探究学習とプロジェクト型学習(以下、PBL)って違うものなの?
どんな学習が探究学習・PBLに当てはまるのか知りたい!
私たちStudyValleyは「社会とつながる探究学習」を合言葉に、高校の先生や塾の先生方へ、探究学習を効果的に行えるICTツールの提供や、コンサルティングサービスを行っています。
先生方とお話する中で、冒頭のようなご相談をよくいただきます。
そこで、この記事では探究学習とPBLの違いをまとめました。両者の共通点や具体的な事例も紹介しています。
2022年度からの「総合的な探究の時間」必修化に伴い、探究学習への注目が集まっています。それと同時に、探究学習に関連するワードとして「PBL」もよく耳にするようになりました。関連するワードが複数あることで、それぞれの定義がよくわからなくなっている方も多いのではないでしょうか。
探究学習・PBLのそれぞれの定義・関係を確認し、今行っている学習やこれから行いたい学習がどちらに当てはまるのかの参考にしてみてください。
この記事の内容
探究学習とPBLの違い
・探究学習とは
・PBLとは
・探究学習とPBLの比較
探究学習の事例
探究学習・PBLはなぜ注目されるのか
・VUCAの時代には探究力が不可欠
・探究もPBLも実は昔からある!
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探究学習とPBLの違い
探究学習とPBLは、「課題の設定者が教員か生徒か」「課題が教科限定的か学際的か」「評価のポイントはプロセスかアウトプットか」「期間は短いか長いか」において異なります。
ただし、両者の区別は必ずしもはっきりとしたものではありません。探究学習のあり方は多様であり、その中に含まれる学習方法の一つがPBLであるというイメージです(下図)。
探究学習とPBLの関係について、両者の定義を比較しながら詳しく見ていきましょう。
探究学習とは
探究学習とは、学習者が自ら課題を設定し、主体的に答えを導く学習です。
2022年度から高等学校で導入される「総合的な探究の時間」では、「自己の在り方生き方を考えながら、よりよく課題を発見し解決していく」ことが目標とされています。
引用:「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 総合的な探究の時間編」より
探究学習における課題には決まった答えがなく、各教科での学びや専門家などのアドバイスを踏まえて自分なりの答えを導き出します。
また、探究学習のステップは「①課題の設定 ②情報の収集 ③整理・分析 ④まとめ・表現」とまとめられています。
引用:「今、求められる力を高めるための学習指導」より
PBLとは
PBLはProblem Based LearningあるいはProject Based Learningの略です(この記事では、両者を厳密には区別せずに解説します)。
PBLは、「問題解決型学習」「課題解決型学習」などとも呼ばれます。この学習は「問題の解決を通して学習すすめること」と定義されており、「問題の提示から学習が始まり、解決する過程で学習を重ね、知識を活用して問題を解決できたかで評価される」という流れで実施されます。
引用:「総合的な教師力向上のための調査研究事業実施報告書」より
PBLで取り組む問題は実社会に即したものであり、それらの解決策を考察することで問題解決能力や思考力を育成します。
このように、PBLは実践的な問題解決を行いながら学習を進める方法です。
探究学習とPBLの比較
探究学習とPBLの定義を基に両者を比較し、その関係を確認します。
探究学習とPBLは、「学習の流れ」が類似しています。どちらも「問いの設定→情報・知識の活用→結論の提示」とまとめることができます。
一方、両者は「課題の設定者」「課題の性質」「評価のポイント」「期間」において異なります。ただし、その違いは必ずしもはっきりしたものではなく、両者はグラデーションのような関係性となっています。
また、表からわかるように、PBLと比較すると探究学習の特徴には幅があります。したがって、先の図の通り、探究学習という広い概念の中に含まれる学習方法がPBLであると捉えられます。
探究学習・PBLそれぞれの事例
ここからは、具体的にどのような学習が探究学習・PBLに当てはまるのかを解説します。
探究学習の事例
以下の2つの事例は、「探究学習」に当てはまります。
「悪女・日野富子」を再評価
教科・科目 | 日本史 |
---|---|
期間 | 50分授業1コマ |
実施校 | 埼玉県立浦和高校 |
対象学年 | 2年生 |
実施の流れ
授業は3つの段階に分けて構成されており、日野富子の人物像を再評価する。
(日野富子に対する後世の評価では、応仁の乱の原因を作るなどした 「稀代の悪女」という見方が定着している。 しかし1990年代以降、日野富子が「幕府再建を陰で支えた功労者」であるという肯定的な意見も見られるようになった。このような研究動向を踏まえ、日野富子についての再評価を図った。)
1. 活動の説明を受け、資料を読み込む。(12分)
2. 「日野富子はなぜ悪女と評されるようになったのか」という問いについて議論を行い、分析した内容を発表する。(20分)
3. 以下について発表を行う。(23分)
・「日野富子の悪女度」について各班が発表する。
