インタビュイー
喜屋武 裕江 様
株式会社ケイオーパートナーズ 取締役。一般社団法人 グッジョブおきなわプロジェクト代表。
地域連携型キャリア教育、産学協働による産業人材育成、ラム酒製造プロジェクトなど精力的に活動。2020年からは経済産業省主催のSTEAMライブラリーのコンテンツ制作にも携わっている。
宮國 真由美 様
株式会社ケイオーパートナーズ STEAMライブラリー制作スタッフ4
経済産業省「未来の教室」が2021年2月末より公開を開始した「STEAMライブラリー」のコンテンツ事業者「株式会社ケイオーパートナーズ」に、STEAM教育について取材させていただきました。
【高校の探究担当の先生へ】
当メディアを運営する私たちStudy Valleyは「社会とつながる探究学習」を合言葉に、全国の高等学校様へ、探究スペシャリストによる探究支援と、社会とつながるICTツール「高校向け探究学習サービス『TimeTact』」を提供しています。
現在、探究に関する無料相談会を開催中です。探究へのICT活用や外部連携にご興味ある方、お気軽にご連絡下さい。ご予約はこちら(2024年3月現在、問い合わせが急増しております。ご希望の方はお早めにご連絡ください)。
【企業のCSR広報ご担当者様へ】
CSR広報活動の強い味方!
探究教育を通して、学校と繋がるさまざまなメリットを提供しています。
まずはお気軽に「教育CSRサービスページ」より資料をダウンロードください。
また無料相談も可能です。些細なご相談やご質問、お見積りなど、お気軽にご相談ください。
カカオを生産する貧困な人たちのために何ができるだろう?
喜屋武氏
沖縄にいらっしゃったことありますか?私達は国際通りの近くに事務所があるんです!
田中
僕は毎年行っています!基本はご飯食べるのがメインなので那覇周辺です。 Study Valleyも沖縄にオフィス構えたほうが良いかな(笑)
喜屋武氏
ぜひぜひ。沖縄県は県外から移転した企業の法人税は減税ですよ!
田中
それでは早速コンテンツのインタビューをしたいのですが、チョコレートと首里城というテーマのコンテンツがあると思いますが、どのような内容なのかお聞かせください。
宮國氏
チョコレートのほうは小学生の高学年向けを対象としております。子ども達にとって身近なチョコレートをきっかけに、デパートで売っている高いチョコレートや神様への捧げものだった過去、すごい手間ひまをかけている製造過程など、内容が広がるようにしています。アリがいないとカカオの実が成らないとか、背景に隠れている生産者の貧困の問題などの社会課題とか。チョコレートを元に様々な角度から社会を見る方法を学んでいただければと思っています。 子ども達にとって働くのは遠い未来の話ですが、消費者の立場としてカカオを栽培している人や私達の手元に美味しいチョコを届けてくれる人などを応援する上で自分に何ができるか考えることをゴールにしています。
自分にとって大切なものが消失の危機に陥ったらどうするか?
宮國氏
首里城のコンテンツは高校生をターゲットにしています。私達は沖縄の会社ですから沖縄の魅力を伝えるとともに、2019年に首里城が炎上してニュースになったことなどを取り上げて、首里城の職人や美術工芸などを守りたいという気持ちはどこから生まれるんだろう?自分は何を大切にしたいんだろう?という自己分析、自己認識を深めるきっかけとして首里城を取り上げています。 首里城は消失して復興に向けて動いているところなのですが、歴史を振り返れば過去にも消失や取り壊しという危機はありました。それが今まで引き継がれてきた理由、復興に関わった人たちの様々な思い、逆に残さなくて良いという意見など、様々な価値観の理解を深めていければと思っています。
喜屋武氏
首里城はどうしても沖縄のものなので、沖縄に住んでいない人たちにとっては身近なものではないと思います。首里城をきっかけに、住民が大切にしているものの価値観をどう捉えるかとか、自分が大切なものが無くなってしまったらどんな未来が待っているか、というのを気付かせるコンテンツになっています。首里城はユネスコが認定した世界遺産ですが、個人にとっての大切なものは自分が重要遺産に認定しても良いと思うんですよね。 ガリガリ君が大切だという生徒には「ガリガリ君が無くなった未来はどんな気持ちになるんだろうか?」と考えさせます。「ガリガリ君が無くなっても何も困らないよ」という人もいれば「リフレッシュとしての楽しみだから無くなったら困る」という人もいる。遺産の価値観のぶつかり合いを取り入れながら、自分と周りの人の意見をどう折り合いをつけていくかというコンテンツです。
じつはカカオは日本でも生産されている
田中
