探究学習

地域探究のメリットと実施のための9ステップを解説

地域探究っていいらしいね。うちの学校でもやってみたいんだけど、どうすればいいかな?学校外と連携するとか正直、面倒なこともあるんでしょう?

私たちStudyValleyは「社会とつながる探究学習」を合言葉に、高校の先生や塾の先生方へ、探究学習を効果的に行えるICTツールの提供や、コンサルティングサービスを行っています。

先生方とお話する中で、冒頭のようなご相談をよくいただきます。

そこで、この記事では地域探究についてまとめました。メリット・デメリット、事例、手順まで注意点も含めて解説します。

この記事で分かること
・地域探究とは?
・地域探究のメリット・デメリット
・地域探究の事例3つ
・地域探究実施のための9ステップ

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地域探究とは?

地域探究とは、自分たちの学校の行事や課題、また、住んでいる地域をテーマにした探究学習のこと。具体的には以下のようなテーマが挙げられます。

地域探究の具体例
・文化祭や体育祭を盛り上げるプロジェクト
・学校のトイレを清潔に保つには?
・売り上げが伸び悩んでいる商店街を活性化させる方法
・地元企業と共同で特産品の開発

地域探究のメリット・デメリット

地域探究のメリットは、学校や住んでいる地域という身近なものがテーマなので、生徒のモチベーションが上がりやすいこと。学外の取材やフィールドワークを実施すれば校内学習より新鮮さも感じられます。

またマクロな視点からは地方の人口減少を減らす役割もあります。地域探究を行うことで地域への愛着が醸成され、地元就職が増えたり、大学卒業後にUターン就職する学生が増えたりする傾向にあります。

デメリットは、外部と連携する際には各種の調整や手続き、打ち合わせなどの必要があり、その分、先生の労力を割かなければならないことです。

「単発で講演会」「発表会でコメントをもらう」くらいの連携なら、それほどの労力ではないかもしれませんが、一緒にカリキュラムや教材を作る、大学生にメンターになってもらうなど継続的にサポートしてもらう場合には入念な事前準備や定期的な打ち合わせなどが必要です。その分、先生の負担が重くなります。

地域探究のメリット
・生徒のモチベーションが上がりやすい
・取材やフィールドワークを実施しやすい
・地元への愛着が生まれる

地域探究のデメリット
本格的に外部連携を行うと先生の負担が増える

地域探究の事例3つ

具体的なイメージをもっていただくために、地域探究の事例を3つ紹介します。

1.人がよりよく生きるとは?

北海道札幌啓成高等学校が実施した、地域交流と自己理解の探究学習。
学習のねらいとして、大学や自治体といった地域交流、卒業生との対話を通じて生徒一人一人が自分の長所に気づくことを目的としています。

・宿泊研修と高校生活の目的、目標を決める
・「人がよりよく生きるとはどういうことか」というテーマを個人で探究
・全校レベルのポスターセッションを開催

探究学習の結果、外部アドバイザーや卒業生との対話を通じて生徒の探究心や想像力に大きな刺激を与えました。

詳細:探究的な学習活動の実践事例集

2.水産資源を活用した地域の活性化

北海道礼文高等学校が実施した、礼文島の水産資源を使って製品を作り地域に貢献する探究学習。より良い地域社会の実現を目指すマインドを養うねらいがあります。

・漁業関係者から礼文島の水産資源と創作料理について勉強
・礼文産の昆布を使用した出汁の調査と、料理の品質向上についての考察
・調理実習で、実際に礼文産の昆布を使ってメニューづくり
・研究結果をもとに、地元食材を使用したペペロンチーノ料理コンクールに出場

生徒の声を聞くと、地域の一員としての意識が芽生えたとコメントしています。

詳細:探究的な学習活動の実践事例集

3.大学と連携して農業の課題を考察

北海道登別明日中等教育学校が実施した、酪農学園大学と共同で農業課題を解決する探究学習。
農業や食料テーマの探究学習を通じて、課題解決力と英語力を鍛えることを目標にしています。

