小学校での児童のタブレット活用方法が知りたい
動画視聴や宿題提出だけではなく、もっと学習ツールとして活用したい
でも、良い教材もないし、なんとなくそのままになっている
GIGAスクール構想により、一人一台のタブレット端末が配布されて久しいですが、コロナ禍の落ち着きとともに、使われなくなっている学校も多いのではないでしょうか。
オンライン授業もタブレットの有効活用例ではありますが、もっと活用の選択肢はあるはず。でもそのやり方や、教え方がわからなくて、せっかくのタブレットが保管庫で埃をかぶっている・・・そんな現状も耳にします。
そんな状況に危機感を抱いた高校生が作った、小学生のためのタブレット活用教材があります。三田国際学園高等学校の生徒3名が、探究的な学習を行う「リベラルアーツ」の活動として作った教材「小学生向けKeynote講座」です。
「Keynoteでクイズを作る」ことを通じて、小学生がiPadでクリエイティビティを発揮する方法を学べるこの教材は、 好評を得ています。
この記事では、前半で教材の内容と魅力について解説、後半では、なぜ高校生がこのような教材を作り上げることができたのか、この探究プロジェクトの背景について、ご紹介します。
Keynoteとは・・・プレゼンテーション用のアプリケーションです。 豊富なテンプレートをもとに、直感的な操作でテキスト、画像、グラフ、表、図形を追加し編集できます。
「Keynote」(Apple公式サイト より)
小学生向けKeynote講座プロジェクト 概要
Keynoteでクイズを作ることを通じて、小学生でもiPadを使って様々な表現でクリエイティビティを発揮する方法を学べる教材です。
教材内容
・文字を入れる方法
・文字を変える
・図形をつける
・写真をつける
・絵を描く
・リンク機能説明 など全26P
・クイズ作成用テンプレート付き
制作:三田国際学園高校2年生 チーム「iPad5.0」
生徒氏名:園田優桜さん・初瀬由真さん・藤野こころさん
指導教員:大野 智久先生
▲この教材を作った三田国際学園 高校2年生の3名。左から、園田さん、初瀬さん、藤野さん
2021年8月からプロジェクト開始。小学生がiPadを有効活用できるように、Keynoteの入門講座を設計。2022年3月には、都内の小学校にて授業を実施、また小学校教員向けのレクチャー動画も作成している。今後はこの教材をより多くの学校で使ってもらえるよう、広めていくことを目指している。
この教材を見てみたい、実際に使ってみたい、という方はこちらから教材のダウンロードが可能です。>教材ダウンロード
三田国際中学校・高等学校
1902(明治35)年創立。孔子の教えに由来する「知好楽」を教育理念とし、国際教育、サイエンス教育、ICT教育、その他学園生活を通じて、変化し続ける世界で求められる「12のコンピテンシー(能力・行動特性)」を育む教育を行っている。
小学生向けKeynote講座とは?
小学生がKeynoteの使い方を学べる教材です。楽しみながら学習できるように、クイズ作成を通じてKeynoteの「文字や図形、画像を編集する」「リンクを挿入する」などの諸機能が自然に身につくようになっています。
Keynoteはプレゼンテーション用ツールとして児童・生徒だけではなく社会人にも広く使われています。Keynoteを使いこなすことで、テキストや画像だけでなく、アニメーションなども使用した幅広い表現活動が可能になります。
教材のポイント4つ
この教材の特徴は、以下の4つです。
1.小学生でもわかりやすい「デザイン」
2.達成感を得られる「レベル分け」
3.面白く学べる「クイズ」を題材に
4.1時間の授業で実施できる
1.小学生でもわかりやすい「デザイン」
▲教材より
シンプルで分かりやすい教材のスライドでは、作業手順が一つずつ丁寧に説明されています。大きな文字で、使用する箇所はすべて枠線や丸で指定され、児童が次にどの操作をすればよいかが一目でわかります。
リベラルアーツの授業でこの教材の制作を発案したのは、チームメンバーの藤野さんです。藤野さんの小学生の妹が、学校から配布されたタブレットを動画視聴と宿題提出くらいにしか活用できていない様子を見て、「せっかくのタブレットがこれでは宝の持ち腐れ。小学生でも使い方を知れば、もっと活用できる!」と思ったのがきっかけでした。
したがって、教材デザインの基準は、「妹にとってわかりやすいか?」。探究テーマ発見のきっかけにもなった「小学生の妹」の視点を常に意識し、デザイン・構成が考えられています。
2.達成感を得られる「レベル分け」
▲タイトルの横の「☆」の数でレベル分けされている
タブレットに慣れている児童が途中で飽きてしまうことや、習得の個人差なども考えて、作業はレベル分けされています。レベルを設けることによって、できた時に達成感が得られることも意識しています。
◎レベル分け一覧
【初級】教材を読み込む
・文字を変える
・文字の色と大きさ
【中級】図形を入れる
・写真を入れる
・絵を描く
【上級】リンク機能
3.面白く学べる「クイズ」が題材
教材は「Keynoteでクイズを作る」ことをテーマとしています。Keynoteはプレゼンテーション作成ツールとして知られていますが、プレゼンテーションではなく、なぜ「クイズ」だったのでしょうか。
メンバーの園田さんはこう話してくれました。
園田さん「小学生は面白いと思ったら、自らどんどん先へ進んで学んでくれます。面白いと思って自ら進んで学習できる題材は何かなと考えて、『クイズ』を選びました」
4.1時間の授業で実施できる
先生が実施しやすいように、1時間に収まるように設計したのもこだわったポイントです。1時間で完結できるため、年度途中でも授業計画に組み入れやすく、教員用説明資料、動画もあるため、準備の手間も最小限ですみます。
1.小学生でもわかりやすい「デザイン」
2.達成感を得られる「レベル分け」
3.面白く学べる「クイズ」を題材に
4.1時間の授業で実施できる
以上4点をポイントに教材を作成し、3月には実際に小学生を対象に授業を実施、それを元に教材や授業の構成などのブラッシュアップを重ねました。
小学校での授業を通じて、このプロジェクトが子どもたちのためになる、と実感した3人は、この教材のさらなる普及を目指しています。
この教材を見てみたい、実際に使ってみたい、という方はこちらから教材のダウンロードが可能です。>教材ダウンロード
自分たちにしかできないことは何か? プロジェクトの背景に迫る
ここからは、この教材が作られた、探究プロジェクトの背景をご紹介します。
三田国際学園には、自分の好きなことに焦点をあて、自由に探究することができる、「リベラルアーツ」という授業があります。そこでグループを組んだのが園田さん、初瀬さん、藤野さんの3名(チーム『iPad5.0』)です。当初は、「福岡に修学旅行に行くから、ラーメンの研究をしようか?」などと話していましたが・・・。
小学生にタブレットのクリエイティブな使い方を教えたい!
