探究学習

困難を極める新卒採用。企業が探究学習に活路を見出すべき4つの理由とは?

優秀な人材に出会えない…
採用した新卒がすぐに辞めてしまう。

人手不足にも関わらず、少子化により若者は減少、新卒採用のマーケットはますます売り手市場となっていき競争は激化しています。​​こうした状況の中、冒頭のようなお悩みを抱える企業も多いのではないでしょうか。

この記事では、新卒採用の悩みを解決するために、探究学習が役立つということについて解説します。

探究学習とは、生徒が自ら設定した問題について、情報を集めて分析し、答えを導くプロジェクト型の学習です。実社会の課題に取り組むことが重視されているため、企業の関係者などの外部との連携が期待されています。

探究学習において企業と学校が連携するメリットは、学校側だけにあるわけではありません。企業にとっても、若者に興味を持ってもらえるきっかけとなり、採用の課題解決に繋がります。

それでは、現在の新卒採用はどのような課題を抱えているのか、その課題に対して探究学習がなぜ役立つのかを見ていきましょう。

目次
新卒採用を取り巻く環境と課題
・企業が選ばれる時代
・リードタイムの長期化
・Z世代の企業選定基準の変化
・絶えない早期離職

企業が探究学習に携わるメリット
・自社をPRできる
・優秀な人材を早期に発見できる
・ミスマッチの防止に繋がる
・業界の将来を担う人材の育成に繋がる

探究学習に携わる際の注意点
・生徒の成長や先生方のニーズを考慮する
・一方的な企業PRにならないようにする

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新卒採用が抱える課題

まずは、新卒採用が抱える課題について整理します。

以下は、新卒採用を取り巻く環境の特徴と課題です。

・企業が選ばれる時代になり獲得競争が激化している
・リードタイムが長期化している
・Z世代の企業選定基準の変化へ対応する必要がある
・絶えない早期離職への対応を迫られている

企業が選ばれる時代になり獲得競争が激化している

現代は求職者が企業を選ぶのではなく、企業が求職者に選ばれる時代となっています。

日本の生産年齢人口は減少が続いています。2015年の生産年齢人口は7,592万人だったのに対し、2056年には5,000万人を割ると予想されています。日本全体の人口に占める生産年齢人口の比率も、低下し続ける見込みです(下図)。

*生産年齢人口・・・生産活動の中心となる、15歳以上65歳未満の人口。

引用:>2050年までの経済社会の 構造変化と政策課題について

このように、生産活動の主な担い手となる層が減っているため、企業の人手不足はますます深刻になります。しかし、多くの人材を採用しようとしても、母集団となる若者の人口も減り続けます。

人手不足に悩む多くの企業が少ない若者を取り合う構図が生まれ、採用のマーケットは売り手市場となっています。したがって、求職者に選ばれるためにも、企業をより効果的にアピールすることが求められています。

リードタイムが長期化している

早期から就職活動を始める学生が増えており、採用までのリードタイムが長くなっています。経団連は、採用活動の日程を次のように定めています。

・広報解禁日:大学3年次の3月(=大学4年生に進級する直前)
・選考解禁日:大学4年次の6月

一方、2020年卒の学生の40%は、大学3年次の6月からインターンシップの情報を探し始めています(ディスコ株式会社)。

以上から、採用情報の解禁や選考が開始される1年近く前から就職活動を行っている学生が多いとわかります。

就職活動が早期化している背景には、学生と企業双方のニーズがあります。

学生のニーズは、業界や企業についての理解を深めたいというものです。また、インターンシップで実績を作り、企業にアピールしたいという意図もあります。

一方、企業としては早くに優秀な学生を見極め、囲い込みたいとの思いがあり、このように考える企業では、インターンシップが実質的に選考の役割を果たしている場合もあります。

就職活動が長期化する中、早い段階で学生との接点を持ち、その後の選考ルートに乗ってもらう必要があります。このため、インターンシップ等の実施により早めに認知を獲得することが重要になります。

Z世代の企業選定基準の変化へ対応する必要がある

現在就職活動を行う生徒・学生は、「Z世代」と呼ばれる世代です。

Z世代・・・1995年~2010年に生まれた人々(2022年時点で12~27歳)日常的にインターネットに触れてきた世代である。

Z世代が企業を選ぶ際の基準には、次のような特徴があります。

・職場の環境や仕事内容を重視している
・社会貢献度を重視している

企業もZ世代独特の価値観を理解して、採用に臨む必要があります。Z世代の特徴をもう少し詳しく解説しましょう。

職場の環境や仕事内容を重視している

2022年卒の学生へのアンケートによると、会社選びで重視することの上位は「社風が合うこと」「自分のやりたい仕事ができること」です(下図)。

引用:​​>【22卒就活調査】会社選びで重視することは「社風が合うこと」

給与よりも、職場の環境や仕事内容を重視していることがわかります。したがって、企業の雰囲気や仕事内容の魅力を、いかに理解してもらうかが新卒採用成功の鍵となります。

社会貢献度を重視している

就職先企業に決めた理由として、2019年~2021年卒のいずれの代でも「社会貢献度が高い」が一位となっており、それを判断する要素としてSDGsへの取り組みが挙げられています(株式会社ディスコ)。

