STEAMライブラリー

探究で生まれたアイデアをJALが採用!?未来へ飛び立つ高校生に伝えたい学びとは~日本航空株式会社(JAL)~

この記事は経済産業省「STEAMライブラリー―未来の教室」のコンテンツ事業者様に、教材の詳しい内容な使い方のアドバイス、STEAM教育に対する想いなどを取材する連載企画です。

今回は「航空産業の10年後を考える~これまでの歩みと、気候変動を踏まえた今後の姿~」を提供してくださったJALの吉田様、渡瀬様にお話しを伺いました!

JALのコンテンツには、文系・理系に関わらず自由な発想で取り組める課題や、「機内の快適性と運航スケジュールどちらを優先するか?」など実際にJALで議論される「答えのない問い」に挑戦できるものなどがあります。

そして探究の過程で生まれた新しいアイデアはJALに採用される可能性も!?これまでもイベントや自社施設で大人も夢中になれるプログラムを作ってきたJALのコンテンツの魅力をたっぷり語っていただきました。

プロフィール


吉田俊也様
1990年入社。空港勤務などを経て、2018年からESG推進部に所属。空育、工場見学を担当。


渡瀬富美様
2010年入社。株式会社JALナビアなどの旅行会社さま向けのコールセンター業務を経て、2019年から事業創造戦略部に所属。新規事業開発を担当。

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STEAMライブラリーにコンテンツ提供したきっかけは?

(田中)
今日はどうぞよろしくお願いします。では、早速ですが今回STEAMライブラリーにコンテンツを提供してくださった動機や背景をお聞かせくださいますか。

(吉田)
経済産業省が毎年夏休みに開催している「経済産業省こどもデー」という子どもたちが霞が関でさまざまな体験ができるイベントに出展したのがきっかけです。

その際、JALが以前から取り組んでいた、飛行機が飛ぶ仕組みを小学生向けに体験できるJAL STEAM SCHOOLPortableを出典したところ、それをご覧になった経済産業省の浅野さんが面白いと評価してくださいました。その際にSTEAMライブラリーに関する構想をお聞かせいただいたことがご縁で公募に参加、採用が決まり参画させていただくことになりました。

JAL STEAM SCHOOL PortableのWebサイト- JAL STEAM SCHOOL Portable – 飛行機と空の世界を紐解く学び体験を どこでも 誰でも

 

(田中)
なるほど!そこでの参加者の反応はどのようなものだったのですか?

(吉田)
大変多くの方にご来場いただき、お子さまはもちろん、大人の方も夢中になって体験してくださいました。

JAL STEAM SCHOOL Portableは胴体と翼の組み合わせで100種類ほどのバリエーションがあります。組み合わせによりそれぞれ飛行特性が異なり、上手く飛べるものもあれば、揺れてしまうもの、離陸できないものなどもあります。それを実際に手も使って試していくプログラムがとても人気でしたね。楽しんでいただけている様子を見て、非常に手ごたえを感じました。

新たな教育分野だからこそチャレンジ!

(田中)
御社はどのような位置づけで、新規事業担当部がSTEAMライブラリーに参画されているのでしょうか?

(渡瀬)
私は、JALの中で新規事業を開発する部署に所属し、地域人財育成を通じた教育分野の可能性を検討しております。STEAM教育や探究学習は、いま大きく変革が起きている新しい分野です。ここに参入のチャンスがあるのではと考え、JALとしてそこにどのように貢献できるかを模索していくなかでSTEAMライブラリー事業に参加させていただきました。

コンテンツの内容は?

航空産業の10年後を考える~これまでの歩みと、気候変動を踏まえた今後の姿~(外部リンク:STEAMライブラリー)

(田中)
さまざまな観点から事業化に取り組まれているのですね!航空産業は物理をはじめさまざまな教科にまたがる分野ですし、化石燃料の問題など環境についても深い関わりのある産業ですから、STEAM教育や探究学習と相性が良いですよね。

STEAMライブラリーのコンテンツについてですが、今回御社は「航空産業の10年後を考える~これまでの歩みと、気候変動を踏まえた今後の姿~」というタイトルでコンテンツを提供してくださっています。このコンテンツはどのような先生、生徒が使うと良いでしょうか?

