STEAMライブラリー

【インタビュー】国際大学(IUJ)付属の研究所「国際大学グローバルコミュニケーションセンター」〜4人の専門性が化学反応的に融合して完成したコンテンツ〜

インタビュイー

 

 

渡辺 智暁

主幹研究員・教授(教材企画・開発ディレクション)

 
 

豊福 晋平

主幹研究員・准教授(監修)

 
 

菊地 映輝

研究員・講師(教材企画・開発)

 
 

小林 奈穂

主任研究員・研究プロデューサー(統括、制作ディレクション)

 
 
 
 
経済産業省「未来の教室」が2021年2月末より公開を開始した「STEAMライブラリー」のコンテンツ事業者「国際大学GLOCOM」の皆様に、教材の内容やSTEAM教育について取材させていただきました。4人の専門性が化学反応的に融合して完成したというコンテンツについて、それぞれの思いやご経験を元に語っていただきました。
 
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コンテンツテーマ:「デジタル時代の著作権を考える-豊かな文化を支える制度とは

田中
田中
まず、教材の概要について教えてください。

渡辺氏
渡辺氏
「文化の豊かさを考えること」を1番の目標に掲げています。それを「どんな制度で支えるか?」という時に、身近な制度として著作権制度を選びました。物事を批判的に捉える場も設けながら、著作権制度の良い点や悪い点を考えることを通して文化の豊かさを支える制度について考案したり議論したりできる教材にしました。著作権という法律そのものを知識として限られた時間で教え込もうとすると大変ですよね。それは興味をもった生徒さんが自分で発展的に調べてくれたらいいと思っています。知識の教え込みよりも、「豊かさ」や「制度」に対する考え方は人それぞれなので、その中で自分の意見をもつことや、自分の意見を人に伝えること、議論を通じて意見を磨いていくことを目的としています。

田中
田中
文化も豊かさも、抽象的な言葉ですよね。文化って、具体的にどんなことを指すのでしょうか?

渡辺氏
渡辺氏
このコースでは文化は、何かを表現するものと捉えています。歌や文章、映画もそうですよね。豊かさは、文化が経済的な市場として大きな規模になったり、表現の自由が多様な作品を享受できたり、後世にも評価される新たな文化を創り出せたり、色々な側面があると思います。あまり制限を設けずさまざまな価値観を豊かさと総称しています。 そういった色々な豊かさを支える制度を考えようとすると、異なる価値観や異なる立場の利害関係などがあるので、制度作りの難しさを感じながら体験してもらいたい。 文化を豊かにする制度を作るというプロジェクト型の学習を考えています。

田中
田中
わかりやすくご説明いただきありがとうございます。学習の導入時に先生が投げかけられるような著作権に関する身近な例みたいなものってありますか?

豊福氏
豊福氏
漫画の二次創作はいい例ですね。

渡辺氏
渡辺氏
二次創作を許容した方が文化は豊かになるか?という問いはいいですね。

菊地氏
菊地氏
今の著作権制度は完璧ではないかもしれないですが、今の著作権制度があるから守られているものも確かに存在するので、そこのバランスを取りながら制度を設計することが今回の学習の狙いなんです。ですから、「君たちの好きなジャンル(アニメ、ゲーム、音楽など)をもっと盛り上げるためにはどういたらいい?」という問いかけを先生から生徒にしていただくのが良いと思います。 生徒からは、色んな意見が出てくると思うのですが、それを全11回の授業で解決していけるような構成にしています。

豊福氏
豊福氏
子ども達にとって多くのルールは「従わなければいけないもの」として受け止められますが、今回は自分たちが制度を作るっていうスタンスなんですよね。

渡辺氏
渡辺氏
著作権を守りましょうという学習ではなく、著作権を守っていきたいか新しく別の制度に作り変えていきたいかは自分たちで決めてほしいと思っています。未来を担うのは今の生徒さん達だから、今の法令に従えというではなく、自分たちで決められるようになってほしいです。

