STEAMライブラリー

学生起業も夢じゃない?地方創生コンサルのノウハウで地方を消滅の危機から救え!〜株式会社YMFG ZONEプラニング〜

この記事は経済産業省「STEAMライブラリー―未来の教室」のコンテンツ事業者様に、教材の詳しい内容な使い方のアドバイス、STEAM教育に対する想いなどを取材する連載企画です。

YMFG ZONEプラニングは「地方創生」をキーワードに企業・行政支援等を行っているコンサルタント会社です。今回のSTEAMライブラリーには、「地方創生はあなたのまちを救えるか?」というコンテンツを提供してくださっています。金融グループの会社という強みが活かされた、お金の流れに注目して実現可能な地方創生を考えることのできるコンテンツです。このインタビューではコンテンツ制作に関わられた河野様と品川様に弊社社長の田中悠樹がお話を伺いました。

プロフィール

品川智宏様

株式会社YMFGZONEプラニング 取締役副社長
公益財団法人日本生産性本部認定経営コンサルタント。株式会社山口フィナンシャルグループ所属。グループ銀行の営業企画部、山口フィナンシャルグループ営業戦略部など営業企画部門の従事。平成27年7月24日に、山口フィナンシャルグループ100%出資の地方創生専門の株式会社YMFG ZONEプラニング設立に伴い、同社に配属。クラウドファンディング運営会社である株式会社KAIKAの取締役を兼務。

 

河野泰紀様

株式会社YMFGZONEプラニング 地方創生戦略事業部 アシスタントマネージャー
経済産業省中国経済産業局へ2年間出向。地域経済分析システム(RESAS)普及活用支援業務へ従事し、中国地方の50ヵ所以上の自治体や学校へ出前講座やワークショップを実施。経済産業省「未来の教室」実証事業の実証校である広島県立廿日市高校にて講師を務める(2021年度も継続)。2017年5月よりYMFGZONEプラニングにて現部門に従事。

株式会社YMFG ZONEプラニング
YMFG ZONEプラニングは、傘下に山口銀行、もみじ銀行、北九州銀行を有する山口フィナンシャルグループの100%出資会社として、金融機関の持つネットワークの活用と、先進企業等とのアライアンスにより、地域課題の解決と新たな価値創造に取り組んでいます。「点(個人・個社)」ではなく「面(地域・経済レイアウト等)」の視点でのコンサルティングを展開し、官公庁や企業と連携した地方創生に資する取組を実施しています。

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地方創生コンサルが教育に取り組む理由

(田中)本日はよろしくお願いいたします。早速ですが今回STEAMライブラリーにコンテンツを提供してくださった経緯をお聞かせください。

(河野)YMFG ZONEプラニングは地方創生コンサルタント会社です。コンサルタント会社である弊社がなぜ教育事業に関わるかをご説明いたします。

地方において持続可能な地域づくり、街づくりを考えたときに、「地域の稼ぐ力」を高めていくことが一つの重要なファクターとなります。そしてそれを可能にする人材を、教育を通じて育成することも重要な要素の一つとなります。
これまでにも行政の委託事業として、子供たち自身で地域の課題を設定して、解決法、アイデアを考えるという教育事業を行ってまいりました。その中で問題に感じていたのが、課題や解決策を考えるということ自体が目的になってしまい、実際に解決策を実装していくところまで進めないことでした。

実現可能性や持続可能性を考慮に入れつつ、地域が抱える課題から新しい価値を作り出すことのできる人材をどう育成するかが私たちの課題であり、「未来の教室」のSTEAMライブラリー事業に参画したのもそれがきっかけです。
私たちは元々銀行員ですから、経済の観点、お金の流れに注目して考えていくコンテンツになっています。

地方創生から広がる学び

(田中)なるほど。経済という観点から作られたコンテンツということですが、STEAMとはどう関わっていくのでしょうか?

(河野)おっしゃる通り、一見するとSTEAMと遠そうなテーマに見えますが、地方創生というのは非常に広がりのある分野なんです。実際に地域の課題を解決しようとするとき、その地域のパートナーや事業者さんを見つけて協力していく必要があります。しかし実社会のことを知らないと、どのようなパートナー、事業者さんがいるのか、彼らがどんな課題を抱えているのかが分かりません。地方創生をテーマにすることで、様々な事業者さんの存在や事業内容に目を向けることになり、そこからSTEAMの領域に幅広く、広がっていく可能性のあるものだと考えています。

(田中)たしかにSTEAMという道具をバックグラウンドとして持つことは、地方創生に取り組むときにプラスになりますね。

シャッター通りの地元の商店街。お金の流れから見えてくること

(田中)課題設定の方法についてお聞きします。「地方を盛り上げたい!」というレベルの抽象的な想いから、どのように具体的な課題を設定していくのでしょうか?例えば、商店街の空きテナントの問題であればどのように課題設定していきますか?