答えがない問いだから面白い!文系理系問わず取り組んでほしいコンテンツ

(渡瀬)
最近流行している「謎解き」が好きなような人であれば、楽しんで使っていただけると思います。一部の物理、化学に関する問題を除き、自分が何に価値を感じ、どこに優先順位を置くのかで答えが変わっていく問いを出しているので、理系や文系も関係なくお使いいただける教材です。

大切にしていることは「答えのない問いに挑んでいく」ということです。学校の教科の学習では答えのある問いにチャレンジすることがメインになると思いますが、この教材では答えがなく、「考える」ことに重きを置いています。

(吉田)
教材作成をしていくなかで教員の方々と意見交換をさせていただく機会があり、そこで「答えが複数あるものや、そもそも答えがないことの方が生徒に響くし、面白いと感じてもらえるのですよ」と広尾学園の先生からお話しいただいたことで迷っていた内容についても自信をもって作成することができました。

そのほかにも「ぜひ実業に近いことについて課題や問題にしてほしい」という現場の先生方からいただいた要望も参考にさせていただきました。

機内の快適性と運航スケジュールどちらを優先?実際にJALで議論される「答えのない問い」に挑戦!

(田中)
実際に御社のなかに存在している「答えのない問い」、例えば社内で意見が割れてしまうような課題、問いとは具体的にどんなものがありますか?「答えのない問い」をイメージしづらい方もいると思うので教えてください。

(吉田)
そうですね。コンテンツで取り上げている「飛行ルートの問題」などは実際に社内でも議論される「答えのない問い」です。

最短距離の飛行ルートを選んだ方が時間・燃料の節約になりますが、そのルート上に雲があると機体が揺れてしまったりするので機内の快適性は損なわれますよね。それでも定時に到着することを最優先して最短ルートで飛ぶのか、機内での時間も快適に過ごしていただくことを優先して迂回して飛行するのか、などはどちらも間違いではない「答えのない問い」の一つですよね。

(渡瀬)
コンテンツのセッション5・6・7が我々の実際の業務をリアルに体験していただける内容になっています。セッション6が吉田のお話した「最適な飛行ルート」について学んでもらうセッションです。実際に飛行ルートについては、所属する部署によって少しずつ考えが変わってきます。

安全運航は大前提ですが、地上職であれば、できれば定時に到着してほしいと考えますし、客室乗務員であればお客さまにご満足いただけるサービスを提供できるよう、なるべく揺れないルートを選択してほしいと考えると思います。パイロットとしては、まずは安全であることが第一優先事項であり、その次に何を優先するか考えるところです。自分の担当する業務によって譲れるところ譲れないところがあります。

またセッション7の荷物の積み付けに関しても同様の議論が社内で起こります。貨物本部からすれば、ギリギリまで荷物を受け付けて一つでも多くの荷物を積載したいと考えますし、カウンター業務を担当するスタッフであれば、30分前が手荷物預けの締め切りですが、お客さまが締め切り後に荷物を持ち込まれた場合、その手荷物の受託を断りづらいという現実があります。

一方、早めに荷物の受付を終えて、早いうちに全体の重量を把握して重量バランスなどを計算したい部署もあります。このように、部署の責務の違いから起こる意見の相違を建設的に議論していく、ということをこのコンテンツで疑似体験できる点が醍醐味ではないかと思います。

(田中)
興味深いですね!

JALのコンテンツはどう活用すべき?

(田中)
日本の高校生の中にはあまり飛行機に乗る機会のない生徒、航空産業に興味のない生徒もいると思います。そんな生徒に対して、彼らの興味を引き出せるような問いはどんなものがありますか?

(渡瀬)
「環境にやさしいヨットではなくて、なぜ飛行機を使うのか?」などの問いはひとつのきっかけになるかもしれませんね。例えばスマートフォンなどの精密機械やワクチンは航空便で運ばれることが多いんですよね。CO2の排出を考えるとヨットで運んだ方が環境には優しいのですが。

(田中)
たしかに、生徒たちにとって身近なスマホや話題性のあることに関連させると、自分ごとにしやすいかもしれませんね。

JALの職員は紙ヒコーキ作りが上手い!?