Z世代の価値観を踏まえ、「SDGs」や「CSR」のような自社事業の社会貢献を具体的に示すことが、新卒採用で重要になります。

絶えない早期離職をどう防ぐか

ここまで新卒採用を取り巻く環境について解説しました。しかし、現在の環境に合った採用ができている企業ばかりではなく、早期離職の問題が深刻です。

2017年では、就職後3年以内での退職率は高校卒で39.5%、大学卒で32.8%です(厚生労働省)。

また、初めて勤めた会社を辞めた理由として、以下が上位に挙がっています。

高校卒
1.人間関係がよくなかった
2.労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった
3.賃金の条件がよくなかった

大学卒
1.労働時間・休日・休暇の条件が良くなかった
2.人間関係が良くなかった
3.賃金の条件がよくなかった

このように、就職後3年以内で退職する新卒者は3割以上おり、人間関係や労働条件を理由に辞めるケースが多くあります。

採用が難化している現状では、追加採用のコストや労力も増加しているため、早期退職の深刻度は高まっていく一方です。

労働条件をすぐに変えることは難しいかもしれません。しかし人間関係については、採用の段階で求職者と社員との相性を丁寧に確認することで、ミスマッチを回避することができるはずです。

企業が探究学習に取り組むべき理由

新卒採用が抱える課題について解説しました。新卒採用は難しい状況に置かれており、早期離職の問題も深刻です。

こうした中、探究学習が新卒採用成功に役立つ可能性があります。ここからは、企業が学校で探究学習に携わるメリット及び注意点について説明します。

探究学習とは

探究学習は、生徒が自ら問題を設定し、情報を集めて分析し、導いた答えを表現する学習です。「課題設定→情報の収集→整理・分析→まとめ・表現」という過程を繰り返して学習を進めます。2022年度より、高等学校にて「総合的な探究の時間」として必修化されます。

探究学習は、企業と連携して行われるケースも見られます。企業の事業内容をテーマにして学習を設計したり、生徒にアドバイスを行ったりと、探究学習に企業が入る余地は多くあります。

企業による探究学習への携わり方

探究学習に携わるといっても、企業の負担が大きいのでは?などの心配もあると思います。しかし、探究学習への関わり方は以下のものが考えられ、多様なパターンがあります。

【探究プロセス】 【関わり方】 
総合的なサポート カリキュラムや教材作成から関わる(1学期~) 
テーマへの興味喚起など 講師として講演(1日~) 
テーマへの興味喚起、情報収集など 施設見学や体験に協力する(1日~) 
情報の収集、整理・分析 インタビューを受ける(1日~) 
整理・分析、まとめ 来校・オンライン・メールなどで生徒からの質問に答える(1日~) 
まとめ・表現 実験器具や設備を貸す 
まとめ・表現 論文のアドバイザーとなる 
まとめ・表現 発表会に参加してフィードバックを行う 

このように、探究学習には多様な方法で関わることができます。探究学習に一貫して携わることも、一部に協力することも可能です。

CSR活動や企業のイメージアップ、地域貢献などの観点から、自社に合う形で協力する企業が増えています。

詳細:>【前編】徹底解説!探究学習の外部連携に必要なことは?連携のパターン、メリットについて

企業採用担当が探究学習に携わるメリット

それでは、企業(特に採用担当)が探究学習に携わることには、採用活動に対してどのようなメリットがあるのでしょうか。

主なメリットは以下の通りです。

・自社をPRできる
・優秀な人材を早期に発見できる
・ミスマッチの防止に繋がる
・業界の将来を担う人材の育成に繋がる

自社をPRできる

自社の事業内容や理念に関連するテーマで探究学習を設計すれば、生徒に自社の魅力をPRすることができます。

例えば、東京女子学園中学校・高等学校では、日本電気株式会社の協力のもと、「AIの先に実現したいのはどんな「未来」か」というテーマで探究学習を行っています。

詳細:>東京女子学園中学校・高等学校 探究学習

企業に関連するテーマに触れてもらい、そのテーマに取り組むことの面白さを生徒に伝えます。テーマへの興味を喚起できれば、企業への関心も高めることができます。

特に、地元での採用が大部分を占める地域密着型の企業にとって、地元の生徒・学生との結びつきを強めることは採用に直結する可能性があります。

優秀な人材を早期に発見できる

探究学習で生徒と関わることは、優秀な人材の早期発見に繋がります。

探究学習では、最終的な成果のみならず、そこに至るまでの過程における学びも重視されます。このため、探究学習の一連の流れに伴走すると、それぞれの生徒がどのように思考しているのかがわかります。したがって、思考力が高い生徒や発想力が優れた生徒を見つけることができます。

