探究学習

「振り返り」は価値ある探究学習に必須。その目的とメリット・やり方について

この記事では探究学習で行われる「振り返り」のメリット・やり方、行うときの注意点を紹介します。

具体的は以下のようなことを解説し、これまで振り返りをしたことがないクラスでも、メリットと注意点を理解し、簡単な方法から振り返りを試していただけるようになっています。

「振り返り」3つのメリット
「評価」の外側にある成長や伸びしろを自覚できる
学んだ知識・理解・感情などを整理できる
メタ認知力を鍛えられる

振り返りのやり方
(初級)質問に回答する
(中級)リフレクティブ・ライティングを行う
(上級)コンセプトマップを作成する

振り返りを行うときの注意点
無理のないレベル・時間で行う
安心して振り返りが行える環境を準備する
次の探究につながるポジティブなフィードバックを行う。

振り返りとは、一言でいうと「探究学習で学んだことを自分なりの言葉で表現すること」です。その活動を通じて生徒は「次の探究へ向かうための学びを得ること」ができます。

探究は一度行えばいいのではなく、一つの探究が次の探究へつながり、そのサイクルを繰り返していくことに特徴があります。「また探究したい!」と生徒が感じるためには、今回の探究で何を学んだかを自覚して自分なりに表現する「振り返り」が欠かせません。

振り返りでは、スキル面に関してはもちろん、今回の探究が自分にとってどういう意味があったのか、どう成長できたのか、という「評価の外側」にある成長や伸びしろに気づくことができます。このことが、生徒が主体的に「また探究したい!」と次の探究へ向かう原動力につながるのです。

この記事を読まれましたら、ぜひ探究に振り返りを取り入れてみてください。

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「振り返り」3つのメリット

まず探究学習における振り返りのメリットを見ていきます。

「評価」の外側にある成長や伸びしろ自覚できる

「評価」の外側にある成長や伸びしろを生徒が自覚できる点が一つ目のメリットです。評価はあくまでも限定された観点にもとづいて、探究のプロセスや成果に価値をつけるもので、振り返りとは異なります。

たしかに探究学習の評価は重要です。探究学習では生徒のポートフォリオ(探究で集めた情報やレポート、発表資料などを蓄積したもの)を用いたルーブリック評価が行われることがよくあります。ルーブリックには複数の観点があり、生徒の探究を多角的に評価できるようになっています。

しかし、ルーブリックにはない観点で生徒が大きく成長していることもありますし、逆に今後伸ばしたほうがいい能力・資質が見つかることもあるでしょう。

課題設定から情報の収集・分析、まとめ・発表に至る部分まで一連のプロセスをしっかり振り返ることによって、評価だけではわからない、自己の成長や伸びしろを自覚実感できるようになります。

学んだ知識・理解・感情などを整理できる

二つ目のメリットは、振り返りによって探究学習で得た知識や理解、感情などを整理できます。整理することで学習の定着につながりますし、生徒が、探究学習の成果を探究学習の意義を深く理解することにつながります。

プロセスを時系列で言語化するだけではなく「どのような学びがあったのか?」「どのような思いで学習を進めていたのか?」などを学習後に再考することで、生徒の信念や知識体系を抽象化させていきます。

この一連の流れで、後述のメタ認知力向上にもつながるのです。

メタ認知力を鍛えられる

探究学習を振り返れば、子どものうちから培っておきたいメタ認知力が鍛えられます。これが三つ目のメリットです。

メタ認知力とは、自分の認知を客観視できる力のことです。社会へ出て仕事をするときにも重要視されるスキルの一つです。

探究学習は「主体性」が大きなキーワードです。メタ認知力が高まると、生徒自身が振り返りを通じて、「探究の何にやりがいを感じたのか」「自分はどう成長したのか」「何が上手くできなかったのか」等を表現できるようになっていきます。そのことが「次はこれを探究していよう」「次はこうしてみよう」など、次の探究へ主体的に取り組むことにもつながります。

振り返りの具体的方法3つ

次に振り返りの具体的な方法を、初級・中級・上級の3段階に分けて紹介します。

いずれも教員がポジティブなフィードバックを行うことで、より高い効果が得られます。

振り返りを取り入れた学習法のことを「リフレクティブ・ラーニング(省察的学習)」ともいいます。探究学習以外にも応用できる内容ですので、ぜひご確認ください。

(初級)質問に回答する

一番簡単な方法は、教員が口頭で質問し、回答させることです。

どのような質問に回答させると良いのかの具体例をいくつか紹介します。

探究ではいつ、どこで、なにをしましたか

グループ学習であなたの役割はなんでしたか

探究でよくできた点は何ですか

探究の改善点は何ですか

探究で新たに習得できた知識、スキルにはどのようなものがありますか

探究を通じて成長したと思いますか?その理由は何ですか

良い探究を行うポイントを3つにまとめるとなんだと思いますか

もう一度、探究を行うとしたら、どのようなテーマや問いにしたいですか

探究で学んだことは他の授業や学校外で活かせると思いますか

いずれも問いとしては非常にシンプル。ポイントは「良かったことは何か?」「3つにまとめてみると?」など具体的なことを聞くことです。「探究してみてどうだった?」のような抽象的な聞き方はよくありません。

生徒は簡単な問いに回答していくことで、これまでの探究学習の振り返りがしやすくなります。さらにクラスで共有すれば他の生徒の学びも合わせて吸収できる点もメリットです。