(吉田
先日、兵庫県の豊岡高校で行った授業で反応が良かったのは、実際に、運航乗務員とオンラインで学校をつないで、日常の仕事内容や、乗務員になった理由など質問をいただきながら話してもらうことでした。

航空業界に関心がない生徒さんにも、実際に現場で働く社員と話すことで、人にフォーカスして興味を持ってもらえるのではないかと考えたからです。

また折り紙の飛行機作りも講義への導入のため使いました。どのように折れば長く飛ぶ紙飛行機になるのか、運航乗務員からレクチャーを受けながら作ってみると、推進力や揚力という物理の用語に抵抗感のある生徒さんにも、すっと入っていく感触がありました。

(田中)
なるほど。じゃあJALの従業員の方は皆さん紙飛行機を作るのが上手いんですか?

(吉田)
いや、そうでもないです(笑)

(渡瀬)
折り紙ヒコーキの指導員の講習というのがありまして、指導員の資格を持っている方は社内に結構おります。私も実は隠れ指導員なんです(笑)

(吉田)
私は持ってません(笑)

(田中)
そんなものがあるんですね(笑)面白いです。御社のコンテンツを使用するにあたって、現場の先生が留意する点や準備することはありますか?またセッション1から順番に通しでやった方がいいのか、それともバラバラにやってもいいのか、どんなシーンで使うのがオススメかなどありますでしょうか?

総合でも教科でも使える

(渡瀬)
教科横断型のコンテンツなので、すべてのセッションを学習しようとすると総合的な探究の時間など1年を通じて使うことになると思います。

一方、1セッションだけ独立して使用することも可能な構成ですので、教科内で使っていただくことも可能だと思います。例えば「飛行機の燃料とCO2」などは化学の時間に、「ロードコントロール」であれば物理の時間、セッション1・2であれば歴史の文脈で使っていただくことが出来ると考えています。

セッション8は3つに分かれていまして、一つ目は実際に手を動かして電気飛行機を作る、二つ目は新たなサービスを考案する、三つ目はどんな燃料を使っていくか考察する、から選べるようになっているので、本格的な探究的学びの時間に取り組んでいいただければ幸いですね。

生徒と一緒に肩の力を抜いて楽しんでほしい

(渡瀬)
学校の先生方は、生徒の質問に全部答えないといけないとか、間違ったことを言ってはいけない、正しい答えにたどりつかないといけないなどのマインドを持ちがちでいらっしゃると感じているのですが、そんなことはないのですよね。

実際、航空業界にいる私と吉田がこのコンテンツに取り組んだとしても違う答えが出てくると思いますし、統一した一つの答えというのは本当にないので、生徒と一緒に楽しみながら取り組んでいただければいいと思います。 むしろ、このコンテンツを通して、「この生徒はこんな考え方をするのか。面白いな」と感じるような、プロセスを楽しむ授業にしてほしいですね。

(田中)
出た答えではなく、その答えに辿りつくまでのプロセスが大事だということですね。

生徒のアイデアがJALに採用されるかも?

(渡瀬)
三段論法やチャートで思考を整理する方法を使いながら、生徒さんと一緒に肩の力を抜いて取り組んでいただく。そして、もし「これは!」と思うような素敵なアイデアが生徒さんから出てきたときには弊社にもご共有いただければ、とてもうれしく思います。

STEAMライブラリーのコンテンツのセッション8で生徒さんから上がった航空事業の新しいアイデアなどは、しかるべき関連部署と共有して、今後の施策に取り入れていきたいですし、我々の持つWebサイトやSNS、施設などで紹介することで、生徒さんのモチベーションをアップさせていきたいですね。

(田中)
それはすごい!自分たちの探究からJALの本物の施策につながったら、最高の学びの経験になりますよね。アイデアを見ていただけるというだけでも、社会に開かれた学びを意識する、とてもいい機会になると思います。

動画だけ使ってもOK!

