探究学習

探究の全体計画作成方法とそれに欠かせない7つの要素

探究学習の全体計画はどう作成すれば良いの?
参考になる全体計画の事例を知りたい。 

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その中で、先生方から冒頭のようなご相談をよくいただきます。

そこでこの記事では、探究学習の全体計画の作成手順や事例についてまとめました。  

目次
・全体計画に必要な7つの要素
・全体計画の作成方法
・全体計画の事例

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全体計画に必要な7つの要素

探究学習の全体計画は、探究学習における教育活動の基本的な在り方をまとめるものです。学習指導要領に示された「総合的な探究の時間」の目標を、各学校の実践として具体化することが目的です。
全体計画は、日々の実践において活用しやすいことが大切であり、簡潔で見やすいものに作成することが求められます。

全体計画を作成する際は、以下の7つの要素について検討する必要があります。

必須の要件として記すもの
①探究学習において目指す目標
②育てようとする資質や能力及び態度
③学習内容(学習対象や学習事項など)

基本的な内容や方針等を概括的に示すもの
④学習活動(実際に生徒が行う活動)
⑤指導方法
⑥学習の評価
⑦指導体制

①や②は学校単位で定めますが、③〜⑦は課程や学科ごとに定めても良いでしょう。
必要な要素が含まれていれば、全体計画の様式は自由なもので構いません。
以下の図は、7つの要素を含めた全体計画の様式の例です。
(要素の表現がやや異なる部分がありますが、番号は対応しています。)

出典:今、求められる力を高める総合的な学習の時間の展開(高等学校編) 第2編第1章p.73

全体計画の必須の要件となる3要素

先ほど紹介した通り、以下の3要素は全体計画に必須の要件として記すものです。

必須の要件として記す3要素
①探究学習において目指す目標
②育てようとする資質や能力及び態度
③学習内容(学習対象や学習事項など)

「①探究学習において目指す目標」は、学習指導要領に示された「総合的な学習の時間」の第1の目標を踏まえて作成します(※)。
「②育てようとする資質や能力及び態度」は、①で定めた目標を分析し、具体化したものです。
「③学習内容」では、①で定めた目標を実現するために適切だと考えられる学習課題等を示します。

総合的な探究の時間 第1の目標
(1) 探究の過程において、課題の発見と解決に必要な知識及び技能を身に付け、課題に関わる概念を形成し、探究の意義や価値を理解するようにする。

(2)実社会や実生活と自己との関わりから問いを見いだし、自分で課題を立て、情報を集め、整理・分析して、まとめ・表現することができるようにする。

(3)探究に主体的・協働的に取り組むとともに、互いのよさを生かしながら、新たな価値を創造し、よりよい社会を実現しようとする態度を養う。

出典:高等学校 学習指導要領(平成30年告示)p.475

3要素が重要である理由

全体計画において必須の要件となる3要素は、次の3つの理由から重要です。

1.実社会での生活に活きる力の育成が求められるから
2.現代社会の課題(国際理解、情報など)を学ぶことが期待されるから
3.周囲との関係の中で将来どのように生きるのかを考えることが求められるから

まず、総合的な探究の時間では、実社会での生活に活きる力の育成が求められるからです。探究学習を通して生徒が身につける能力には、課題発見・解決能力、論理的思考力、コミュニケーション能力などがあります。これらは、実社会において求められる能力です。「②育てようとする資質や能力及び態度」を明確にすることで、実社会で活きる能力のうちどれを育成するのかをはっきりと意識することができます。

2つ目は、総合的な探究の時間では、現代社会の課題(国際理解、情報など)を学ぶことが期待されるからです。現代社会の課題は近年深刻さを増しているものが多く、将来を担う生徒が避けることのできないものです。このため、生徒が課題に当事者意識を持ち、解決のために行動することが求められます。そこで、「③学習内容」をしっかりと定め、生徒が現代社会の課題に向き合い、解決に向けた取り組みを行えるようにすることが大切です。

3つ目は、総合的な探究の時間において、周囲との関係の中で将来どのように生きるのかを考えることが求められるからです。探究学習では、生徒が学習課題や学習対象を自分との関わりの中で捉えることが期待されます。このことを実現するためにも、日常生活や社会との関わりを重視して3要素を考えることが大切です。

このように、総合的な探究の時間の目的を果たすために、3要素をしっかりと設定することが重要なのです。

全体計画の作成方法

ここからは、全体計画の作成方法を紹介します。
全体計画作成の流れは以下の通りで、必須の要件である3要素を軸とした手順となっています。

全体計画作成の流れ
1. 目標の設定
2. 育てようとする資質や能力及び態度の設定
3. 学習内容の設定

1. 目標の設定

まずは、学校としての探究学習における目標を設定します。
目標を設定する際は、「総合的な学習の時間」の第1の目標を構成する以下2つの要素が含まれるように意識しましょう。

