探究学習

「ドラゴン桜」と探究学習の意外な共通点

多くのお子さん、保護者にとって受験は人生の岐路であり、学校生活の小さくないパートを占めているかと思います。受験のイメージは“やりたいことを我慢して勉強に集中する”、“現在の学力と志望校の偏差値の差を埋めるためにツラくても頑張る”といったどちらかと言えばネガティブなイメージや経験を持つ方も少なくないのでしょうか。

それに対して、探究学習は画一的な内容を学ぶのではなく、生徒一人一人が自身の興味関心に基づいて問いを立てて学習を進めていく従来とは異なる特徴を持っています。言うならば、受験は本来的に競争の一面を持ち、一方の探究学習は独自性を重視します。上記のように考えると、受験と探究学習は同じ教育ではあるけれど水と油の関係に映ります。

この記事では大ヒットした受験マンガ「ドラゴン桜」を読み解くことで、ドラゴン桜の勉強法と探究学習の意外な共通点を見出します。水と油と捉えられがちな「受験」と「探究」。ドラゴン桜の中で描かれる両者の意外な共通点とは?

探究学習とは?

探究学習とは一般に以下より構成されている学習です。

1. 課題設定
2. 情報収集
3. 整理・分析
4. まとめ・表現

これら4つをサイクルのように学習活動を繰り返し行います。また、与えられる教育ではなく、学習者が主体的に最初の課題設定からまとめまで進めていく学習方法です。2022年から高校で必修となる「総合的な探究の時間」が学習指導要領に明記されており、日本全国の学校で探究学習が広がっています。

ドラゴン桜

ドラゴン桜は龍山高校を舞台に主人公である弁護士、桜木を中心に高校2年生までまともに勉強していない生徒が1年間で東京大学への合格を目指す2003年に連載が開始された大人気スクールマンガです。社会現象となりドラマ化もされました。続編となるドラゴン桜2も2018年から連載が始まり、2021年4月よりドラマ化されました

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ドラゴン桜に探究学習の“プロセス”が活用されている

今でこそ探究学習が認知されて学習指導要領にも“探究”が載っていますが、ドラゴン桜の連載当時は探究学習が今ほど一般的ではありませんでした。また、一見すると受験勉強の最難関である“東京大学への受験対策”と“探究学習”には関連性がないように映るかもしれません。しかし、今年の大学受験生が生まれた当時に連載が始まったドラゴン桜を振り返ってみると、両者に共通点があることがわかりました。当該シーンを挙げながら、探究学習とどのような関係があるのか紹介してまいります。

共通点1: 対話的、主体的な学びを重視

  • ドラゴン桜 5巻 生徒に下級生の教師役となるシーン
    高校3年の受験生が高校1年生の教師役に挑戦し、“わかったつもり、わかったフリになっていた”と自覚し、“学習のモチベーション”が爆上がりします。
  • ドラゴン桜2 3巻 生徒同士で互いに教え合うシーン
    英文法の理解度を測る目的でクラスメート同士で英文法を説明します。
  • ドラゴン桜 5巻 東京大学の帰国生入試である小論文を書くシーン
    ドラゴン桜においては、生徒が教師役や出題者側の立場になって考えるシーンがあります。学習という言葉からは「得る」「与えられる」ほうが「授ける」「与える」よりもしっくりくる印象がありますが、実は学習において、人に説明したり、伝えることは効果的な方法と紹介されています。

ドラゴン桜では学習を独りよがりなものではなく、問題や主題者との対話であると述べられています。それはまず、国語の授業で東京大学の帰国生入試問題である小論文に取り組んだ際に“意見だけを述べるのではなく、具体的な問いを立てて、客観的である根拠を示し、反論を否定し、主張を証明する”ことと釘を刺しています。英語や国語だけでなく、理数科目についても“問題は出題者と解答者の対話”と紹介されています。

探究学習においてはグループワークのようにチームで課題に取り組むことも多く、また中間発表や最終発表でフィードバックを受ける機会も設定されます。新しい学習指導要領にも記載された“対話的な学び”は探究学習において重要です。

また、探究学習においてはまとめ・発表としてレポートや論文を書く、もしくはプレゼンテーションやポスターセッションを行います。ここには二つのメリットがあると考えられます。一つ目は逆算のアプローチにより、探究学習における情報収集や分析、考察において何をすれば良いかがより明確になることです。単なる調べ学習、収集や分析を作業して終わりではなく、それら成果の発表が課されることは前段階でなすべきことを把握するのに役立ちます。

二つ目はまとめ・発表というアウトプットを行うことにより、それまでのインプットについてもより広く、より深く理解できることです。当たり前ですが、知らないこと理解できていないことを論述したり、人に説明することはできません。まとめ・発表を通じて、それまでの探究において足りなかった点や抜けもれていた点を認識することができます。学習の過程で適切に対話を行う、人に発表したり説明したりすることで理解を深める、ドラゴン桜の勉強法と一致しています。

ドラゴン桜では上記に挙げたシーンだけでなく、小テストなども活用して生徒は学習した内容を教師に向けて書く、話すを繰り返し、教師は適切なフィードバックを返しながら、最終的に東京大学合額へ必要な学力を身につけていく様子が描かれています。

