*この記事は経済産業省「STEAMライブラリー未来の教室」のコンテンツ事業者様に、教材の詳しい内容や使い方のアドバイス、STEAM教育に対する思いなどを取材する連載企画です。
株式会社TBSテレビ(以下、TBSテレビ)は多様なジャンルの人気テレビ番組を手がける企業です。コンテンツのテーマは「世界遺産」。人気テレビ番組「世界遺産」のスタッフにより、世界130カ国以上で撮影してきた25年分から厳選された迫力ある美しい映像で、テレビ番組さながらの構成で制作されています。
「世界遺産とは何か」「世界遺産はなぜ誕生したのか」さらに、「身近なものを世界遺産としてユネスコに推薦する方法」などについて探究できる興味深いコンテンツです。
「世界遺産」は、人類の遺産を保存し、後世に伝えていくことにより、平和な世界を実現するという目的があるそうです。世界遺産の探究を通じて、平和を考えるきっかけにもなるかもしれません。
このコンテンツの使い方や込められた想いについて、TBSテレビの堤様とTBSスパークルの小川様に、弊社代表の田中悠樹がお話を伺いました。
堤慶太様 プロフィール
TBSテレビ報道局報道番組部、「世界遺産」プロデューサー。主にニュース・情報番組、ドキュメンタリー番組の制作を担当し、2011年から現職。年に一度開催される、新しい世界遺産を決める国際会議・世界遺産委員会にオブザーバー参加している。
小川直彦様 プロフィール
株式会社TBSスパークル エンタテインメント本部番組制作一部プロデューサー。
TBS『世界遺産4K8K特別編』、BS-TBS『世界遺産4K8Kディレクターズカット版』の他、番組途中で流れる『Canon世界遺産連動コマーシャル』も手がける。
株式会社TBSテレビ
赤坂サカスを拠点に、数々の人気番組を手がけるメディア企業です。今回のコンテンツは、1996年から世界遺産を撮影・紹介している番組『世界遺産』が元となっています。また、TBSテレビでは新たな取り組みも盛んに行われており、赤坂を「世界最高の感動体験を届ける街にする」ための「赤坂エンタテインメント・シティ計画」の実現を目指しています。
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コンテンツについて
タイトル | 映像で学んで創る「世界遺産」〜未来の地球に遺すべきものとは?〜 ・世界遺産って何? ・世界遺産の候補を見つけよう ・世界遺産の推薦書を作成しよう ・企画書と構成台本を作ろう ・番組企画発表会 他、全12コンテンツ |
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学年 | 中学、高校 |
キーワード | 多様性、フィールドワーク、世界遺産、映像制作、絶景 |
URL | https://www.steam-library.go.jp/content/127 |
概要
ユネスコ世界遺産センターと長年パートナーシップを結び、1996年から世界遺産を撮影し放送しているTBSテレビの番組『世界遺産』(毎週日曜午後6時 TBS系で放送)。「最新映像技術で世界遺産を記録し、未来に遺す」とのコンセプトで始まった当番組が放送25周年を迎え、その節目にテレビを飛び出し、探究学習のプログラムをつくりました。
世界130カ国以上で撮影してきた美しく貴重な映像を生かし、そもそも世界遺産とは何か、世界遺産はなぜ誕生したのか、さらに「世界遺産」の創り方などなど、普段の番組とは違う面白さが詰まっています。
膨大な映像アーカイブスから選び抜いた動画と、世界中を取材して得てきた番組スタッフならではの知見を活用し、探究学習のプロ集団a.schoolとコラボレーションして制作した世界で唯一のプログラムです。
テレビ番組を作るイメージでコンテンツを制作
▲迫力ある映像と構成はTV番組「世界遺産」そのもの。(1コマ目:世界遺産って何?より)
(田中)コンテンツを制作される上で、意識したポイントはございますか?
(堤)普段の番組制作では、VTRとスタジオを有機的に構成することを意識しているので、コンテンツ制作でもそれを意識しました。教育現場で言えば、動画と教室ですね。両者をどう有機的に組み合わせるのかを考えました。
テレビの場合、VTRにはこんな情報が入っていて、だからこの後のスタジオではどう展開するのかということを日々考えています。今回のコンテンツでも、VTRではこの情報が入っているから、それを受けた教室ではこういう話をする・しないというのは全部計算しないといけません。ここが一番手間のかかったところです。
(小川)テレビのスタジオ番組を作るようなイメージで作成した感じですね。先生がスタジオの司会役のようになり、「VTRを見てみましょう」と言って、VTRを見終わったら「これについてどうですか」と生徒さんたちに質問したり意見を聞いたりする、というやり取りを想定して流れを考えました。
生徒の関心を引くために工夫されたアバン(掴み)
(田中)学校の先生がスタジオの司会という発想は斬新ですね。司会である先生が、子どもたちの関心を引くための最初の問いとしてどのような例が考えられますか?
