探究学習

探究学習と大学入試の関係。学力への影響や課題について

探究学習をがんばっても、結局、大学入試には関係ないんじゃないか?むしろ探究に時間を取られて悪い影響が出てしまうのでは?

そう思われている先生方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そんな先生のために、この記事では探究学習と大学入試の関係、学力への影響や課題についてまとめました。


など探究学習に取り組むことで学力や大学入試にも多くの良い影響があることがわかりました。

一方で、「教科との関連が不十分」「校内体制の整備に格差がある」など運用上の課題もあります。課題をいかに克服して、探究活動をより良いものにしていくかが、これからの探究学習への取り組みのポイントとなるでしょう。

それでは、探究学習と大学入試について、今後の課題について見ていきます。

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探究的な学習に取り組む生徒ほど教科の成績が良い

結論、探究的な学習に力を入れると、教科の正答率も上がるというデータが出ています。

これから探究学習に取り組もうとする学校、先生の悩みとして以下のようなことがあるのではないでしょうか。

・探究に時間を取られて進学実績に響いたらどうしよう?

・教科の学習進度が下がったらどうしよう?

大学受験のために必要な知識をしっかり教えなければならない、進学校ならなおさら、学校経営的にも大学進学実績を落とすわけにはいかない。

もちろん学校経営という側面だけではありません。教え子に希望の大学へ進学してほしい、ということは、先生として、なんとかして実現させてあげたいことのはずです。

探究に時間を割いた分、教科の授業時間が少なくなり、教科の成績も下がってしまうと考えるのは自然です。探究の意義は理解していたとしても、どこかこのような気持ちがある先生も多いのではないでしょうか。

文部科学省が平成27年度に行った、探究的な学び(総合的な学習の時間)と教科の学力との関係を調査したデータがあります。

「『総合的な学習の時間』では自分で課題を立てて情報を集め整理して、調べたことを発表するなどの学習活動に取り組んでいますか」という質問で、「当てはまる」と回答したところほど、教科の平均正答率が高くなっています(小・中学校)。

差が大きいところでは20%近く高い数値が出るという結果になっており、「総合的な学習の時間に積極的に取り組んでいる児童・生徒ほど教科の正答率が高い」と結論付けています。

総合的な学習や探究学習は、知識を関連づける「関連づけ学習」です。

例えば、数学で図形が出てきたら図画工作を思い出すなど、学んだことが既知の知識や他分野の情報、体験と結びつきが関連づけられると理解が強化され、記憶が定着しやすくなります。

教科の時間に知識を学び、探究の時間にそれらを総動員して関連付け、答えのない問いの答えを作っていくことが、結果的に教科の知識定着にもつながり、正答率向上につながっていくと考えられます。

>総合的な学習の時間の成果と課題について(文部科学省)

OECD教育局長も日本の総合学習を評価

OECD教育局長のアンドレアス・シュライヒャー氏は、読売新聞のインタビュー(2017年8月11日)に答え、

過去15年の日本の学力向上は総合学習の成果だと考えると説明がつく(シュライヒャー氏)

と分析しています。

より一層、期待がかかる「探究学習」

一方で、シュライヒャー氏によると、日本の探究学習はシンガポールなどと比べるとまだ道半ばであるといいます。

シンガポールや上海では、総合学習のような探究的学習を日本以上に優先してやっている。その結果、生徒が主体性や独創性を発揮し、失敗から学ぶ時間的な余裕もできた(シュライヒャー氏)

世界の教育先進国と比較すると「探究」では一歩、出遅れている日本。現場では先生の多忙さなど、探究に力を入れるためのハードルも確かに存在します。

しかし、これからの「探究学習」の充実が、大学進学という目の前の目標のみならず、社会に出てからさまざまな課題に出会う子供たちへ大きな成長につながることは間違いありません。

探究に力を入れて大学進学に成果を出している高校

「探究必修化」に先立って、探究学習に力を入れ、実際に大学入試でも成果を出している高校もあります。どのようなことを行い、具体的にどのような成果が出ているのか、ここでは東京都の海城中学高等学校を紹介します。

