*この記事は経済産業省「STEAMライブラリー未来の教室」のコンテンツ事業者様に、教材の詳しい内容や使い方のアドバイス、STEAM教育に対する思いなどを取材する連載企画です。
セイコーホールディングスグループは、ウオッチをはじめ、電子デバイス、システムソリューションなど4つの事業フィールドにおいてグローバルに事業を展開しているグループです。140年以上「時」と関わり、様々な製品やサービスを通してソリューションを提供しています。今回は、時計の技術から、豊かな時についてまで、幅広く探究できるコンテンツを提供してくださっています。
今回のコンテンツの魅力や制作の背景について、セイコーの明石様と内田様、安井様に、弊社代表の田中悠樹がお話を伺いました。
内田祐司様 プロフィール
コーポレートブランディング部 マネージャー。官公庁向けの設備時計販売や、スポーツ計時機器の販促、音響機器の販促などを担当後、セイコーホールディングスのスポーツと音楽を通したブランディング活動に携わる。
明石晴光様 プロフィール
コーポレートブランディング部 主幹(広報担当)。ウオッチ事業の海外マーケティングを担当後、タイ現地法人の所長に就任。帰国後セイコーホールディングスのスポーツと音楽を通したブランディング活動に携わる。
安井稚葉様 プロフィール
コーポレートブランディング部。入社後、取材・メディア対応などの広報業務に4年携わり、現在は音楽を中心とした芸術文化活動領域でのブランディングを担当。
※肩書等は取材時の情報です。
セイコーホールディングス株式会社
セイコーホールディングスグループ(以下、セイコー)は、1881年の創業以来、「常に時代の一歩先を行く」という精神を貫き、革新的な製品と技術で、人々に豊かな時を提供してきました。国産初の腕時計、世界初のクオーツ式腕時計、世界初のGPSソーラーウオッチなどを世に送り出した時計事業の他、現在では、電子デバイス事業、システムソリューション事業、銀座・和光の小売、そして東京オリンピックの公式計時(1964年)に始まるスポーツ大会での計時計測など、様々な分野で事業を展開しています。
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コンテンツについて
タイトル | 時計の技術革新の歴史を学び、未来の「豊かな時」を探究する |
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学年 | 小4~6、中学、高校 |
キーワード | 時計、ものづくり、イノベーション、機械、エネルギー、宇宙 |
URL | https://www.steam-library.go.jp/content/111 |
コンテンツの目的
この教材は、時計を通して時間の様々な捉え方について考えながら、「自分にとって豊かな時とは何か?」という未来の探究につなげていくことを目標にしています。
誰にとっても身近な「時」をテーマに、時計を通して①社会のニーズ ②課題解決への挑戦 ③価値観の多様化 ④持続可能な社会 の4つの視点を学び、未来の「豊かな時とは何か」を探究する内容です。
「時間」とは何か?という大きなテーマについて、物理学・宇宙論・自然科学・心理学・生物学・哲学・社会学・歴史などの側面から様々な考え方のヒントを掲載しているため、自身の興味の起点に探究できます。
また、時計の技術の仕組みについて学ぶことで、学校での学習が社会を支える技術につながっていることも感じながら、技術発展とものづくりについて考える機会を与えることもできます。
コンテンツ制作の背景
(田中)今回、コンテンツの制作は初めてということですが、このコンテンツ制作に至った背景についてお聞かせください。
(安井)2017年から「セイコーわくわく時計教室」という小学校での出張授業を行っています。私たちの生活を支える時間や時計について考えながら、10秒実験や時計職人体験をするプログラムが好評で、都内を中心に多くの学校様から開催のご希望をいただいております。
ただ、学校に社員が訪問して授業を行いますので、より多くの、そして全国の学校様へ授業を実施するとなると難しい部分もございます。そこで今回は、全国の子供たちにこの学びを届けたい、という想いからコンテンツ作りに取り組みました。
▲「セイコーわくわく教室」には、これまで2,000人以上の子供が参加。時計教室以外にも、環境教室やスポーツ教室、音楽教室を展開する。
(明石)スマートフォンで時間がわかる現代、時計を作る会社はどうあるべきか、変化にどう対応すべきか、という、まさに私たちが取り組んでいる答えのない問いを、ぜひSTEAMを使って一緒に考えていただきたい、という想いもありますね。
(田中)やはり時計の需要は減っているのでしょうか。
(内田)世界的に見て、時計の出荷数は減っていますが、実は売り上げはあまり変わっていないんです。これは、高級な機械式時計が売れているからで、時計の技術工芸品的な価値に注目が集まってきているからなんです。
このように、人と時計や時の関わり方も時代とともに変わってきています。コンテンツを通じてそのようなことも考えるきっかけを提供できればと思います。
時計はとても人間的。大切に使えば次世代へ受け継ぐことができる
(田中)あらためて、時計の魅力とは何だと思われますか?
