この記事では「探究的な学び」が世界と日本の教育の中で、どう受け継がれてきたか、なぜ今、再び注目されているのかを解説します。
「探究学習」とは、「変化の激しい現代社会に対応するため、探究的に考え、課題に立ち向かい、生き方を変えていくためのスキルを身に付ける学習」です。
■文部科学省HPより
総合的な学習(探究)の時間は、変化の激しい社会に対応して、探究的な見方・考え方を働かせ、横断的・総合的な学習を行うことを通して、よりよく課題を解決し、自己の生き方を考えていくための資質・能力を育成することを目標にしていることから、これからの時代においてますます重要な役割を果たすものである。
「自ら答えのない問いをたて、答えを創造していくことを学ぶ方法」とも言えます。 探究学習は2022年から高校で必修になることで注目されています。
しかし、なぜ、いまなのでしょうか?
それは「21世紀型スキル」に代表されるような、予測困難な現代に自ら問いを立て、答えを作り出していく探究的な営みの重要性が、日本だけでなく世界中で注目されているからです。
■21世紀型スキルとは
「ACT21sプロジェクト(アメリカ教育省、マイクロソフトなどのICT企業、大学研究者らによる団体)」がまとめたもので、これからの時代に必要なスキルを、4つのカテゴリ、10のスキルで示しています。この記事の後半で詳しく紹介します。
実は教育史においても「探究的な学び」は120年以上の歴史を持っています。ときには批判を受け入れつつも、授業、課外活動といった教育現場で脈々と受け継がれてきました。 そのプロセスを見ていきましょう。
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デューイが唱えた「探究的な学び」経験主義
最初に「探究的な学び」の重要性を唱えたのは、アメリカの哲学者「ジョン・デューイ」。教科書や教師中心の教育ではなく、子供の興味・関心を中心にした教育を訴えました。
これはデューイの唱えた「経験主義哲学」に基づいた考え方で、アメリカ教育界に「進歩主義教育」のムーブメントを起こし、日本の教育にも影響を与えました。 日本では「生活単元学習」「問題解決型学習」という名で実践され、探究的な要素を見出すことができます。
教育は子供中心であるべき
これはデューイの言葉です。
子どもが太陽となり、その周囲を教育の諸々のいとなみが回転する。子どもが中心であり、この中心のまわりに諸々のいとなみが組織される。(デューイ『教育と社会』より)
デューイは、知識はそれだけ覚えればよいというものではなく、子供の自発的な興味・関心に基づく社会的な経験やものづくりなどを通して、子供自身の持つ知の体系に組み込まれて再構成されることが必要だと考えました。
これは「日常生活や社会生活に目を向け、生徒が自ら課題を設定する」とすることを目標とする現在の「探究学習」に通じるものです。
「子供中心主義」の弊害?
進歩主義教育は1900年代初頭の教育界に大きなうねりを生み出しましたが、一方で、子供中心主義に偏る弊害への批判もありました。
断片的な知識しか身につかず、学問を体系的に学ぶことや専門的に学ぶことがおろそかになるのではないか、また、体験することが目的化してしまい、本来身に付けるべき知識が身につかないのではないか、という批判です。
日本でも、このような状態に陥ることを、進歩主義教育の根底にある経験主義哲学にからめて「這いまわる経験主義」と批判されることがあります。
実際に、子供が持つ興味・関心の範囲は限られています。例えば子供の将来なりたい職業を聞くと、多くの子供が「スポーツ選手」「YouTuber」「お花屋さん」など、子供たちにとって身近な職業が上位を占めます。 しかしそれ以外にもたくさんの職業があり、それぞれ社会にとって重要な役割を担っていることは、大人であれば誰でも知るところです。
進歩主義教育への批判が高まる
デューイの理論が中心となった「進歩主義教育」は、子供中心主義に偏り、教科の学習、ひいては、体系的・専門的な学問の修得をおろそかにするのではないか、という批判がありました。 この批判はある「事件」をきっかけにさらに加速します。
スプートニク・ショック
1957年、ソ連が世界初の人工衛星「スプートニク1号」の打ち上げに成功します。当時、ソ連と「冷戦」と呼ばれる対立関係にあったアメリカでは、宇宙開発競争は、ある意味、戦争と同じような意味、重要性を持っていました。
人工衛星の打ち上げにおいて、ソ連に先を越されたことはアメリカ社会に大きな衝撃を与え、そのことは「スプートニク・ショック」と呼ばれています。
スプートニク・ショックは教育界にも及びます。これまでの子供の興味・関心を中心にした進歩主義教育では、宇宙開発に必要な高度で専門的な物理学や工学などを育む土壌が作れないのではないか、という疑問が大きくなったのです。
発見教育へ受け継がれる
進歩主義教育に変わって現れたのが「系統主義」という、その名の通り学問を系統的に学ぶことを重視する考え方です。 ここでは「発見教育」という方法が推奨されました。
学問の構造や体系を子供に「発見」させることで興味・関心を持たせようとするものです。これは「子供の興味・関心を大切にする」進歩主義教育の良い側面を取り入れたものです。
デューイの唱えた「探究的な学び」は子供の生活を中心に置くものでした。スプートニク・ショックを契機に批判が高まり、学問を中心とする系統主義が主流となりましたが、子供の興味・関心を重視する、探究的な学びの要素は継承されたともいえます。
日本でも起きた「這い回る経験主義」批判と受験戦争
デューイにはじまった進歩主義教育は日本で「生活単元学習」「問題解決型学習」などという形で実践されます。高い教育効果を上げる学校がある一方、一部では先ほど紹介した「這い回る経験主義」という批判も起こるようになります。
