探究学習

探究学習で使える「ポートフォリオ評価」の重要性と実施のポイントについて解説

探究学習の評価方法をどうすればいいかわからない

そういうご相談をよく受けます。

この記事では探究学習でよく使われる「ポートフォリオ評価」について解説します。

ペーパーテストは学習の成果として、ある時点での生徒の知識の定着度を測ることができます。一方、探究学習では学習の成果だけではなく、学習にどう取り組んだか、そのプロセスを評価することも必要になります。例えば、以下のような評価観点が考えられます。

・自分にとって、社会にとって意味のある課題設定をしているか?
・取材やフィールドワークも含めて、適切な情報や資料を収集できたか?
・情報を正しい方法で分析できたか?
・まとめ方は妥当か、工夫されているか?
・グループで多様な意見を出し合い、協働できたか?

これらをペーパーテストで評価することはできませんよね。

そこで活用されるのが「ポートフォリオ評価」です。

探究の成果だけではなく、探究の過程で行ったこと(取材、グループディスカッション、学習の途中で行った振り返り、プレゼンテーションなど)や、成果をまとめるまでに作った資料(フィールドワークで撮影した写真や記録、情報をまとめたスクラップブックなど)も含めた「ポートフォリオ」を評価することで、多角的で適切な評価につながります。

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関連用語紹介

【パフォーマンス課題・評価】
ポートフォリオ評価の中でも、複雑な知識やスキルを使いこなすような課題を特に「パフォーマンス課題」、これを用いて評価することを「パフォーマンス評価」といいます。先ほど例として挙げたものはみな、パフォーマンス課題です。

なお、選択式回答式の学力テストのようなものはパフォーマンス課題ではありませんが、評価対象の一つとしてポートフォリオに含め評価する場合があります。

【ルーブリック評価】
ポートフォリオの評価基準を明確にするためによく使われるのが「ルーブリック評価」です。数値で測れないスキルを言葉で段階的に表現し、今どの段階にあるのか、何をすれば次の段階へレベルアップできるかを可視化したルーブリック表を用います。

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ポートフォリオ評価とは

ポートフォリオとはもともと「書類入れ」という意味で、「複数のものを、ひとまとめにしたもの」という意味で使われます。

例えばクリエイターや芸術家の方が作る自分の作品集のことも「ポートフォリオ」といいますし、投資の世界では、投資を行う際に株式や国債など複数の金融商品を組み合わることを「ポートフォリオを組む」といったりします。

探究学習における「ポートフォリオ」とは「生徒の作品、自己評価の記録、教師の指導と評価の記録などを系統的に蓄積していくもの」を指します。具体例は以下の通りです。

資料集(探究の過程で収集した資料や、それをまとめたスクラップ帳、取材記録など)
研究論文(生徒が作成した作文、レポートなども含む)
作品(絵画、造形物、演奏、ダンスなど)
評価記録(自己評価、教員などによる他者評価)
発表用資料(模造紙の発表資料、パワーポイント、企業への提案資料、など)

ポートフォリオ評価とは、これらポートフォリオをもとに、生徒の探究学習プロセスや成果を評価するものです。評価の観点によって、評価対象とするポートフォリオを適切に選択します。

またポートフォリオを見せることによって、保護者へ評価について説明がしやすいというメリットもあります。

ポートフォリオ評価の重要性が増している

【総合的な探究の時間編】高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説より

ポートフォリオ評価は、2021年度の学習指導要領の改訂に合わせて、重視される項目になりました。

文部科学省の教育方針では「新しい時代に必要となる資質・能力の育成と,学習評価の充実」が掲げられています。これはテストの点数だけでは把握できなかった生徒の能力を評価しようという動きです。

実際、観点別学習状況評価(各教科・科目の目標や内容に照らして、生徒の状況を観点ごとに評価するもの)の一つである「思考・判断・表現等」でも、ポートフォリオ評価が推奨されています。

また、ポートフォリオ評価は大学入試でも活用されています。かつてポートフォリオが必要だったのは、芸術大学など一部の入試だけでした。しかし、東京大学のような難関大学でも、推薦入試でポートフォリオが活用されています。