(明石)時計、特に機械式は、とても人間的なんです。時計に「テンプ」という部品があって、組立の一番最後にそれを入れると、本当に心臓が動き出すように、生き物のように時計が動くんです。何個も時計を作っている職人さんでも、この瞬間だけはいつも、すごくわくわくするそうです。
(内田)機械式でも電池式でも、使わなくなった時計はいつか止まってしまいます。常に人がエネルギーを注ぎ込んであげないといけないんです。だからこそ、そこに感情移入が起きます。動かなくなってしまった故人の時計を修理に来られる方も、また動くようになると、本当に嬉しそうにされるんですよ。
(明石)時計は大切に使えば、このように次の世代へ受け継いでいくことができます。SDGsにもつながるこのメッセージが、実は、このコンテンツで一番伝えたいメッセージでもあります。若い人は、時計なんかいらないよ、と思われるかもしれないですが、時計は一つの文化でもあると思います。時計を通じて、「自分にとって時間って何だろう?」など考えるきっかけにしてほしいですね。
生徒の興味を引くキークエスチョン
(田中)コンテンツを使うに当たって、導入に使えるような生徒の興味をひける質問はありますか?
(安井)「時間ってなんだろう」とか、「時計がなかったらどうする?」「タイムマシンってできると思う?」などの問いが考えられると思います。
私たちの体験教室ではワークを通じて時間に興味を持ってもらっています。例えば、時計なしで10秒を測ってみることに挑戦してもらうんです。すると、時計やスマートフォンがあれば誰でもできることが、実はすごく難しいことが分かります。今まで当たり前だと思っていたことが、当たり前じゃなかったんだ、と気づくことが時間に興味を持つきっかけになります。
コンテンツを使うタイミング
(田中)このコンテンツはどのタイミングで使えば良いでしょうか?
(安井)1年間の学校生活がスタートする最初の時期がおすすめです。この教材は、時計の歴史や技術を学んだうえで、最後は「豊かな時間とは?」「時間の使い方について考えよう」という問いで締めくくられているんです。年度初めに学習していただくと、年間を通じて、時間を意識しながらどう活動していくか、という認識をクラスで共有できるのではないかと思います。
(明石)1限目から4限目までパッケージだと捉えず、先生の使いやすいように使っていただいて良いと思いますね。基本的に予習なしで使っていただけますが、2限目(時計技術の発展)に関しては、振り子の原理を起点に、クオーツや電子時計、光格子時計など、学習をより深めるために理科の知識が必要なコンテンツです。詳しく探究したい場合は、先生にも授業前に動画と指導書をお読みいただくなど、軽く予習していただく方が良いかもしれません。
コンテンツを使用する先生へのアドバイス
▲映像も美しく、また興味を引く作りになっている。引用:<一限目>人類と時の関わり ~社会のニーズを捉える~
(田中)コンテンツを使用する先生への使い方のアドバイスは何かありますか?
(安井)まず1本目の動画を見てもらって、生徒さん一人ひとりが自分なりの興味を見つけて欲しいと思っています。「時間」というテーマはいろんなアプロ―チができるんです。人と時間・時計の「歴史」や、時計の「技術」も探究できますし、人間にとっての時間の捉え方等に注目すれば「哲学」や「心理学」「生物学」。タイムトラベルや相対性理論から「物理」「宇宙論」に広げることも可能です。
2限目以降は技術的なことや、スポーツやファッションとしての時計、持続可能性、などテーマごとに教材を分けてありますので、1限目を学習した後は個人探究として、興味に応じて見ていただく使い方もできます。
そして、「時間」の捉え方は、人によって本当に様々です。計算式のように捉える人もいれば、感性的に捉える人もいます。クラスというコミュニティを活かして、時間についてディスカッションしたり、みんなの多様性を感じられるきっかけにこの教材を利用していただけるとすごく嬉しいです。
探究していること
(田中)最後にみなさまが個人的に探究していることをお聞かせください。
(内田)私はコーポレートブランディングとして、スポーツと音楽を、時とつなげることを探究しています。特に、音楽を通じて豊かな時間を皆さんに届けるために、音楽で時との繋がりを表現する、というようなことを、試行錯誤しながら行っています。答えはないので、まさに探究しながらです。
▲震災復興応援コンサート、ジャズ・ミュージシャンの育成支援、音楽テレビ番組など音楽を通じた活動を行っている
(明石)大きなテーマとしては140年以上時計の会社として続いてきたセイコーという会社が、これからどう発展していくか、ということですね。セイコーは精度や丈夫さを褒めていただくことが多いのですが、原子時計や光格子時計といった、もう何億年に1秒も狂わない時計が出てきて、もうこれ以上、精度を上げても誰も喜ばないのかもしれない。そうなったときに、あらためて時計の価値はなんなのか。
しかし、そういう時代でも、時計に価値を見出してくださる方がいるので、時計を一つの文化として捉えて、この文化をどうつないでいくか、そういう想いで探究していますね。
まとめ
セイコーのみなさま、本日はありがとうございました。
時・時計について学ぶことで、当たり前を考え直すきっかけになるだけでなく、自分の興味のある分野を見つけるきっかけにもなりそうですね。
>今回紹介したコンテンツ
時計の技術革新の歴史を学び、未来の「豊かな時」を探究する
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【この記事の監修者】
田中 悠樹|株式会社Study Valley代表
東京大学大学院卒業後、ゴールドマンサックス証券→リクルートホールディングスに入社。同社にて様々な企業への投資を経験する中で、日本の未来を変えるためには子どもたちへの教育の拡充が重要であると考え、2020年に株式会社Study Valleyを創業。
2020年、経済産業省主催の教育プラットフォームSTEAM ライブラリーの技術開発を担当。
2024年、経済産業省が主催する「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」に委員として参加している。