CSR活動のKPIってどうやって設定するの?
CSR活動のKPIは抽象的になってしまう…
2000年以降、CSRに注目する企業が増え続けています。
CSRとは、企業が社会に対して負う責任を指します。企業は利益を追求するのみならず、従業員や消費者、さらに環境などに対して責任を負うべきであるという考え方です。英語では「Corporate Social Responsibility(企業の社会的責任)」と言い、この頭文字をとって「CSR」と呼ばれています。
最近ではここから一歩進んで、企業や事業の強みを生かしたCSR活動を行うことで、企業のブランディングへつなげたり、クライアントや従業員を含めたステークホルダー全体の利益へつなげようとする「攻めのCSR」という概念も浸透しつつあります。
「ESG投資」の盛り上がりもこの動きを後押ししており、新たにCSR活動を始めたい企業、すでに行っているCSR活動を見直して、企業価値を高めようとする会社が増加しています。
ここで重要になるのが、CSR活動の「KPI」です。
しかしCSR活動のKPIは、売上向上のためのKPIと比べて抽象的になりやすいという課題があります。そこでこの記事では、CSR活動におけるKPIの設定方法について解説します。さらに、定量的に評価しやすいCSR活動の選択肢として、教育CSRを紹介します。
目次
◯KPI・KGIとは?
・KPI・KGIの設定が重要な理由
◯CSR活動のKPI設定はつまずきやすい
◯KPIの設定方法
・1. KGIを設定する
・2. KGIの達成に必要な要素を洗い出す
・3. 2を基にKPIを定める
・4. KPIツリーを作成
・KPIの設定で意識すること
◯企業のCSR活動で設定されたKPIの事例
・SOMPOホールディングス株式会社
・東洋インキSCホールディングス株式会社
・日清紡ホールディングス株式会社
◯CSR活動におけるKPI設定の実態は厳しい
・教育CSRという選択肢
*Study Valleyでは探究学習支援ツール「TimeTact」によって、企業パートナーを求めている学校と、教育CSR活動を行いたい企業をマッチングしています。学習の成果や成長がシステム上で可視化されるため、CSRで難しいKPI設定も容易です。企業の強みを生かして学校教育に参加したい、教育CSRにご興味がある、という企業担当者の方はお気軽にお問合せください。
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KPI・KGIとは?
まずは、「KPI」やKPIと関連する「KGI」の意味を確認しましょう。それぞれの用語の意味は、以下の通りです。
KPI・・・目標達成のためのプロセスを定量的に評価するための指標
KGI・・・最終目標を定量的に表した指標
KPIは「Key Performance Indicators」の略で、「重要業績評価指標」とも呼ばれます。一方、KGIは「Key Goal Indicator」の略で、日本語にすると「重要目標達成指標」となります。
両者の違いは、KPIは中間目標であり、KGIは最終目標であるという点です。以下の図には、KPIとKGIの具体例がまとめられています。
出典:KPI・KGIとは?わかりやすい事例と注目の「OKR」との違いも解説!
このようにKPIは、最終的なゴールであるKGIの達成に必要なプロセスを、定量的に示した指標であるとわかります。
KPI・KGIの設定が重要な理由
KPIやKGIの設定は、以下の理由で重要です。
・目標を可視化するため
・進捗を適切に管理するため
目標を可視化するため
KPIやKGIを設定すると、事業の最終目標やそこに至るまでのプロセスを具体的に認識することができます。
達成すべき目標が可視化されれば、組織として目指す方向が明確になるため、チームのモチベーション向上にも繋がります。
進捗を適切に管理するため
KPIやKGIの設定により目標が定量的に示されるため、目標の進捗管理を適切に管理できます。
進捗が遅れている部分は数値によって一目でわかるため、素早く対策したり、目標を修正したりすることが可能です。
CSR活動のKPI設定はつまずきやすい
CSR活動では、KPIの設定がうまくいかないことが多々あります。その要因として、CSR活動では、KGIが抽象的になりやすいということが考えられます。
売上に関するKGIの場合、先ほどの図の「レストランの売上年間50%アップ」のように具体的なKGIを設定することができます。
一方、CSR活動では、KGIが抽象的なものになりがちです。例えば、「環境課題の解決に貢献する」というKGIが設定されており、どのような状態ならばKGIが達成されたと言えるのかが曖昧な場合があります。
そして、KGIが抽象的であるために、KPIも曖昧なものになってしまいます。先ほどの「環境課題の解決に貢献する」というKGIに対し、「オフィス周辺のゴミ拾いを行う」というKPIを設定したとします。しかし、ゴミ拾いを行ったことでKGIの「環境課題の解決」にどれほど貢献できたのかは、判断することが難しいのではないでしょうか。