「総合的な学習の時間」の第1の目標を構成する2つの要素
①総合的な探究の時間の特質を踏まえた学習過程の在り方
→総合的な探究の時間に固有な見方・考え方を働かせて、横断的・総合的な学習を行うことを通して、自己の在り方生き方を考えながら、よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力を育成する

②総合的な探究の時間を通して育成することを目指す資質・能力
→「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」

以上の要素を含むように目標を設定しましょう。
設定した目標を記すには、次のような方法があります。

具体化:学校の実態に応じて具体的に記す
例)要素①の「横断的・総合的な学習を行う」を具体化すると…
・現代社会の諸問題について自分たちの生活との関わりに留意しながら探究することを通して
・グローバル社会に生きる人々の生活と地球環境についての探究的な学習を通して

重点化:2つの要素を示した上で、いずれかの要素を強調する
例)「学び方やものの考え方を身に付けること」を「重点化」すると、次のようになる。
・仮説を立てて多角的に調査し、論理的、実証的に結論を導く考え方を身に付け
・課題解決を目指して多様な事例を比較・分析したり、因果関係を推論したりして考え

付加:学校が大切にしたいことについて、学習の趣旨に照らして妥当な要素を加える。
例)・地域社会の一員としての自覚を深め
・持続可能な社会の形成に果たす役割を認識し
・自他の思いや個々人の尊厳を重んじ

目標の表記方法は自由であり、一文で表記しても複数の文を列挙しても構いません。
学校が大切にしたいことを、誰にでもわかりやすいように表現することが大切です。

2. 育てようとする資質や能力及び態度の設定

次に、育てようとする資質や能力及び態度を設定します。
育てようとする資質や能力及び態度は、学校として定めた目標を分析し、具体的に示したものです。「目標が達成された際の、生徒の成長した姿を示す」と考えるとわかりやすいでしょう。

育てようとする資質や能力及び態度を設定する際は、以下の視点を考慮することが重要です。

学習方法に関すること
→生徒が探究学習を主体的、創造的に進めるために必要な資質や能力及び態度に関する視点

自分自身に関すること
→生徒自身の生活や行為の在り方、あるいは自己理解や自己省察に必要な資質や能力及び態度に関する視点

他者や社会とのかかわりに関すること
→他者との協同や社会とのかかわりに必要な資質や能力及び態度に関する視点

これらの視点は、OECD が示した主要能力(キー・コンピテンシー)に対応しています。主要能力とは、OECDが将来を担う生徒に必要な能力として示したものです。 具体的には、以下の3つがあります。

主要能力(キー・コンピテンシー)
①「社会・文化的、技術的ツールを、相互作用的に活用する力」
②「自律的に行動する能力」
③「多様な社会グループにおける人間関係形成能力」

先ほど示した視点のうち、「学習方法に関すること」は主要能力の①、「自分自身に関すること」は主要能力の②、「他者や社会とのかかわりに関すること」は主要能力の③に対応しています。
これらの視点を踏まえて育成したい力を設定することで、主要能力の育成にもつなげることができます。

また、育てようとする資質や能力及び態度の設定にあたり、項目数や記述量が日常的な使用に適した分量となるように配慮することも大切です。
以下の例を参照し、日々の実践において意識しやすい内容を設定できるよう心がけましょう。

出典:今、求められる力を高める総合的な学習の時間の展開(高等学校編) 第2編第1章p.78

3. 学習内容の設定

続いて、学習内容を設定します。
学習内容に必要な要件は、以下の3つです。

①横断的・総合的な学習としての性格を持つこと
②探究的に学習することがふさわしいこと
③学習や気付きが自己の在り方生き方を考えることに結び付いていくこと

また、内容を設定するにあたり、学習課題・学習対象・学習事項を具体的に示す必要があります。
以下では、それぞれの用語を整理しながら、学習内容を設定する流れについてまとめます。

学習課題

学習課題は、次の3つに分類することができます。

①横断的・総合的な課題
②生徒の興味・関心、 進路等に応じて設定した課題
③自己の在り方生き方や進路にかかわる課題

①は、社会の変化によって新たに生じたり、より深刻化したりした、現代社会における課題です。具体的には、国際理解、情報、環境などが考えられます。これらの課題に当事者意識を持ち、解決に向けて行動することが期待されます。

②は、生徒が日々の学習を通して興味を抱いたり、進路について考えたりする中で設定した課題です。こうした課題に取り組むことで、学ぶ意義を実感したり、学びことと生きることを結びつけたりできるようになることが望まれます。

