インタビュイー 山羽 教文 様 株式会社STEAM Sports Laboratory 代表取締役社長 早稲田大学教育学部卒業(在学中はラグビー部に所属し、4年次に主将を務める)。1995年に三井物産株式会社入社。2000年には三井物産株式会社を退社し、米国に留学。2003年にはオハイオ大学大学院スポーツ経営学修士を修了。株式会社FIELD OF DREAMSを設立し代表取締役を務める。2018年に教育事業部門を分社化しSTEAM Sports Laboratoryを設立。今回、STEAMライブラリーのコンテンツ事業者に採択された。
経済産業省「未来の教室」が2021年2月末より公開を開始した「STEAMライブラリー」のコンテンツ事業者である株式会社STEAM Sports Laboratoryの山羽教文氏に、スポーツを起点にしたSTEAM教育に取り組んでいる経緯やその内容を取材させて頂きました。 前編・後編に分けてお届けします。前編では、山羽氏がSTEAMスポーツ教育という考え方にたどり着いた経緯や、STEAMライブラリーに掲載されている教材の詳細についてお聞きしました。
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スポーツは学びの宝庫。体を動かすだけではなく、その先にある学びを広めたい 田中
本日はどうぞよろしくお願いいたします。まずは御社の事業概要や設立の経緯を教えてください。
山羽氏
もともとは2013年に設立したFIELD OF DREAMSという会社でアスリートのマネージメントとスポーツ教育事業を行っていました。それを2018年にスポーツ教育部門だけを分かりやすくなるように分社したのがSTEAM Sports Laboratoryです。もともとアスリートのセカンドキャリア問題の解決や、普通の人ではなかなか持てないようなアスリートの経験知財を子どもたちに還元できないだろうかと考え、アスリートのマネジメントとスポーツ教育を融合させた事業を行いたかったんです。 私自身も大学時代にラグビーをやっており、キャプテンもやらせていただいたのでチームを作るときの難しさを感じてきました。また個人の問題でいうと部員が170人いるなかで、レギュラーは15人しかいないので、その中でどう勝ち上がっていくかだとか、そういったことを非常に多く学べたんです。それが卒業後に入社した商社のなかでも大変生かされました。ラグビーボールが仕事に変わっても、結局やっているプロセスやアプローチ方法といった根底にある考え方はあまり変わらないと気付いた。スポーツを通じてそういったことを子供たちに伝えたいなと。勝った負けたも大事なんですけど、それ以上にスポーツってそういったことを楽しみながら経験できるコンテンツなんですよね。どうせスポーツに結構な時間を投資するなら、勝った負けたとか競技能力が上達することにとどまらず、それぞれのスポーツを通じて社会人としてのベースを作れる、そのようなスポーツ環境、スポーツシーンを作ることをミッションに FIELD OF DREAMS という会社を立ち上げたというわけです。スポーツが教育コンテンツとして非常に有効なツールであるということを自分の経験からも感じ、また商社に勤めたあとに留学したアメリカでも学んできた。よく、根性がつくからスポーツが子供の成長に良いという話を聞くことがありますが…。
田中
スポーツが有効だといっても言語化がなかなか難しいですよね・・・
山羽氏
そうなんです。たしかに根性はつくかもしれないけど、論理的にスポーツの有効性を説明できなければ、塾かスポーツかって比較されたときに、必ず塾に負けてしまう。塾にはお金をかけられても、スポーツに毎月数万円もかけられないよということになってしまう。なので起業以来、その点を考えながらやっていたのですが、なかなか私自身もうまく表現できなかった。それが2016年に中島(株式会社STEAM Sports Laboratory 取締役中島さち子氏)と話している中でSTEAMというキーワードと出会い、STEAMという切り口でスポーツを捉えられれば、これまでにない形で表現できるのではないかと感じた。それでスポーツ教育からSTEAMスポーツ教育と名前も変え、舵を切ったんです。 例えば、大学の先輩である清宮克幸さん(プロ野球選手の清宮幸太郎さんの父で日本ラグビーフットボール協会副会長)は行く先々のチームを優勝させているんですが、あの人が行くと勝つということは、あの人のチームの作り方や戦略的思考などに必ず何かしらパターンがあるはずなんです。それを知り得たら、それを真似したり、学んだりできるではないかと。チームづくりだけでなく、ゲーム中のプレーも同じで、トッププレーヤーはその場面でどうしてそのプレーを選択するのか…。目で見えるところは動きの部分だけですよね。でも頭の中でどう考えてその動きに至ったのかという思考の部分を顕在化できたら、ただただ体を動かすことだけじゃなく、戦略的思考やチームの作り方なども学べるのではないかとずっと思っていました。なのでSTEAMという概念を我々のスポーツ教材に落としこむことで、より自分が思い描いていた形で理想のスポーツ教育を顕在化できるではないかと考えました。