探究の方向性を決めるアイデアを出したのは、先ほど紹介した、小学生の妹のタブレットの利用状況を見て課題感を持った藤野さん。
藤野さん「私たちは、タブレットを活用すればいろんな表現活動ができて、クリエイティビティを発揮できることを知っています。小学生でももっといろんなことに使えるのに宝の持ち腐れだな、と思いました」
初瀬さん「私たちはタブレット教育を受けることができ、恵まれています。でも小学生も学べば、同じようなことが絶対できる。だから、教材を作って広めたいなと思いました」
自分たちにしかできないことは何か?
グループ内で小学校のタブレット教育の課題を共有し、小学生にわかりやすくタブレットの使い方を教えることは、自分たちにしかできないことで、取り組む価値がある、と意見が一致しました。こうして探究テーマが「小学生向けタブレット教育」に決定し、チーム「iPad5.0」の探究が開始されました。
プロジェクトの展開
プロジェクトはどのように進んでいったのでしょうか。チームがどのように情報収集し、ゴールを定めたのか、指導教員の先生はどのように関わってこられたのかを紹介します。
情報の収集でICT教育と現場について知り、ゴールを定める
探究テーマが決まり、チームが最初に取り組んだのは「情報の収集」です。
「小学校の現場でのタブレット教育の実情は?」「タブレットで何を教えるべきか?」ということを小学校の先生へのインタビューによって明らかにしていきました。その結果、「Keynote」の使い方を教えることが、小学生の積極的な表現活動やクリエイティビティの発揮につながり、題材としてふさわしいのではないか、という結論に至ります。そこから試行錯誤を重ねてできたのが、前半で紹介した教材です。
先生はどのように探究に関わったのか
▲大野智久先生(三田国際学園 GUIDEBOOK 2022 より)
探究をこれから始める学校には、先生がどういう風に指導すればよいか、迷われる先生もいると思います。このプロジェクトでは、指導教員の先生はどのように関わられたのでしょうか。
生徒から見た大野先生の印象
このプロジェクトに指導教員として伴走しているのは、三田国際学園の生物の先生であり、学習進路指導部長でもある大野智久先生です。3人に大野先生の指導や印象について聞くことができました。
藤野さん「私たちがやれることは全力でやらせてくれる、そんな先生です。結果がどうなっても絶対に怒らないし、逆に褒められることもあまりないんですけど、だからこそ私たちも先生の期待をプレッシャーと感じずに、自由に探究することができていると思います」
園田さん「 どうアクションに落とせばいいのか、迷うこともあったのですが、『こういう学校があるよ』とか『ここに連絡してみたら』とアドバイスしてくれたり、背中を押したりしてくださって、とてもありがたかったです」
初瀬さん「先生の人脈の広さに助けていただきました。現状調査での小学校訪問や、小学校での授業など、先生のつながりがあって実現したものでした」
みなさんの言葉から、探究における先生の役割で重要なのは、生徒が思う存分、探究に集中できる「環境」を用意すること、そして、生徒だけでは解決できない課題に対して手を差し伸べることなのではないか、ということが伺えます。
プロジェクトメンバーがこれから学びたいこと
最後に、これから受験に臨む3人に、リベラルアーツを含めた三田国際学園での学習を踏まえて、これからの進路や学びたいことについて聞きました。
園田さん「もともと異文化に興味があるので、異文化を軸に、ICT活用や社会の問題を一緒に探究していきたいと思っています」
初瀬さん「法学部に行きたいです。法律を通じて、AIや自動運転などの先端技術に関わりたいなと思っています」
藤野さん「リベラルアーツの活動を通じて、社会のことなどを調べて分析するのが好きだと気づいたので、マーケティングや経営工学の分野を勉強してみたいです」
探究では何を学ぶか、と同じくらい、「どう学ぶか」が重要です。リベラルアーツの授業での探究的な学びを通して得た自分の強みや、グループでの協働は、きっと3人の将来に活かされるのではないかと思います。
まとめ
この記事では三田国際学園のチーム「iPad5.0」が制作した「小学生向けKeynote講座」について、その内容とプロジェクトの背景をご紹介しました。
身近なところから見つけた「生きた課題」から生まれた教材は、小学校の現場で活用されています。
この教材を見てみたい、実際に使ってみたい、という方はこちらから教材のダウンロードが可能です。>教材ダウンロード