(小川)1コマ目の資料に、「ダ・ヴィンチのふたつの作品の「モナリザ」と「最後の晩餐」、どっちが世界遺産でしょう」というクイズを入れています。生徒たちも知っている題材で、入りやすいと思います。
▲1コマ目:世界遺産って何? 資料(学習者用)より。ちなみに正解は教会の壁画である「最後の晩餐」。その理由は、世界遺産は「不動産であること」が条件だから。
(堤)テレビも最初が肝心で、「アバン」というものを作るんです。コンテンツの第一回のアバンでは、世界遺産は決して遠い世界ではなく、皆さんの身近なものが未来の世界遺産かもしれない、という投げかけをしています。
アバン…番組の冒頭やタイトルの前に流れ、視聴者の興味・関心を惹きつける、数十秒ほどのプロローグ映像。
(堤)前半は映像とともに、「世界遺産はこういう風に選ばれますよ」「こういうルールがあります」ということを知ってもらいます。その上で、後半では身近なものが世界遺産の条件に当てはまるか、ということを考える構造になっています。それで、自分たちの町の中でもこれは世界遺産になるかもしれない、というものをピックアップして、実際にユネスコに推薦する形態まで作ってみよう、というのがコンテンツ全体の流れです。これは、とても頭の体操になりますよ。
(小川)堤さんのお話の通り、世界遺産を自分と関係ないアカデミックな話ではなく、身近なものとして考えてもらいたい、という思いがあったので、アバンには「ディズニーランドは世界遺産になれるか?」など、そういうものを入れました。
(田中)面白いですね。アバンのような最初の掴みで困る先生方も多いですが、そこはもう完璧にコンテンツに組み込まれているということですね。
(堤)そうですね。先生が色々と説明しなくても、とにかく「まずこのVTRを見ましょう」って言ってアバンを見れば、何かしらの引っ掛かりがあるように作りました。
コンテンツを使うタイミング
(田中)コンテンツを使うタイミングは、どのように想定されていますか。
▲コンテンツは全12コマ。最初の4コマは共通で、そこからはAかB(それぞれ4コマ)好きな方に分かれる(1コマ目:世界遺産って何?より)
(堤)始まりはいつでも大丈夫です。コンテンツは8コマありますが、後半の4コマはAパターンとBパターンに分かれています。Aパターンは身近なものをピックアップして世界遺産として推薦してみようというもので、Bパターンはミニ番組の構成台本を作ってみようというものになっています。Aパターンをやったあとで、Bパターンをやっても良いんですよ。Aパターンで身近なものをピックアップして世界遺産の推薦書まで作ったら、今度はそれをミニ番組化してみるということも考えられます。
Bパターンは構成台本を作るところまでになっていますが、映像化までできるともっと面白いと思います。実際に世界遺産に申請する時も、映像を付けるんですよ。架空かもしれないけれど自分の町の世界遺産を一つ考えてみて、みんなで推薦書を作って。本物と同じように映像を付けて、何だったらナレーションを付けて、といったところまでやると面白いですね。授業を進める上では、そういう膨らませ方が大事かもしれません。
アウトプットの評価方法
(田中)確かに、そこまで膨らませられたら面白そうですね。先生はそうしたアウトプットを評価することになりますが、どのように評価するのが良いでしょうか?
