「スポーツ探究・福祉探究」の事例が知りたい
探究学習の事例をお探しの先生へ。
2022年から本格的に始まる「探究学習」。スポーツ、福祉の探究をどうやって教えたらわからない・・・そういったお悩みをよくいただきます。
そこで本記事では「スポーツ・福祉の探究学習事例」を調査してまとめました。
テーマやねらい、実践のプロセスや結果なども掲載しています。授業の参考にぜひお使いください。
この記事で解説する事例
1.身近な情報を活用した思考力を高める保健体育学習【スポーツ】
2. スポーツとAIの関連について、AIの技術などを学びながら探究する【スポーツ】
3.地域の福祉課題をまとめた『福祉マップ』作成と実践【福祉】
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探究学習のポイント
探究学習を設計するうえで重要なポイントは大きく2つ。
・探究で何を学ぶのかを明確にする
・評価を明確にする
探究を通じて、生徒が教科の知識や考え方を身に付けられるようにデザインしておく必要があります。
またペーパーテストと違い、成果だけでなく探究のプロセスも評価の対象になるのが探究学習です。探究のプロセスを評価する方法を決めておくことも重要です。
事例をご覧になる際も、これらのポイントを踏まえて見ていただく良いかと思います!
それでは、スポーツ・福祉の探究事例を紹介していきます。
【解説あり】スポーツ・福祉の探究学習事例3つを紹介
1.身近な情報を活用した思考力を高める保健体育学習【スポーツ】
スポーツ=「する」ものから発展させ、スポーツの「みる」側面など多角的な側面を発見し、今とこれからのスポーツの関わり方について思考した事例です。
テーマ | スポーツ、情報、メディア。スポーツの多様性。 |
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学習期間 | 全3時間 |
実施校 | 滋賀大学教育学部附属中学校 |
学習のねらい
スポーツ=「するもの」という価値観からさらに発展させ、生徒自身のこれからの人生におけるスポーツの意識を高めるために、また健康保持増進のためにスポーツを関われる態度を養う。
課題・実施の流れなど
〈課題〉スポーツの持つ多様な要素を理解させ、これからの人生でどのようにスポーツと関わっていきたいか考えさせる。
〈実践〉
第1時:スポーツの始まりと発展について学習する。
スポーツの語源について考え、現在の印象について全体で共有する。
第2時:スポーツの多様な関わり方についてグループで研究する。
グループで、フラワーチャートと付箋を用いて「スポーツへの関わり方」について整理する。(フラワーチャートの見本は詳細のリンク先にございます。)
その後、整理した結果を他グループとの違いも参照しながら発表する。
第3時:スポーツの学び方について自分のこれからと関連させて考える。
発表から「する」以外の「支える」「伝える」「仕事にする」などのスポーツの多様性を確認し、将来どのような関わり方をしてみたいか考える。
結果
各グループの発表を見てみると、そのフラワーチャートにはどの分類項目にも同じくらいのイメージの付箋が貼り付けられていた。グループによって付箋の貼り方はさまざまで、溢れるほど付箋を貼っているグループや貼るスペースが十分でなかったために生徒同士で話し合い意見をまとめて付箋を貼るグループなどがあった。
また、スポーツを「するもの」というよりも「支える」「調べる」といった分類項目が多く、スポーツの自身の生活の関連などまで生徒の視野を広げることができたように思える。
しかし、各グループの興味関心具合によって取り組みにも差が出てしまった点が課題であった。
ポイント
スポーツという身近な話題について深掘りすることによって、自分の価値観をあらためるきっかけを提供できています。
生徒で意見を出し合い、それを視覚的にまとめる活動を取り入れている点も、探究活動の要素として評価できるポイントです。
しかし、こちらの事例は3時間という短い時間で行っており、探究学習としては入門編に思えます。
他校で実施するなら、探究が初めての場合に、体験的に行う、または、これを導入として後に、各自具体的な課題を設定して本格的な探究学習を行うという役割で行うのが良いのではないでしょうか。
こちらの事例は中学生の事例ですが、普遍的な事例を扱っていることから高校でも応用できると思われます。
詳細:身近な情報を活用した、思考力を高める保健体育学習 ―スポーツに対する再発見に向けた探究的学習活動を通してー
2. スポーツとAIの関連について、AIの技術などを学びながら探究する【スポーツ】
スポーツとAIの関連について、他種競技にわたる外部講師の講義によって視野を広げながら、生徒自身の興味の分野について研究し発表した事例です。
テーマ | AI×スポーツ |
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学習期間 | 授業回数全11回 (交流会での発表時間は除く) |
実施校 | 筑波大学附属駒場高等学校 |
対象学年 | 高校二年生 |
学習のねらい
スポーツにおける AI(人工知能)技術の活用について、機械学習や画像認識などの関連する技術の基本を学びながら、実際の活用事例について学び、考察をする。
課題・実施の流れなど
①「AIを学ぶ」・「AIについて考える」機会を提供する。学校の授業のAIについて学ぶ機会はどうしても限られてしまう。生きていくうえで無視できないAIの存在を考えてほしい。
②母校の体育・スポーツの強化に役立てる。スポーツに頭脳を活かすための切り口を提供したい。母校らしい強さを考えるきっかけにしてほしい。
(画像1 授業計画:論文より引用)