・史料を解釈する際に留意すべきポイントについて各生徒が発表する。
探究学習に分類される理由
問いが教科限定的であり、教員が提示している点で探究学習に分類されます。
この授業で扱われる「日野富子はなぜ悪女と評されるようになったか」という問いは、日本史の知識や史料を活用することで自分なりの結論を導くことができます。教科横断的に取り組むというよりは、1教科で完結するタイプの問いです。
さらに、1コマの授業で実施されている点も特徴的です。PBLの場合は実践的な課題解決が求められるため、一定の期間が必要となります。一方、探究学習の場合、問いによっては1コマで生徒なりの答えを出すことができます。
詳細:知識構成型ジグソー法による協調学習の研究─日本史小単元「聖女・悪女の救済 日野富子を再検証」を事例として
絵画から伊勢物語を読み解く
教科・科目 | 古典 |
---|---|
期間 | 8時間 |
実施校 | 大阪教育大学附属高等学校 |
対象学年 | 1年生 |
実施の流れ
1. 「芥川」「筒井筒」の物語絵から物語のあらすじを想像する。次にクラス全体で語句や口語訳の確認を行い、最初に絵から抱いたイメージとの違いを整理する。(4時間)
2. 「芥川」「筒井筒」について複数の絵画を比較しながら、物語と絵画の情報を調べ、作品の解釈とその時代・文化背景をグループで討論する。パフォーマンス課題として、担当する作品についての情報や解釈を、議論を通じてまとめ、全体発表でのプレゼンテーションの準備をする(2時間)
3. 全体発表。そしてそれを踏まえて、「伊勢物語」の文学作品としての意味合いや平安時代の男女のあり方について学習する。相互評価や振り返りシートの記入をする。(2時間)
探究学習に分類される理由
この授業も、1教科の範囲内で設定された課題を、教員が提示している点で探究学習に分類されます。
ただし、後半に出てくる「男女のあり方」を現代のジェンダー問題まで広げていくと、実社会の課題へと繋がり、PBL型の授業に展開することが可能です。
期間については8時間と1つ目の事例よりも長いですが、一つの単元の中で学習が展開されているため、PBLよりも探究学習の要素が強いと考えられます。
また、討論の様子など、学習のプロセスが評価のポイントになっている点も探究学習の特徴と一致しています。プレゼンテーションのみならず、討論の際に生徒の様子を観察するなど、発表に至るまでの流れも重視されています。
詳細:絵画から物語の読みを深める−『伊勢物語』とその文化的背景
PBLの事例
次に、PBLの事例を2つ紹介します。
気仙沼の海をテーマに、多様な課題に取り組む
教科・科目 | 地域社会研究 |
---|---|
期間 | 1学年を通して行う |
実施校 | 宮城県気仙沼高等学校 |
対象学年 | 1年生 |
実施の流れ
気仙沼の海に関わる研究テーマを班ごとに設定し、「フィールドワーク→グループ研究→発表」のサイクルを繰り返す。
テーマ例:「気仙沼の海に商業施設を作って利用できるか」「津波から海と陸の豊かさを守る強いまちをどうやってつくるか?」
4〜6月
感染症拡大による臨時休校期間であったため、論文ポスターの見方や統計などに関する動画を配信した。
6〜7月
防災や地域の課題に関する講演を聞き、研究テーマ決定に向けた準備を進める。
8〜9月
研究テーマを決定して班に分かれ、意見交換や研究計画書の作成を行う。
10月
フィールドワークを行い、市内の施設等(気仙沼市役所、病院や幼稚園)を見学する。
11月
中間発表を行い、ここまでの成果を報告する。生徒やアドバイザー(大学教員)からアドバイスを受ける。
12月
再びフィールドワークを行い、課題研究のテーマに関連する施設や大学での指導を受ける。
1月
学年発表会にてポスターセッションを行う。地域社会研究担当教員が審査をし、各テーマの領域から優秀賞・優良賞を1班ずつ選出する。
2月
資料やデータの整理を行う。
PBLに分類される理由
この事例は、答えのない問いに向き合って自分なりの答えを導くという流れであり、広く捉えると探究学習です。ただし、実社会に即したテーマである点や教科横断的である点を踏まえると、探究学習の中でもPBLの要素が強い取り組みとなっています。
生徒は「気仙沼の海に商業施設を作って利用できるか」「津波から海と陸の豊かさを守る強いまちをどうやってつくるか?」といったテーマを設定していますが、これらは地域に根ざした問いであると共に、取り組むには教科の枠を超えた知識が必要です。
また、ポスターセッションの内容が審査されており、各班が最終的に導いた結論や提案が評価のポイントとなっていることも、PBLの特徴に当てはまります。
課題設定のプロセスや研究手法も評価の対象となっていますが、ポスターセッションにて賞を決める審査が行われる点で、アウトプットも重視されているとわかります。
礼文島の水産資源を活用し、地域を活性化させる
教科・科目 | 生活産業基礎 |
---|---|
期間 | 約40時間 |
実施校 | 北海道礼文島学校 |
対象学年 | 明記無し |
実施の流れ
礼文島の水産資源を活用したメニューや製品を開発し、地域の振興に携わる。
・漁業従事者からの講話:礼文島の水産資源と創作料理について学ぶ。
・礼文産の昆布を使用した出汁の風味を調べ、どのような食材と合わせて料理するのが良いか考察する。
