STEAMライブラリー

シミュレーションゲームを通じて森林について学ぶ|株式会社サイエンスグルーヴ

*この記事は経済産業省「STEAMライブラリー未来の教室」のコンテンツ事業者様に、教材の詳しい内容や使い方のアドバイス、STEAM教育に対する思いなどを取材する連載企画です。

株式会社サイエンスグルーヴは教育用のシミュレーションゲームを制作している会社です。今回はこの技術を生かし、シミュレーションゲームをきっかけにして生物基礎も地球温暖化も学ぶことのできるコンテンツを提供してくださっています。

このコンテンツの魅力や制作の背景について、宮崎様と立木様に、弊社代表の田中悠樹がお話を伺いました。

宮崎悠矢様 プロフィール

代表取締役CEO
2012年、九州大学法学部在学中にソフトウェア開発会社株式会社クラスティウム共同設立(取締役)。2014年より同代表取締役。中学生時代からゲームやウェブサービスを開発し、ウェブのフロントエンド開発や Unity によるゲーム開発等を専門とする。

立木佑弥様 プロフィール

取締役COO 東京都立大学理学研究科助教
2013年、九州大学大学院システム生命科学府一貫制博士課程修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員、京都大学ウイルス・再生医科学研究所の博士研究員を経て、2018年4月より東京都立大学理学研究科助教。現在、日本学術振興会海外特別研究員としてDepartment of Animal and Plant Sciences, University of Sheffield に滞在。生命の起源とそのロジックを探る進化生態学を専門とする。植物や動物、菌類の生活史戦略や種間相互作用に関して最適化や進化ゲーム理論を用いた研究を展開している。

株式会社サイエンスグルーヴ

株式会社サイエンスグルーヴは教育用のシミュレーションゲームを開発している九州大学&首都大学東京発の EdTech会社です。数理科学・数理生物学分野の第一線で活躍する研究者とウェブ分野におけるフロントエンド開発に専門性を持つソフトウェアエンジニアのチームにより2020年から本格的なビジネス展開を目指すため、10月1日に株式会社として登記しました。

コンテンツについて

タイトルシミュレーションと動画で学ぶ体験型科学教材【森と炭素固定編】
学年中学、高校
キーワード生物、シミュレーション、地球温暖化、多様性、二酸化炭素、CO2、生態系
URLhttps://www.steam-library.go.jp/content/169

このコンテンツの目的

このコンテンツでは、手元のPCやスマートフォンで使用できる植生遷移シミュレーションゲームを使いながら、生態系の多様性について学びます。ランク表示などがあり、やりがいのあるゲームで、簡単に森林と生物多様性について理解できます。

このコンテンツでは特に以下のふたつのことに関する理解を目的にしています。
①シミュレーションツールで森林の成り立ちを理解する
②人の排出する二酸化炭素と森の炭素固定について理解する

森の炭素固定とは?
光合成の働きと同義です。人類が排出する二酸化炭素が森林が光合成により固定化されることで、植物や微生物が、光のエネルギーを利用して水を分解し、酸素を作り、CO2を有機物にします。

このテーマを選んだ背景


(2コマ目動画より引用:https://www.steam-library.go.jp/lectures/1092

(田中)はじめに、このテーマを選ばれた理由についてお聞かせください。

(立木)森林をテーマに選んだのは、学校で学習する内容とマッチするからです。特に生物基礎で文系理系関係なく全員学習する内容なので、多くの生徒さんに届きやすいと思い、このテーマにしました。

また、「炭素って何?」「どこから来てどう流れているの?」ということについて、一本の植物から考えられたら面白いと思ったのもきっかけです。カーボンニュートラルについてよく言われる中で、そもそも炭素とは何かを全く考えずにいて良いのかという問題意識が強くありました。だからその根本について、木の一生を通して考えてほしいと思っています。

制作で意識したポイント

(田中)今回制作にあたってはどのようなところを意識して制作しましたか?

