探究学習

【解説あり】地理探究の学習事例5つを紹介

「地理探究」の事例が知りたい

探究学習の事例をお探しの先生へ。

2022年から本格的に始まる「探究学習」。地理探究をどうやって教えたらわからない・・・そういったお悩みをよくいただきます。

そこで本記事では「地理の探究学習事例」を調査してまとめました。

テーマやねらい、実践のプロセスや結果なども掲載しています。授業の参考にぜひお使いください。

*地理探究はまだ事例が少なく、完全には探究学習といえないけれど、一部を変更すれば探究学習として、十分実施可能な例も取り上げています。その際は、そのポイントもお伝えしています。

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地理探究のポイント

地理の探究学習を設計するうえで重要なポイントは大きく2つ。

「総合的な探究の時間」が探究的な学びを身につけるのに主眼が置かれ、テーマや課題に自由度があるのに対し、教科の探究は、探究的な方法で「教科に関する知識や考え方」を身に付けることも期待されます。

探究を通じて、生徒が教科の知識や考え方を身に付けられるようにデザインしておく必要があります。 またペーパーテストと違い、成果だけでなく探究のプロセスも評価の対象になるのが探究学習です。探究のプロセスを評価する方法を決めておくことも重要です。

事例をご覧になる際も、これらのポイントを踏まえて見ていただく良いかと思います! それでは、地理探究の事例を紹介していきます。

【解説あり】地理探究の学習事例5つを紹介

1.スマートフォンから世界が見える

スマートフォン(以下、スマホ)から見えてくる現代的諸課題の存在について理解し、解決策を多面的に考察した事例です。

テーマ貿易、資源、内戦
学習期間全9時間
実施校専修大学松戸高等学校

学習のねらい

スマホに関わる諸課題の現状を踏まえ、問題解決へ向けての取組みについて多角的に模索する。

獲得を目指した能力

①問題を全体的にとらえる能力
②問題の解決策を見出す能力
③自分自身と社会との関連性を見出す能力
④個人の変容を促す能力
⑤社会の変容を促す能力

課題・実施の流れなど

1時限目
情報通信の発達がもたらしたものについて考える。また、世界の携帯電話の契約数の推移やスマホの原材料となる鉱物資源の産出国について調べる。

2時限目
ビデオを視聴し、鉱物資源の産出国や経済システムにおけるスマホの弊害について学ぶ。

3~4時限目
スマホの問題点について、環境・経済・社会・政治の4つの観点に分類して班で議論し、ワークシートに記入する。

5~6時限目
産出国であるコンゴで起こっている問題と自分たちの生活とを、鉱物資源の生産とスマホの利用との関係を通じて見出す(班での議論や構造図の整理等を通して)。

7~8時限目
スマホに関わる問題への解決策を考察し、班でまとめた結論を発表する。

9時限目
これまでの学習を振り返り、授業の前後で自身の意識はどのように変化したのかをミニレポートにまとめる。

結果

学習終了後の質問紙調査からは、多くの生徒がスマホに関わる諸課題について当事者意識を高めていったことが伺われました。

課題

獲得を目指した能力のうち、①~④についてはおおむね身についたと判断できました。⑤「社会の変容を促す力」の育成については、事後の質問紙調査によると生徒の関心が相対的に低く、課題が残りました。

ポイント

「問題を全体的にとらえ、解決策を見出そうとする」アプローチであるシステム思考にのっとって計画された探究学習例です。

開発コンパス(開発についての『問い』を考えるための枠組み)、構造図などを用いて、生徒の意見を視覚化し、思考をわかりやすく整理しています。このようなツールの使用も有効です(詳細には実際の図が掲載されています)。

関心を持った理由は、1位が「身近なモノがテーマであったため(13名)」です。

格差や環境問題といった大きなテーマを取り上げる際も、身近なモノから大きなテーマにつながっていることを理解させることで、社会問題を自分ごととして捉えやすくなることがわかります。

2位~4位がそれぞれ「物事の関連性が理解できるようになったため(8名)」「課題を総合的・全体的にとらえることができるようになったため(7名)」、「自分たちで調べたり発表したりしたため(7名)」でした。

情報収集やまとめ、ディスカッションやプレゼンテーションといった学習のプロセス自体も、生徒の興味・関心を喚起する上で大きな役割を果たすと考えられます。

詳細:システム思考及びマルチスケールの視点を活用した高等学校地理授業実践の成果と課題

2.フィールドワークで諏訪地域の地域課題解決を

諏訪湖の御神渡

一ヶ月半にわたる諏訪地域の地理探究です。2泊3日で現地調査や住民の方への取材も行われます。

テーマグローバル地理・地域課題の解決
学習期間約1ヶ月半
実施校お茶の水女子大学附属高等学校
対象学年1年生

学習のねらい

・長野県諏訪地域を事例に、地域の特徴や課題を発見し、解決方法について考察する。

・探究学習の一連の流れを体験することで、課題を追究することの意味を理解する。

課題・実施の流れなど

長野県諏訪地域の課題は何か、またその課題にはどのような解決方法があるかを考える。

事前学習
地域の情報や地理的特徴を収集した上で、地域の社会的な課題を発見し、その背景や解決に向けて行われている取り組みを知る(課題図書、図書館等での学習に加え、大学教員による講義も行われる)。さらに、自分なりの課題解決に向けた考察を行い、生徒間で共有する。

