探究学習

社会発展の手段としての教育と人生を変える探究学習(後編)

ウガンダという国を聞いたことがありますか、ウガンダについて何か知っていることはありますでしょうか?  

ウガンダはアフリカ東部に位置し、約 4000 万人が暮らしています。一人当たりの国民総所得 GNI が 620 ドル(2018 年、世界銀行)という発展途上国です。1962 年にイギリスから独立して以来、クーデター等により政情不安定だった時期もありますが、1986 年に発足したムセベニ政権が現在まで続いています。  

日本ではあまり馴染みのないアフリカのウガンダで寄付金を集め、私財をも投じて大学院を設立し、教育を通じて現地の人々、社会の発展を支援した方がいます。今回はお話しを伺いながら、学ぶことが人生を豊かにする、社会を発展させる原動力となることについて考えてみたいと思います。

前編から読む場合にはこちらからご覧ください

 

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プロフィール

塩光 順 様

外資系企業(旧Citibank Japan)を経て、イギリスのケンブリッジ大学にてMBAを修了. 2014 年に African Business Institute をウガンダで設立し、世界中の大学から教師を招きながら自らも教壇に立ってビジネス教育を現地の人へ届けています。2021 年に AVODA GROUP を設立し、起業家養成とコンサルティングに従事されています。  

AVODA, African Business Instituteはアフリカの貧困問題を解決し、現地市民を中流階級への仲間入りするためにビジネス教育を行なっています。 どちらも授業の半分はMBAのようなビジネス科目のレクチャーで、残りの半分はフィールドトリップや起業プログラムなど実践形式になっています。この実践形式の企業は卒業後もサポートが続き、メンターシップや卒業生ネットワークを通じてビジネスが軌道に乗る支援を行い、卒業生がしっかりとした生活基盤を築けることを目指しています。

https://avodagroup.org/home/  

 

 

AVODAは「ビジネス版」探究学習

渡辺
渡辺
学校の学びと実社会をつなげる、という視点は日本でも広がりつつある探究学習にも通ずるかと思います。教科別学習ではなく、学際的でありながら、同時に深く掘り下げていくことを目指しています。

塩光 様
塩光 様
探究学習は African Business Institute(以後, ABI) の教育と共通点があります。さらに、今年スタートした AVODA はより実践的なカリキュラムであり、探究学習に近いように思います。

先生も生徒も起業が当然。学びながらビジネスを成長させる

塩光 様
塩光 様
ABIとは違ってAVODA ではカリキュラム前半時点で学生は起業して、事業運営を中心にして随時学んでいきます。起業がまずあって、座学は起業をサポートする位置づけです。

渡辺
渡辺
まさに探究学習では問題も解答も与えられず、自らが問いを立てて、調べ考えながら自分なりの解答をたどり着くよう試行錯誤します。 この一連のプロセスは AVODA の学生がビジネスを舞台に実践されていることだろうと想像します。

塩光 様
塩光 様
はい、探究学習のビジネス版と言えます。 まさに AVODA の学生は 1. ビジネスプランを立てて 2. 様々な角度から検証 3. 軌道修正しながらビジネスを成長させる を繰り返して、ビジネススキルを身につけながら、生活基盤となる事業化を目指しています。 また AVODA の職員も同様に起業して、教鞭との二足のわらじ生活をあえてさせています。実際、ブロックチェーンやエンタメで起業している職員もいます。

渡辺
渡辺
教わる側も教える側も AVODA では起業するのがあたりまえになっているのですね。

塩光 様
塩光 様
プログラム前半から起業することで、学生に中長期の計画やビジョンを考えさせるトレーニングになります。同時に、卒業時点である程度は軌道に乗ることもあり、その場合には生活基盤がある状態で卒業できます。

なぜ自立が必要か。生活基盤を安定させる重要性

渡辺
渡辺
先程から「生活基盤」と何度か伺っていますが、自立することがなぜそれほど大事なのでしょうか?

塩光 様
塩光 様
私が大事にしている言葉がありまして、ケンブリッジ時代の教授からの言葉で、生活基盤が安定してないと、Chores=雑用が増えて時間もエネルギーも集中力も奪われるという事です。起業における成功のカギは雑用を如何に軽減するかにあるというのです。つまり、生活が大変で仕事に集中できない、時間や労力をかけられないようでは失敗する、と。 参加させて頂いたJICAによる調査では、ウガンダでは成功した起業家のうち、80%以上はしっかり貯蓄があったり、何か他にも収入源があり生活基盤が安定している人だった、というものもあります。

塩光 様
塩光 様
そのため、なるべくAVODA在学中に起業し、職員のサポートのもとで成功や失敗を繰り返しながら軌道に乗るようスピードを重視していますし、教員職員についても積極的に起業させて、AVODA以外にも基盤を持つ大切さを伝えています。 実際、AVODAが窓口となって仕事を受託して、受託した仕事を再委託の形で学生が起業した会社へ依頼して軌道に乗るためのサポートもしています。

渡辺
渡辺
生活基盤という意味では、日本は世界と比較して整っている国です。衣食住は保障されていて、失業率も相対的にみれば低い水準です。そういった中で、最近は企業も SDGs を謳ったり、仕事を選ぶ際に社会貢献を重視している方も増えています。 同じことをするのは無理だと思いますが、読者に向けて探究学習、人生の進路についてお言葉をいただけますと幸いです。

ハッピーな人生には社会が良くなる必要がある

塩光 様
塩光 様
一つは、個人が重要ではあるけれど、自分さえよければ良いと思わず、本当にハッピーで恵まれた人生を送るためには、社会全体が良くなっていく必要がある、という意識を少しで良いので持って欲しいということです。

