STEAMライブラリー

【前編】初版1768年 百科事典のブリタニカはデジタルコンテンツもすごかった!STEAMライブラリーに最多の教材を提供した強み~ブリタニカ・ジャパン株式会社~

経済産業省「未来の教室」が2021年2月末より公開を開始した「STEAMライブラリー」のコンテンツ事業者として最多の18コンテンツ(18コンテンツに日本語版、英語版がそれぞれあり)を提供しているブリタニカ・ジャパン株式会社(以下、ブリタニカ)の天野慧氏、前田由美子氏に、Study Valley代表取締役社長、田中悠樹がインタビューしました。

前編中編後編の3部構成でお送りしております。

前編ではブリタニカがSTEAMライブラリーに参画した理由、最先端研究に関するコンテンツをグローバルチームや大学、研究機関とつくりあげた経緯、最先端研究を生徒に身近な課題として捉えてもらうためのヒントなど、コンテンツの背景から学校の現場での活用の仕方まで詳しく伺いました。

プロフィール

天野慧(あまのけい)様


ブリタニカ・ジャパン株式会社カリキュラムマネジメント&トレーニング部 ディレクター
株式会社NHK出版でデジタル教材の開発、外資系ゲーム企業で研修カリキュラムの構築と評価等に携わったあと、2021年5月より現職。同時に、教育の効果・効率・魅力を向上させるための知見であるインストラクショナルデザイン(教育設計)についての研究を進め、熊本大学大学院教授システム学専攻博士後期課程修了。電子的にスキル証明を行う仕組みであるデジタルバッジに関する研究で博士号(学術)を取得。熊本大学では客員助教として研究及び教育設計に関わる教員研修を実施。STEAMライブラリ―では、カリキュラムのデザインと教育現場での効果的な利活用へ向けた展開を担う。

前田由美子(まえだゆみこ)様


ブリタニカ・ジャパン株式会社コンテンツ開発部 マネージャー
新卒で出版社に就職。実用書・写真集・学習辞典などの編集を経て、2000年よりベネッセコーポレーションにて、小中高校生向け国語辞典・漢字辞典の編集、小中学校向け国語系デジタル教材の制作に携わる。2015年、ブリタニカ・ジャパン入社。小中学校向けデジタル学習教材「ブリタニカ・スクールエディション」の編集を担当し、調べ学習や協働・探究学習に焦点を当てたコンテンツの制作を進めてきた。STEAMライブラリ―では、日本語版の原稿チェックを担当。

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百科事典の会社のブリタニカがSTEAMライブラリーに最多コンテンツを提供した理由は?

(田中)
本日はわざわざ弊社オフィスまでお越しくださりありがとうございます。

では早速ですが、今回ブリタニカ・ジャパン株式会社様がSTEAMライブラリーに教材を提供してくださった理由を教えてください。

インタビューはStudy Valley本社で行われました

(天野)
ブリタニカは創業から250年以上にわたって、百科事典のコンテンツを軸としてグローバルでサービスを展開してきた企業です。百科事典の提供を通じて、何か知りたいことがあったときに、その分野で押さえるべき情報や概念を提供してきました。人々の「知りたい」という探究心に応えることが、我々のミッションです。

このような背景がありますので、最先端の研究を全国の中高生に向けて提供するというSTEAM教育は、まさに我々が取り組むべき事業だと思いました。これまでグローバルで探究的な学びを提供してきた実績があり、そこで得られたノウハウを使ってぜひ日本の教育にも貢献したいと思い、今回「STEAMライブラリー」事業に参画させて頂きました。

(前田)
ブリタニカというと、皆さん百科事典をイメージされると思うのですが、実はグローバルレベルで何年も前から事業活動のメインを教育分野にシフトしています。

イギリス、アメリカ・・・世界中のチーム、大学、研究機関とも協力してつくりあげたコンテンツ

ブリタニカのコンテンツは全部で18。すべてに日本語版、英語版があり、「ドローン」「自動運転」など最先端の研究が学べる内容になっている

(天野)
2020年度の事業で納品した「STEAMライブラリー」では、カリキュラム作成はイギリスのチーム、動画コンテンツの作成はアメリカのチーム、翻訳や日本の教育現場で使いやすいようにローカライズを担うのは日本チームというように、グローバルな制作体制を取っていました。こうした体制が整っていたので18コンテンツを一気に作成することが可能だったのです。