(立木)小さいところで言うと、動画の音声を人工音声にしたところです。シミュレーターを使いながら遊ぶコンテンツになっているので、ボーカロイドのような人工音声を使うことは、雰囲気づくりには重要だったと思います。

ゲームの構成


シミュレーションゲームより引用)

(田中)森林のシミュレーションゲームを作るに当たり、こだわったところを教えてください。

(宮崎)リアルな森に近い動きをするようにこだわって設計しています。例えば、木と木の相互作用や、木が密集すると太陽光が地表に届かないという設定があります。生徒さんに試行錯誤していただき、その過程で森林が育つ法則性を発見できるように工夫しました。

(立木)また、「ゴールド」というルールがあることで、経済活動と両立について考えられるようにしました。ゲームでは、木を伐採するとゴールドが貯まります。木を切ってそれを利活用することで、お金を手に入れるイメージです。持続可能な社会づくりでは経済との両立も必要です。短絡的な「森林伐採は良くない」という考えを見直すきっかけになれば嬉しいです。

問いよりも体験で導入を

(田中)次に使い方について質問です。授業でコンテンツを活用する際に、生徒の興味を引けるような導入の問いの例があれば教えてください。

(立木)問いで惹き付けるよりは、とりあえずゲームをやってもらうのが良いと思います。いくつかの学校で実際に授業を行ったことがあるのですが、一番導入で食いつくのは何も説明しないことでした。まずはゲームで興味を引いて、後から説明する方が効果的に進められました。

(宮崎)森を入り口にしているというよりは、とりあえずゲームをさせてその過程で勉強するというコンテンツ設計になっていますね。

(立木)「勉強するよ」ではなく「遊ぶよ」と始めていただく方が良いですね。導入で面白い問いを提示して興味を引くというよりは、一見堅いタイトルなのにやってみたら面白くて深いというタイプのコンテンツだと思います。

使う時期はいつがいい?

▲里山は人間が強い影響を与えている生態系「どのような工夫をすれば多様性をつくりだすことができるだろうか?」(3コマ目:多様性・撹乱より)

(田中)それでは、コンテンツを使う時期はいつ頃が良いでしょうか?

(立木)ゲームから始まり、特別な知識は必要ないコンテンツなのでいつでも良いです。むしろ早い方が、生物に興味を持つきっかけや、ICTを使った学び方を知るきっかけになると思います。

(宮崎)授業との連携で言うと、高校1年生の生物基礎で「植生と遷移」の単元があるので、そのタイミングで使っていただくと、より理解が深まると思います。単元の前後でやれば予復習に繋がるので、相乗効果があって良いのではないでしょうか。

(田中)早い時期でも授業に合わせても良いということですね。

コマの使い方について

▲美しい映像とともに、森林に関する用語を解説。ゲームの内容ともリンクしている(3コマ目:森林の世代交代・遷移より)

(田中)コマの使い方についてはどうですか?一部だけ活用しても大丈夫でしょうか。

(宮崎)一部だけ使うのはあまり想定していないです。一コマあたり4分程度の動画になっているので、できれば全部見ていただきたいです。時間が足りない場合は、ゲームだけでもやってみてください。シミュレーターで遊ぶことが前提にあるので、動画だけというよりもまずはシミュレーターから入っていただく方が良いと思います。どちらかというと動画は副教材です。

お二人の探究されていることについて

(田中)最後に、お二人が個人的に探究されていることについて教えてください。

(立木)大学教員として、植物の性質について探究しています。実は、植物が血縁関係にある個体を見分けられることがわかってきています。そのメカニズムや、それが個体群に及ぼす影響を研究しています。

(宮崎)僕はウールの衣類について探究しています。ウールの生地は吸水性や通気性がとても優れていて、衛生的なんです。今はその特性を生かしたシャツや夏服作りをしようとして、テーラーに依頼してスーツ記事でシャツを作ったりしています。

まとめ

宮崎様、立木様、本日はありがとうございました。

ゲームからテーマにアプローチすることで生徒の興味を引けるのが特徴のコンテンツでした。生物多様性や植生遷移から生物基礎と関連付けさせることもできますし、炭素固定は地球温暖化にも関連づけることができるテーマになっていますので、ぜひご活用ください。

>今回紹介したコンテンツ:シミュレーションと動画で学ぶ体験型科学教材【森と炭素固定編】