(河野)商店街に空きテナントが多いということは、実際にお店が閉店しており、その後新しいお店が入らないという現実があります。それはなぜか、と考えていくと、商店に後継者がいない問題や、商店街に人が来ないことが原因として考えられます。次に、本当に人が来ないのか、実際に人流のデータ分析や、聞き取り調査を行います。
また、自分たちの実際の行動も振り返ってもらいます。皆がどこで買い物しているのか、そもそも皆がなぜ商店街でモノを買わなくなったのかなどを、自分たちの行動を含めて考えていくことで、より自分たちにとって身近な課題に落とし込んで行きます。

(品川)私たちが生徒さんたちに考えてほしかったことは、経済・お金の観点から自分の地域について考える重要性です。例えば文房具であれば、町の小さな商店で買うのと、隣町の大きな店舗で買うのと、インターネットで買うのでは、同じ100円の文房具でもお金がどこに落ちるのか違ってきますよね。特産品の場合も、その原材料を地元から仕入れるのと、他地域から仕入れるのでは、お金の流れが全く異なります。そういったお金の流れの観点から、地方創生や地域の課題を考えられるようになってほしいのです。

商店街の話であれば、「なぜ商店街のお店はどんどん閉店しているのか」という問題に対し、お金の観点から、仮説を立て、検証プロセスを回して、課題解決策を見出していく、ということができる人材を育成していきたいですね。

一部分だけピックアップして使ってもOKなコンテンツ構成

(田中)なるほど。学校の先生は、どのようにして御社のコンテンツを使うと良いでしょうか?

銀行員がワサビ農家に?!

(河野)弊社のコンテンツは10コマあるのですが、取り掛かりとして使いやすいのは、応用編で取り上げている事例の紹介だと思います。山口フィナンシャルグループで取り組んでいるバンカーズファームという事業を取り上げています。山口県の岩国市で銀行員がワサビを作っているんです。農業が衰退しているという問題に対して、実際に自分たちでやってみて課題を洗い出そうということで、銀行員がワサビ作りに挑戦しております。そういった事例を見てもらって課題解決へのイメージを膨らませてほしいですね。

バンカーズファームの奮闘が漫画でも読める公式Webサイトはこちら→株式会社バンカーズファーム【公式】 (bankers-f.co.jp)

コンテンツを最初から最後まで全部やろうとするとすごく大変なので、課題解決なら課題解決のコマ、経済なら経済のコマと、必要に応じて使ってもらえたらと思います。ワークシートもありますし、困ったときの虎の巻として使って欲しいですね。

(品川)最初から最後まで全部扱う必要はなく、先生が自力でやるのは難しいなと思う部分をワークシートも含めて使ってもらえると良いと思います。そもそもこのコンテンツは生徒さんたちでディスカッションしてもらい、生徒さんたち自身で答えを見つけていこうというスキームで作っているので、全部自分が教えなければいけないというスタンスは持たなくて大丈夫ですよ。

都会の子にも役立つコンテンツ

(田中)先生方は全部自分で準備して教えられるようにならなければと思う真面目な人が多いので、それを伺えてよかったです。東京などの高校でも御社のコンテンツは活用できるでしょうか?

(品川)題目は地方創生となっていますが、ポイントは地域の課題をどうやって解決するかという内容なので、東京などの大都市の生徒さんにもぜひ使って頂きたいです。将来、社会に出て働く時にも役に立つ、仮説を立てて検証し、課題解決の精度を高めていくという思考プロセスを学べるコンテンツなので、たくさんの高校生の方に触れて頂きたいですね。

起業家高校生も夢じゃない?!高校生にもたらすポジティブインパクト

(田中)このコンテンツを学ぶことで、どのようなポジティブなインパクトが生徒さんたちにあるでしょうか?

知らなかった職業を知る。キャリアに与えるインパクト

(河野)まず探究のプロセスそのものが、将来どんな仕事に就いても活きるものですから、中学生、高校生のうちから、そのプロセスに触れるのはとても良いことだと思います。また弊社のコンテンツを学ぶと、実社会に、どのような仕事があり、どのように社会に貢献しているのか学ぶこともできるので、キャリア・進路選択にもつながります。

広島県立廿日市高校で実証事業として授業を行ったときのお話です。医療系進路を希望する生徒のグループは「過疎地域の妊婦さんをどうサポートするか」を課題に探究を行い、妊婦さん向けのシェアハウスが実際にあることを知りました。そのシェアハウスに関わる関係者の洗い出し、関係図にまとめる活動を行うと、この一つの課題に対していかに多くの人々や団体が関わり、それぞれがどのような役割を担っているのかが明確になります。そうすると妊婦さんをサポートしたいと考えたときに目指す仕事は医師や助産師だけではないことを知ることが出来ます。ほかにも様々な立場から多様な貢献の仕方があると学べますし、そうなるとキャリアの選択肢も増えますよね。