(吉田)
経済産業省に出向されている学校の先生からのご紹介で教員のコミュニティーイベントに参加させていただいたのですが、そこでJALの教材を使ってみたいのだけれど使い方が分からないという声が多く上がっておりました。

きっかけ作りとして1コマだけ使ってくださるので全然構わないとお話させていただきました。すべてやろうとすると結構なボリュームで一年がかりになるのでハードルが高いのですが、1コマだけとか動画だけ見ていただいてもいいですし、とにかく使っていただきたいといったお話しをさせていただきました。

(田中)
JALのSTEAM教育を修了すると認定証がもらえる、なんて企画は考えていらっしゃらないのでしょうか(笑)欲しい生徒さんも多いと思うのですが。

(吉田)
我々は教育事業のプロではないので、この講座を受けたら何かを認定する、というような仕組みは残念ながらないです。航空事業に関すること自体は、子供向けではないのですが「航空機・エアライン検定」という検定をやっておりますのでそちらを受けていただければ幸いです。

旅客機・エアライン検定 公式サイト (kentei-uketsuke.com)

 

(田中)御社のコンテンツを使った後に、「航空機・エアライン検定」を受けたら完璧ですね(笑)

自分の好きなものと勉強が、つながっていること知ってほしい

(田中)
もし吉田さん、渡瀬さんが中高生のときにSTEAMライブラリーのようなコンテンツや探究の授業があったら、なにかご自身の将来に影響していたと思いますか?

(吉田)
私はバブルに就職活動をした世代でして、当時は売り手市場ということもあり、比較的自由に就職活動をさせていただきました。大学の諸先輩にコンタクトして直接お会いしながらさまざまな業界の話を伺いました。知らない業界や会社の存在を知るには、当時そういった方法しかありませんでした。

現在の学生の方々は、インターネットやWebサイト上の教材を使えば、実際に人に会わなくてもそれらの知識に触れることができます。コロナ禍で学生がリアルに人と会う機会が制限されていますが、この状況が落ち着き、どちらもできるようになれば、情報ソースが増えて良いですよね。非常に羨ましい時代になっているのかな、と感じますね。

(渡瀬)
良い時代ですよね。 今自分が抱えている気持ちを持って高校生に戻れるならもっと一生懸命勉強したのに、という人は私だけでなくたくさん居るのではないでしょうか。その中で探究学習という、偏差値教育とは別の尺度で自分の興味のあることを考えられるSTEAMライブラリーという存在があったら面白かったのではないかと思っています。

私の高校時代は「学ぶ」ということの意味がわからないまま、何か呪文のように数学の公式を覚えて、それを使って問題を解いて、これが一体社会の何に役に立つのか知らないまま、次の定期試験に向けて勉強していました。ですが、自分が今勉強していることと、それが社会でどう使われているのか、ということが線で見えると、それなら取り組んでみたいと思えるきっかけになりますよね。自分の好きなものと勉強がつながっていることを知ることができたら、私ももう少し勉強したかな、と思いますね。

(田中)
JALのコンテンツをきっかけにして、そこに気付く高校生がたくさん増えてほしいですね!大変興味深いお話、ありがとうございました。

田中悠樹(インタビュワー)


STEAMライブラリーのシステム構築事業者である株式会社 StudyValley代表取締役
2011年にゴールドマンサックス証券テクノロジー部に新卒入社。株式会社リクルートホールディングスでは海外のVCを担当。2020年に株式会社StudyValleyを設立。オンライン学習サービス「アンカー」や業務・学習支援ソフト「TimeTact」の開発や運営を行う。創業1年目でSTEAMライブラリーのシステム構築事業を受託。


ABOUT ME
この記事を書いた人:Study Valley 編集部
探究No.1メディア”Far East Tokyo”編集部です!執筆陣は、教育コンサルタント、元教員、教育学部大学院生など、先生方と同じく、教育に熱い思いを持つStudy Valleyのスタッフ陣です。子どもたちがわくわく探究する姿を思い浮かべながら制作しています!先生方のお役に立ちますように。Twitterフォローで記事更新情報が届きます。
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【この記事の監修者】

田中 悠樹|株式会社Study Valley代表

田中 悠樹|株式会社Study Valley代表

東京大学大学院卒業後、ゴールドマンサックス証券→リクルートホールディングスに入社。同社にて様々な企業への投資を経験する中で、日本の未来を変えるためには子どもたちへの教育の拡充が重要であると考え、2020年に株式会社Study Valleyを創業。
2020年、経済産業省主催の教育プラットフォームSTEAM ライブラリーの技術開発を担当。
2024年、経済産業省が主催する「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」に委員として参加している。