田中
田中
今回の「文化の豊かさ」というテーマを選んだきっかけを教えていただけますか。

渡辺氏
渡辺氏
デジタル化が進み、誰かの作品をコピーすることが簡単な世の中になりましたよね。でも、コピーして欲しいクリエイターとそうじゃないクリエイターがいることに法律が追いついていないな、という点などに問題意識を感じていました。法律が変わるのには時間がかかるんですよね。また、僕はクリエイティブコモンズの日本チームに関わっていて、自分自身が今の著作権制度には良さと悪さの両面を感じていたため、今後の制度のあるべき姿について迷いがありました。それをぶつけたのが今回の教材になります。 ただ、「著作権を知ろう!」というのは専門的すぎて高校生にはそぐわないと思ったので、もっと身近で自分の意見をもてるような題材にしたいと考えました。だから今回のテーマの軸は「文化の豊かさ」にして、SNSでコピーされることでバズって儲ける人がいるとか、高校の生徒さんたちが興味を持てそうな話題を通じて著作権を学べるように設計しました。 また、先生の意見ありきの授業ではなく、生徒同士の議論によってのみ成り立つ授業を目指しています。

田中
田中
では、先生が用意するものは全くないのでしょうか。

渡辺氏
渡辺氏
見識を持っているに越したことはないですが、なくても大丈夫です。上から目線で教える必要はなく、生徒と同じ目線になって考えてくれることが大事だと思っています。

菊地氏
菊地氏
なぜ「文化の豊かさ」というテーマになったかについては、この4人の専門性が化学反応的にうまくマッチして決まった部分もあります。渡辺さんはオープンソース、豊福さんは教育情報化、そして私は文化を研究していて、それぞれの専門性からの知見を小林さんがプロデューサーとしてうまくまとめてくれるんですよ(笑)

小林氏
小林氏
私は大人向けのセミナーやディスカッションのファシリテーションを行うことが多いのですが、人工知能にしても、量子コンピューティングにしても、新しい技術をよい形で社会実装するためには、必ず「まずは教育を変えていかなきゃいけない」っていう話になるんです。ですから、今回こうやって教育に携われていることを嬉しく思っています。また、今回のテーマは文化も豊かさも多義的なテーマであるところがこのコンテンツ面白さだと思っています。

田中
田中
ありがとうございます。 次の質問ですが、先生達がこのコンテンツを授業で取り扱うメリットみたいなものってありますか?先生達って東大に何人入るかが大事だったりするじゃないですか(笑)

渡辺氏
渡辺氏
これは、受験勉強になるコースというよりも、受験勉強をする動機をはぐくむコースだと思います。自分は将来何をしたいのか、社会をどう変えたいのかを考えて、勉強する動機になってくれたらと思います。科目的には美術、技術や公民であり、受験科目ではないんですよね。将来の制度を作るような学習なので、社会に出てから活躍して世の中のチェンジメイカーになるような人が生まれるようなコースにしたいですね。

豊福氏
豊福氏
今の世の中の問題には全て答えがあるのではなく、世の中にはわからないことや矛盾がたくさんあって、それを解決していくのは自分達なんだっていう意識や、解決していくための考え方を身に付けさせるのがSTEAMライブラリーだと思うんですよね。我々のコンテンツに限らず、STEAMライブラリーの全ての教材がそういう課題解決のための考え方の習慣付けができるつくりになっていると思います。

田中
田中
卵が先かにわとりが先かっていう話で、STEAMライブラリーは学習内容を変える新たな取り組みですが、高校生の目標となる大学受験という制度自体を変えていく必要があるかもしれませんね。でも先ほどお話があった通り、制度(大学受験)を変えるには時間がかかるのかもしれません。 国際大学GLOCOMさんのコンテンツって絶対解がないのですごく考えさせられると思うんです。学校の勉強はやれば点がとれるので逆に簡単に感じるっていうだけでも、メリットかもしれませんね(笑)

豊福氏
豊福氏
そこまで達観できるといいですよね(笑)優秀な高校だとそういう子がいっぱいいますよ。

渡辺氏
渡辺氏
確かに解けない問題を背負い込んじゃうような学生さんもいるので、そういう人にとっては受験勉強が息抜きになるかもしれませんね(笑)

田中
田中
皆さんが学生の頃にPBLやSTEAM教育に出会っていたら、どのように変わっていたと思いますか?

渡辺氏
渡辺氏
美談がないので先に話しますね(笑)授業も聞かず勉強も好きではなかったけど、本が好きで1日1冊本を読んでいました。ただ、ある時にテーマも自由で、レポートを書けば追加点をくれるという先生に出会ったんですよね。まさに探究学習だったのですごく楽しくて、学問に興味をもつきっかけになりました。もっと早く出会いたかったですね。 昔はネットがなく、今のように情報を効率的に収集できなかったので、昔あったらよかったなとは思いますね。

豊福氏
豊福氏
授業は好きじゃなかったし、成績への執着心がなく好き勝手やっていました。ただ、高1の時に家にPCが来た時に、教員だった親の成績処理を自動化したいと思ってプログラミングと統計を自ら勉強しました。当時エクセルとかもなかったんで1からやりましたね(笑)