さらに、探究学習はチームで行われることも多いため、生徒のチームでの働きも確認することができます。リーダーシップを発揮できる人材、話を引き出すのが得意な人材など、自社に必要な立ち回りができる人材を見極められます。

このように、探究学習に携わることで、自社に必要な能力を持つ生徒の発見が期待できます。その生徒が高卒で就職しないとしても、早めに接点を持っておくことには大きなメリットがあります。高校卒業後に、インターンシップなどの機会で生徒から接触しに来てもらえる可能性があります。

ミスマッチの防止に繋がる

探究学習を通して企業と生徒が密に関わることで、採用の可能性まで見据えると、採用時のミスマッチ防止が期待できます。

探究学習には、生徒と直接コミュ二ケーションを取る機会が豊富にあります。例えば、情報収集をしている生徒から質問を受けたり、最後のまとめに対してフィードバックを行ったりする場面が考えられます。

このようなコミュニケーションを通して、生徒と社員が互いの人柄を掴むことができるため、相互理解に繋がります。

早期離職の理由では、人間関係が上位に挙げられていました。探究学習を通して生徒と社員が互いの人柄を理解することができれば、人間関係のミスマッチを防ぐことができるのではないでしょうか。

業界の将来を担う人材の育成に繋がる

企業が探究学習に携わることで、業界の将来を担う人材を育成することもできます。

株式会社セガは、​​福岡工業大学附属城東高等学校にて「ぷよぷよプログラミング講座」を実施しています。生徒は「ぷよぷよ」のプログラミングを学び、オリジナルのゲームを制作をします。制作後はプレゼンを行い、セガのプロデューサーがオンラインにて講評します。

この講座について、福岡工業大学附属城東高等学校の教員は、​​「ゲーム業界や職種への理解が深まり、自分がどのように働きたいのか、自身の将来と向き合うことができ、目標を定めるきっかけになったように思います」と話しています。教諭の感想からは、企業と提携した学習は、キャリア教育としての成果もあげられることがわかります。

セガの取り組みはNHKニュースにも取り上げられ、以下のように報道されました。

おもちゃ・電機メーカーも提供 IT人材育成にも期待
ほかにも、おもちゃメーカーや電機メーカーなどがプログラミング教材を提供しています。

販売につなげたいというビジネス上のねらいはもちろんありますが、子どもたちに会社や製品に興味を持ってもらい、将来の業界を担うIT人材を増やしたいという思いもあるようです。
引用:プログラミング教材 “身近さ”がカギ(NHK NEWS おはよう日本 おはBiz)

このように、企業による探究学習は、生徒が業界の仕事内容や求められる力について学ぶ機会になり、業界の将来を担う人材を育てることに繋がります。

詳細:
>福岡の高校生が「ぷよぷよプログラミング」の改編に授業で挑戦 プロデューサーらに斬新アイデアを発表
>SEGA × JYOTO ぷよぷよ日本一のぴぽにあ選手来校!

探究学習に携わる際の注意

企業が探究学習に携わることには、多くのメリットがあります。

ただし、次の点には注意する必要があります。

・生徒の成長や先生方のニーズを考慮する
・一方的な企業PRにならないようにする

生徒の成長や先生方のニーズを考慮する

探究学習が自社のPRにつながることは間違いありませんが、第一の目的は生徒の教育です。企業として設計する探究学習によって、生徒にどう成長してほしいのかをきちんと考える必要があります。

ただし、企業の側だけで考えることは難しいため、先生方ときちんとコミュニケーションを取ることが重要です。関わる生徒は今何を学んでいて、どのような成長が期待されているのかを、先生方からしっかりとヒアリングしましょう。

一方的な企業PRにならないようにする

探究学習が一方的な企業PRにならないよう注意しましょう。

専門用語を並べた講義を行い、自社のパンフレットを配布するだけという形式では、単なるPR・知識提供で終わってしまいます。

一つ目の注意点とも重なりますが、あくまでも主役は生徒であることを意識する必要があります。自社について伝えつつも、生徒の学びになるように学習を設計することが大切です。

まとめ

新卒採用に探究学習が役立つということについて解説しました。

新卒採用における探究学習のメリット

・ミスマッチの防止に繋がる
・自社をPRできる
・優秀な人材を早期に発見できる

生徒の学びを大切にしながら、探究学習を採用活動に活かしてみてください。


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代表:田中
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【この記事の監修者】

田中 悠樹|株式会社Study Valley代表

田中 悠樹|株式会社Study Valley代表

東京大学大学院卒業後、ゴールドマンサックス証券→リクルートホールディングスに入社。同社にて様々な企業への投資を経験する中で、日本の未来を変えるためには子どもたちへの教育の拡充が重要であると考え、2020年に株式会社Study Valleyを創業。
2020年、経済産業省主催の教育プラットフォームSTEAM ライブラリーの技術開発を担当。
2024年、経済産業省が主催する「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」に委員として参加している。