学校の授業でSDGsを教えたいけれど、事例として企業の取り組みを紹介したい
企業と学校がコラボできそうなSDGsの企業事例を探している
私たち Study Valleyは「社会とつながる探究学習」を合言葉に、高校の先生や塾の先生方へ、探究学習を効果的に行えるICTツールの提供や、コンサルティングサービスを行っています。
先生方とお話する中で、冒頭のようなご相談をよくいただきます。
そこでこの記事では、学校の先生向けに企業のSDGs取り組み事例をピックアップしました。
コーヒー栽培やプラスチック容器のリサイクルといった、生徒にとっても身近に感じられるものから、医療現場や地域一体型プロジェクトなど非常に本格的なものまで、学校のSDGs教育で参考になるものばかりです。ぜひ最後までお読みください。
目次
SDGs教育で企業の事例を学ぶメリット
・教科と実社会の関係を意識しやすくなる
・進学や就職を意識しやすくなる
・企業と協力する糸口をつかめる
企業のSDGs取り組み事例を6つ紹介
・沖縄のコーヒー栽培プロジェクト
・プラスチック容器の完全リサイクル
・中古ミシンの修理と販売
・停電時でも医療現場で使えるソーラーライト
・ICT技術を用いた船の安全航行
・農産地の地域一体型プロジェクト
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SDGs教育で企業の事例を学ぶメリット
SDGs教育において、なぜ他の学校ではなく企業の事例を参考にすることが有効なのでしょうか?
ここでは、SDGs教育で企業の取り組みを学ぶメリットを3つ紹介します。
・教科と実社会の関係を意識しやすくなる
・進学や就職を意識しやすくなる
・企業と連携する糸口をつかめる
教科と実社会の関係を意識しやすくなる
企業のSDGsの事例を学ぶメリットとして、教科と実社会との結びつきが見えやすくなる点が挙げられます。
実験や机上の学習だけでは、生徒が「自分たちの勉強が社会にどう役立つのか分からない」と疑問に思うケースも。
一方で企業のSDGsは、事業目的やCSR(企業の社会的責任)と強く結びついており、社会にどのようなインパクトを与えるか精査しながら活動を進めてます。
学校で学んでいることを企業はどのように活かしているのか?実際に社会の役に立っているSDGs活動を見ることで、リアルな肌感をもって学ぶことができるのです。
例えば、化学メーカーの多木化学では安心した飲料水を提供するために、化学品事業の一つである水処理薬剤の開発に力を入れています。
学校の授業で学ぶ化学の知識は、それ単独だと何の役に立つのかわかりにくいものです。しかし、このような企業のSDGs事例を見れば、生徒も自分たちの学びが社会で役に立っていることを実感できます。
SDGsは子供たちにとっても関心が高いトピックだけに、企業の事例は、教科と実社会の関連を知る最適な見本となるでしょう。
進学や就職を意識しやすくなる
引用:【2023年卒】7割以上が、「SDGs」に取り組む企業は、就職活動で「志望度が上がる」と回答。20代社会人よりも、22.6ポイント高い結果に。「SDGs」認知率は、95.9%。
高校で就職する生徒も、進学する生徒も、どのような企業で働きたいか、そのような大学で何を学ぶべきか、は大きなテーマです。
株式会社学情の調査では、2023卒の学生の7割以上が、企業が「SDGs」に取り組んでいることを知ると「志望度が上がる」と回答しています。
生徒たちにとってSDGsへ熱心に取り組む企業は魅力的です。早くから企業のSDGsへの取り組みを知ることで、進学や就職を意識することができ、今後の学習や就職活動にも好影響を与えるでしょう。
企業と連携する糸口をつかめる
企業のSDGs取り組み事例を勉強すると、企業と連携する手がかりを見つけやすくなります。
探究学習において、企業など外部組織との連携は探究成功の鍵となります。企業の取り組み事例を知っていることで、実際に企業と連携を検討する段階や探究の実施においても、スムーズにことを進める助けになります。
実際に企業と高校がSDGs探究を共同で行った例として、佐賀商業高等学校(以下、佐賀商業)を紹介します。
佐賀商業では菅公学生服株式会社(以下、官公学生服)と共同で、制服の端材を活用した商品を企画するという授業を実施しました。