(田中)
おっしゃる通り、ブリタニカは紙の百科事典のイメージが強いので、このようなすばらしいデジタル教育コンテンツを提供されているのを知って、驚かれる方もいると多いと思います。

(前田)
私も入社前は、ブリタニカといえば百科事典、というイメージしかありませんでした(笑)。なので、我々ブリタニカという会社が教育事業に参入し、注力していることを、日本の教育関係者の方に「STEAMライブラリー」を通してもっと知ってほしいという思いももちろんありました。

なぜ英語版も?発展的な学びも見すえた環境づくり

「ドローン」教材の英語版より。英語を使って海外の情報にも触れ、学んでほしいという願いが込められている

(田中)
「STEAMライブラリー」にはたくさんの会社が様々なコンテンツを提供していますが、英語バージョンがあるのはブリタニカだけですよね。英語版も作られた意図は何ですか?

(天野)
弊社の「STEAMライブラリー」で扱っているような最先端の研究テーマでは、日本語よりも英語のコンテンツの量が多いという現実があります。

英語でさらに学びを掘り下げていくためには、その分野で鍵となるキーワードを英語で知っておく必要があります。発展的な学びのサポートのために、グローバルで先端研究の知見にもアクセスできる環境を整えようと思い、英語コンテンツも準備しています。

(田中)
なるほど。

多岐に渡る豊富なジャンルのコンテンツ。選んだ基準は?

「自動運転」教材より。今の子供たちが大人になるころには当たり前の技術になっているかもしれない

(田中)
ブリタニカのコンテンツは、数が多いだけでなくジャンルも多岐にわたっています。今回の18のテーマを選ばれた理由は何ですか?

(天野)
生徒にとって身近な課題について最先端の研究のアプローチで分析していけるようなテーマを選びました。

最先端の研究の知見をお持ちのパートナー機関に協力して頂き、最先端の研究成果を題材として教材に取り入れています。「ベジミート」や「自動運転」などのテーマについて、通常の授業では取り上げづらい最先端の研究事例を、生徒に触れてもらえるようにしています

パートナー機関のみなさま

東京大学生産技術研究所次世代育成オフィス(ONG)
国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
筑波大学附属中学校 関谷文宏教諭

(田中)
自動運転は、僕も大学院時代、自動車の交通量の研究などをやっていたので興味深いです。自動運転などは、まさに文系も理系も関わってくるテーマだと思います。理系の視点で考えると、どう自動運転するのかという技術やシステム面に目が行きますし、人文系であれば法整備等の制度設計の問題、AIが人を轢いてしまったらどうするのかという倫理面の議論になりますよね。

(前田)
テーマを選ぶときのポイントとして文理融合というのがあるんですよね。

(天野)
STEAMという言葉が示す通り、文理融合の知識やスキルを活かして取り組む、リアルな課題を取り込むということも当然、意識しています。

また、学習指導要領の「総合的な探究の時間」がめざしていることや経済産業省のルーブリック(学習到達度を示す評価基準)を研究し、グローバルのカリキュラムチームと議論しながら、方向性を決めていきました。

最先端研究を生徒に身近に感じてもらうためには?

「食(ベジミート)」など私たちの生活に身近なテーマも豊富

(田中)
なるほど。確かに「自動運転」や「ベジミート」は現代社会が抱える問題の解決策として世界で取り組まれている分野ですね。

とはいえ、普通に日本で生活している中高生にとっては、まだ身近に感じにくいトピックなのも事実だと思います。中高生に興味を持ってもらうために、学校の先生が工夫出来ることや、問いかけなどはあるでしょうか?

