2018年に高等学校指導要領が改訂されたことで、日本史A・日本史Bが廃止され新たに「日本史探究」が設けられました。日本史探究は、日本史Bをベースとした選択科目となっているのが特徴です。
探究学習自体は2022年からの導入が予定されていて、日本史探究についてもこれまでとは異なる指導方法が求められています。
これから探究学習を指導する立場にある先生は、本格的に開始される前に日本史探究について理解を深めていきたいと考えているのではないでしょうか。
この記事は、これから日本史探究の理解を深めたい先生に向けた記事です。できる限りわかりやすく解説するので、ぜひこれからの指導に役立ててください。
目次
日本史探究とは
日本史探究の目標
・知識及び技能を習得する
・思考力、判断力、表現力を培う
・学びに向かう力、人間性を培う
・情報活用能力を鍛える
日本史探究の指導ポイント
・生徒が興味の持てるように工夫をする
・日本と国際環境と紐づけて考えてもらう
・年表や地図の活用を促す
・博物館・資料館の見学を取り入れる
・主観的な資料の活用は控えさせる
・日本の伝統や文化に触れてもらう
日本史探究事例2選
・満州事変から第二次世界大戦を範囲に、生徒自身で問いを設定し探究する
・風刺画などを活用して日露戦争の影響について探究する
まとめ
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日本史探究とは
日本史探究とは、日本の歴史に関する諸事象ついて地理的条件や日本の歴史、資料等を活用して民主的な国家の形成に必要な公民の資質と能力を育成する学習です。
2022年度からは世界史と日本史を統合して近現代史を中心に学習する「歴史総合」が新たな必修科目となり、これまでの「日本史B」は「日本史探究」に変更されます。
生徒は社会科全体では1年次から2年次にかけて「歴史総合」と「地理総合」を必修科目とし、「地理探究」「日本史探究」「世界史探究」から1科目を選択しなければいけません。
日本史Bは4単位でしたが、日本史探究は3単位という違いがあります。
そのほか、日本史探究は主題や問いを中心に構成された学習内容となっており「人物名や地名を暗記する」という従来の学習方法とは異なるのが特徴です。
また日本史Bは近代史に関する項目が中心でしたが、日本史探究に変わることで他の時代についても深く学べるようになりました。
つまりこれからは「歴史総合」と「日本史探究」により日本史の学習を進めることとなります。
日本史探究の目標
日本史探究は学習要領により、学習を進める上で目標が定義されています。
それぞれの目標について詳しく見ていきましょう。
知識及び技能を習得する
一つ目の目標は、知識と技能の習得です。
知識は日本の歴史が世界の一つとして成り立っていることを理解し、伝統や文化について深く理解することとしています。
技能は探究学習で身につく技能について言及しています。日本史探究における技能とは、調査や資料を使って集めた情報を上手にまとめることを指した言葉です。例えば日本の年表を見て出来事や推移に関する情報を集めたり、情報を項目やカテゴリーに分類したりすることが技能に該当します。
思考力、判断力、表現力を培う
二つ目の目標は、思考力、判断力、表現力を培うということです。
思考力では、日本の歴史にまつわる事象について考えを巡らせ、伝統や文化、年代といった幅広い分野から現代とのつながりを考える能力を示します。
また判断力とは、過去の歴史から問題を見つけて構想を練る力です。
そして表現力は、調べた内容を第三者にわかりやすく説明する、議論を交わすといった力を示しています。
学びに向かう力、人間性を培う
三つ目の目標は、学びに向かう力や人間性の醸成です。
日本史探究は、用意された答えを覚えるのではなく生徒が主体性を持って学習を進めるものです。生徒自身が興味・関心のあるテーマで学習が進められるので、座学の日本史以上に「学びたい!」という気持ちが強く生まれます。
また日本を深く理解することで愛国心が芽生え、他国への尊重が強くなるといった人間性も培われていきます。
学びに向かう力と人間性は、先生の指導による影響が大きく出る項目でもあります。