スポーツをプログラミングやデータ分析の視点から捉えることで、運動が苦手な生徒も活躍できる。探究の方法を学ぶことで自分たちで強くなる方法を探っていける人間に育ってほしい 山羽氏
経済産業省との仕事で初めてやらせてもらったのが、STEAMタグラグビーという学校体育向けの教材開発なんです。従来の体育の時間って、ただ体を動かすという感じで、もともとできる子は勝手にやっちゃって、苦手な子はボールも触れないという。
山羽氏
運動能力がもともと高くて、体を動かしてれば何となく出来ちゃうっていう子もいれば、このスポーツはどうゆう動きをしたらいいんだろうと頭で理解した後で体を使ってやってみたほうがより参加できる子もいるわけですよ。STEAMタグラグビーは、タグラグビーという競技を算数とかプログラミングを使って俯瞰的に動きを理解する。戦略を考えるときもプログラミングを使ってシミュレーションしたりする。フィールドでうまくいかない、よく分からないということを、算数やプログラミングを使って、違う角度から観てみると見えてくることがあったりする。そうやってイメージが鮮明になればなるほど、フィールドでのプレーもしやすくなる。これも学びの個別最適じゃないですかね。そういった思考をすることが得意な子は、運動自体はあまり得意でなくても、そちらの観点から発言できたりする。運動が得意な子は体を動かすという観点から発言する。チームを強くするという同じ目標に向かって、それぞれの得意な観点から意見をぶつけ合える。これって、今回のSTEAMライブラリーに掲載したチームビルディングなんですよね。
田中
STEAMタグラグビーを授業で行う際、授業を行なった前後で子どもたちの変化はありますか?
山羽氏
全然違いますよ。プログラミングを使ってタグラグビーをすると、普段は先生から運動が苦手だと思われてる子が結構活躍したりするんですよ。
山羽氏
STEAMタグラグビーを小学校でやると、担任の先生から、普段あまり体育に積極的に参加しない子が楽しそうにやってたと、ほぼ100パーセント言われますね。タグラグビーの特性もありますね、鬼ごっこみたいなので。 ボール持ったら捕まるまで走ればいいし、ディフェンスもボール持ってる子のタグを取りにいけばいいという。サッカーだったら足でドリブルしたり、バスケだったら手でドリブルしないといけないですけど、そういうちょっと難しいテクニックがいらないので、そういう意味では体育の授業にフィットしたやりやすいスポーツですね。あとはプログラミングや算数や数学のボードゲームで俯瞰的に見ることによって、タグラグビーってこういうスポーツ性なんだなと理解できるので、苦手だと思っていた子もやれちゃうというわけです。
田中
今回のSTEAMライブラリーに掲載している教材について教えてもらえますか。
山羽氏
「チームビルディング」、「動作解析」、「データ分析」、「コンディショニング」、「オンライン体育」の5つの教材が掲載されています。「チームビルディング」はタグラグビーを起点にした教材です。チームって何なのか、グループではなくチームなのはどうしてか、チームってどういう要素で成り立っているのか、どのような視点が必要なのかを体育のなかで子供たちが学べる、体験できる教材にしたいと考え作成しました。 また映像技術をはじめとするテクノロジーの進歩のおかげで、動画を撮ったり、データを収集したりすることもできるようになった。「動作解析」では、自分の映像とお手本になる映像を比較して、どう違うのか、どこを改善していけば良いのかを探究したり、自身の以前の映像と比較して動きを修正していけるように、動作解析の考え方ややり方について取り上げています。また近年のプロスポーツではデータをとって、そのデータから課題を見つけたり、戦略に生かしたりということをやっており、そのようなプロの事例を学んで、自分の部活動でもやってみようというのが「データ分析」です。 「コンディショニング」に関しては、スポーツに必要な身体づくりの基本的な考え方を載せているのですが、例えばラグビー選手であればやっぱり筋肉質な、ガタイのいい体を作らなければいけないですけれども、陸上の長距離選手であれば、そんな大きな体を作っちゃったら走れないですよね。なので、それぞれの競技でそれぞれの個人が試合までにどんな風な身体づくりをしたいのかという目標設定に対して、トレーニングの内容と食事の内容の双方からアプローチしていくという考え方を教材にさせていただきました。 現在STEAMライブラリーに掲載している教材については、競技を特定しない形で、どんなスポーツでも適用できる形にはしているんですが、今後は、それぞれの教材で、テニスでやったらどうか、野球でやったらどうかと分化して広げていく形にしたいと思っています。