(堤)アウトプットの評価のやり方は、世界遺産が決まる時のルールにほぼ従いました。世界遺産を決める際にはプレゼンを行い、全会一致で世界遺産になるかならないかが決まります。ならない場合も、「情報照会」「登録延期」「不登録」の決議があります。
これを踏まえ、Aパターンの最後の授業では、それぞれが推薦するものを選んでみんなの前でプレゼンをします。どの決議になるか、みんなでやってみましょう、という形です。
Bパターンの方は、構成台本をみんながプレゼンして、見たいか見たくないか票を投じるという構成にしました。
▲Aパターンのプレゼンを評価する際の4段階の決議。実際に世界遺産を審議する際の決議と同じものになっている。(8コマ目:世界遺産委員会で審議しよう 資料(学習者用)より)
(田中)実際に行われている評価と同じというのは面白いですね。そのほかに、探究のプロセスや、推薦書が正しく書けているかなど、複数の指標を組み合わせるパターンもありそうです。
先生方へのアドバイス
(田中)コンテンツを利用される先生方に伝えたいことがあればお聞かせください。
(小川)世界遺産って本当に長い地球の歴史と人類の文明の歴史みたいなものを全部網羅している話なので、答えが出ない問いばかりなんですよ。でもそういうことも大事なのではないかと思っていて。生徒たちで話し合って何かを出す際に、必ずしも「これだ」という答えにたどり着くことが目的じゃない、ということの材料になれば良いと考えています。
(田中)なるほど。堤さんはいかがですか。
(堤)ガイドを一通り見てやっていただければ、成り立つように作ってあります。特に前半は映像中心で作っているので、単純に見ていて面白くなっています。前半を見て興味が出てくれば、後半は自分達でも身近なところで世界遺産選んで作ってみようかなとか、番組作ってみようかな、といったことが出てくるのではないかと思います。ですので、「映像楽しもうかな」くらいの軽い気持ちで最初見てもらって、乗ってきたら後半をやっていただければ良いと思います。映像も厳選しています。
(小川)はい、なにしろ一番大変だったのは、25年分の世界遺産の映像素材を全部見直すことでした。「こういう話をしたいね」と言って、その元となる映像を引っ張り出してきて作り上げるところは、想像以上にとても大変で。過去のものを色々見られたので、それはそれで楽しかったのですが(笑)
(田中)25年間溜めてきたものの集大成がコンテンツに詰まっているということですね。
(小川)そうです。スタッフも25年前から関わってきたような人間が集まってみんなで作ったので、本当に思いが詰まったものになっています。
お二人が探究していること
(田中)子どもの探究を支える大人も探究する必要があるとよく言われますが、お二人が探究されていることはありますか?
(堤)僕が最近考えているのは、テレビとYouTubeの違いです。最近はYouTubeばかり見て研究しています。テレビとは表現の仕方がかなり違うんです。
(田中)YouTubeをご覧になっていて、テレビでもこういうところを取り入れていかなきゃいけないな、というようなことはありましたか。
(堤)昔、実験的に、一人称ドキュメンタリーというのを作ったことがあります。ドキュメンタリーは通常、客観的な目線で作りますが、自分で自分を撮ってドキュメンタリーを作ることを実験的に行いました。当時は賛否両論がありましたし、テレビではあまりやらない手法です。
ところが、YouTubeって基本的に一人称ドキュメンタリーの要素が強いんですよ。どこかに行って自撮りをしながら自分で喋って、みたいなことをやりますよね。テレビでやれば非常に斬新だと思います。
(小川)YouTubeの世界は「そのまま」を見せるので、それは大事ですよね。よく大食いをする企画があるじゃないですか。YouTubeではカットを割らないですよね。テレビは絶対カットを割るんですよ。全景を見せて寄りを見せて、って。でもYouTubeの世界では、早回しはしてもワンカットで全部を見せますよね。そうして、YouTubeの世界に慣れるにしたがって、表現の文化とか、ものの見方みたいなもの自体が変わってきているのかなという感じはすごくします。
(田中)テレビを作られている方がYouTubeを見ながら探究しているというのは面白いですね。
まとめ
テレビ番組を制作する際の視点を活かして作られたコンテンツです。先生も生徒も映像を楽しみながら、テレビ番組のスタジオのような感覚で授業を行うことができます。
また、身近なところから未来の世界遺産を探そう、というコンテンツは、地域探究とも相性が良い内容ですので、フィールドワークや取材などと組み合わせても面白いのではないでしょうか。
「世界遺産」のスタッフのみなさんの、25年の軌跡も詰まったこのコンテンツ、ぜひご活用ください!
今回紹介したコンテンツ
>映像で学んで創る「世界遺産」 〜未来の地球に遺すべきものとは?〜
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【この記事の監修者】
田中 悠樹|株式会社Study Valley代表
東京大学大学院卒業後、ゴールドマンサックス証券→リクルートホールディングスに入社。同社にて様々な企業への投資を経験する中で、日本の未来を変えるためには子どもたちへの教育の拡充が重要であると考え、2020年に株式会社Study Valleyを創業。
2020年、経済産業省主催の教育プラットフォームSTEAM ライブラリーの技術開発を担当。
2024年、経済産業省が主催する「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」に委員として参加している。