このように、KPIの先にあるKGIが抽象的になりやすく、その結果としてKPIも曖昧なものになってしまうのです。
KPIの設定方法
それでは、KPIはどのように設定すれば良いのでしょうか。KPIを設定する際の流れは、以下の通りです。
1. KGIを設定する
2. KGIの達成に必要な要素を洗い出す
3. 2を基にKPIを定める
4. KPIツリーを作成する
1. KGIを設定する
まずは、最終目標であるKGIを設定します。わかりやすい数値を示し、達成可能な目標にすることがポイントです。
例えば、「売上を◯%アップさせる」などと定量的に評価できるようにします。
2. KGIの達成に必要な要素を洗い出す
KGIの設定後は、達成のために必要な要素を洗い出します。
「店舗の売上を◯%アップさせる」というKGIの場合、「来客数の増加」「客単価の向上」「リピート率アップ」などがKGI達成に必要な要素として考えられます。
3. 2を基にKPIを定める
洗い出したKGIの達成に必要な要素を踏まえ、KPIを設定していきます。
先ほどの店舗売上の例で考えると、次のようなKPIを設定することができます。
・来客数の増加→ポスティングによる来客の成功率を◯%上げる
・客単価の向上→セットメニューの売上を◯アップさせる
・リピート率アップ→ポイントカードを導入する
4. KPIツリーを作成する
KGIとKPIを設定したら、KPIツリーを作成します。KPIツリーとは、以下の図のようなものです。
出典:【事例】KPIツリーの作成方法と業種別事例をご紹介します
KPIツリーを作成することで、取り組んでいる業務がどのようにKGIと繋がっているのかが一目でわかります。
KPIの設定で意識すること
KPIを設定する際は、「SMART」と呼ばれる要素を意識することが大切です。「SMART」とは、「Specific(明確性)、Measurable(計量性)、Achievable(達成可能性)、Relevant(関連性)、Time-bound(期限)」の頭文字をとった用語です。
それぞれの要素の具体的な内容は、以下の通りです。
- Specific(明確性)
明確・具体的であるという要素。抽象的なものではなく、組織で認識を揃えることができる具体的な指標にする。 - Measurable(計量性)
達成度を数値として測定できるという要素。数値で測ることができるKPIならば、KGIにどれほど近づいているのかを明確に把握できる。 - Achievable(達成可能性)
達成可能であるという要素。理想論に終始するのではなく、実現可能性がある目標にする。 - Relevant(関連性)
KGIや企業全体の目標と関連しているという要素。最終目標とずれたKPIを設定しないよう注意する。 - Time-bound(期限)
達成の期限が設定されているという要素。期限を設定し、KPIの取り組みが後回しにされないようにする。
企業のCSR活動で設定されたKPIの事例
ここでは、CSR活動において企業が設定しているKPIの事例を紹介します。
いずれの企業も、KPIを定量的に設定しており、達成度を測定しやすくなっています。
SOMPOホールディングス株式会社
SOMPOホールディングス株式会社は、2020年度までのCSR活動に関する情報をホームページで公開しています。以下は、公開されているCSR活動の情報を抜粋し、まとめたものです。
課題 | 目指す姿 | 2020年度のKPI |
地球環境問題への対応 | 気候変動への適応と緩和、生物多様性の保全などにバリューチェーンで対処し、新しいソリューションを提供することで、持続可能な社会の実現に貢献している。 | ・CO2排出量(tCO2)を2019年度比で1.6%削減する。 ・電力使用量(kwh)を2019年度比で1.6%削減する。 |
ダイバーシティの推進・啓発 | 基本的人権を尊重し、多様な個性を認め、ダイバーシティを 推進することで、社員を含めたステークホルダーが活躍できる 社会の実現に貢献している。 | 女性管理職比率2020年度末30%に向けた取組みの継続 |
出典:グループCSR-KPI(重要業績評価指標)2020年度実績
東洋インキSCホールディングス株式会社
以下は、東洋インキSCホールディングス株式会社が公開しているCSR活動の情報を抜粋し、まとめたものです。
重要課題 | 2021~2023年度のKPI・目標 |
革新的技術を通じて環境と共生する | ・CO2排出量の削減(国内)67,500t (2020年度比12%減) ・エネルギー原単位の改善(海外)165.0L/t(2020年度比3%減) ・化学物質排出量の削減(国内)62.2t(2020年度比10%減) |