→高校へ入学する前の課題として、事前学習レポートを課している。

現地調査
2泊3日の現地調査を行った。実際に観察や聞き取りを行うことで新たな情報を収集する。また、地域をとらえ直すことで新たな課題を発見したり、より地域の現状を踏まえた課題解決を模索する。聞き取り調査の進め方は生徒自身が考える。

事後学習
聞き取った内容や考察を班内や報告会で共有し、議論・発表する。フィールドワークにおける自分の行動を振り返ること、地域の方々へのお礼状の作成や、地元新聞への投稿を行い、学習成果を地元へ還元することを指導している。

→評価については、事前学習・現地調査・事後学習のそれぞれにおける到達目標を示したフィールドワーク評価表を用いて行う。評価表は事前に提示しており、フィールドワークにおいて細かい指示がなくとも、生徒自身がどのように行動すべきか主体的に判断するためにも活用されている。

結果

・直接自分の目で見て、話を聞くことで地域への本質的な理解が深まった。

・立場や集団での役割が違う人へ聞き取りを行ったことで、課題解決を一方からだけではなく多面的・多角的に考えることができるようになった。

・地図の読み取り、フィールドワークのマナーや手法、報告会でのプレゼンテーションを含む地理的技能や表現力が高まった。

・課題探究・課題解決に対する意欲や学びに向かう力の向上、仲間との議論や協働作業を通じた人間的成長が見られた。

・生徒にはプラスの効果が多く見られたが、聞き取り調査において生徒が毎年似た質問を繰り返すことで地域の迷惑になるのではないかという懸念は、先生の側に常にある。マナーや調査倫理についての指導や、地元還元を考慮しているのはそのため。

生徒の声

・直接見聞きすることで、地域への本質的な理解を深めている

・課題解決を多面的に捉えるようになった(『だれの視点から見るかで解決策が違ってくる』『街を活性化させるというのは、想像していたものほど単純ではなかった』)

ポイント

毎年、地域探究行っている学校ならではの、仕組み化されたカリキュラムが参考になるとともに、毎年行っているがゆえの懸念(毎年同じような質問をして地域の迷惑になっているのではないか)、そのことへの取り組み(マナー指導、地元紙への調査結果の投稿など)がわかるのが本事例の特徴。授業の終わりが学習の終わりではなく、事後学習が振り返りの機会にもなっています。

フィールドワークを伴う地域探究は本事例のように、生徒にとって社会とのつながりを実感し、多角的に思考する力を養う良い機会になります。一方で、地域との良好な関係も必要不可欠で、お茶の水女子大学附属高等学校の事例はその点でも参考になる内容です。

詳細:高校地理教育におけるフィールドワークの効果

3.亀岡盆地の地形と水害との関係を考える

亀岡盆地の特徴や水害について学び、防災マップを作成しました。

防災マップ作成と、概念的・方法論的に終始しがちな地理の「地域調査」とを組み合わせることで、生徒が防災リスク軽減行動を学ぶともに、地域調査の学習効果を高めることをねらいとした事例です。

テーマ防災、地形、読図
学習期間7、9、10月各2日の合計6日(計735分)
実施校京都府立南丹高等学校
対象学年2年生

学習のねらい

単元目標は以下の2点。

・高校地理で学ぶ内容をもとに水害の特徴を学ぶと同時に、水害が発生する自然的・社会的要因に関する理解を深める

・上記で学んだ内容をもとにフィールドワークや地形図の読図方法を学び、身近な地域の災害・危険個所や避難場所・安全箇所に関する理解を深める

課題・実施の流れなど

1時間目
日本の自然災害の特徴・亀岡盆地の地形と水害に関する講義、地形図の読図、「洪水ハザードマップ」の読み方に関する実習を行う。

2〜7時間目
亀岡盆地の馬路町および千代川町でフィールドワークを行う。その後、フィールドワークで巡った各地点に関する情報を整理したり、「洪水ハザードマップ」に記載された危険箇所・安全箇所を確認する。

8〜12時間目
フィールドワークや講義で得た情報を基に、4〜5名の班で防災マップを作成。作成後は発表を行い、受講生間で情報を共有する。 発表後、水害について正しく理解できているか、発表用資料を用いて検証を行った。

結果

生徒の感想では、実際に現地を見て歩くことで新たな情報が得られたとする意見や、教室で学んだ内容の理解が深まったとする意見が多く見られました。

マップ作成により、教室内での講義・実習とフィールドワークで得られた情報とが関連付けられ、理解が深められています。

ポイント

防災マップ作成の取り組みが高校地理での地形や読図、地域調査、さらに水害リスクの理解に効果的であることが示されました。

地域の防災・災害リスクへの対応という、教科書では学ばびませんが、地域に生きる生徒たちにとって非常に重要なテーマを、地理探究を通じて学ぶことが大きな意義と効果があることがわかります。

