経済産業省「未来の教室」が2021年2月末より公開を開始した「STEAMライブラリー」のコンテンツ事業者「株式会社 和える」に、STEAM教育について取材させていただきました。
インタビュイー
矢島里佳 様
株式会社 和える 代表取締役
職人の技術と地方の魅力に惹かれ、19歳の頃から日本の伝統文化・産業の情報発信の仕事を始める。「日本の伝統をつなげたい」という想いから、2011年、慶應義塾大学法学部政治学科在学中に株式会社和えるを設立。
髙橋すみれ 様
株式会社 和える マーケティング統括部長
2018年に和えるへ入社。“0歳からの伝統ブランドaeru”を始めとする各事業の戦略立案・実行、企業や行政とのaeru school共同開発、ビジネスパーソン向けのaeru school講師や、新規事業開発に携わる。
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STEAMライブラリーに似たワークショップはこれまでもやってきた
生まれてすぐ日本の伝統を知ってもらうことで日本の伝統を五感で感じられますし、その子達が大人なった時に自然と日本の伝統の良さが分かるような育み方をしたいのです。そういった目的で代表の矢島が立ち上げたのが「和える」です。 2011年に創業し、今年で10周年です。“aeru room”という事業も展開しています。全国のホテル・旅館のお部屋を1部屋からプロデュースをして「空間を通じて日本の伝統を伝える」事業で、長崎、姫路、京都、奈良の合計7部屋をプロデュースしています。
あと、実は教育事業として学びを通じて日本の伝統を伝える“aeru school”という事業も展開しています。これは各自治体さんと一緒に地域の産業をテーマにしたコンテンツを開発して、地域の子ども達と大人たちに伝えるという取り組みです。また、日本郵政様・パナソニック様などの企業様からご依頼をいただいてワークショップ形式のイベントを開催したり、企業の人材研修で日本の伝統を用いたワークショップでチームビルディングをしたりしています。今回STEAMライブラリーの開発はそれの延長線上にある取り組みと私達は考えております。
オンラインのワークショップで新鮮な体験を
でもみなさんに実物を感じてもらいたいということで、小さな伊勢型紙を職人さんに彫っていただき、あらかじめワークショップの参加者にキットをお送りしました。型紙を触っていただけると分かるのですが柿渋でいぶして和紙の強度を上げているので、裏と表で手触りが違ったり、香りをかいでみると少し香ばしい匂いがしたりするんです。
画面越しでもこういった香りや感触を同じように感じていると、オンラインでも一体感があります。みなさん「離れているけれど、感覚を共有できるのは新鮮」とおっしゃってくださっています。
伝統工芸を通じて自分なりの判断軸を持てるようになる
STEAM教育で重要なのは、先生方は何かを教える役割というよりも、ファシリテーターという立ち位置で、授業に望んでいただくことだと考えています。生徒さんに対して「あなたは、漆器はなぜこの価格だと思う?」「なぜ、そう感じたのかな?」などと、思考や対話のきっかけを引き出していただくことが大事だと思います。
「感じる」「観察する」「言語化する」のサイクル
自分が何を感じて、考え、どうしたいのかを言語化することで、自身の思考の過程を再確認できると思うんです。そうすることで、不確定要素の多い社会の中で、自分なりの判断軸を持って生きていく練習になると私たちは考えています。子どもたちが感じたことをしっかりと受け止めて、もう一歩深い思考にたどり着けるようにな質問を投げかけ、言語化のお手伝いをしてあげることを意識しています。
そのベースとして、褒めることを大切にしています。「すごいね」「よくできたね」ではなく、例えば「今この丸を使って、もっと大きな丸を作ろうとしたんだね」など、その子がやろうとしたことをしっかり認知して、言語化し、承認することが大事だと思っています。
先生=何でも知っている人ではなく、先生=“先”に“生”きている人。常に教える側に立たなければならないと思うのではなく、知らないことを一緒に学ぶときに、学びの深め方の先人、名ファシリテーターとして子どもたちの思考を引き出すプロフェッショナルであること、これこそが新たな教育指導要領で求められる、これからの先生の役割ではないでしょうか。
目紛しく変化する時代ですので、大人も知らないことがたくさんあります。知らないことを共に学ぶ中で、学び方の先人であるのが先生であり、知識の先人である必要はない時代です。知識の先人であり続けようとされると先生という職自体が、しんどくなってしまうのではないでしょうか。STEAM教育への取り組みを通して、令和の時代の最先端の先生のあり方も新たに確立されてくると感じます。
「でも先生、伝統って大事だと思うんだよね。みんなはどう思う?一緒に学んで考えてみようか。」