情報活用能力を鍛える
四つ目の目標は、情報活用能力の強化です。
日本史探究での情報活用能力とは、歴史に関する文献や記録、文化遺産といった情報を使って上手に学習を進めていく力を指します。
また紙資料だけでなくインターネットでの情報集めや、地図や地理情報システム等の活用もここに含まれるのでデジタル技術にも慣れ親しむことが可能です。
情報を適切に判断、決定を下すという意味で情報リテラシー向上も期待できるため、情報活用能力は社会に出たあとでも役に立つ力だと言えるでしょう。
日本史探究の指導ポイント
日本史探究の目標が理解できても、実際の授業でどのような指導を行えば良いのかわからない先生も多くいらっしゃると思います。
次は具体的な日本史探究の指導ポイントについて、押さえておきたいポイントをご紹介します。
生徒が興味を持てるように工夫をする
生徒が興味を持てるように指導方法を工夫しましょう。いざ「日本史探究を始めてください」と生徒へ伝えたところで、生徒自身が興味のない状態では課題の設定から苦労するからです。
歴史ドラマや漫画、映画といった生徒の興味のあるところを聞き取りしてみましょう。興味が派生して「江戸時代後期の政策と文化」「近現代の戦争と平和」といったテーマが出てくるかもしれません。
生徒が興味・関心のある分野を課題に設定できれば、疑問に思う点や追求したい問題などが洗い出ししやすく、スムーズに探究学習が進められるでしょう。
先生は、それぞれの生徒がどのようなことに興味を持っているのかを日ごろから知っておくことが大切です。
日本と国際環境と紐づけて考えてもらう
日本と国際環境を紐づけて考えてもらうことも大切です。
国際環境と結びつけることで海外との貿易や紛争等に関して学習が進めやすくなります。海外との政治・経済、文化的な交流が、日本にとってどのような影響を及ぼしているのかという理解にもつながるでしょう。
例えば欧米諸国のアジア進出が進展する国際環境をテーマなら「幕府ではどのような議論をし、解決を試みたのだろうか」という問いが生まれます。
生徒に国際環境について考えを巡らせてもらうことで、日本と他国との関わりを理解できるようになり結果的に日本史の理解につながるのです。
年表や地図の活用を促す
生徒たちへ年表や地図の活用を促しましょう。年表は歴史の順序や因果関係が明確になり、地図は歴史上の出来事となった舞台をイメージしやすくなるからです。
また年表や地図が上手く活用できれば、発表の際に他の生徒へわかりやすく説明ができるようになります。
歴史が苦手な生徒は、文章を追うことばかりに集中していて視覚的に理解しようとする意識が抜けている傾向があります。
そのため日本史探究に行き詰っている生徒がいれば、年表や地図を参考もしくは作成するように指導して、理解の手助けをしてあげましょう。
博物館・資料館の見学を取り入れる
日本史探究では博物館や資料館への調査・見学を促すようにしましょう。博物館や資料館は、学校で調べる以上に非常に多くの歴史的な情報が得られるからです。
その施設の専門家に話を聞くことができれば、さらに高い学習効果が得られるでしょう。
また博物館や資料館では文献や資料が大切に保管されています。情報を取り扱う大切さが理解できる点も足を運ぶメリットです。
主観的な資料の活用は控えさせる
個人の意見が入った主観的な情報はできるだけ使わないように指導しましょう。
主観的な情報は扇動的な内容が盛り込まれている可能性があり、あまり参考にならない可能性があるからです。特に戦争や宗教といったセンシティブな分野に多く見られます。
探究学習ではインターネットを使っても良いですが、主観的な情報が掲載されている個人サイトを見るのではなく、企業や官公庁が出す一次情報を参考にするように指導しましょう。
正しく指導を行えば、生徒の情報活用能力が強化されます。
日本の伝統や文化に触れてもらう
日本史探求では、日本の伝統や文化に慣れ親しんでもらいましょう。図書館やインターネットで調べるのではなく、実際に体験を通じて学ぶことで高い効果を発揮します。
例を挙げるなら「雅楽の楽器を弾いてみる」「茶道体験を受けてみる」などがあるでしょう。体験を通じて礼儀や作法も学ぶことができ、当時の偉人の考えが理解しやすくなるかもしれません。