(中級)リフレクティブ・ライティングを行う

口頭で質問に回答する次のステップとして、リフレクティブ・ライティングがあります。自身が取り組んできた探究学習を振り返りながら、回答を文章に書きます。

質問内容は先ほど紹介した質問を参考にしてみてください。質問をまとめた「振り返りシート」のようなものを作って配布してもよいでしょう。

リフレクティブ・ライティングでは実際に文章をつくることで、生徒自身が学んだことを深く理解できるようになります。探究学習は自分にとって非常に有意義な時間だったと感じやすくなり、次も探究を頑張りたいと思うことにもつながります。

教員はリフレクティブ・ライティングを指導する際「感想を書きましょう」と抽象的に問うのではなく、初級の回答同様、より具体的な質問を提示するようにしましょう。

(上級)コンセプトマップを作成する

さらに上級の振り返り方法は、コンセプトマップ(概念地図)の作成です。リフレクティブ・ライティングが文字を用いる手段であれば、コンセプトマップは図で表現させる方法です。既に起こっている・わかっている事柄と学びで得た概念を矢印によってつなぎ合わせていきます。

例えば、下記の図のようなものがコンセプトマップです。

結びつく概念が多いほど、探究学習を通じて正しく理解を得られているという判断材料となります。逆に概念ばかりが多く結びつけができない生徒がいれば、断片的な理解しかできていない可能性があるでしょう。

また探究学習が終了した段階で直ちにコンセプトマップを作成することで、自身がどのような学びを得られたのが見える化しやすく、学習の達成感も得られます。

振り返りを行うときの注意点

振り返りを行うときの注意点を紹介します。

無理のないレベル・時間で行う

振り返りをしなければいけないと意気込ませず、まずは無理のないレベル・時間で取り組んでもらうことがポイントです。

質問に回答させてコンセプトマップも作らせて・・・と、あれこれと同時に手をつけさせてしまうと、メタ認知活動に慣れていない生徒は振り返り自体が大きな負担となり学習効果が得られません。

そのため気軽に考えられるような簡単な問いに回答させるようなところからスタートしてみましょう。また、

「振り返りはしたいんだけど授業時間がなくなっちゃって、いつもできないんだよね」

という声もよく聞きます。授業の余り時間など、時間が足りない状態で無理に振り返りをさせようとしても、中途半端で終わってしまいます。振り返りのための時間をきちんと確保することも大切です。

安心して振り返りが行える環境を準備する

生徒が安心して振り返りを行える環境づくりも大切です。

振り返りが評価(成績)につながらないことを生徒に伝えましょう。生徒は「背景に評価があるのではないか?」と感じると、そこに目が向いてしまい「評価される答え」に近づけようとし、本来の振り返りの意義が損なわれる可能性があります。

また生徒の主体性を尊重し、「教員の考える正解へ近づけさせる」「安易に批判する」といった行動は絶対に控えましょう。

各自の振り返りをクラスで共有するときは、誰の振り返りであっても尊重して、からかいが起きたりしないようなクラスの雰囲気作りも必要です。

安心して振り返りのできる環境をつくることに努め、教員は生徒が行き詰らないようにサポートしてあげましょう。

次の探究につながるポジティブなフィードバックを行う

生徒が「次も探究学習をしたい!」と思えるように、教員はポジティブなフィードバックを行いましょう。

生徒の言葉を受け止め、尊重し、生徒の気づきや学び、感情の理解に対して積極的に褒めてあげることが重要です。

また振り返りに関して「何をすれば良いのかわからない」という不安や悩みを持っている生徒に対しては、具体的な方法で紹介したように質問を用意した上で生徒と一緒に対話をし、振り返りしやすいような道筋を立ててあげることが大切です。

冒頭にも述べましたが、振り返りでは「学んだことを自分なりの言葉で表現すること」が大切です。先生から見てうまくまとまっていなくても、期待する答えでなくても、生徒の振り返りを尊重し、ポジティブなフィードバックをしてあげてください。

まとめ

探究学習の振り返りについて、そのメリットや具体的な方法、注意点について紹介しました。

「振り返り」3つのメリット
「評価」の外側にある成長や伸びしろを自覚できる
学んだ知識・理解・感情などを整理できる
メタ認知力を鍛えられる

振り返りのやり方
(初級)質問に回答する
(中級)リフレクティブ・ライティングを行う
(上級)コンセプトマップを作成する

振り返りを行うときの注意点
無理のないレベル・時間で行う
安心して振り返りが行える環境を準備する
次の探究につながるポジティブなフィードバックを行う。 

生徒の気づきや学びを深め「また探究したい!」と思ってもらうために、振り返りは欠かせません。これまで振り返りを行っていなかったクラスでも、振り返りをやってみることをおすすめします。

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【この記事の監修者】

田中 悠樹|株式会社Study Valley代表

田中 悠樹|株式会社Study Valley代表

東京大学大学院卒業後、ゴールドマンサックス証券→リクルートホールディングスに入社。同社にて様々な企業への投資を経験する中で、日本の未来を変えるためには子どもたちへの教育の拡充が重要であると考え、2020年に株式会社Study Valleyを創業。
2020年、経済産業省主催の教育プラットフォームSTEAM ライブラリーの技術開発を担当。
2024年、経済産業省が主催する「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」に委員として参加している。