チョコレート自体は身近なものですが、カカオ生産者の貧困の問題は遠い国の話だなという感じがしちゃうと思います。前提の知識として、例えば国を知るために世界地図から教えたほうが良いのか、それとも「こういう外国で起きている話なんだよ」で良いのか具体的に教えていただければと思います。首里城の話については東京に住んでいる高校生からすると大事だと思ったことがある人はほとんどいないと思います。沖縄以外では二千円紙幣も使わないので紙幣で見ることもありませんし、神奈川県の小田原城と同じくらいのイメージです。沖縄のシンボルとしての首里城の価値をまず共感する必要があるかもしれません。
宮國氏
チョコレートに関してですが、商品名にもなっている「ガーナ・チョコレート」は子ども達も聞いたことがあるとは思いますが、たしかに遠い国なのでイメージはわきません。そこでまずチョコレートを作っている国の映像を観せて、タブレットを使ってチョコレート生産国トップ5を調べてみようとか、地図上でガーナがどこにあるか探そう、というワークを取り入れています。いわゆるカカオ・ベルトと呼ばれるカカオの実が成る気候的条件があるわけですが、地球温暖化の影響でこのエリアは広がっています。赤道直下だけでなく台湾でさえカカオの実が生産できるようになっており、将来的には日本産のカカオも実現しようという動きもありますので、どんどん身近になりつつあることを伝えています。
喜屋武氏
地球温暖化のせいで沖縄でもカカオが実際に生産が始まっていますからね。沖縄県北部の大宜味村(おおぎみそん)などです。
喜屋武氏
北海道のロイズ・チョコレートも石垣島産のカカオに挑戦しているそうですからね。沖縄県産のサトウキビを活用したチョコレート作りも盛んになっています。最近、東京湾にも沖縄にしかいない魚がたどりついたりしていますし。地球温暖化が悪いことばかりでなく良いこともあることなど、色々なことを知るのは楽しいよね、という感じにしたいです。
世界遺産でさえ残すのは無意味だという住民の意見が出てくる
田中
僕も沖縄行ったら、初めて沖縄行く人を連れて行く場所として首里城はイメージがありますが、沖縄の人にとっての首里城はどんなシンボルなのですか?
宮國氏
歴史を紐解くと、戦争で焼失した首里城は1992年に一度復元しています。あれも実は戦後間もない世代の方々にとっては、根っこのほうしか残っていなかった首里城を復元したことを知っていますから、巨大な工芸品なんです。
喜屋武氏
首里城は5回燃えていますからね。そのたびに「残す」「残さない」など議論が交わされています。今回も国費を使って復元するという時に思い入れが無い人からすると「コロナで大変な時期に首里城みたいな工芸品を作るよりも、もっと生活に直結したものに国費を使ったほうがいい」という意見もあることをコンテンツに取り入れています。首里城が大事ということを伝えたいコンテンツではないので、首里城という世界遺産という窓から、熊本城など日本の城と沖縄の城を比較ています。首里城も観光シンボルになっていますし、熊本では熊本城は復興のシンボルだから復元したわけです。残したいけど技術が無いから残せなくなった世界遺産や、現代の生活とマッチしないために取り壊された遺産なども取り上げています。
宮國氏
「自分たちの地域でシンボルとなっているものは何だろう」「その歴史を調べてみよう」「どんな歴史背景があって守って来られたのかな」とか、そういうことに気付くといいかなと思っています。今まで引き継がれてきたものだけではなく自分が大事にしたいもの、例えば自分が立ち上げたサークルでもいいです。そのサークルが「後々の人たちに引き継がれるためにはどうしたらいいだろう」と考えてもらえると良いなと思っています。
喜屋武氏
私にとって首里城は今の段階で言えば沖縄観光のために必要なコンテンツだと思っています。
宮國氏
私は今回、首里城が消失した時に衝撃を受けたのですが、そんな自分にショックを受けました。燃えている様子を見た時に、今まで首里城に愛着は無かったのに、心が痛くなったのです。自分のアイデンティティとして首里城があったんだなと気付いたわけです。私は個人的に美術工芸が好きなんですけど、首里城は沖縄の技を集結したものという認識があります。
喜屋武氏
ちょうど首里城が消失した時と同じ頃、フランスの世界遺産であるノートルダム大聖堂も火災があったんですよ。そんな偶然もあり、首里城が消失したときにフランスの消防士さんから沖縄に手紙が来たのです。消防士目線での復興や、当たり前と思っているものが消失して初めて気付くアイデンティティーも取り上げています。
先生にはビックリマークとハテナマークを投げかけてほしい
田中
シンボルに対して違う見方をしている人は沖縄県民にもいるよ、だから授業中に色々な意見が出てもいいよということですね。色々な意見を出させるのがSTEAM教育の価値ですから生徒に「思っていることを自由に話していいんだよ」と伝えてあげることが重要だと思っています。チョコレートの話と首里城の話をする上で先生が準備しておくべき知識やスタンスはありますか?