(天野)
ブリタニカのレッスンは、解が一つに定まらない問い(オープン・クエスチョン)を中心に構成しています。研究者でも解釈が異なるような、本質的な問いやビッグクエスチョンをコンテンツの中核に据え、専門家が挑戦しているような課題に取り組み、科学的な思考を身につけられるようにしています。

(前田)
ただ、ブリタニカが提供しているコンテンツでは、「大きな問い」がまず掲げられているのですが、それ自体はなかなか身近な問いとは言えないんですよね。

(天野)
確かに、テーマの本質に迫る大きな問いを提示してはいるものの、それ自体が必ずしも生徒にとって身近な問いであるとは限りません。

身近に感じてもらうためには、テーマに関連する地域の事例を紹介するなどが考えられるかもしれません。モビリティに関連するテーマであれば、地元のバスや鉄道など、生徒が普段利用している通学手段を例として考えてもらう、あるいは地域の企業の事例を例にあげて考察してもらうということが考えられるかもしれません。

(前田)
私は完全に文系の人間なので、今回のコンテンツの日本語版をチェックした時も、理系の専門的な分野に関しては、わからないことだらけでした(笑)。

ですが、その後普通に生活していて、ニュースなどを見ていると、それまでは興味がなくて聞き流していた内容が頭に入ってくるようになりました。風力発電や自動運転、ベジミートなど、一度コンテンツで目を通しているので、その話題がニュースや新聞に出てきたときに、急に身近に感じるようになりました。

そういう経験を私自身がしたので、子供たちも最初は難しいテーマで興味が持てなくても、やってみたら楽しめるのではないかと思っています。なので、最初のきっかけとなる、生徒の興味を引き出す問いかけはすごく大事ですよね。

先端研究を担う人材を育てたい

(田中)
ブリタニカのコンテンツのほかのオススメポイントはどんなところにありますか?

(前田)
パートナーさんのインタビューにも力を入れています。研究者の方に、どうしてこの研究をしているのか、などをインタビューした内容もあるので、キャリア教育の面でも活用できると思います。

(天野)
自分の興味があることを深く掘り下げていくのではなく、教科のテストの点数で進学先を決めてしまう傾向があるというお話を先生方から伺います。情報が少ない中で、自分の興味のある分野を見定めて、進路を決めるのは難しいと思います。今回のコンテンツで自分たちの知らなかった本物の最先端研究に触れて、興味を持ったことが進路選択のきっかけになったら嬉しいですね。

もし可能であれば、将来的にはSTEAMの教材提供だけでなく、それに関わっているパートナー機関での長期インターンや、学生コンテストなどリアルな活動につなげる試みにもチャレンジできたらよいなと思っています。STEAMライブラリーの教材で学んだことがきっかけになって、将来その分野の研究を担う人材を輩出できたら嬉しいです。

中編に続く

中編では、教育現場の「正しい情報を得たい」「多角的な視座で議論したい」などの課題にブリタニカがどう向き合っているのか、そこから生まれた小中学生向けコンテンツ「ブリタニカ・スクールエディション」に施された工夫や、250年以上に亘って百科事典を作ってきたノウハウがどう活かされているのかを伺いました。

 

 

田中悠樹 (インタビュワー)

「STEAMライブラリー」システム構築事業者である株式会社 StudyValleyの代表取締役

2011年にゴールドマンサックス証券テクノロジー部に新卒入社。株式会社リクルートホールディングスでは海外のVCを担当。
2020年に株式会社StudyValleyを設立。オンライン学習サービス「アンカー」や業務・学習支援ソフト「TimeTact」の開発や運営を行う。創業1年目でSTEAMライブラリーのシステム構築事業を受託。

STEAMライブラリーとは

経済産業省「未来の教室」が運営する、STEAM教育を通じてSDGsに掲げられる社会課題の解決手法を学べるオンライン図書館

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ABOUT ME
この記事を書いた人:Study Valley 編集部
探究No.1メディア”Far East Tokyo”編集部です!執筆陣は、教育コンサルタント、元教員、教育学部大学院生など、先生方と同じく、教育に熱い思いを持つStudy Valleyのスタッフ陣です。子どもたちがわくわく探究する姿を思い浮かべながら制作しています!先生方のお役に立ちますように。Twitterフォローで記事更新情報が届きます。
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【この記事の監修者】

田中 悠樹|株式会社Study Valley代表

田中 悠樹|株式会社Study Valley代表

東京大学大学院卒業後、ゴールドマンサックス証券→リクルートホールディングスに入社。同社にて様々な企業への投資を経験する中で、日本の未来を変えるためには子どもたちへの教育の拡充が重要であると考え、2020年に株式会社Study Valleyを創業。
2020年、経済産業省主催の教育プラットフォームSTEAM ライブラリーの技術開発を担当。
2024年、経済産業省が主催する「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」に委員として参加している。