生徒は授業で学んだ商品企画を実践に近い形でプレゼンできたため、よりSDGsに興味が湧いたとコメントしています。
また、授業を担当した官公学生服の社員も、営業職の経験を活かしプレゼンテーションの効果的なノウハウを解説していました。
特に商業や工業などの専門高校は、企業から見ても、専門高校の生徒のスキルが魅力的であったり、採用につながる可能性があるため連携のメリットがあります。また、学校にとっても、生徒が学校で学んだ技術を実践で活かす機会になり、また企業のプロと一緒に探究することでキャリア教育にもなるため、双方にメリットが大きくなります。
企業のSDGs取り組み事例を6つ紹介
今回は企業のSDGs活動の内、高校教育に取り入れやすい事例に絞って紹介します。
・沖縄のコーヒー栽培プロジェクト
・プラスチック容器の完全リサイクル
・中古ミシンの修理と販売
・停電時でも医療現場で使えるソーラーライト
・ICT技術を用いた船の安全航行
・農産地の地域一体型プロジェクト
実際に地元の高校とコラボしたプロジェクトもあるので、じっくり読んでください。
沖縄のコーヒー栽培プロジェクト
事例名 | 沖縄コーヒー |
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企業名 | ネスレ日本株式会社 |
学校名 | 沖縄県立北部農林高等学校 |
SDGs目標 | (8)働きがいも経済成長も (12)つくる責任 つかう責任 |
スイスに本社を置くグローバル食品会社の日本法人「ネスレ日本株式会社」(以下、ネスレ日本)と沖縄県立北部農林高校(以下、農林高校)が協働して、コーヒーを新たな特産品として開発した取り組み事例です。
取り組み内容
ネスレ日本では、使われなくなった農地や空き地を活用、コーヒーの増産を通じて沖縄の一次産業の復興に取り組んでいます。
これはコーヒー産業の活性化だけでなく、農業従事者の高齢化対策や荒地への対応など、複数の地域課題を解決しようという取り組みです。
ネスレ日本は、地元の企業や大学と産学連携でさまざまな取り組みをしてきました。
・コーヒー栽培に適した苗木の種の提供
・コーヒー栽培で必要な技術のサポート
・農学的見地からコーヒー栽培に必要な情報とノウハウの提供
そしてネスレ日本は、これから一次産業を担う人材を育成するために、2021年から農林高校と沖縄コーヒープロジェクトを始めました。以下に具体的な取り組みを挙げます。
・授業・実習で、苗木を校内の農場で栽培
・種子の発芽実験や生育調査
今後も継続的に苗木を育てて、コーヒーの生産拡大と農業従事者の育成に注力するそうです。
参考:
>始まった食品事業者の取組:ネスレ日本株式会社:農林水産省
>沖縄県の未来の農業を担う高校生と共に、コーヒー豆の栽培をスタート!沖縄SVとネスレが推進する「沖縄コーヒープロジェクト」の一環として、沖縄県立北部農林高等学校がコーヒー栽培の授業・実習を開始|ネスレ日本株式会社のプレスリリース
プラスチック容器の完全リサイクル
事例名 | プラスチック容器の素材開発と再利用沖縄コーヒー |
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企業名 | 花王株式会社 |
SDGs目標 | (12)つくる責任 つかう責任 (14)海の豊かさを守ろう (15)陸の豊かさも守ろう (17)パートナーシップで目標を達成しよう |
国内最大手の消費財化学メーカーの「花王」は、環境保全を中心としたSDGs活動を展開しています。
2020年度の実績では、花王グループの工場とオフィス拠点合わせて廃棄物の発生量を39%削減しました。
取り組み内容
花王グループでは、主に環境に優しい容器や材料の開発に力を入れています。
例えば、家庭用洗剤でもお馴染みの「アタック」ですが、内容物の濃度を上げたり、強度をキープしつつ小型化を実現したパックを開発したりしています。その結果、プラスチックの使用量を40%削減しました。
また、詰め替え用商品を開発することで、消費者のエコ意識の向上にも寄与しています。
花王は1887年の創業から、一貫して消費者視点を貫いています。
そして環境意識の高まりから、どうすれば消費者に受け入れられる製品を作ることができるか、日々チャレンジを続けています。
学校のSDGs教育においても、リサイクル活動は最も取り組みやすい活動の一つなので、花王の事例はとても参考になるでしょう。