1-9回目の授業では、AIについて基礎的なことを学習し、パソコンを用いてAIについて学習したあと、さらに外部の講師にAIとスポーツの関連についてその専門的な視野から講義をしていただいた。
そこではICT を活用した運動場面の動画分析ツールや野球のセイバーメトリクスのような技術などについて講義していただき、さらに後者では動作分析の実習も行なった。
10-11回目の授業では、生徒がスポーツとAIについて興味を持ったテーマについて研究し、発表した。
テーマ例)「マラソンとAI」「プロ野球の試合結果を予想する」「ソフトテニスにAIを導入する」
そしてその後、レポート課題を課した。
生徒の課題については、以下のような条件を示した。
・AIとスポーツを掛け合わせたもので、社会にあると便利な仕組み・サービスを調査・考察すること。
・仕組み・サービスについてはその新規性を問わないが、海外事例も含めてできる限り既存サービスを調査すること。
・「誰にとって」あると便利なのか、その利用者とシーンを明示すること。
・現在の技術で実現が難しいことをテーマにしても問題ない。その場合、そのような条件を満たせば実現可能か自分なりの考察を加えること。
・AIをテーマにして、機械学習の利用を想定する場合、「何のデータを学習させ」「そのデータはそのように採取するか」手段を講じること。
結果
発表会では、多様な競技科目における発表となり、内容が重ならず各々の独自性のある発表になった。
受講者の一人は、選抜制の学校間国際交流に学校の代表者として参加し発表した。
また、SSH東京都内指定校合同発表会における台湾との研究交流では、生徒が英語でその探究について発表した。
ポイント
外部の講師を招いて、専門性のある濃密な学習を提供できている点が特徴的な事例です。
また、十分な情報提供と充実した発表機会の提供の観点から、本格的な探究学習の手本になるように思えます。
3.地域の福祉課題をまとめた『福祉マップ』作成と実践【福祉】
福祉的観点からみた地域の課題について、マップにまとめ、発表活動を行った事例です。
テーマ | 「福祉のまちづくり」福祉とまちづくり |
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学習期間 | 2ヶ月:1週間に2時間 |
実施校 | 北海道文教大学研究 |
対象学年 | 高校3年生 |
学習のねらい
自分たちが生活している地域の課題を「福祉のまちづくり」と捉えていた生徒が、調査研究した成果を『福祉マップ』としてまとめ,行政等の関係機関と連携して課題解決するとともに,地域福祉の推進に参画する。
課題・実施の流れなど
毎日通学する道路や市街地では、車いすの走行等はどのように感じるかを研究し、地域の状況を観察して課題をマップにまとめた。
学校周辺や通学路など身近な地域を「地域を福祉の視点で見る」というテーマのもと、フィールド調査を行った。
普段の歩行では支障にならない歩道の段差や凹凸などをスマートフォンやデジタルカメラで撮影・印刷し、手づくりの模造紙のマップ上に落とし込んでいった。
調査した範囲は1平方km以上に及んだ。
完成した福祉マップは、まず地元の中学生に対し、互いの総合的な学習の時間を活用し生徒とともに紹介した。次に地域のまちづくり協議会での発表の機会も設けられ、そこでも発表を行った。
結果
中学生への発表では、次世代にも福祉の視点を持つことの大切さを伝えることができた。
まちづくり協議会では、そのプレゼンテーションが功をなし、実際に一部箇所の修繕が行われた。
市職員や社会福祉協議会職員、民生委員などが参加する定例のまちづくり協議会での発表では、その参加者から「気がつきにくいところを高校生の感性と実体験症で提案してもらって嬉しい」というような肯定的な意見が寄せられた。また改善案として、「地域の方々の声をマップに落とし込む」という案が寄せられた。
そのマップに記載された修繕箇所の確認が市によって行われ、年度末に市議会において、福祉マップに記載された箇所の一部を補修することが決定し、翌年度さっそく、JRの駅のスロープの段差と同駅の点字ブロックの2カ所が改修された。
ポイント
学内の発表だけに収まらず、中学生への発表ひいてはその地域の協議会でも発表をできているが特徴的な事例です。
その研究が机上の空論に終わらずに、実際に市の方の活動に反映され、地域の福祉に貢献できている点も、探究活動のゴールとしてぜひ見本にしたいですね。
今回主に取り上げたのは2017年度の活動ですが、詳細にはさらに2018年度、2019年度の活動も記載されています。
詳細:高等学校における『福祉マップ』作成記録(2017〜2019)
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【高校の探究担当の先生へ】
当メディアを運営する私たちStudy Valleyは「社会とつながる探究学習」を合言葉に、全国の高等学校様へ、探究スペシャリストによる探究支援と、社会とつながるICTツール「高校向け探究学習サービス『TimeTact』」を提供しています。
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【この記事の監修者】
田中 悠樹|株式会社Study Valley代表
東京大学大学院卒業後、ゴールドマンサックス証券→リクルートホールディングスに入社。同社にて様々な企業への投資を経験する中で、日本の未来を変えるためには子どもたちへの教育の拡充が重要であると考え、2020年に株式会社Study Valleyを創業。
2020年、経済産業省主催の教育プラットフォームSTEAM ライブラリーの技術開発を担当。
2024年、経済産業省が主催する「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」に委員として参加している。