探究学習のまとめ・表現については別の記事で紹介していますのでよろしければご覧ください。
>探究学習のまとめ・表現の12パターンを解説

共通点 2. 生徒を信頼し、結果・成果ではなく努力やプロセスを見る、教える・与えるよりもコーチング

  • ドラゴン桜 7巻  「生徒の意見を繰り返す」
    生徒から進路について相談された際に先生の応対について主人公である桜木が龍山高校の先生に適切な応対を伝えるシーンです。
  • ドラゴン桜 17巻 受験生の保護者が持つべき心得は「合格・不合格はどっちでも良い」
    主人公桜木が受験生の保護者と面談している際に「子供の合格を期待すべきか、期待すべきではないか」議論するシーンにおいて、桜木が保護者を諭すように伝えます。

上記の2つ以外にもドラゴン桜には生徒を信頼し見守る大切さを示すシーンが多くあります。1年で東京大学合格という途方もない挑戦だけに、1から10までがんじがらめのスケジュール管理やスパルタ教育ばかりかと思いきや、ここでは良い意味の放任が垣間見えるストーリーです。

一方、探究学習における教師の役割は“ティーチャー”よりも“コーチング”や“ファシリテーション”が重要とされています。例えば、一方的に話すよりも問いかけや傾聴することで生徒のつまずきを解決するよりも解決へ促すようなイメージです。

この“コーチング”や“ファシリテーション”はドラゴン桜でも数多く描かれています。教師や保護者の接し方について、主人公桜木の言葉から探究学習に役立つものを紹介します。

・魚を釣ってあげるよりも、釣り方を教えてあげよう
・進路相談では生徒の質問に答えるよりも、傾聴し生徒の言ったことを繰り返して背中を押してあげよう
・自ら勉強するようになれば、教師から指示する必要はない

共通点3. 適切な問い(課題)を設定する

  • ドラゴン桜 3巻 採用にあたり教師に論文を課すシーン
    龍山高校の再建に向けて教員の選抜試験として「学校」をテーマにして小論文を課した際に主人公の桜木は教員候補者が書いた小論文の1行目だけを読むだけでバッサリと不合格と切り捨てます。
  • ドラゴン桜2 14巻 生徒に大学入試の問題を作成させるシーン
    東京大学の入試が思考力や想像力を重視していることを龍山高校の生徒に理解させるため、東京大学の入試作成者のつもりになって入試問題とその答えを考えさせるシーンです。

まず、小論文のシーンにおいて、主人公の桜木は提出された小論文の1行目を読むだけでバッサリと不合格と切り捨てています。その理由は、課題、つまり小論文における問いが抽象的、過大すぎたこと。抽象的、過大すぎる問いでは、その後の主張や解決策もはっきりしない内容になってしまうと指摘しています。同様に入試問題を作成するシーンにおいて、正解ありきの問いを作るのではなく、“良い問いとはどのような問いか”についてよく考えた上でその上で各教科の要素を加えていく順序だとアドバイスしています。

探究学習の始まりは適切な問いを設定する、見つけることです。とはいえ、それは必ずしも容易ではなく教師のサポートが必要なケースが多く見受けられます。この問いを立てる大変さ難しさはなにも探究学習に限った話ではなく、ドラゴン桜のような教育現場の多くに当てはまることです。ドラゴン桜では課題を見つけるために学校だけでなく街へ繰り出して普段何気なく見ている案内表示から思考を深掘りするなど、好奇心を持つことの大切さや“なぜ”をどのように課題につなげていくかを説明しています。

上記のようなフィールドワークも含めて、 “課題設定”を8つ紹介しておりますので併せてご覧ください。
>探究学習の課題設定方法8パターンを解説

教育の目的は受験勉強も探究学習も同じ

ドラゴン桜のメインテーマは“東京大学への合格”です。しかしながら、描かれているシーンを注意深く観ていくと、受験勉強と探究学習が必ずしも相反するものではなく共通点があります。それは教育の目的である学習を通じた生徒の成長を共有しているからではないでしょうか。

希望する進路を実現することは過去も現在も生徒及び保護者の関心事であり、教育機関である学校の使命と言えます。しかしながら、教育の先にあるのは生徒が社会人となり個人として幸せな生活を送ること、社会へ貢献することです。探究学習はそのプロセス自体が学習と社会の橋渡し役となり得る学習方法と捉えれば、受験勉強と探究学習は生徒の未来における“どの時点”の目標に焦点を当てるかの違いであり、教育の目的には相違がないからこそ共通点があると考えられます。

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【この記事の監修者】

田中 悠樹|株式会社Study Valley代表

田中 悠樹|株式会社Study Valley代表

東京大学大学院卒業後、ゴールドマンサックス証券→リクルートホールディングスに入社。同社にて様々な企業への投資を経験する中で、日本の未来を変えるためには子どもたちへの教育の拡充が重要であると考え、2020年に株式会社Study Valleyを創業。
2020年、経済産業省主催の教育プラットフォームSTEAM ライブラリーの技術開発を担当。
2024年、経済産業省が主催する「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」に委員として参加している。