参考:
>花王サステナビリティ ステートメントの成果と課題
>花王 | プラスチック容器の完全リサイクル化をめざして
中古ミシンの修理と販売
事例名 | 寄付ミシンプロジェクト |
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企業名 | 大映ミシン |
SDGs目標 | (12)つくる責任 つかう責任 |
大映ミシンは、1955年の創業以来、一貫してミシンの仕入れと修理・販売に従事し、地元岐阜県の衣料産業に貢献してきました。
近年ではアパレルメーカーの海外展開に伴い、中国や東南アジアにも販路を拡大しています。
取り組み内容
大映ミシンでは、工業用ミシンの修理に対して高い技術力を有していましたが、地元の事業サポートセンターの提案で家庭用ミシンの販売にも着手。ブログでの集客活動と地道な修理実績が功を奏し、着実に問い合わせが増えたそうです。
しかし、仕入れ先が廃業し新たな取引先を見つけなければいけなくなりました。その際に、SDGsの視点が助けになったのです。
「寄付ミシンプロジェクト」は、使わなくなった家庭用ミシンを寄付してもらい、大映ミシンで修理・販売し、利益の一部で社会貢献活動をサポートするというものです。
ミシンに対する誠実な取り組みが大きな反響を呼び、商社を通じてアフリカや中東など、電力供給が安定しない地域へのミシン販売が実現しました。
SDGsと聞くと、目標があまりにも壮大で中小企業や学校の教育レベルでは、できないことが多いと考える人もいるかもしれません。
しかし大映ミシンの例からも分かるように、自社の強みを活かして愚直な貢献活動をすれば自然と企業価値が上がります。
学校のSDGs教育においても、リサイクルやリユースは取り組みやすい活動なので、大映ミシンのプロジェクトは参考になるのではないでしょうか。
参考:仕入れ先が廃業……まちのミシン屋の危機を救ったSDGs【世界へ販売】 | ツギノジダイ
停電時でも医療現場で使えるソーラーライト
事例名 | ミャンマー:突然の停電でもすぐに点灯!医療現場で活躍するコンパクトソーラーライト寄付ミシンプロジェクト |
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企業名 | パナソニック株式会社 |
SDGs目標 | (3)全ての人に健康と福祉 (7)エネルギーをみんなに そしてクリーンい |
医療機会の提供活動をしている「認定NPO法人ジャパンハート」とパナソニックの協同プロジェクトです。
ミャンマーの病院に、停電時に使えるコンパクトソーラーライトを約3,000台寄付しました。
取り組み内容
ジャパンハートが支援しているミャンマーの「ワッチェ慈善病院」では、毎日十数件の手術が行われています。
しかし、ミャンマーを初めとする発展途上国は電力供給が不安定で、手術中に停電が起こることも少なくありません。
病院には非常電源が設けられていますが、稼働に時間がかかるため、患者はもちろん、手術をする医師も停電で周りが見えない不安に襲われてしまいます。
手術の重要な局面で電気が使えないのは、患者の命に関わる問題です。
そこでパナソニックは、白物家電の開発で培った技術を活かし、手軽に持ち運びができるソーラーライトを提供しました。
万が一停電で真っ暗闇になっても、4台あれば十分な明るさを維持できます。また夜間の巡回で患者を診察する際、看護師からも「明るくて使いやすい」と好評だったそうです。
ハンドライトなど軽い機器の開発と寄付は、学校の教育レベルでも取り組みやすいでしょう。
発展途上国の支援をテーマにSDGs教育を実施したい学校は、ぜひパナソニックの事例を参考にしてみてください。
参考:ミャンマー:突然の停電でもすぐに点灯!医療現場で活躍するコンパクトソーラーライト | 100 THOUSAND SOLAR LANTERNS PROJECT | Panasonic
ICT技術を用いた船の安全航行
事例名 | ICTを活用した安全運航のさらなる高度化 |
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企業名 | 株式会社商船三井 |
SDGs目標 | (9)産業と技術革新の基盤をつくろう (12)つくる責任 つかう責任 (14)海の豊かさを守ろう (17)パートナーシップで目標を達成しよう |