リーンキャンバスで起業家、ビジネスマンに必須の力をつける

(品川)パートナーを見つけて、協働しながら持続可能な体制を作り出すということは、エコシステムを作り出すことです。自分たちで必要なリソースを全てまかなわなければならないと考えるのではなく、他者と連携することでマネタイズできる持続可能なエコシステムを作り出す、ということを高校生のうちに学んでいるのといないのとでは、大きな違いを生むと感じています。
弊社のコンテンツには新しいビジネスを開発・実践するためのフレームワークであるリーンキャンバスも盛り込んでいます。特に収益とコスト構造の部分に関しては、徹底的に学んでいただきたいと考えています。

※リーンキャンバス…9つの項目からビジネスモデルをまとめるフレームワーク
出典:田所雅之「起業の科学 スタートアップサイエンス」日経BP社出版(2017/11/2)

(河野)リーンキャンバスを描かないと、やっぱり絵空事になってしまうんですよ。

(品川)はい。これを描いてもらうと、消費者の目線というのが議論に入ってきます。ここは授業で1時間2時間と時間をかけて話す価値がある部分です。このプロセスは実際のビジネスの企画立案や、事業を興したりするときによく使うフレームですから。

(河野)海外では当たり前のことですが、日本ではまだ不十分だなと感じるところなので、高校生の方たちに追いついてほしいですね。

(品川)こういうことを学ぶことで、シリコンバレーのようなイノベーションを起こせる人材が生まれたらうれしいですね。

誰の何を解決したいのか、に本気で向き合える高校生へ

(田中)実際に御社の実証授業に参加された学校の先生方の感想をお聞かせください。先生が感じるメリットはなんでしょうか?

(品川)プロダクトアウトの発想からマーケットインの発想に転換しました、という感想はよく頂きますね。生徒さんの視点、発言が変わった、物を見る角度が変わったとおっしゃいます。

(河野)生徒さんの変容自体が先生にとってのインセンティブになると感じています。教員が力を入れている取り組みで生徒さんが変わっていくのが見えるというのが、先生方のやる気につながっています。プロダクトアウトの発想からマーケットインの発想になって、誰のどのような課題、問題を解決するのかについて、より具体的に考えるようになったと思いますね。

地域循環共生圏に合意形成…次回もやりごたえ満点なコンテンツに

(田中)リーンキャンバスまで高校生に描かせるとはすごいコンテンツです。次回のSTEAMライブラリーの構想も聞かせて頂きたいです。

(河野)地域循環共生圏やSDGsにからめた内容を考えています。

※地域循環共生圏…各地域が足もとにある地域資源を最大限活用しながら自立・分散型の社会を形成しつつ、地域の特性に応じて資源を補完し支え合うことにより、環境・経済・社会が統合的に循環し、地域の活力が最大限に発揮されることを目指す考え方であり、地域でのSDGsの実践(ローカルSDGs)を目指すもの(環境省ローカルSDGsホームページより)

(品川)次回は合意形成をテーマに学んでいただきたいと思います。自分たちができない部分をカバーできるパートナーを見つけて、協働できる形で合意形成するというプロセスです。

(田中)合意形成は面白いトピックですね。学校では多数決を採ることが多いですが、それは合意形成の方法として完全とは言えませんよね。

(品川)そうですね。A案とB案があったら多数決で決めるのではなく、この2派が議論して新しいC案が出来ると、それが一番実現可能性の高い案になるわけです。ですから地元の課題をテーマに、大いに議論して、ぶつかり合ってほしいですね。

(田中)それは興味深いです。次回も期待しております。

ABOUT ME
この記事を書いた人:Study Valley 編集部
探究No.1メディア”Far East Tokyo”編集部です!執筆陣は、教育コンサルタント、元教員、教育学部大学院生など、先生方と同じく、教育に熱い思いを持つStudy Valleyのスタッフ陣です。子どもたちがわくわく探究する姿を思い浮かべながら制作しています!先生方のお役に立ちますように。Twitterフォローで記事更新情報が届きます。
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【この記事の監修者】

田中 悠樹|株式会社Study Valley代表

田中 悠樹|株式会社Study Valley代表

東京大学大学院卒業後、ゴールドマンサックス証券→リクルートホールディングスに入社。同社にて様々な企業への投資を経験する中で、日本の未来を変えるためには子どもたちへの教育の拡充が重要であると考え、2020年に株式会社Study Valleyを創業。
2020年、経済産業省主催の教育プラットフォームSTEAM ライブラリーの技術開発を担当。
2024年、経済産業省が主催する「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」に委員として参加している。