学校の先生の過重労働が問題になっている中、部活指導を地域の人材に移行しようという話になっているみたいですが、必ずしも先生がその部活の専門じゃなくても、極論いなくても、まさしく探究するきっかけを部活動で提供してあげて、あとは学生自身がやるというのでいいと思うんですよ。学生スポーツなんだから。別に必ずしも優勝しなくてはならないという話でもない。卒業してからプロを目指す人間なんて1パーセントもいないですよね。それであれば、自分がやっている部活動でうまくなりたい、勝ちたいというモチベーションをもとにいろんな経験をして学びをして、社会に出たときにその経験や学びが生かされることが大事だと思うんです。学生時代のスポーツの結果なんて極論どうでもいいんですよ。大事なのは、部活動で勝ちたいとか、うまくなりたいというモチベーションをもとに、彼らが本気で色々な経験や学びができることであって、そのような環境を準備してあげれば、あとは勝手にやると思うんですよね。そういう形で貢献したいなと思いSTEAM Sports教育を推進しています。
田中
お聞きしていると、必ずしも教科に限定しなくても、部活の一環としてこのコンテンツを使えますね。練習する前にまず考え方を学んでから部活やろうという。
山羽氏
絶対いいと思います。コンディショニングの話とか、動作解析、データ分析の話は、もしかしたら部活のほうがフィットするかもしれませんね。
山羽氏
スポーツ系の部活をやっている学生がこの教材を見た上でシーズンをスタートするとか、シーズン中に自分のパフォーマンスがなかなか上がらないというときに動作解析してみようとか、データ分析してみようとか、非常に有効に使えると思います。
田中
僕の高校時代だと、マネージャーってボトルに水を入れる係だったり、ボール拾いの係とかだけだったんですが、こういう考え方が部活に入ってくると分析や解析などという面からもチームに貢献するマネージャーとかどんどん増えてきそうですね。
STEAMライブラリーに掲載されている教材は実際どう使うと良い? 田中
考えてしまうのは、どんな先生がこの教材を使ったらいいのかなということですね。体育の先生だと「データ分析とかわからないよ」って言っているイメージありますし、数学の先生だと「体育ってちょっと遠すぎない」と感じてしまってそう・・・ 体育や数学に限らず、それぞれの教科の溝は少なからずあると思うのですが、各教科の先生に、 STEAMライブラリーに掲載されている教材の具体的な使い方についてアドバイス等はありますか?
山羽氏
実際に高校などでやる場合、数学の先生がやっている場合と体育の先生がやっている場合と二つありますね。数学の先生がやっている場合は、うちの教材をかなり数学的にアレンジして、数学の視点で自分たちの体育の映像などを使いながら授業を行っている例もあり、そこの学校は教科を横断してやられています。あと小学校の場合は基本的に体育の先生とかいませんので、担任の先生が工夫してやられていますね。 STEAMライブラリーに掲載されているものは、データ分析の教材だと、色々なスポーツのプロチームがどのようにデータ分析を行い活用しているかというケーススタディになっているので、どちらかといえば体育の授業で使うというより、数学の授業や部活で使うというイメージですね。 なので数学の先生は比較的使いやすいと思いますね。統計や情報の時間などで、二時間スポーツでやってみようという感じでやると取っつきやすいとは思います。
田中悠樹 (インタビュワー) 「STEAMライブラリー」システム構築事業者である株式会社 StudyValleyの代表取締役 2011年にゴールドマンサックス証券テクノロジー部に新卒入社。株式会社リクルートホールディングスでは海外のVCを担当。 2020年に株式会社StudyValleyを設立。オンライン学習サービス「アンカー」や業務・学習支援ソフト「TimeTact」の開発や運営を行う。創業1年目でSTEAMライブラリーのシステム構築事業を受託。
STEAMライブラリーとは 経済産業省「未来の教室」が運営する、STEAM教育を通じてSDGsに掲げられる社会課題の解決手法を学べるオンライン図書館
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【この記事の監修者】
田中 悠樹|株式会社Study Valley代表
東京大学大学院卒業後、ゴールドマンサックス証券→リクルートホールディングスに入社。同社にて様々な企業への投資を経験する中で、日本の未来を変えるためには子どもたちへの教育の拡充が重要であると考え、2020年に株式会社Study Valleyを創業。 2020年、経済産業省主催の教育プラットフォームSTEAM ライブラリーの技術開発を担当。 2024年、経済産業省が主催する「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」に委員として参加している。