渡辺氏
渡辺氏
親から受託開発してたんですね(笑) 僕も本を読むという好きな学習をして先生に褒められて気を良くしたし、豊福さんはそれが親の役に立つという経験があったわけですよね。自主的に探究したことが報酬などのポジティブなフィードバックに繋がる経験があると楽しくなるのかもしれないですね。大学に行ってからの伸びも変わってくるはず。

田中
田中
目的がはっきりしたということかもしれませんね!統計って単体で勉強するとなかなか身に入りづらいですけど、成績処理ソフトを作るという目的があると見に入りやすくなるというか。

豊福氏
豊福氏
僕はよく犬小屋の話をするのですが、犬小屋を作るという目的意識があれば、その工程にある釘の打ち方、木目の見方など、必要な知識や方法は自然と身に付くんですよね。STEAMは身近な課題に対して、「こういう見方をすると答えが見出せるかも」という手がかりを得て考えるという点で、僕たちが経験した自主的な学びと似ていると思います。

菊地氏
菊地氏
私は進学校出身でしたが、高校の勉強は苦手で、受験勉強は楽しくないなと思っていたので、当時から興味のあった大学生が勉強する社会学の本をずっと読んでいました(笑)当時の私は、高校の勉強がなんの役に立つのかがわからなかったし、暗記を主体とする勉強の楽しさがわからなかったです。逆に、その頃に探究型の学習があったら、きっとそっちに夢中になってたと思いますね。私たちが作成したコンテンツのテーマは、TwitterやTikTokなどのいわゆるSNSの利用時にも関係するものなので、今の高校生にとってはかなり身近なものだと思います。私たちが学生だった時代には、SNSのような自分の思いや考えを発信する場がなかったですし、SNS上にあふれる著作物の権利について考えることもなかったです。もし学生時代にSNSがあり、私たちが作成した教材コンテンツがあったら、安心してSNSで自分の思いや考えを発信していたと思います。

小林氏
小林氏
STEAMという考え方が当時からあったら、もっと自分の意見を言える人が増えていたのではないでしょうか。日本の人は本音よりも建前を大事にしがちで、相手が答えを持っている前提で、それに合わせようとする傾向があります。私自身もそうした思考グセが自分にあると感じます。小さい時から「あなたはどう思う?」っていう問いかけを繰り返されていたら、もっと変わっていたんじゃないかなって思いますね。

田中
田中
学校の先生は立場上ミスしたくないっていうのがあると思うのですが、STEAMのように「解のない=正解がない」ものは、ミスしようがないからやりやすいかもしれないですね。

小林氏
小林氏
もっと感情を豊かに表現することも大切だと思うので、STEAMライブラリーが核にしている「ワクワク感」は大事にしたいです。やらされているのではなく、自分がやりたくて面白いからやるんだということが身につけば、能動的に仕事する人が増えていくんじゃないかと思います。

田中
田中
皆さんのコンテンツにかける思いを聞くことができて、とても有意義な時間を過ごさせていただきました。コンテンツ制作もお忙しい中、本当にありがとうございました!

 
 

田中悠樹 (インタビュワー)

STEAMライブラリーのシステム構築事業者である株式会社 StudyValley代表取締役
2011年にゴールドマンサックス証券テクノロジー部に新卒入社。株式会社リクルートホールディングスでは海外のVCを担当。2020年に株式会社StudyValleyを設立。オンライン学習サービス「アンカー」や業務・学習支援ソフト「TimeTact」の開発や運営を行う。創業1年目でSTEAMライブラリーのシステム構築事業を受託。

 
 
 
 

STEAMライブラリーとは

経済産業省「未来の教室」が運営する、STEAM教育を通じてSDGsに掲げられる社会課題の解決手法を学べるオンライン図書館

[my_ogp url=’https://www.steam-library.go.jp/content/4′]

 

 

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【この記事の監修者】

田中 悠樹|株式会社Study Valley代表

田中 悠樹|株式会社Study Valley代表

東京大学大学院卒業後、ゴールドマンサックス証券→リクルートホールディングスに入社。同社にて様々な企業への投資を経験する中で、日本の未来を変えるためには子どもたちへの教育の拡充が重要であると考え、2020年に株式会社Study Valleyを創業。
2020年、経済産業省主催の教育プラットフォームSTEAM ライブラリーの技術開発を担当。
2024年、経済産業省が主催する「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」に委員として参加している。