喜屋武氏
先生も一緒に子ども達と知らないことを知る旅に出て欲しいと思います。遺すという観点でみると首里城とバーミヤンって実は関係があるのですが「なんで首里城とバーミヤンが関係あるの?」っていう風に、先生にはビックリマークとハテナマークを投げかけてほしいのです。
田中
学校の先生は授業の事前準備に時間がかかると負担になりますからね。その中で「ビックリマークとはてなマークで答えてあげればいいんだよ」というのは分かりやすいフレーズですね。学校の現場ってこういう授業をやったことがなく「間違った考えは正してあげたい」という考えを持った先生が多いと思うんですよ。今までの先生のメンタルモデルから、STEAM教育的な考えへ変わっていく中で、先生が気楽になれるようなコツはありますか。
宮國氏
私達ケイオーパートナーズはキャリア教育に関わる会社なので、色々な学校を回って企業の人を連れてきて授業をしたりするのですが、そのたびに思うことは、先生は自分たちが知らないことをしゃべる必要はなく、子ども達のもつ情報と新しい情報を繋げてあげるのが大事かなと思います。プログラマーを連れてきて、プログラミングの失敗と検証を繰り返す作業は理科の実験と一緒だね、とか。
田中
授業が上手くいかなくてもなんで上手くいかなかったのか考えられれば、自分たちが持つべきスタンスを自分たちが考えられたら良いですね。
喜屋武氏
学習指導要領でも「なんで学ぶのか?」「学びに向かう人間性」というのがド真ん中に来ているんですよ。「社会・世界と関わり、より良い人生を送るために何をどう考えるか?」を生徒に考えさせるのが先生の役割です。しかし、生徒の考える力を信じないとそれは難しいです。現場の先生方がそこを悩まれていて、私も教員向け研修会を月に何回もやっていて、オンライン研修もやっています。大学教授にでも「これが正しい」「これが間違っている」とは分からない時代に突入していますから、生徒の考える力を信じて手放すことが大切です。「先生が言うことだけが正解じゃないんだからね、と言える力をつけてあげてくださいね」とアドバイスしています。
田中
失敗したことから学ぶというか、失敗したことは表に出てこないと思うんですよ。僕も会社経営者とよく話しますが、飲み会でよくしゃべる人は自慢話ばかりして失敗した話をしない、若い頃はヤンチャだったんだよとか。でもケンカで負けた話はしない。ビジネスでも上手くいった話はするけど失敗した話はしないですね。私も学校にITソリューションを営業して提供する仕事をしていますが先生に「何がITだ、フザけんな」と土下座させられたこともあります。
保健室登校児が、沖縄の離島にお酒の会社を立ち上げた
田中
もし喜屋武さんと宮國さんが子どもの頃に、ネットがつながっている端末を持っていてSTEAMライブラリーのように考える力をつけさせるコンテンツがあったとしたら、今の人生はどう変わっていたと思いますか?
宮國氏
自分の好きなこと、興味のあることを深めていくために有利な学習だと思います。今SNSで誰とでもつながるので、DMでプロに尋ねることもできる。だから、自分の力や一歩踏み出す勇気が問われるんじゃないかなと思います。私が小学生・中学生に戻ったとしたらまだ怖いもの無しだと思うので、今以上に何でも出来ると思います。チョコレートの話でも森永にメール送ってみようとか、ちょっとしたことが自分の人生を変えたんじゃないかと思いますね。
田中
逆に言えば宮國さんが身近なものに興味を持って色々と興味を広げていこうと大切さに気付いたのはいつですか?僕は、学生の頃は学校の勉強だけ頑張っていればいいかなと思っていましたが。
宮國氏
私は大学くらいかなと思います。社会に出てからもそうなのですが、なんとなく進路選択をしたことから「自分が生まれ育った沖縄のことあんまり知らないな」と気付いたことがきっかけです。授業の勉強さえしていれば良いかなと私も思っていました。人との話し方、コミュニケーションの取り方、要領の良さなど、成績表では評価されない要素のほうが生き抜く上で大事だと気付いたし、自分が「これが好き」と譲れない価値観・軸があることこそがこれからの時代は大事だと思います。そこを早いうちに深めて探求していけることが今の時代に大切なことだと思っています。
喜屋武氏
私は小中高と保健室登校児だったんですよ。保健室で教科書ガイドを買ってひとりでテスト勉強をしたら良い点数を取れたっていう先生にとって面倒くさい子でした。もしあの時にSTEAMライブラリーがあればもっと楽しかったと思います。当時はブリタニカ百科事典などを読んでいましたが、動画を見れたり話を聞けたりする機会があるならもっと楽しかったでしょうね。同級生の子が先生に質問しても知りたい答えが返ってこないので自分で勉強していましたからね。あの頃に比べると快適な環境に近付いていると思いますね。
田中
最適な環境で子ども時代を送っていればケイオーパートナーズで働いていなかったかもしれないですか?世界を変えるなら国連だ!となっていましたかね?