また文化を知れば、生徒の中に愛国心が芽生えるようになります。愛国心は日本史探究の目標の一つである人間力の醸成につながる部分があり、他国への尊重ができるようになるといった資質も育まれていくでしょう。
日本史探究事例2選
満州事変から第二次世界大戦を範囲に、生徒自身で問いを設定し探究する
テーマ | 日本近代史 ・日本史B |
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学習期間 | 11時間 |
実施校 | 神奈川県立荏田高等学校 文教大学情報学部 |
対象学年 | 3年生 |
満州事変から第二次世界大戦までの範囲で、生徒自身に課題を設定させ、最終的にその探究の結果について発表を行なった事例です。
探究学習のプロセスである「自分なりの問いを立て」、「自分なりに情報収集・分析し」、「自分なりにまとめ発表する」と言うステップを踏めている事例です。
本校の図書館に協力してもらうことにより、あらかじめ参考図書を図書室に揃えていたことで十分な情報収集に基づいた調査ができています。
どうすれば生徒が興味を持ってくれるかを考慮し、いくつかのテーマを用意して選ばせているところも参考になると思われます。
詳細には、レポートの評価基準や生徒立てた問い・取り組みの例などが記載されています。
詳細:新科目「日本史探究」の主題学習を想定した授業実践
風刺画などを活用して日露戦争の影響について探究する
テーマ | 日露戦争は世界にどのような影響を与えたのか |
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実施校 | 神戸大学附属中等教育学校 |
「日露戦争は世界にどのような影響を与えたのか」という問いをもとに風刺画や画像・動画などを活用し探究的な授業を行った事例です。
自分の考えをまとめ、話し合いの場でアウトプットするという探究学習における重要な要素に触れられています。
実際に支配国間の会話や当時の風刺画という生々しい資料から見えてくる、帝国主義時代の大国の意図の複雑性に触れられる内容となっています。
詳細:IB(国際バカロレア)DP(ディプロマプログラム)の教育手法を援用した『日本史』授業の一試案
上記事例の詳細や他の日本史探究事例はこちらの記事を参考にしてください。
>【解説あり】高校日本史の探究学習事例4つを紹介
まとめ
日本史探究は日本の文化や伝統に加え、他国との貿易や紛争といった分野まで網羅的に学べる教科であり、これまでの暗記ベースの学習方法とは大きく異なります。
生徒自身が考えを巡らせ結論を導く学習なので、先生は生徒が途中で行き詰ることのないよう資料の活用や理解の深め方についてサポートをすることが大切です。
今回ご紹介した指導のポイントを参考にして、探究学習がスタートすると同時に生徒が取り組みやすい学習環境を作ってみましょう。
参考リンク
【地理歴史編】高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説|文部科学省
高校新学習指導要領における「世界史探究」「日本史探究」とはどのような科目か|ESIBLA
地理歴史科新科目「歴史総合」・「日本史探究」の特徴と実践課題|日本史かわら版5号
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【この記事の監修者】
田中 悠樹|株式会社Study Valley代表
東京大学大学院卒業後、ゴールドマンサックス証券→リクルートホールディングスに入社。同社にて様々な企業への投資を経験する中で、日本の未来を変えるためには子どもたちへの教育の拡充が重要であると考え、2020年に株式会社Study Valleyを創業。
2020年、経済産業省主催の教育プラットフォームSTEAM ライブラリーの技術開発を担当。
2024年、経済産業省が主催する「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」に委員として参加している。