海城中学高等学校

海城中学高等学校は東京都新宿区の私立中高一貫校です。東京大学を始め、国内外の有名大学へ多数の生徒を送り出しています。2020年にはハーバード大学進学者も輩出したことで話題になりました。海城中学高等学校は、中学から探究学習を行っています。

中1~中3の3年間に亘り社会科で週に2時間、探究学習をやって、中学3年生では全員が自分でテーマ設定して卒業論文を書きます。大学生顔負けの論文を最低原稿用紙30枚、多い子で60枚書きます。

生徒には外に取材に行かせて必ず生の情報に触れさせますし、文献の調べ方や、引用注の付け方なども含めた論文の書き方など、基礎的なリテラシーを全員が一律に身に付けます。

これは文系だろうが理系だろうが使えますよね。この力があれば大学でも企業でもいろんなところで役立てることが出来ます。(海城中学高等学校 中村大成先生)

探究の成果を生かしてAO入試で東京大学、京都大学、北海道大学など上位校へ進学を決める生徒もいます。また、一般で受験する生徒に関しても、

研究が終わって高校三年からの伸びがすごいなって思ってまして。自分から課題を見つけたり、学会で専門家から意見をもらったりして自分の研究のどこが悪いのか振り返ってデータを集めたり考えていくっていう力が、全体の学力の底上げになっていると思います。

だから探究学習をすることによって、受験の結果が落ちるのではなく、両方が上がっていくんだと自分は思います。(海城中学高等学校 関口伸一先生)

と、探究学習が一般入試学力にも良い影響を与えていることが推測されます。

海城中学高等学校について、詳しくはこちらの記事もご覧ください▼
>避難所のリアルや農業から「新しい人間力」を学ぶ。ハーバード大進学者も育てたノウハウを教材に~海城中学高等学校~【前編】

>避難所のリアルや農業から「新しい人間力」を学ぶ。ハーバード大進学者も育てたノウハウを教材に~海城中学高等学校~【後編】

「探究学習」で入学できる選択肢が増える傾向に

探究学習の必修化に伴い、これから、探究学習の成果をもってAO入試や推薦入試で大学進学に挑戦する生徒がますます増えることが予想されます。それを示唆する、次のようなデータがあります。

「大学入学者選抜改革の動向(文部科学省)」からの引用です。2000年(平成12年)から2017年(平成29年)で、大学入学者のうち、推薦入試は31.7%から35.2%へ増加(+約2.9万人)、AO入試は1.4&から9.1%の増加(+約4.8万人)と大きく増え、全体に占める割合は、推薦とAO入試合わせて50%に迫る勢いです。

大学が多様な入学の選択肢を用意することにより、筆記試験では最大限の力を発揮できなかった生徒も、探究の成果をもって大学へ進学できる可能性が高くなりそうです。

>大学入学者選抜改革の動向(文部科学省)

探究学習を入試に取り入れている大学は?

前章で、AO、推薦入試が入試全体に占める割合が増加しているというデータを見ました。
ここ数年、「AO入試」「推薦入試」だけではなく、「探究」そのものを入試の選択肢に掲げる「探究型入試」の大学が出てきています。

ここでは高校での「探究学習」を入試の選択肢に用意している大学を2校紹介します。

*2021年8月時点の情報です。最新の情報は、必ず大学公式サイトをご確認ください。

1.奈良女子大学「探究力入試Q」

奈良県の国立大学法人・奈良女子大学は「探究力入試Q」を設けています。

単に答えを出すのではなく,自分で問いを立ててそれを解き明かしていく。
そういうことが好きなひとをこの入試は歓迎します。

なぜでしょうか。それは大学という場がそのような世界だからです。

大学にいるのは教師と生徒ではありません。教員も学生もともに探究をする者として同じ地平に立ち,互いの知的関心を尊重しながら進んでいく。それが大学です。

そこでは,試験問題等を解くべく身につけた勉強の能力だけではなく,日頃から瑞々しい問いを抱き,考え,答えをだし,さらにそれを疑う力が大切です。(奈良女子大学公式サイトより)