日本ではその後、1970年代から「受験戦争」が社会現象となり、偏差値重視、暗記・詰め込み型学習の傾向が加速していきます。 「探究的な学び」は「総合的な学習の時間」などで行われることになりましたが、その成果や実践は大きく広がりを見せることはありませんでした。
隠れた探究学習
しかし、活発な探究学習が行われなくなったということではありません。
例えば、学園祭や文化祭、体育祭、部活動といった、課外活動の場においては、生徒中心の活発な探究学習が隠れて継承されてきたという側面があります。
デューイに始まった「探究的な学び」が、途中、子供から学問へ中心の変化はあったものの、その重要性が受け継がれてきた過程を見てきました。
また日本でも受験戦争に押されながらも「総合的な学習の時間」、また課外活動では活発な探究学習が継承されてきました。 ここからは、なぜいま再び探究学習が必要とされているのかということを見ていきたいと思います。
教育先進国が「21世紀型スキル」を推進
人類史には、それまでの価値観や産業構造を大きく変えてしまうような「大きな波」が何度か訪れています。
最初の波は約1万年前の「農業革命」。二番目の波は18世紀末の「産業革命」。第三の波はインターネットに代表される「情報革命」です。(参考:トフラー『第三の波』) そしていま、「AI」に象徴されるようなテクノロジーのさらなる進化で「第四の波」が来ているとも言われています。
「波」が起こる間隔がどんどん狭くなり、そして激しくなっています。単純労働者はAIに代替されてしまうともいわれるくらい、大きな変化が予測される、これからの社会において「現代人が身に付けるべき能力、スキル、生きるための資質はなんなのか?」ということに注目が集まっています。 それらを研究し、体系化したのが「21世紀型スキル」です。
政府と産業界、教育界が協力
21世紀型スキルは、「ACT21sプロジェクト(アメリカ教育省、マイクロソフトなどのICT企業、大学研究者らによる団体)」がまとめたもので、これからの時代に必要なスキルを、4つのカテゴリ、10のスキルで示しています。教育先進国ではこれらを教育に活かす動きが活発になっています。
21世紀型スキルを学ぶための探究的な学びに再び注目
日本においても、近年の入試制度改革をはじめとした議論の中で「21世紀型スキル」を重視した教育体制への転換も議論されてきました。そして2022年から高校での「探究学習必修化」があります。 変化の激しいこれからの時代を生き抜くための力をつける方法として、再び「探究学習」が必要とされているのです。
課外活動ではこれまでも「探究的な学び」があった
日本、そして海外でも、一度、探究的な学びが批判され、教科的な学習重視になった背景があります。しかし、日本では課外活動において探究学習が継承されてきたという側面もあります。
答えのない問いに向かう生徒とそれに寄り添う教員
「どうすればみんなが楽しめる文化祭になるのか?」
「どうすればあの強豪校に勝てるのか?」
生徒自らの興味関心に基づいて、このような答えのない問いに立ち向かい、教員がそれに寄り添い、生徒中心で答えを創造していくプロセスは、探究学習そのものです。
海外で導入進む探究的な学び「PBL」
海外では日本の探究学習にあたる「プロジェクト型学習(PBL:Project Based Learning)」と呼ばれる学習法が取り入れられています。
例えば、アメリカのハイテックハイという高校は授業のほとんどがPBLで行われるにもかかわらず、大学進学率が国内平均を上回るなど、世界中から注目されています。 また各国で特色あるPBLが行われています。
参考記事:>探究学習で有名な海外高校の探究事例5選
教科の学力と探究学習の関係
探究学習に取り組むことで教科の学習にも良い影響があることが分かっています。
「這いまわる経験主義」に陥らず、正しく探究学習を実践できれば、これまでの教科学習や大学進学とも両立することも可能であることが示唆されます。
大学入試でも探究学習を重視する傾向
大学入試でも探究学習を評価する傾向が強まっています。例えば、ペーパーテストでは測れない学力を評価する、AO入試の比率が近年高まっています。
さらに積極的に「探究学習」を入試に取り入れる大学も出てきています。 大学で行われる研究は「探究」そのものです。高校から大学の学びをシームレスにつなぐ「高大連携」が進むと、高校での探究学習への取り組みや成果への評価は、ますます重視されるようになるかもしれません。
■参考
関西学院大学「探究評価型入学試験」
奈良女子大学「探究力入試Q」
日本体育大学「探究学習型」
答えのない問いに立ち向かうために
教育史における「探究的な学び」と、いま探究学習が注目される理由について見てきました。 約120年前、デューイによって提唱された「探究的な学び」の系譜は現代に受け継がれ、いま再び重要性を増しています。
ますます変化が激しくなる現代において「自ら答えのない問いをたて、答えを創造していくこと」は、人間にしかできない営みです。それを評価する動きは世界でも日本でもこれからますます加速するでしょう。
教育の現場でも、これまでの批判を再検証しつつ、子供たちが探究学習によって21世紀を生き抜く力をつけることが求められています。
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【この記事の監修者】
田中 悠樹|株式会社Study Valley代表
東京大学大学院卒業後、ゴールドマンサックス証券→リクルートホールディングスに入社。同社にて様々な企業への投資を経験する中で、日本の未来を変えるためには子どもたちへの教育の拡充が重要であると考え、2020年に株式会社Study Valleyを創業。
2020年、経済産業省主催の教育プラットフォームSTEAM ライブラリーの技術開発を担当。
2024年、経済産業省が主催する「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」に委員として参加している。