・課題発見の手法をゼミ形式で学習
・北海道の農業課題や世界の食糧問題について探究学習
・ポスターセッションを開催
・英語での対話力を養うために海外研修を実施

生徒は課題解決力と英語での発信力を鍛えることができました。
また、大学のサポートのおかげで、探究学習に不慣れな生徒でも無理なく学習に取り組めました。

詳細:探究的な学習活動の実践事例集

地域探究の手順

地域探究を行う際の9ステップを紹介します。

地域探究の9ステップ
1.先生が地域に興味を持ち探究の種を探す
2.協力者を探す
3.まとめ・表現の形式を決める
4.テーマ・課題を決める
5.情報の収集を行う
6.整理・分析する
7.まとめ・表現を行う
8.外部の協力者へお礼をする
9.評価・振り返りを行う

1.先生が地域に興味を持ち探究の種を探す

地域探究に限った話ではありませんが、先生自身が探究心をもって探究の授業に取り組む姿勢は大切です。
一度、先生自身も、この学校で、この町で探究したくなるものはあるかな?と、探究の種を探してみてはいかがでしょうか?もちろんそれをテーマにする必要はありません。しかし先生自身が探究心を持つことは生徒の伴走者となるときに最も重要なことの一つです。

2.協力者を探す

取材や情報提供に協力してくれる地元の人を探しましょう。具体的な探し方は2つ。

2-1.直接連絡を取る

1つ目は直接連絡を取ること。連携したい組織や人が明らかな場合に有効です。もし協力を得たい組織を決めていない場合は、文科省が指定している総合的な学習の時間の支援組織を頼るといいでしょう。

2-2.紹介

2つ目は紹介を依頼する方法です。地元企業や商工会、自治体、「まちゼミ」という商店会や商工会が主体となったネットワークなどを頼ることができます。

いずれの方法にしても協力者候補には、なるべく依頼内容を明らかにしてください。依頼される側も何をすべきか判断しやすくなります。

3.まとめ・表現の形式を決める

まず、探究学習のゴールである「まとめ・表現」の形式を決めましょう。探究学習はプロセスが大切ですが、何を目指すかを明らかにすれば自然にプロセスの質も上がります。そしてスケジュールや割くべきリソースも決まっていきます。

探究学習の成功例として挙げられるアメリカのハイテックハイも「まとめ・表現」にあたる発表会を重視しており、発表会から逆算して学習プロセスを設計しています。

ハイテックハイについて詳しくはこちら
探究学習で有名な海外高校の探究事例5選

ここでは地域探究の代表的な「まとめ・表現」のパターンを4つ紹介しますので、プロジェクトに合ったまとめ・表現の参考にしてみてください。

1.レポート・論文
2.ポスター
3.ものづくり・商品づくり
4.地域に開かれた発表

3-1.レポート・論文

設定したテーマのリサーチ結果などを、文章やビジュアルを使ってレポート、論文形式でまとめ、表現する手法です。作成のポイントは次の2つ。

1.事実と意見を区別する
2.簡潔な表現を使い、読みやすさに気を配る

論文とレポートはある程度表記ルールと構成が決まっているので、先生から生徒に書き方のガイドラインを示すと、生徒も抵抗なく作成できるでしょう。

3-2.ポスター

ポスター形式にまとめ、ポスターセッションとして表現する方法。メリットとして発表者と聞き手が密なコミュニケーションを取れることが挙げられます。

作成のポイントは次の2つ。

1.ポスターの表現方法を工夫すること(易しい言葉を使う、マーカーや太文字で目立たせるなど)
2.セッション運営上の留意点を把握すること(会場の設営、セッションの時間配分、負荷分散のためにローテーションを組む、聞き手が質問しやすい仕組みを作るなど)

生徒以外(学外の協力者など)の参加も促しやすいため、より対話的な深い学びが得られます。

3-3.ものづくり・商品づくり

創造力を活かして、制作物で探究学習の成果をまとめ、表現する方法。

メリットは、制作物への思いや表現の背景にある意図を整理する過程で、自らの取り組みを内省し学習の意義や価値に気付けることです。

ポイントとして、制作の意図と目的を明確にしましょう。生徒の技能に合わせて制作物を決めることも重要です。

商品づくりの場合は、地元企業とのコラボレーションや町での販売活動にまで幅を広げる事も検討してみましょう。企業と共同で商品づくりに取り組めば、より実社会に則した学びが得られます。企業との継続的な協業が難しい場合は、現役のビジネスマンの講義を行うなどの選択肢もあります。