喜屋武氏
私は最初、お酒の会社を立ち上げたんですよ。東京の八丈島からの移民がサトウキビを作っている南大東島(みなみだいとうじま)で、そこのサトウキビを使ってラム酒を作るという会社をやっていました。工場長をスカウトしてきて発酵のメカニズムを勉強したり、当時沖縄の離島では15歳になったら出ていかなければならないという社会問題を知ったりしました。沖縄のサミット誘致の仕事をする中で「もっと元気な沖縄にするためにはどうしたら良いか?」を考えた結果、小中学生の教育にたどりつきました。ですから子どもの頃にSTEAM教育があったとしても今と似たような人生を送っていたかもしれません。
田中
なるほど面白いですね。色々なことを知りたいというきっかけがあって、アクションの動機になっていると思うので、その能力をSTEAM教育が育むことが出来たら良いですね。
沖縄の離島のように教育格差が激しい地域でオンライン教育を推進できたら良い
田中
今STEAMライブラリーは動画とPDFで授業コンテンツを提供していますが、将来的にSTEAMライブラリーがもっと浸透していくために欲しい機能などはありますか?
宮國氏
例えばチョコレートのコンテンツの「チョコレートを作って消費者の手元に届くまで」というコマでは、身近なスーパーの店長を呼んできて職業人講話をしてもらったり、首里城のコンテンツではシンボルが観光地として成立しているところで現地住民の方と観光客の間でどんな摩擦が起こっているか調べるフィールドワークを取り上げたりしています。そこで、プロが「学校で講話や授業をやってみたい」と思った時のためにマッチング・サービスがあれば良いと思いますね。伝統工芸の職人さんを呼ぶことができるとか、オンラインで繋いで話をしてもらえるとかです。
田中
社会と学校現場を繋ぐということですよね。ZOOMもあるし現地に行かなくても簡単に社会見学できますからね。
宮國氏
私達は沖縄で働くITの方と与那国島の小学校の教室をつないで、最先端の技術を学ぶというのをやっているので、そういうことをSTEAMライブラリーのWEB上で出来たら面白いんじゃないですかね。
喜屋武氏
沖縄は離島が多いので環境的に教育格差が激しいんですよ。日本に3万種類の職業があるのに、農業と畜産しか職業がないという地域もあります。沖縄の生徒に日本中の色々な職業のプロたちの生の声を聞かせることができたら良いですね。
田中
本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。
田中悠樹 (インタビュワー)
STEAMライブラリーのシステム構築事業者である株式会社 StudyValley代表取締役
2011年にゴールドマンサックス証券テクノロジー部に新卒入社。株式会社リクルートホールディングスでは海外のVCを担当。2020年に株式会社StudyValleyを設立。オンライン学習サービス「アンカー」や業務・学習支援ソフト「TimeTact」の開発や運営を行う。創業1年目でSTEAMライブラリーのシステム構築事業を受託。
STEAMライブラリーとは
経済産業省「未来の教室」が運営する、STEAM教育を通じてSDGsに掲げられる社会課題の解決手法を学べるオンライン図書館
[my_ogp url=’https://www.steam-library.go.jp/content/16′]
【高校の探究担当の先生へ】
当メディアを運営する私たちStudy Valleyは「社会とつながる探究学習」を合言葉に、全国の高等学校様へ、探究スペシャリストによる探究支援と、社会とつながるICTツール「高校向け探究学習サービス『TimeTact』」を提供しています。
現在、探究に関する無料相談会を開催中です。探究へのICT活用や外部連携にご興味ある方、お気軽にご連絡下さい。ご予約はこちら(2024年3月現在、問い合わせが急増しております。ご希望の方はお早めにご連絡ください)。
【企業のCSR広報ご担当者様へ】
CSR広報活動の強い味方!
探究教育を通して、学校と繋がるさまざまなメリットを提供しています。
まずはお気軽に「教育CSRサービスページ」より資料をダウンロードください。
また無料相談も可能です。些細なご相談やご質問、お見積りなど、お気軽にご相談ください。
【この記事の監修者】
田中 悠樹|株式会社Study Valley代表
東京大学大学院卒業後、ゴールドマンサックス証券→リクルートホールディングスに入社。同社にて様々な企業への投資を経験する中で、日本の未来を変えるためには子どもたちへの教育の拡充が重要であると考え、2020年に株式会社Study Valleyを創業。
2020年、経済産業省主催の教育プラットフォームSTEAM ライブラリーの技術開発を担当。
2024年、経済産業省が主催する「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」に委員として参加している。