海運事業を展開する「商船三井株式会社」(以下、商船三井)が、船の安全運航を支えるためにICTを活用した事例です。将来起こりうるリスクを想定し、多様な取り組みを行いました。
取り組み内容
海運はどの船においても安全性が欠かせませんが、とりわけ原油等の燃料輸送は、事故が発生した場合の被害が甚大です。乗組員の命を脅かすだけでなく、油漏れによる海洋汚染などのリスクも考えられます。
国際社会で持続可能な開発を実現するために、商船三井はICTに可能性を見出し先進的なプロジェクトを実施しています。
・ICTで船舶や貨物の状況をビジュアル化し、タイムリーな運航情報をクライアントに提供
・船舶から得られる気象・海象のデータを解析し、安全運航とコスト削減を実現
・航路の障害物などをセンサーで検知し、乗組員に操舵に必要な情報を共有する研究を実施
生徒の知見を広げるという意味で、商船三井のような大企業の取り組みを紹介するのも、SDGs教育の一つの手段といえるでしょう。
参考:Our Vessel & Value Creation|株式会社商船三井
農産地の地域一体型プロジェクト
事例名 | 農産地の地域一体型プロジェクト「アグリビジネスユートピア」構想 |
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企業名 | 有限会社ワールドファーム |
SDGs目標 | (8)働きがいも経済成長も (9)産業と技術革新の基盤をつくろう (13)気候変動に具体的な対策を |
有限会社ワールドファーム(以下、ワールドファーム)は、茨城県で生鮮野菜の栽培と加工販売を行っている会社で、経済産業省の「SDGsに取り組む先進的な中小企業の事例」にも取り上げられています。
取り組み内容
ワールドファームでは、農産業を基軸に地方創生を促進する「アグリビジネスユートピア」を構想しており、様々な取り組みを実施しています。
・加工野菜の安定供給と、売上高に占める輸送費の圧縮
・自社工場の保有による人材の稼働率向上と、包装コストの削減
・全国に農地、人材を保有することによる繁忙期の人材配置の簡素化
・労働環境改善による生産性向上
・社員の独立奨励、パートナーシップ拡大
取り組みの結果、ワールドファームでは2016年から2019年まで16.73%の年成長率を実現したり、若い人材の安定雇用ができたりと、高い成果を出しています。単に社会貢献としてのSDGs活動を行うだけではなく、経営的にも成功を勝ち取っていることがこの事例の特徴です。
学校教育においては社会貢献や福祉的な観点が重視されがちですが、このようにSDGsに後見しつつ、企業活動にも良い影響がある事例も、積極的に紹介してみてはいかがでしょうか。
参考:【茨城県】有限会社ワールドファーム ~儲かる農業で次世代の日本の農業の担い手を育成、輸入野菜の50万トン国産化を目指す~
まとめ
この記事では、学校の先生がSDGs教育で企業の取り組みを参考にするメリットと、実際の企業の取り組み事例を紹介しました。
繰り返しになりますが、学校だけでSDGs教育を実施しても、教えられる内容には限りがあります。実社会との結びつきも意識できないまま闇雲に取り組んでも、生徒のモチベーションは上がらないかもしれません。
しかし、企業の事例を学んで実践的なSDGs教育を提供すれば、生徒は飛躍的に成長するでしょう。更に企業とのコラボも実現すれば、より生徒の学習意欲も向上するはずです。
企業の取り組みを学校のSDGs教育に活かしたい人は、ぜひこの記事を参考にしてください。
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【この記事の監修者】
田中 悠樹|株式会社Study Valley代表
東京大学大学院卒業後、ゴールドマンサックス証券→リクルートホールディングスに入社。同社にて様々な企業への投資を経験する中で、日本の未来を変えるためには子どもたちへの教育の拡充が重要であると考え、2020年に株式会社Study Valleyを創業。
2020年、経済産業省主催の教育プラットフォームSTEAM ライブラリーの技術開発を担当。
2024年、経済産業省が主催する「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」に委員として参加している。