3-4.地域に開かれた発表

地域探究の集大成として、学習成果を学内だけでなく地域にも向けて発表する方法です。学外の人に向けて発信することで、より対話的な学びを得られるでしょう。

発表する際には成果だけでなく、調査と研究の手法も詳しく説明しましょう。探究について全く知らない人が聞き手でも、説得力を持って発表できます。

4.テーマ・課題を決める

まとめと表現の方法が確定したら、テーマ・課題を決めましょう。決める際には、生徒の興味・関心に基づいて設定することが大切です。

しかし、どうやって生徒に興味関心のある課題を設定させたらいいか分からない先生も多いでしょう。

ここでは地域探究の課題設定で代表的な方法を2つ紹介します。

1.図書館を利用する
2.フィールドワークを行う

4-1.図書館を利用する

図書館はテーマを設定するうえで有効な手段の一つです。特に利用してほしいのが地域図書館。なぜなら、地元の自然や歴史などの資料が豊富に揃っており、学校の図書館よりも扱っているジャンルが広いからです。

4-2.フィールドワークを行う

地元でフィールドワーク、取材をすることで課題を見つけることもできます。特におすすめの方法を紹介します。

それは「みつかるスパイラル」の実践。(社)みつかる+わかるの市川力氏によって提唱されているメソッドです。これは校外に出て自分の中にない情報から興味関心を探り当てるという方法です。具体的な手順は以下の通り。

1.街で気になったものはメモや写真に保存
2.特に気になったものを重点的に調査
3.集めた情報を紙にマップ化して共有し生徒同士と自由に議論

議論の過程でばらばらだった情報の赤から課題の種があらわれはじめます。

5.情報の収集を行う

探究したいテーマが決まったら、情報の収集へ進みます。情報収集は単なる作業と思われがちですが、実はかなり思考力や判断力が求められます。

例えば、アンケートやインタビューなどは入念な準備をしないと偏った情報ばかりになったり、欲しい情報が得られなくなったりすることもあります。

ここでは、フィールドワーク・取材時の注意点について解説します。

フィールドワーク・取材時の注意点

フィールドワーク・取材に行く前に、目的と欲しい情報を明確にしましょう。そして、ICT機器を活用して、映像や音声を記録することも有効です。

また、地元の専門家や有識者などへインタビューすることもあるかもしれません。その際は事前のアポイントをしっかりとる、質問項目を用意するなど入念な準備を心掛けましょう。

6.整理・分析する

収集した情報を整理・分析します。断片的で意味が無いように見える情報でも整理すれば、データの傾向が見えてくることがあります。

また、整理・分析の手法を知っていれば情報収集の精度も上がります。主な分析手法を以下に挙げますので参考にしてください。

1.地図
2.時系列表
3.KJ法的手法
4.ベン図
5.メリット ・ デメリットの視点
6.ビフォー・アフターの視点
7.マトリックス表
8.二次元表
9.Y チャート
10.ロジックツリー
11.グラフ
12.統計的手法
13.フィッシュボーン
14.コンセプトマップ

整理・分析の選択肢を持とう

整理・分析する際には複数の選択肢を持つように意識してください。なぜなら、得られた情報を多角的に分析でき、より良い答えに近づけるからです。

ただし、先に紹介した14の手法を一気に覚えるのは無理なので、まずは先生自身が各手法の特徴を把握し、生徒に「こんな方法を試してはどうか」などと促してみましょう。

比較に使えるサイト

地域探究に使えるリンクをまとめました。

e-Stat(独立行政法人統計センー:総務省管轄)
政府統計の総合サイト。人口、労働、産業別データ、エネルギー、国際・・・などあらゆる分野の700種類近くの統計・調査を掲載。