事後学習を効果的に行うことで、教室の中と外の学びを結びつけて捉えられるようにしている点もポイントです。

詳細:高校地理での学習内容を活かした防災教育プログラムの開発と実践

4.Googleマップを使って地域犯罪防止に挑む

テーマ防犯、都市
学習期間全3コマ
実施校広島県立呉宮原高等学校
対象学年2年生の理系2クラス計83名

学習のねらい

実際に犯罪が発生した場所の景観を、犯罪発生マップとGoogleマップのストリートビューで把握し、その場所の具体的な防犯対策を提案する。

対象の犯罪は、生徒らの認知度が比較的高く、一般的に発生件数の多い犯罪4種(自転車盗、侵入盗、ちかん、ひったくり)とした。

課題・実施の流れなど

1.呉市中心部の犯罪発生場所が偏っている要因を予測するとともに、防犯環境設計理論と防犯まちづくりの手法について調べる。

2.犯罪が発生した場所の景観を調査することで、犯罪発生の環境的要因を探究する。

3.呉市の防犯まちづくり に向けて防犯対策を検討し、対策実現のための行動を考える。

結果

・8割以上の生徒が理論に基づいた犯罪発生要因の説明と改善方法の提案ができた。

・一方で、そのうちの約75%の生徒は領域性(物理的なバリア)か監視性(目撃される可能性。防犯カメラ、明るい照明など)のどちらか1つのみの根拠しか挙げておらず、多面的な考察に至らなかった。

・1つのリスクを減らすために他のリスクが高まるというリスク・トレードオフに関する考察が不十分だった。

ポイント

身近な環境における犯罪という生徒にとって現実感のあるテーマを扱い、実際の犯罪データをもとに防犯まちづくり考察する課題となっています。

対象範囲を変えることで、さらに複雑、または単純化した課題にも応用可能です。またこの事例ではGoogleストリートビューを用いて対策の検討を行っていますが、フィールドワークとも相性のよい探究課題です。

詳細:システム思考で地域的諸課題を考察する高校地理学習

5.「日本一若い町・藤岡町」から人口問題を考える

かつて、林業から製造業への産業構造の変化に伴って若年人口が急増し「日本一若い町」として有名になった愛知県の藤岡町。その藤岡町の人口変化を分析することで人口問題について考察します。

テーマ人口、産業
学習期間50分授業×2回
実施校私立桐朋高等学校(東京都)
対象学年地理選択の2年生

学習のねらい

・様々な社会問題の根幹にある「人口問題」への理解を深めること

・愛知県藤岡町の人口変化の実態を資料から読み取り、その背景や影響について多面的に考察できるようにする。

課題・実施の流れなど

「藤岡町は、なぜ日本一若い町になったのだろうか?」という単元で取り組む大きな問いをもとに、「減少していた人口が増加に転じ,さらに急増したのはなぜだろうか?」などの小さな問いを設け、段階的にアプローチしていく。

授業の過程では「愛知県藤岡町の人口変化の実態を、統計資料から読み取る」「藤岡町の時代ごとの人口変化をもたらした社会的背景を、各種の資料から考察する」などの小課題が設けられ 、藤岡町の人口変化が人々の生活に与えた変化について考察し、人口変化に伴って生じる課題を理解した上で、課題解決への方策を検討する。

また、それぞれの授業の冒頭やまとめの際に、生徒が自分の予想や考察結果を発表する時間が設けられている。

結果

生徒は人口が集中する東京都の高校生であり、授業前は人口減少や過疎化が進む地方の状況について実感できていなかった。しかし、今回の授業を通して実感を伴って理解できたことが窺えた。

ポイント

人口問題は世界的にも重要なテーマですが、人口変動のあり方、そしてそれに伴う地域社会の変容もまた様々です。従って人口問題に取り組むには、国単位での議論だけでなく、地域ごとの人口変動が生じた背景や、人口変動が地域社会の変容に及ぼす影響を、多面的に考察する必要があります。人口変動に関して特徴ある地域を取り上げることで、生徒にも実感をもって人口問題を考え、取り組むきっかけを与える事例です。

探究学習として設計された事例ないので講義が中心となっていますが、情報収集や、まとめ・発表の時間を設けるなどアレンジすれば探究学習に応用可能な内容です。

詳細:日本の人口問題を扱う動態地誌的学習の方法と意義

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【この記事の監修者】

田中 悠樹|株式会社Study Valley代表

田中 悠樹|株式会社Study Valley代表

東京大学大学院卒業後、ゴールドマンサックス証券→リクルートホールディングスに入社。同社にて様々な企業への投資を経験する中で、日本の未来を変えるためには子どもたちへの教育の拡充が重要であると考え、2020年に株式会社Study Valleyを創業。
2020年、経済産業省主催の教育プラットフォームSTEAM ライブラリーの技術開発を担当。
2024年、経済産業省が主催する「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」に委員として参加している。