③は、自己の理想的な姿を進路に結びつけ、生き方について現実的に検討するために必要となる課題です。高校生は、自己の生き方について理想的に考えることを求めると同時に、就職や進学を控え、現実的に検討する必要にも迫られています。したがって、自己の生き方について、理想と現実の両面から探究的に学ぶことが重要です。

学習課題は以上の3つに分類することができますが、いずれも互いに関連し合っています。

学習対象・学習項目

学習対象は、生徒が探究的に関わりを深めるひと・もの・ことを指し、学習課題をより具体的に示すものです。

学習事項は、学習対象とのかかわりを通して学ぶことが期待される事項のことです。生徒にどのようなことを学んでほしいかについて、詳しく示します。

学習内容のまとめ

ここまでに解説した、「学習課題」「学習対象」「学習事項」を示すことで、学習内容を設定することができます。
以下の表を参考にしてみてください。

学習課題学習対象学習事項
①横断的・総合的な課題国際地域に暮らす外国人とその人たちが大切にしている文化や価値観・世界の国々の伝統、文化、価値観等の特徴と地球市民としての自覚
・日本の伝統、文化、価値観等の特徴と日本人としての自覚
・国際社会の持続可能な発展のための課題と共生に向けた取組
②生徒の興味・関心、 進路等に応じて設定した課題郷土郷土の自然や風土、歴史と文学・郷土の自然や風土の特徴と歴史的背景
・郷土にまつわる文学作品や芸術作品の魅力
・郷土への愛着と自然や風土を守ろうとする人々の取組
③自己の在り方生き方や進路にかかわる課題人生観物質的な豊かさと精神的な豊かさを巡る問題・「豊かさ観」の画一化がもたらす諸問題
・自分たちの「豊かさ観」と異世代や諸外国の若者の「豊かさ観」との相違点とその要因
・様々な年代による「人生観」とその違い

出典:今、求められる力を高める総合的な学習の時間の展開(高等学校編) 第2編第1章pp.80-81から抜粋

全体計画の事例

ここでは、全体計画の作成例を紹介します。
以下の図は、A高等学校の全体計画です。

出典:今、求められる力を高める総合的な学習の時間の展開(高等学校編) 第2編第1章p.83

この例では、初めに紹介した7つの要素に加え、「生徒・学校の実態」「地域・社会の実態」などの要素を独自に加えています。

「育成しようとする資質や能力及び態度」について、前に紹介した「学習方法に関すること」「自分自身に関すること」「他者や社会とのかかわりに関すること」の3つの視点から設定していることがわかります。

また、学習対象や学習事項の欄には、固有名称を記すことはしていません。このことで、学年やクラス、グループや個人によって、独自に学習活動を進めることができるようになっています。

まとめ

全体計画の作成に必要な要素や、作成の方法について解説しました。

全体計画の作成に必要な7つの要素
①探究学習において目指す目標
②育てようとする資質や能力及び態度
③学習内容(学習対象や学習事項など)
④学習活動(実際に生徒が行う活動)
⑤指導方法
⑥学習の評価
⑦指導体制

全体計画作成の流れ
1. 目標の設定
2. 育てようとする資質や能力及び態度の設定
3. 学習内容の設定

全体計画に含める要素は多様ですが、初めに定める目標を具体化していくことでその他の要素も定まります。学習指導要領や学校として大切にしたいことを踏まえ、しっかりと目標を設定した上で他の要素を設定していきましょう。

*この記事は総合的な学習の時間に関する文部科学省の資料を元に、探究学習に臨む先生向けに内容をわかりやすく解説したものです。資料をもとに部分的に簡略化、加筆、言い換えなどを行っています。元資料をご覧になりたい方は「今、求められる力を高める総合的な学習の時間の展開(高等学校編)」第2編第1章をご確認ください。
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ABOUT ME
この記事を書いた人:Study Valley 編集部
探究No.1メディア”Far East Tokyo”編集部です!執筆陣は、教育コンサルタント、元教員、教育学部大学院生など、先生方と同じく、教育に熱い思いを持つStudy Valleyのスタッフ陣です。子どもたちがわくわく探究する姿を思い浮かべながら制作しています!先生方のお役に立ちますように。Twitterフォローで記事更新情報が届きます。
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【この記事の監修者】

田中 悠樹|株式会社Study Valley代表

田中 悠樹|株式会社Study Valley代表

東京大学大学院卒業後、ゴールドマンサックス証券→リクルートホールディングスに入社。同社にて様々な企業への投資を経験する中で、日本の未来を変えるためには子どもたちへの教育の拡充が重要であると考え、2020年に株式会社Study Valleyを創業。
2020年、経済産業省主催の教育プラットフォームSTEAM ライブラリーの技術開発を担当。
2024年、経済産業省が主催する「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」に委員として参加している。