総務省統計局
国勢調査、家計調査、経済センサス、物価指数、科学技術調査などの統計データ。

統計ダッシュボード(総務省)
国や民間企業等が提供している主要な統計データをグラフ化して分かりやすく紹介。

RESAS(経済産業省、内閣府)
地方創生の支援のために経済産業省と内閣官房が提供。人口、消費、観光、福祉などさまざまな切り口から全国のデータを分析可能。

SSDSE(教育用標準データセット)(独立行政法人 統計センター )
全国市区町村のデータベース。世代別人口、婚姻離婚、転出転入数など人口データから、産業別事業所数など産業データ、図書館数など公共施設データ、家計消費、生活時間など集計項目は数百。このデータを使った「分析論文」のコンテストも。

参考記事
探究学習「情報の収集/整理・分析」に使えるリンク集【無料】

7.まとめ・表現を行う

最後に、整理分析したデータをまとめ、表現しましょう。主な方法は次の通りです。

1.レポート、論文
2.新聞
3.ポスター
4.プレゼンテーション
5.ウェブページ
6.制作、ものづくり
7.パネルディスカッション
8.シンポジウム
9.総合表現
10.地域社会に向けて報告会を開く
11.社会参加や社会参画を目指す
12.校外の大会やコンテストに参加

参考記事
探究学習のまとめ・表現の12パターンを解説

地域の協力者に来てもらってもよい

地元の協力者へ報告もかねて、発表を見てもらうという選択肢もあります。
なぜなら、実際に協力した人からすると「生徒の研究に役に立てたのか」「生徒はどんな成果を残したのか」などが気になるからです。

協力者が直接発表を見てくれたら、協力した側としても達成感があるでしょう。地域とのつながりも強くなり、次年度以降も地域探究を継続する際に、よりよい連携につながります。

8.外部の協力者へお礼をする

探究学習終了後は、協力してくれた人や企業等にお礼をしましょう。探究成果の報告もかねてお礼のメッセージを送ったり挨拶へ行くことで、生徒が礼儀やマナーを学ぶこともできます。

9.評価・振り返りを行う

最後に評価と振り返りを行います。評価の方法は、探究の成果やプロセスを総合的に評価するポートフォリオ評価が一般的です。

参考記事
探究学習の評価方法を紹介。特徴、メリット・デメリットも
探究学習で使える「ポートフォリオ評価」の重要性と実施のポイントについて解説

振り返りは

・「評価」の外側にある成長や伸びしろを自覚できる
・学んだ知識・理解・感情などを整理できる
・メタ認知力を鍛えられる

などのメリットがあります。ぜひ時間を取って振り返りを行いましょう。

参考記事
「振り返り」は価値ある探究学習に必須。その目的とメリット・やり方について

まとめ

地域探究について解説してきました。

・地域探究とは?
・地域探究のメリット・デメリット
・地域探究の事例3つ
・地域探究実施のための9ステップ

地域探究は身近な地域を題材に、生徒が興味関心を持ちやすい、フィールドワークや取材を行いやすいなどのメリットが多くあります。また地域特性を生かして学校独自の探究を行うことにもつながります。ぜひ参考にしてみてください。

ABOUT ME
この記事を書いた人:Study Valley 編集部
探究No.1メディア”Far East Tokyo”編集部です!執筆陣は、教育コンサルタント、元教員、教育学部大学院生など、先生方と同じく、教育に熱い思いを持つStudy Valleyのスタッフ陣です。子どもたちがわくわく探究する姿を思い浮かべながら制作しています!先生方のお役に立ちますように。Twitterフォローで記事更新情報が届きます。
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【この記事の監修者】

田中 悠樹|株式会社Study Valley代表

田中 悠樹|株式会社Study Valley代表

東京大学大学院卒業後、ゴールドマンサックス証券→リクルートホールディングスに入社。同社にて様々な企業への投資を経験する中で、日本の未来を変えるためには子どもたちへの教育の拡充が重要であると考え、2020年に株式会社Study Valleyを創業。
2020年、経済産業省主催の教育プラットフォームSTEAM ライブラリーの技術開発を担当。
2024年、経済産業省が主催する「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」に委員として参加している。