探究学習

マインクラフトを活用したSDGsでの探究型プログラミング学習事例~大森学園高等学校~

2022年、全国の高等学校で「総合的な探究の時間」が始まりました。対応に追われる学校も多い中、全国に先駆けて「探究」に、それも「情報」の時間に取り組み、成果を上げられている学校があります。

それは、東京都の私立高校「大森学園高等学校(以下、大森学園)」。授業を企画・実施されたのは情報科の杉村譲二先生です。

授業は、マインクラフトを使い、地元・大田区の都市計画マスタープランを参考に、地域の課題を解決する建築物を提案するというもの。SDGs11番目の目標「住み続けられるまちづくりを」にも関連させた、プロジェクト型の探究です。

マインクラフト(Minecraft)とは・・・サイコロ型のブロックを積み上げて建設したり、冒険したり、自動的な装置を作ったりするゲーム。デジタルな「積み木」に例えられることもある。創造性やプログラミング的思考を養うのに効果的だと言われている。

この記事では、この探究の概要やポイント、さらに授業計画の背景やプロセス、今後の課題まで、杉村先生への取材をもとにご紹介します。

この記事の内容
「マインクラフトを活用した SDGsでのプログラミング学習」について
・概要
・ポイント
・学習のねらい
・課題・実施の流れなど
・編集部が考える、この授業のポイント
杉村先生に聞く!
・企画の背景「旧態依然の授業から脱却」
・授業の進行で気を付けたことは?
・今後の課題

杉村譲二先生 プロフィール

「マイクロソフト認定教育イノベーター」「Apple Teacher」「Apple Teacher Swift Playgrounds」「ロイロ認定ティーチャー」「MetaMoJi ClassRoom認定先生」等。大学卒業後、各私立学校で情報科教員として従事。趣味・特技はバスケットボール。大学時代はインカレでベスト4に入賞。

大森学園高等学校

東京都大田区にある男女共学の私立高校。1939年創立、2005年に普通科を設置し、2007年男女共学化。さらに2019年には学校創立80周年を迎えた。建学の精神は「社会に貢献できる有為なる人材を育成する」。

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マインクラフトを活用した SDGsでのプログラミング学習

生徒の作品の一例
テーママインクラフトを使い、地元・大田区の課題を解決する提案を
学習期間20時間
実施校大森学園高等学校
対象学年3年生「PC活用講座」選択者73名
キーワード地域探究、SDGs(目標11:住み続けられるまちづくり)、プログラミング、マインクラフト、まちづくり、建築

学習のねらい

マインクラフトを用いた日本語による「ビジュアル型」学習を行うことで、初心者でも取り組みやすく、今後、大学等でプログラミングに触れる際の素地を養う。

SDGs11番目の目標にある「住み続けられるまちづくりを」に対して、自分たちが考える「こんな施設が大田区にあれば住みやすい」という問題解決を考えさせて学習していく。

情報科×プログラミング×アクティブラーニングを用いることによって現実社会に存在する問題(地元・大田区の課題)にアプローチする。

教科の知識とICTの力を使って自分なりの結論を探究することで、教科の知識を学ぶだけではない、より高次の学びにつなげる。

ものづくりをベースとした発想で授業を展開していくことで、工業高校がバックボーンである大森学園の建学の精神、「社会に貢献できる有為なる人材を育成する」を受け継ぐ教育を実現する。

課題・実施の流れなど

授業の様子

課題を設定する

生徒73名から19のグループをつくり、各グループが配布された「問題解決シート」から自分たちで解決する課題を見つけて、どうすれば問題を解決できるのかを検討。「問題」は、大田区の都市開発課が作成した、「都市計画マスタープラン」を元にしている。

▲課題解決シート(引用:マインクラフトを活用した(SDGsに関連した)PBL学習(2021年神奈川県情報部会)

プログラミング学習を行う

並行して、マインクラフトのビジュアルプログラミング環境である「Make Code for Minecraft」を使ったプログラミングの授業も行った。

マインクラフトで建築物を制作していく

課題を解決する建築物を考え、マインクラフトで形にしていく。各グループごとに以下のような、問題解決を目指した建築物を制作した。

・教育格差を解消するための図書館
・緑を増やし子どもたちの憩いの場となる公園
・少子高齢化の問題を解決する家族が過ごせるショッピング施設
・大森海岸にゴミ処理場と水族館を併設した施設
・防災と再生可能エネルギーと導入した施設

全体発表

全体発表には大田区役所の方にも参加、「斬新なアイデアをいただいた。」「今後も、良いものがあれば、ぜひ採用したいと思います」等のコメントを得た。

生徒からは、「将来、区役所の職員になりたいと思っていたので、とても良い経験になった」「情報は得意ではなかったけど、チームで協力し合うことで最後まで取り組めた」などの感想があった。

フィードバック

最後の授業では、今回の取り組みを振り返る時間を設けるために「Ai GROW」という評価ツールを使ってフィードバックを実施。ただ紙などに今回の感想を書いても、自身のフィードバックにおいては有効ではないため、自身だけでなく他者も含めコンピテンシーを計ることを目指して導入した。

編集部が考える、この授業のポイント

「SDGs」「地域探究」といった、近年、教育の現場で重要とされる大枠のキーワードを押さえつつ、それが形式だけにならず、実社会に開かれている点がポイントではないでしょうか。

特に、「地元・大田区の課題」という生徒にとって「自分事」と捉えやすいテーマが選ばれている点や、「マインクラフト」を扱う一方で、過度にゲーム的にならず、「プログラミングを学ぶ」という軸を決してぶらすことなく授業が設計されている点などが、同様のテーマやツールを扱いたいと考えている先生方の参考になると思います。

「主体的・対話的で深い学び」と言いますが、まさに、地元の問題に取り組む点で、「主体的」、グループ学習を行ったこと、大田区の職員の方からフィードバックを得られたことで「対話的」、実際に大田区を良くする提案を行ったことで、今後生徒たちが都市や建築を見る見方が変化したと考えられ、その意味で「深い学び}にもつながったのではないかと思います。

杉村譲二先生に聞く!