このように、ポートフォリオ評価は、生徒の新たな評価軸として注目されています。

ポートフォリオ評価のメリット

ポートフォリオ評価のメリットは3つあります。

・生徒の学習成果をリアルタイムで確認・共有できる
・従来の学力の範疇にとどまらない「資質・能力」を評価できる
・作成プロセスで生徒が成長する

これまでの学習評価との違いと比べながら解説します。

生徒の学習成果をリアルタイムで確認・共有できる

生徒の学習成果をこまめにチェックできるのは、ポートフォリオ評価のメリットです。これまで、学習成果の主な評価軸だった定期テストや模擬テストは年数回しか行われません。そのため、成果を確認する機会は多いとはいえませんでした。

ポートフォリオは学習開始から継続的に作成していくものなので、作成の過程も含めてこまめに評価することが可能です。

作成の過程で、どんな工夫や苦労があったかも見ることができるので、適切なタイミングで評価を行い、その結果を生徒と共有しフィードバックを行うことで生徒の成長をサポートできます。

このように、ポートフォリオ評価は、生徒の学習、成長に伴走できるという点がメリットです。

従来の学力の範疇にとどまらない「資質・能力」を評価できる

従来の学力の範疇にとどまらない「資質・能力」を評価できるのもポートフォリオ評価の良いところです。

探究学習では、生徒は「答えのない問い」「答えに至る道筋が無数にあるような問い」に取り組みます。正しく取り組んだとしても、必ずしも答えにたどり着けるわけではありません。

しかしポートフォリオがあれば、探究の過程で生徒がどう思考したか、何を考えて判断したか、結果をどう表現したかなどの能力や資質を見ることができます。

従来の学力テストでも、入試当日に体調を崩してしまえば、生徒が実力の半分も出せず、不合格になることもありますよね。このテスト結果は生徒の正しい評価を表しているとは言えないでしょう。

探究も同じで、「たどりついた答え」だけをもって評価するのではなく、ポートフォリオなどを用いて多角的に評価することが重要なのです。

ポートフォリオの作成プロセスで生徒が成長する

ポートフォリオを作る過程そのものが、生徒の成長につながります。なぜなら、多様な能力が鍛えられるからです。

・課題発見能力
・分析力
・思考力
・判断力
・表現力(コミュニケーション能力、文章力・・・)etc.

ポートフォリオの作成はテストのように答えが明確ではないので、生徒自身が自分で考え、工夫して作っていかなければなりません。そして作ったポートフォリオは先生やほかの生徒などに見せて何度もフィードバッグを受けます。その過程で自然と思考力や判断力、コミュニケーション能力やメタ認知力も身につきます。文章力をはじめとした表現力も不可欠です。

このようにポートフォリオを作るプロセスそのものが、生徒の能力を伸ばしてくれます。

3つのポートフォリオ評価とポイント

ポートフォリオ評価は基準や目標を誰が決めるかによって、次の3種類に分けられます。

・先生が決める基準準拠型
・先生と生徒で決める基準創出型
・生徒が決める最良作品集型

それぞれの特徴について解説します。

先生が決める「基準準拠型」

基準準拠型とは、先生がポートフォリオの評価基準や作成方法を事前に決める方法です。

メリットは、生徒と先生双方の負担を減らせること。

評価基準が決まっているので、テーマ選びやポートフォリオの作成方法ははっきりしています。そのため、生徒もどこを目指せばよいか、何から始めたらいいかが見えやすいでしょう。先生も評価基準が明確なので的確なフィードバックができます。

デメリットは、生徒が主体性を発揮しにくいこと。予めテーマや方向性が決まっていると、生徒がやらされ感を抱く場合があります。とくに苦手意識のあるテーマであれば、生徒のポテンシャルを引き出しにくくなる可能性もあります。

生徒、もしくは先生と生徒が探究学習やポートフォリオ作成に慣れていない場合などは「基準準拠型」を選択するとよいかもしれません。

先生と生徒で決める「基準創出型」

基準創出型とは、生徒と先生が話し合って評価基準やどのようなポートフォリオを作成するか、探究学習が進むのと同時進行で決めていく方法です。

メリットは、先生の指導のしやすさと生徒の主体性を両立できることと、目標や評価基準を柔軟に見直せる点です。

問題解決のサイクルを繰り返す探究学習では、そのとき取り組んでいる課題によって目標や到達点が絶えず変化します。生徒と先生が話し合って柔軟に目標や評価基準を変化させていける「基準創出型」はそのような探究学習にマッチしているといえます。