幸せを創造して与えられる人に

塩光 様
塩光 様
私はクリスチャンとして大事にしている聖書の教えが一つあります。それは、『受けるよりも与えるほうが幸いである』という教えです。自身や家族、友人、親戚だけでなく、社会全体、世界自体が良い方向に進んでいることに貢献するのは私達一人一人の責任であるということです。そういう当事者意識を一人でも多くの人が待つときに、幸せがサスティナブルな形で繋がっていくのです。 ] キャリアを考える時には、自分自身が「幸せを消費するのか」、それとも「幸せを創造するのか」という視点を一度取り入れてみると良いと思います。自身がどちら側を目指すのか、そういう考えを持って勉強すると取り組み方が変わり、目指すキャリアも変わってくるでしょう。

渡辺
渡辺
人生を個人だけでなく、社会の一員として捉えることですね。昨年からのコロナで“エッセンシャルワーカー”という言葉もニュースなどで取り上げられ、生活が多くの人に支えられている意識は広がっているように感じます。

安定の上に、何を求めるかを考えてみては

塩光 様
塩光 様
二つ目は「安定は大事だけど、安定だけが成功の形ではない」ということです。 短期目線で安定や現状維持ばかり追っていると、社会全体でマクロから考えると、または長期的な目線で言うと停滞にもなり得ます。 日本とウガンダを比較すると、日本は安定重視でパッションと挑戦が不足しがちな一方、ウガンダはパッションと挑戦ばかりで安定が足らない、と対照的です。今の日本の豊かさは持続的でないかもしれないですし、将来的に少子高齢化、人口減少が進む中で新たな課題が出てくるかもしれません。そのような時代を生きる中で安定の上に何を求めるか。 自分の人生を通じて、幸せをプラマイゼロではなく、プラスを社会にもたらすことを目指してみても良いかと思います。 私の人生においても、上手くいかないことも多かったです。学生の事業をサポートする中で恨まれたこともありますし、支援者と学生の板挟みで辛かったこともあります。それでもなお続けられたのは、自分の価値観に「楽で安定した人生を送るよりも、せっかくなら社会の役に立ちたい」という気持ちがあったからです。快適な暮らしから一歩を踏み出すと新しい景色が見えます。

 

探究学習を指導する学校、先生へ

これまで数多くの起業家を育成されてきたご経験から、日本で広がりつつある探究学習へ向けたアドバイスをいただいておりますのでご紹介します。

生徒たちの興味や好奇心を大事にする事が何よりも大事です。AVODA, ABI で数多くの学生に向けてビジネス教育を行い、その中で成功も失敗も見てきましたが、一番のカギは自身にある興味や好奇心です。探究学習は自分なりに問いを立てて調べ、解や策を組み立てて、(場合によって)発表する、という一連の流れだと思いますが、これら一つ一つが簡単なものではなく苦労してクリアしていくものです。粘り強く取り組むためには一にも二にも自分の心に聞かせる事が大事です。我々のカリキュラムでは、スキルや知識だけでなく、自分自身を知ることを重要視しています。当然ながら、興味や関心について先生や両親など周囲からのにサポートやファシリテーションも大事です。 

テーマが決まったら、どのように進めていくか計画を立てますが、その際に次の3つのアプローチを採ることが多いです。  

1. モデル化   2. 逆算   3. 自身のスキルセットや人生を振り返る

1. モデル化  

探究学習を 最初から最後まで計画して、実行するのは想像以上に大変で大人でもなかなかできません。他のテーマであるものの同じ共通点がある場合には、大人の経験や知識を基にヒントや具体例を教えて挙げて、真似できる、活用できる部分を取り入れて問題ないかと考えています。  

2. 逆算  

テーマ、アイデアが既存のいずれとも結び付けられない場合には、ゼロから組み立ててゴールに向かうよりも、一旦何らかのゴールもしくは仮説を立て、そこから逆算して何をすれば良いのか書き出していくやり方が効果的です。大まかに書き出して、実際に調べていくとあてはまるモデルが見つかる場合もあり、その際には 1. モデル化のアプローチを活用します。  

3. 人生の振り返り特定の興味や好奇心がない、というのは何ら特別なことではなく、AVODA や ABI の学生にも珍しくありません。そのような場合には、人生を客観的に振り返って、楽しかったことや嬉しかったこと、人の役に立てたことの3点からテーマを探すよう学生に伝えています。見つかったらモデル化、逆算を活用して進めていきます。  

 


 

渡辺康雄(インタビュワー) 

株式会社Study Valley ビジネスアナリスト

2006年シティグループ証券株式会社に新卒入社。業務本部にて社内外の日本株決済プロジェクトを主導。2015年より1年を超える育児休業を取得し、育児に奮闘しながら並行してMBAを修了。

主夫生活を経て、2021年より株式会社Study Valley にて「STEAMライブラリー 未来の教室」の運営及びメディアに従事。上智大学理工学部卒、IEビジネススクール|シンガポールマネジメント大学 Joint MBA修了 

 

高校/学校の探究担当の先生向け探究学習支援サービス『TimeTact』 CSRの枠を超えた教育投資『TimeTact』

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【この記事の監修者】

田中 悠樹|株式会社Study Valley代表

田中 悠樹|株式会社Study Valley代表

東京大学大学院卒業後、ゴールドマンサックス証券→リクルートホールディングスに入社。同社にて様々な企業への投資を経験する中で、日本の未来を変えるためには子どもたちへの教育の拡充が重要であると考え、2020年に株式会社Study Valleyを創業。
2020年、経済産業省主催の教育プラットフォームSTEAM ライブラリーの技術開発を担当。
2024年、経済産業省が主催する「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」に委員として参加している。