「マインクラフトを活用した SDGsでのプログラミング学習」について、概要を知っていただけたと思います。

ここからは授業計画の背景やプロセス、今後の課題までを、杉村先生への取材をもとにご紹介します。

企画の背景「旧態依然とした授業からの脱却」

この「マインクラフトを活用した SDGsでのプログラミング学習」は教育系メディア「ICT教育ニュース」や「impressこどもとIT」でも取り上げられるなど、評価も高い。では、そもそもこの授業をどのように思いつかれたのでしょうか?

杉村先生
杉村先生
プログラミングの授業をする上で色々と模索していました。私は通勤で大田区役所の前を通るのですが、そこでふと区役所の前を通った時に閃きました。

以前より、旧態依然とした情報科の授業を変えたいと考えていた杉村先生。その中で新学習指導要領の先取りとしてプログラミングの授業を検討していました。そこで授業にマインクラフトが使えないか、SDGsと関連させられないか、工業高校を前身とする大森学園の建学の精神を授業に活かせないか、などの断片的な思索が、「大田区の町の課題を解決する探究学習」という軸を中心に、つながった瞬間でした。

杉村先生
杉村先生
すぐに大田区役所へ訪問し、『このような授業がしたいので、資料をいただけませんか?』と聞いて、マスタープランをご紹介いただきました。

区役所に飛び込み訪問し、紹介された都市開発課から大田区の「都市計画マスタープラン」を入手。これが授業で生徒たちが取り組む課題の元になりました。

杉村先生
杉村先生
誤解のないように申し上げると、決してこれまでの情報科の授業で行われてきたことが全て悪とは思っていません。これまでの内容は今でも大切だと考えていますが、それにプラスアルファで新しく進化させなければならないという考えがありました。

授業の進行で気を付けたことは?

馴染みやすいマインクラフトを使うとはいえ、プログラミングを学ぶことや建築を一から考えることなどは、決して簡単なことではありません。授業の進行では、生徒と一緒に学ぶことや、丁寧に問いかけることを大切にされたそうです。

杉村先生
杉村先生

私もマインクラフトを熟知しているわけではありません。もちろん基本操作は準備していましたが、生徒と一緒に練習する、という姿勢で臨みました。

またマインクラフトのための授業にならないように、あくまで学習の趣旨はプログラミング学習することと問題発見・解決学習をすることを大切にしました。

制作物に関しては、生徒がどんなものを作ってきても、基本は否定せず、ただ、『この構築物は、課題に対しての解決になっていますか?』『何の問題・課題を解決するためにそれ(建築物)を建てるのですか?』という問いかけをしっかりと行うようにしていました。

探究の授業においては、先生から生徒へ教える「ティーチング」ではなく、ファシリテーションや、ともに探究する姿勢が重要と言われています。「プログラミングを一緒に練習する」「問いかけながら共に考える」姿勢は、生徒の主体性を引き出すアプローチと言え、今回の授業の成功要因の一つとなったのではないでしょうか。

今後の課題

最後に今後の課題について伺いました。

杉村先生
杉村先生

今回、プログラミングは一斉授業で教えたのですが、それに加えて自習できる資料や環境などもあれば、より効率的に深く学べたのではないかと思います。今後はそういったことにも着手したいです。

また他教科との連携や教科横断型の授業、大学などの専門機関を招き、やり取りをしていきたいと思います。その中で、自分たちが立てた問いや答えが適切かどうか、他者からの評価はどうなのか、というところまで突き詰めることができればより深い学びへとつなげることができると思います。

本授業は神奈川県情報部会Microsoft Education Day 2022でも報告が行われています。探究学習やプロジェクト型学習は、まだまだ日本では発展途上の学習形態です。大森学園、杉村先生の事例を元に、今後も全国で有効事例が増えていくことが期待されます。

ABOUT ME
この記事を書いた人:Study Valley 編集部
探究No.1メディア”Far East Tokyo”編集部です!執筆陣は、教育コンサルタント、元教員、教育学部大学院生など、先生方と同じく、教育に熱い思いを持つStudy Valleyのスタッフ陣です。子どもたちがわくわく探究する姿を思い浮かべながら制作しています!先生方のお役に立ちますように。Twitterフォローで記事更新情報が届きます。
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【この記事の監修者】

田中 悠樹|株式会社Study Valley代表

田中 悠樹|株式会社Study Valley代表

東京大学大学院卒業後、ゴールドマンサックス証券→リクルートホールディングスに入社。同社にて様々な企業への投資を経験する中で、日本の未来を変えるためには子どもたちへの教育の拡充が重要であると考え、2020年に株式会社Study Valleyを創業。
2020年、経済産業省主催の教育プラットフォームSTEAM ライブラリーの技術開発を担当。
2024年、経済産業省が主催する「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」に委員として参加している。