生徒が目標や評価基準を考えることが難しければ、ルーブリックを共有したり、先生が「どんな基準や目標があるといいと思う?」など評価について考えさせるような問いかけが有効です。

「基準創出型」は、高校の探究学習に適している評価方法といえます。

生徒が決める最良作品集型

最良作品集型とは文字通り、生徒が最も自信ある成果をポートフォリオにする手法です。評価基準は生徒が主体となって決めます。

メリットは、生徒のパフォーマンスを引き出しやすいこと。生徒は自分の興味や得意にフォーカスしてポートフォリオを作成できるので、強みを発揮しやすいです。

大学のAO入試、探究型入試や芸術系大学の入試で提出するポートフォリオは、最良作品集型のポートフォリオといえます。

デメリットは先生の負担が大きくなることです。個別評価であるうえに、生徒の設定した評価についても理解する必要があります。

普及が進むeポートフォリオ

ポートフォリオにはメリットも多くありますが、多忙な先生にとってはチェックや管理が大変、などのデメリットもあります。そこで活用を検討したいのが近年、普及し始めている「eポートフォリオ」です。

eポートフォリオとは、これまで紙類などで作られてきたポートフォリオを電子化したもので、探究学習の現場でも活用が始まっており、以下のようなサービスが挙げられます。

e-ポートフォリオのメリットは3つあります。

1つは、生徒へ素早くフィードバックできること。

eポートフォリオはデータベースで共有されているので、生徒がアップロードすれば先生はいつでもチェックできます。ポートフォリオの編集と受け渡しの手間を減らせるので、フィードバッグのサイクルも速くなります。

2つ目は、先生の管理負担が減ること。

紙など現物のポートフォリオは保管・管理の場所や手間がかかります。紛失などのリスクもありますがeポートフォリオではクラウド保存なので、管理コストを大幅に減らせます。

3つ目は共有が簡単にできるということです。

探究のプロセスの中で、地域の協力者の方や外部のアドバイザーにポートフォリオを見せてコメントをもらいたい、というようなことが想定されます。こんなときeポートフォリオは非常に便利です。遠隔地であっても簡単に共有できます。

また、入試で生徒の志望校にポートフォリオを送る際、紙ベースだと梱包や発送の手間がかかりますが、eポートフォリオでポートフォリオを作成しておけばこちらも簡単に送付することができます。

このように、eポートフォリオは先生の生産性アップや生徒へのフィードバックを加速させる観点からもメリットがあります。

まとめ

探究学習の評価方法であるパフォーマンス評価のうち、「ポートフォリオ評価」のメリットやパターン、便利なツール「eポートフォリオ」について解説しました。

ポートフォリオ評価のメリット
・生徒の学習成果をリアルタイムで確認・共有できる
・生徒の目に見えない資質を評価できる
・作成プロセスで生徒が成長する

ポートフォリオ評価3つのパターン
・先生が決める基準準拠型
・先生と生徒で決める基準創出型
・生徒が決める最良作品集型

e-ポートフォリオ
・素早いフィードバック
・管理負担の減少
・外部共有が簡単

ポートフォリオ評価の特徴を知って、探究学習の評価の参考にしていただければ幸いです。

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ABOUT ME
この記事を書いた人:Study Valley 編集部
探究No.1メディア”Far East Tokyo”編集部です!執筆陣は、教育コンサルタント、元教員、教育学部大学院生など、先生方と同じく、教育に熱い思いを持つStudy Valleyのスタッフ陣です。子どもたちがわくわく探究する姿を思い浮かべながら制作しています!先生方のお役に立ちますように。Twitterフォローで記事更新情報が届きます。
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【この記事の監修者】

田中 悠樹|株式会社Study Valley代表

田中 悠樹|株式会社Study Valley代表

東京大学大学院卒業後、ゴールドマンサックス証券→リクルートホールディングスに入社。同社にて様々な企業への投資を経験する中で、日本の未来を変えるためには子どもたちへの教育の拡充が重要であると考え、2020年に株式会社Study Valleyを創業。
2020年、経済産業省主催の教育プラットフォームSTEAM ライブラリーの技術開発を担当。
2024年、経済産業省が主催する「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」に委員として参加している。