・調理実習を通して、礼文産の昆布を利用したメニューづくりを行う。
・礼文産の昆布出汁と椎茸出汁は4:3の割合にするのが最も良いという研究結果をもとに、地元食材を使用したペペロンチーノ(うどん麺)を開発し、「シーフードコンクール」などの料理コンクールに出場する。
PBLに分類される理由
この事例も広い意味では探究学習ですが、「地域振興」という実践的なテーマに長期間取り組み、最終的なアウトプットが注目されている点でPBLと言えます。
開発する製品は教員によってあらかじめ決められている訳ではなく、生徒自身が地域資源の魅力を体感した上で考案していきます。
また、地域の活性化に繋がる製品を開発するには一定の期間が必要であり、この取り組みでは40時間程度の時間をかけています。
さらに、完成したメニューをコンクールで披露しており、生徒のアウトプットが注目されているという点でもPBLの特徴と一致しています。
探究学習・PBLはなぜ注目されるのか
探究学習もPBLも、耳にするようになったのは比較的最近なのではないでしょうか。
では、なぜ今探究学習・PBLが注目されているのかを見ていきましょう。
VUCAの時代には探究力が不可欠
探究学習やPBLが注目されるのは、現代が「VUCA(ブーカ)」の時代であることと関係しています。
VUCA(ブーカ)とは、「Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)」の頭文字を取って作られた言葉です。つまり、変化が激しく予測不可能であり、複雑化した社会の様子を表しています。
VUCAである現代を生きるのに必要な能力を育成するために、探究学習やPBLが注目されています。これまでにはない視点で物事を考え、自ら価値を創造する力が求められるからです。
だからこそ、自ら課題を設定し、情報や知識を活用して自分なりの考えを導く探究学習・PBLが必要とされているのです。
探究もPBLも実は昔からある!
探究学習やPBLが注目されるようになったのは最近でも、両者は前例のない学習形態というわけではありません。
探究学習は、アメリカの哲学者デューイ(1859-1952)の考え方に基づくものです。
デューイは、知識はただ覚えるのではなく、子どもの興味・関心に基づく社会的な経験やものづくりなどによって習得される必要があると考えました。
デューイの考え方は、自らの関心に沿って問いを立て、課題の解決を実践する探究学習に通じます。「総合的な学習の時間」が導入された時期にもデューイの考え方が注目されており、学校現場には探究学習に通じる考え方がすでに反映されていると言えます。
また、既に学校にある探究的な学びの場として、学園祭や部活動といった課外活動が挙げられます。「多くのお客さんに来てもらうにはどのような出し物が良いか」「どうすれば大会で優勝できるか」のように、答えのない問いに向き合う課外活動では、まさに探究活動が行われています。
さらにPBLは、アメリカの教育学者キルパトリックが1918年に提唱した「プロジェクト・メソッド」が起源となっています。PBLは耳慣れない言葉のように思われますが、実は100年以上前から提唱されている、歴史ある学習方法です。
以上のことから、探究学習・PBLは未知の学習形態ではなく、既にある学びの場や理論を活かしながら実施できるものであると言えます。
まとめ
探究とPBLは、「課題の設定者や性質・評価のポイント・期間」において違いがあります。ただし、その違いは大きなものではなく、学習の流れは類似しています。
探究学習という広い概念に含まれる学習方法の一つがPBLだと捉えると、イメージしやすいでしょう。
【高校の探究担当の先生へ】
当メディアを運営する私たちStudy Valleyは「社会とつながる探究学習」を合言葉に、全国の高等学校様へ、探究スペシャリストによる探究支援と、社会とつながるICTツール「高校向け探究学習サービス『TimeTact』」を提供しています。
現在、探究に関する無料相談会を開催中です。探究へのICT活用や外部連携にご興味ある方、お気軽にご連絡下さい。ご予約はこちら(2024年3月現在、問い合わせが急増しております。ご希望の方はお早めにご連絡ください)。
【企業のCSR広報ご担当者様へ】
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探究教育を通して、学校と繋がるさまざまなメリットを提供しています。
まずはお気軽に「教育CSRサービスページ」より資料をダウンロードください。
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【この記事の監修者】
田中 悠樹|株式会社Study Valley代表
東京大学大学院卒業後、ゴールドマンサックス証券→リクルートホールディングスに入社。同社にて様々な企業への投資を経験する中で、日本の未来を変えるためには子どもたちへの教育の拡充が重要であると考え、2020年に株式会社Study Valleyを創業。
2020年、経済産業省主催の教育プラットフォームSTEAM ライブラリーの技術開発を担当。
2024年、経済産業省が主催する「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」に委員として参加している。