と話し始めていただけると嬉しいです。
織機の紋紙(パンチカード)はコンピューターの基盤にもなった
こういう効果があるんだと分かれば、当然やりたくなると思うんです。STEAM教育はいわゆる受験科目ではないですが、学校の学習に繋がる部分があれば教えてください。
例えば染織、私たちが着ている洋服と関連します。生地を織る織機は元々は手動で、経糸と緯糸を織るという作業をしていました。それを機械化し、模様を織り込むために生み出されたのが紋紙(パンチカード)を活用して、ゼロとイチで織機を制御する方法です。その考え方は、パソコンなどのコンピュータの基盤になっています。
一見、関係なさそうなことが、実はつながっている。立体的な学びを得やすいのが、伝統工芸のSTEAM教育だと思います。
私自身が伝統工芸を探究する中で、自分たちが今生きている世界の判断軸がもっと他にもあるんだと視野が広がる感覚を感じています。私は、大学時代にイギリスに1年間留学したのですが、自国のことを知らないことに気がつきました。ヨーロッパは大陸なので他の文化との交流は当たり前です。
日本は島国なので、自分の国がどういう国か話す機会がほとんどありません。自国のことをしっかり語れるようになると、アイデンティティーが確立される。グローバルで活躍するためには必要なことだと思います。
伝統工芸を通じて起業家精神を養うこともできる
私は中高一貫校でしたので、姉妹校提携しているアメリカの学校に10日間程、修学旅行で行きました。ですから、中学校一年生の時から、海外の人と交流するという機会があることを念頭に学ぶので、外国の人とコミュニケーションを取るために英語を勉強するんだという実感を、得やすい状況下での学習環境でした。
STEAMライブラリーの本質的な考え方の、最初の世代だったのかなと思います。先生というのは何か教えてくれる人という感じもありつつ、人間味あふれる先生たちが多くて、まさに先ほどお話ししたような、名ファシリテーターの先生方がいらっしゃいました。
先生方から「本当にやる意味があるのか?」とか「ここの予算設定は甘いのでは?」など指摘を受けながら、改善し、自分たちでよく考えて実際に校内での研修イベントを実行していました。
それが適切で必要なら予算を出してくれますし。今思えば、起業に必要なことのベースを、高校で自然と学んでいた気がします。面白い学校だったと思います。
伝統なんて無くなっちゃえばいい」という意見も大切
この10年、ベンチャーを経営してきて大切だと感じた、思考のあり方が、起業家精神がさりげなく開発されていくようなイメージで作っております。生徒さんから「伝統なんて無くなっちゃえばいいのに」という意見が出てきても良いと思っています。色々な意見が出てくるからこそ「本当に必要なのか?」ということが深まってきます。
伝統を守るということを前提にしてこの授業を行わないでほしいなと思います。そこの答え自体、これからの日本を担っていく子どもたちが最後に出してくれれば良いと思います。
田中悠樹 (インタビュワー)
STEAMライブラリーのシステム構築事業者である株式会社 StudyValley代表取締役
2011年にゴールドマンサックス証券テクノロジー部に新卒入社。株式会社リクルートホールディングスでは海外のVCを担当。2020年に株式会社StudyValleyを設立。オンライン学習サービス「アンカー」や業務・学習支援ソフト「TimeTact」の開発や運営を行う。創業1年目でSTEAMライブラリーのシステム構築事業を受託。
STEAMライブラリーとは
経済産業省「未来の教室」が運営する、STEAM教育を通じてSDGsに掲げられる社会課題の解決手法を学べるオンライン図書館
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【高校の探究担当の先生へ】
当メディアを運営する私たちStudy Valleyは「社会とつながる探究学習」を合言葉に、全国の高等学校様へ、探究スペシャリストによる探究支援と、社会とつながるICTツール「高校向け探究学習サービス『TimeTact』」を提供しています。
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【この記事の監修者】
田中 悠樹|株式会社Study Valley代表
東京大学大学院卒業後、ゴールドマンサックス証券→リクルートホールディングスに入社。同社にて様々な企業への投資を経験する中で、日本の未来を変えるためには子どもたちへの教育の拡充が重要であると考え、2020年に株式会社Study Valleyを創業。
2020年、経済産業省主催の教育プラットフォームSTEAM ライブラリーの技術開発を担当。
2024年、経済産業省が主催する「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」に委員として参加している。