれません。
もちろん選択肢を少しでも多く用意してあげることも大事ですが、一方で学校の教科教育は、興味の選択肢を増やしていくための土台として必要不可欠だと思います。土台でつまづいてしまわないようにQubena(キュビナ)というAI教材も作っています。
教科教育で土台を作る部分と、探究学習で興味の選択肢を無数に用意してあげることが、私が実現したい「一人一人が自分自身の価値と可能性を信じることができて、それが他者からも尊重される世界」に向かう手段だと思います。
編集部まとめ
LINK ALLさんのコンテンツのテーマである「農業」は、地域を問わず扱いやすく、誰にとっても身近なテーマです。気候変動や生物多様性など他分野と関連づけもしやすく、探究学習をする上で必要な観点を学べるため、当コンテンツでの学びを土台にさまざまな発展が期待できるでしょう。
また生徒目線でも先生目線でも工夫がされていることが特徴です。生徒から興味を引き出すための問いの工夫や、先生方が授業の準備や進行をしやすいよう台本を用意するなど、現場の知恵がちりばめられています。
興味のある方はこちらのリンクから詳細をご覧ください。
>サステイナブルな”農”の探究(STEAMライブラリー)
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【この記事の監修者】
田中 悠樹|株式会社Study Valley代表
東京大学大学院卒業後、ゴールドマンサックス証券→リクルートホールディングスに入社。同社にて様々な企業への投資を経験する中で、日本の未来を変えるためには子どもたちへの教育の拡充が重要であると考え、2020年に株式会社Study Valleyを創業。
2020年、経済産業省主催の教育プラットフォームSTEAM ライブラリーの技術開発を担当。
2024年、経済産業省が主催する「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」に委員として参加している。