サプライチェーンと共存共栄を図り、ステークホルダーの信頼に応える | ・調達先選定基準に基づく国内主要サプライヤーの評価の実施(評価実施率100%) ・主要サプライヤーに対するサステナビリティ調査の実施(調査実施率100%) |
日清紡ホールディングス株式会社
以下は、日清紡ホールディングス株式会社が公開しているCSR活動の情報(2019年度〜2021年度)を抜粋し、まとめたものです。
重要課題 | 重要活動項目 | KPI |
環境・エネルギー分野の貢献 | 環境経営の推進 | ・生物多様性保全活動の海外での展開を、5事業所以上で行う ・リサイクル率90%以上 |
安心・安全な社会づくり | 労働安全衛生活動の推進 | 重大災害0件 |
CSR活動におけるKPI設定の実態は厳しい
ここまで、CSR活動におけるKPI設定の重要性や方法について解説しました。特に大切なのは、KPIを具体的・定量的に設定することでした。
しかし、CSR活動のKPIを具体的・定量的に行うことは難しいのが実態です。取り組みやすいCSR活動の多くは、定量的に評価しにくいからです。
例えば、CSRの一環としてNPO団体などへの寄付を行うケースがあります。しかし、寄付を行ったことで、企業としての目標や寄付先にどれほど貢献できたのかはわかりにくいでしょう。
同様に、ボランティア活動や社内研修なども効果を測定しにくい分野です。効果を測ることができる手段として、実施回数や事後アンケート等が考えられます。しかし、それらのみから、KGIに対するインパクトを判断するのは難しいです。
このように、寄付やボランティア活動などの、取り組みやすいCSR活動はKPIの設定が難しい場合が多いです。だからといって、社会貢献度の高い商品を新たに開発したり、社内制度を改革したりするには資金や人手に余裕がないという企業も多いのではないでしょうか。
教育CSRという選択肢
「もっと評価しやすいCSR活動を行いたい」と考えている企業におすすめなのが、「教育CSR」です。
教育CSRとして考えられるのは、学校での出前授業、教材やカリキュラムの開発・提供、職場体験プログラムの実施などです。
ここからは、なぜ教育CSRがおすすめできるのかについて解説していきます。
教育CSRがおすすめの理由
・EdTechツールによって教育活動の成果を可視化しやすい
・探究学習では企業の教育参加が求められている
EdTechツールによって教育活動の成果を可視化しやすい
echツールを用いることで、教育活動の成果が可視化されます。このため、教育CSRでは具体的なKPIを設定し、達成度を定量的に測定することができます。
文部科学省の調査によると、全国の公立小学校の96.1%、中学校の96.5%が、全学年または一部の学年で学習用の端末を活用しています。また、株式会社旺文社の調査でも、高等学校におけるICT機器の導入・使用率が伸びていることが明らかになっています。
このように、ICT機器を用いる子どもが増えており、EdTechツールを用いて生徒の学習成果を可視化しやすい状況にあります。EdTechツールが整備された学校で教育活動に参加することで、教育CSR活動の成果を定量的に評価することができます。
探究学習では企業の教育参加が求められている
教育CSRの中でも、特に企業が参加しやすいと考えられるのが「探究学習」です。
探究学習とは、生徒が自ら設定した問題について、情報を集めて分析し、答えを導くプロジェクト型の学習です。
探究学習では、生徒が実社会の課題に取り組むことが重視されています。このため、企業の関係者などの外部との連携が期待されています。
したがって、学校は探究学習における企業との連携を求めており、企業が教育CSRの一環として参加することが歓迎されやすいと考えられます。
まとめ
CSR活動におけるKPIの設定方法や、おすすめのCSR活動として教育CSR、特に探究学習を紹介しました。
探究学習を通した教育CSRは、定量的な評価が可能であり、かつ企業の参加を求める学校のニーズとマッチします。
明確な目標設定や評価が難しいCSR活動の新たな選択肢として、探究学習を通した教育CSRを検討されてみてはいかがでしょうか。
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【この記事の監修者】
田中 悠樹|株式会社Study Valley代表
東京大学大学院卒業後、ゴールドマンサックス証券→リクルートホールディングスに入社。同社にて様々な企業への投資を経験する中で、日本の未来を変えるためには子どもたちへの教育の拡充が重要であると考え、2020年に株式会社Study Valleyを創業。
2020年、経済産業省主催の教育プラットフォームSTEAM ライブラリーの技術開発を担当。
2024年、経済産業省が主催する「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」に委員として参加している。