文学部、理学部、生活環境学部で、高校のときの探究の成果、および、小論文や作文、プレゼンテーションで選抜を行います。

詳細:奈良女子大学「探究力入試Q」

2.桜美林大学「探究入試Spiral」

東京の私立大学・桜美林大学は2021年度から「探究入試Spiral」を設けています。出願条件は「学内外のコンテストや発表会等」に出場したこと、となっていますが、学内の発表会でもよく、受賞歴も必須ではありません。応募しやすい条件といえるでしょう。

探究という新しい学び方は、社会に出たあともずっと必要です。そして未来のあたりまえになります。探究的な経験を重ねてきた受験生を評価するために、この入試方式を新設しました。(桜美林大学公式サイトより)

選考は高校の探究の成果、面接などです。リベラルアーツ学郡で20人程度、ビジネスマネジメント学群で15人程度、健康福祉学群で若干名の募集となっています。

詳細:桜美林大学「探究入試Spiral」

こちらの記事で、さらに多くの「探究型入試」を紹介してます。合わせてご覧ください。
>探究学習の成果で受験できる「探究型入試」の大学8選

探究で成果を出すには課題も

探究学習の良い影響を紹介してきましたが、課題もあります。

先ほど紹介した文部科学省の探究的な学び(総合的な学習の時間)と教科の学力との関係の調査データには、「総合的な学習の時間の成果と課題」として、以下のように述べられています(一部抜粋)。

・総合的な学習の時間と各教科等との関連が不十分な学校がある
総合的な学習の時間における取組と各教科等とどのように関連しているかを意識せずに取り組んでいるため、十分な効果が得られていない

・学校により指導方法の工夫や校内体制の整備等に格差がある
総合的な学習の時間の指導方法が個々の教師任せになったり、学校全体で取り組む体制が整っていないなど、学校によって差がある

・探究のプロセスの中で「整理・分析」、「まとめ・表現」に対する取組が不十分である
児童生徒が自分の考えを整理して、それをもとに分析し、分かりやすくまとめ、発表したり発信したりする取組が十分でない

・社会に開かれた教育課程の実現に向け、実社会・実生活にかかる課題をより積極的に取り扱うことが必要

これらの課題を今後どう解決していくかが、探究学習成功のカギといえそうです。

まとめ

探究学習と大学入試の関係について見てきました。

関連づけ学習である探究学習に取り組むことで、教科の正答率があがることが分かっており、OECDでもその効果は評価されています。

一般入試だけでなく、推薦やAO入試、さらには「探究型入試」が登場し、探究学習の成果をもって大学の選考を受けられる選択肢が増えています。

一方、課題として、教科等との関連、校内体制の整備、「整理・分析」「まとめ・表現」に対する取組、実社会・実生活にかかる課題を積極的に取り扱うことなどが挙げられており、これらへの対応が探究学習成功のポイントとなりそうです。

ABOUT ME
この記事を書いた人:Study Valley 編集部
探究No.1メディア”Far East Tokyo”編集部です!執筆陣は、教育コンサルタント、元教員、教育学部大学院生など、先生方と同じく、教育に熱い思いを持つStudy Valleyのスタッフ陣です。子どもたちがわくわく探究する姿を思い浮かべながら制作しています!先生方のお役に立ちますように。Twitterフォローで記事更新情報が届きます。
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【この記事の監修者】

田中 悠樹|株式会社Study Valley代表

田中 悠樹|株式会社Study Valley代表

東京大学大学院卒業後、ゴールドマンサックス証券→リクルートホールディングスに入社。同社にて様々な企業への投資を経験する中で、日本の未来を変えるためには子どもたちへの教育の拡充が重要であると考え、2020年に株式会社Study Valleyを創業。
2020年、経済産業省主催の教育プラットフォームSTEAM ライブラリーの技術開発を担当。
2024年、経済産業省が主催する「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」に委員として参加している。